「
そうじろうさん、ここなんですけど、辞書で引いたらこっちの言い回しのほうが一般的みたいですよ?」
「おお、言われれば確かに!?ありがとう、シンくん」
「いえいえ、お役に立てて、俺も嬉しいです」
最近、シンとお父さんは仲がいい。
お父さんが『ただ居候するのでは申し訳ないから』という理由でバイトを探していたシンに、自分の小説の校正をやらせるようになったのがきっかけだと思う。
お父さんとしてはシンにこっちの言葉に慣れてもらうのと、コミュニケーションを取るのが目的だったようだけど、近頃はシンのチェックを便りにしているようだ。
PCの扱いに長けていて、調べ物も喜んでやってくれ、資料集めでは分かりやすく分類してくれるシンはアシスタントとしては優秀なのだろう。
そのせいでお父さんはシンを重宝し、最近はちょっとシンと遊べる時間が減った。
でも、仕方はない。シンはお父さんの仕事の手伝いをしているのだから。
「ぐぅ……えぐっ……ひっく……」
「シンくん、これが……ジオンの軍人の生き方なんだよ……不器用で、頑なで、それでも誇り高くて……」
「はい……ひっく……」
シンとお父さんがMSイグルーを見ながら泣いている。
俗に言うファーストに思い入れのあるお父さんはシンにファーストを見せ、08、ポケ戦、そして、イグルーとシンを着実にジオニストに仕立て上げている。
ファーストにそこまで思い入れのない私と違って、男の子のシンは何か感じるものがあったのか、お父さんとTVの前に並んで正座して鑑賞している有様だ。
私としては『今回のびっくりどっきりメカも失敗か~』で終わるのに、シンはお父さんと一緒に号泣している。
お父さんとシンが共感しているのはいい傾向なんだろうけど、私だけ仲間外れにされたみたいで、ちょっと寂しい。
「そうじろうさん、連邦の白い奴がきました!」
「シンくん、二人がかりでやっつけるよ!ジーク、ジオン!」
「ジーク、ジオン!」
シンとお父さんが連ジで楽しそうに協力プレイをやっている。
こっちに着たばかりの頃は私と連ザの対戦プレイをやっていたシンが、今はお父さんとばかり遊んでいる。
高コストのデスティニーばかり使っていたシンが、今は低コストのアッガイや旧ザクばかり使っている。
やられても楽しそうで、お父さんと声を掛け合いながら、協力してCPU戦を楽しんでいる。
『
こなたはこういう通な遊び方に付き合ってくれないからな~』と拗ねていたお父さんは同好の士を育て上げたので満足そうだ。
まあ、お父さんには悪いけど、私は高コスト機でばったばったと敵を倒すのが好きなので、私の代わりに付き合ってくれているシンには感謝している。
でも、お父さんがシンを独占しているみたいでちょっと面白くない。なんだか、胸がちくちくする。
シンがお父さんに付き合ってばかりなので、私は仕方なくネトゲにログインすることにした。
『>おう、泉。久しぶりやな~』
その書き込みにはっとする。私はシンがうちに居候するようになってこの2ヶ月、ずっとネトゲに繋いでなかったのだ。
廃人を自称するこの私が、ネトゲよりもシンとのじゃれあいに興じていたのだ。
私は挨拶のレスも早々にログアウトする。
なんだか、胸にぽっかり穴が空いたみたいで、酷い空虚感が身体を重くしていた。
居間から聞こえるシンとお父さんの笑い声が、なんだか遠くに聞こえた。
今夜はシンはお父さんの仕事を手伝って夜が遅いようだ。先に私は寝ることにする。
寝るのは――私の部屋。
就寝前にシンの部屋で寝る前にじゃれてて、そのまま寝付くのが習慣になっていたので、ひとりで寝るのは久しぶりだ。
いつもの抱き枕がないだけで、なんだか落ち着かない。
シンにお父さんを取られたから?――違う。
お父さんにシンを取られたから?――うん。
他の女の子がシンの傍にいるのとは違う。だけど、もっと大きな喪失感。
私はゆる~くシンとじゃれあってる。女の子と意識されることなくじゃれあってる。
だからといって、私は男の子になれるわけではない。女の子として見て欲しいくせに意識されないように振舞っている。
そんな中、お父さんに男の子同士のポジションを取られてしまった。
女の子として意識されない、男の子にもなれない、そんな私はシンの隣の居場所を失ってしまった。
お父さんの馬鹿。……シンの馬鹿。
(こなた……)
懐かしい声が聞こえた気がする。
遠い記憶の向こうで聞いた――でも、決して忘れない、懐かしい声。
(もう、本当にあの人はしょうがないんだから……)
困ったような、でもどこか怒ったような声。
(娘の想い人を奪うなんて……)
ち、違うよ!
(違わないでしょ?)
……はい。
私は頷く。この声の主には勝てない、人生の、女のしての先輩なのだ。私の想いなどすべてお見通しなのだ。勝てるわけがない。
(いい、私の言う通りにしなさい、こなた……)
だから、私はその言葉に素直に従うことにした。
(男の人っていつまでも子供なんだから。苦労するのはいつも女なのよね……)
この人もずっと苦労させられたのだろう。歴史は繰り返すものなのだろうか?
「シンくん、夏休みが終わる前に那須のガンダムエキスポにでも行ってみようか?」
「はい、お付き合いします!!」
シンとお父さんが朝から仲良く話してる。
でも、お父さんにシンを取られるのは嫌だから、勇気を出してみる。
背中から私を後押しするあるはずのないやさしい手の感触を背中に感じながら、私は一歩を踏み出す。
「シン……あの……」
「えっ!?こな……た……か?」
「こなた……その服……」
シンとお父さんが目を丸くしてる。
お母さんの形見の私には似合わないかわいいワンピース、そしてアドバイスに従って結ったポニーテールが身体の震えにあわせて揺れる。
「シン……今日は私に付き合って……」
「………………ああ。すみません、そうじろうさん、俺……」
「……シンくん、私は急用ができたみたいだ。だから、こなたをよろしく頼むよ」
シンはいつもと違う私の格好をじっと見ている。なんだかちょっと恥ずかしい。
お父さんは懐かしそうに頷いている。あと、ちょっとばつが悪そうだ。
勢いでシンをデートに誘ったけど、この先どうすればいいかのアドバイスは貰えてない。
でも、とりあえず――シンとの手を引いて、外に出てみればきっと楽しい。そう思った。
夏休み最後の数日、まだまだ思い出は作れるよね、シン?
最終更新:2009年04月28日 00:43