―彼の部屋の前まで来た。もう逃げられない。想いを伝えたい。そして私はドアを開けようとした―
こなた「シ…あれ?」
―彼が誰かと話している。男性の様だが誰だろう。お父さんは旅行、
ゆたかはお泊まり。家には今私しかいない筈―
レイ「―あちらへ戻るのか、シン。」
シン「あぁ、その内…な。ケジメくらい付けないと駄目だろ?」
レイ「つくづく損な役回りしか出来ない奴だな…分かった、その時が来たら言え。俺が戻してやる。」
シン「ありがとな、レイ。」
こなた「(戻る?あちらへ?シンがいなくなる?そんな…なんで…)」
―私はドアを開けることが出来ず、逃げる様に部屋へ戻り布団を被って泣いた―
こなた「…う…ひっく、うぅぅぁうぅ…」
―駄目だ、嗚咽を噛み殺せない。こんなことなら、盗み聞きなんかするんじゃなかった。何でよりによって―
こなた「(何で人が告白しようとした時にそんな話するかな…)」
―馬鹿、シンの馬鹿。これでは告白なんか出来ない。しても意味が無い。その上、
かがみ達に相談も出来ない。それは、彼を苦しませるだけと分かってる―
―そのまま、私は泣き疲れて寝てしまった。起きた時、真っ赤になった目を見て彼は心配してくれたが、何でもないと言って誤魔化した―
こなた「(シンの所為だ…なんて言えないよ)」
―本当は恨み言の1つくらい言いたかった。それ以上に、『行かないで』と言いたかった。けど、両方とも言えなかった。彼の決意の固さを、言葉の端々に感じたから―
こなた「(このままじゃ…シンはいなくなっちゃう。)」
―嫌だ、絶対に嫌だ。彼に気持ちも伝えられず。『仲良しの友達だった』なんて言われたくない、言いたくない。でも、どうしようもない。わからない、どうすれば良いのか―
シン「…なた、こなた。おーい、起きてるか?」
こなた「―ひゃっ!?お、起きてるよ!びっくりしたなもう…」
シン「そっちが勝手にびっくりしたんだろうが…。ぼーっとしてたけど、どうしたんだ?」
こなた「ちょっと、考え事をね…」
―彼が帰ってしまえば私1人のとき、こんな他愛ない会話も出来ない。夜、一緒に添い寝出来ない。ゲームも1人、食卓も1人、家を出る時も、勉強するときも、全部。―
こなた「…ちょっとトイレ行ってくるね。」
シン「?あぁ、分かった。」
こなた「(堪えろ私…声を出しちゃダメ…!)」
―1人、その事が私の心にのし掛かった。彼は私から孤独を奪い、代わりに幸せをくれた。だからこそ、孤独の淋しさが心を苛む。今になって、後悔した。―
こなた「もっと早く言えば良かった…」
―自分でも滑稽だった。本当に今更だった。もっと早く、伝えれば良かった。気付いた時に言えば良かった。ありきたりな、それでいて深い後悔の念が私を支配した。―
こなた「ただいま…」
シン「何かえらく長かったけど大丈夫か?腹でも壊したか?」
こなた「…シン、女の子にそんなこと聞くのはセクハラだよ?」
シン「お、俺はただ大丈夫かどうか聞きたかっただけで…」
こなた「―ねぇシン、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
シン「何だ?急に改まって。」
こなた「いやぁ、今やってるエロゲの話なんだけどさ。」
シン「なんだそりゃ…」
―私はウソを付いた。しかし、ウソを付いてでも聞きたかった。彼があちらへ戻る時、彼はどうしてもらいたいのか。そして私が、どうすべきなのかを―
こなた「物語も佳境に入ってきたんだけど、ヒロインが遠い国へ行くことになって。それを引き止めるかどうかかで迷ってんだけど、色々とややこしい話で一筋縄にいかないところがあって…シンだったらどうする?」
―よくもこんな下手なウソが通ったと思う。一重に彼の鈍さのお陰だろう素直に喜べないが…。―
シン「うーん…俺は普通に引き止めると思うな。」
こなた「―!ど、どうして?結構難しい話なんだけど…引っ掛けだたことも何度もあるし。」
シン「だってさ、主人公はヒロインのこと好きなんだろ?好きな人を黙って見送ることなんか出来ないかな、俺は。」
こなた「シンは好きな人に…ずっと側にいて欲しい?」
シン「あぁ、でも俺は出来なかったけどな。側にいることも…護ることも。」
こなた「…ゴメン、変なこと聞いて。」
シン「い、いや、こっちこそ暗い話して悪かったな。」
―これは先触れなのだろうか、今まで過去を語ろうとしなかった彼が…仄めかす様な言い方でも話してくれたことは。自分のことを出来るだけ多く伝えて、旅立とうというのか―
こなた「…ずるいよ、シン。」
シン「へ?何がだよ。」
こなた「自分のこと、伝えるだけ伝えといて行っちゃうなんてずるいよ。嫌だよ、絶対に嫌。」
シン「こなた、何を言って…?まさか、あのとき聞いて―」
こなた「ずるいよ…嫌だよ…私には伝えるチャンスもくれないで!自分だけ言う事言って戻るだなんて!酷いよ!!何でよ!?ここに居ればいいじゃない!ここに居てよ…!」
―もう形振り構っていられなかった。涙で声が震えて、自分でも何を言ってるのか解らなかった。必死に、ただ必死に訴えた。『行かないで』と―
シン「こな…た。」
こなた「お願いだから…本当に一生のお願いだから!だから、だから…ひっく、うわぁぁぁん」
~シンは自分の腕の中の少女を見た。小さな肩は弱々しく震え、まるで幼子のように泣きじゃくっていた。~
シン「(こなたって…こんなに小さかったか?)」
~普段でも小柄だとは思っていた。しかし今の彼女は、押せば倒れるどころか崩れてしまいそうなほど脆く見えた。~
こなた「…好きだよ、シン。貴方が好き。」
―言ってしまった。苦しめるだけなのに、どうしようもないのに。告げずにはいられなくて、想いが溢れてきて―
シン「こなた…なんで…」
こなた「好きなものは好きなんだからしょーがないよ…責任とってよ…バカ…」
シン「こなた…」
~自然と、俺は彼女を抱き締めていた。泣いていた姿がいじらしかった。無理矢理な理屈を通そうとするのが可愛かった。今は、彼女の全てがいとおしい~
シン「こなた…約束する。絶対に帰ってくる。何があってもこの世界に、必ず。」
こなた「だから、行かせて…?」
シン「あぁ…一生のお願いに応えられなくた。泣いていた姿がいじらしかった。無理矢理な理屈を通そうとするのが可愛かった。今は、彼女の全てがいとおしい~
シン「こなた…約束する。絶対に帰ってくる。何があってもこの世界に、必ず。」
こなた「だから、行かせて…?」
シン「あぁ…一生のお願いに応えられなくてゴメン。」
こなた「いいよ…じゃあ別のことに使わせて?」
シン「あぁ、俺に出来ることなら。」
こなた「じゃあ結婚して?」
シン「そ!それは!早いというか…その…」
こなた「冗談冗談♪すぐ本気にするんだから☆」
シン「ア、アンタって人は…!」
こなた「じゃあ…シン、キスして?」
シン「…わ、わかった。いいのか?それで…」
こなた「私にとってはそれだけの価値があるよ…」
―彼と唇を重ねる。彼の吐息が流れてきて、鼓動が伝わってきて、紅い瞳が目の前にあって。なんて幸せ―
~彼女と唇を重ねる。彼女の温もりが感じられて、悲しさが伝わってきて、潤んだ瞳がとても綺麗で。なんて切ない~
こなた「(ありがとう…シン)」
シン「(ゴメン…こなた)」
『せめて今だけは。』
最終更新:2007年11月22日 17:52