猫
by 15-120
こなたはクラスで孤立していた。
その周りはハイエナだらけで、
いつ真ん中のガゼルを襲うか解らない。
何故、皆こなたのことを汚穢な存在と認識しているのだろう。
もっと早く気付いてやればよかった。
虐めの劈頭は、とても些細な事。
だが、それは時間と共に腫瘍のように広がり、
ようやく虐めだと気付いた時には既に四面楚歌となっている。
こなたの今までの元気はすっかり凋落し、
もうただの人形が座っているようにしか見えなかった。
つかさとみゆきがハイエナの群れから
こちらへ歩み寄って来た。
「泉さん、今朝からずっとあの様子なんです」
「何で急にこんなことになったの?」
「今朝机にゴミとか入れられてたらしいよ。
でも、まあこなちゃんには
ちょっと自重してもらいたかっから、ちょうどいいかも」
「つかさ!何てこと言うの?」
「だって、こなちゃんには
ずっと体育とか成績の事で馬鹿にされて来たんだし」
「確かにそれはありますね。
では、今日は私達3人で昼食を召し上がる事にしましょう」
「…あんたたち最低ね…ちょっとどきなさい。
ほら、そこの塊もどいて!通れない!」
私は、ハイエナの中に入り、ガゼルを助け出す手段に出た。
ハイエナが一斉に私に注目するが、そんなことは関係ない。
「こなた。私とお弁当食べよう、ね?」
「かがみん…ありがとう…ひっく」
こなたは泣き崩れた。
私は、違うクラスだったので何をされていたのか解らないが、
どれほど辛い目に遭っていたかは、この容姿を見れば解る。
所々に黒板消しの跡が付いた制服、
蹴破られたスカート、
頬に出来た痣、
「オタク死ね」や「ゴミ」の文字で埋め尽くされた机。
これが全てを物語っていた。
私がこなたの手を握ると、こなたの手は震えていた。
「こなた…大丈夫だから」
私はこなたの手を引き、皆の視線を浴びながら教室を出た。
私とこなたは屋上に上り、そこで弁当を広げることにした。
こなたの弁当を見たとき、私は思わず声を上げた。
中身全てに、砂や泥がふりかけられてあったからだ。
恐らく運動場のものだろう。
「こ、こなた…!」
「あぁ…またか。まぁいいや。別にお腹空いてないし…」
こなたは、上を向いてため息をついた。
「こなた…。私のあげる」
「え…いいの?かがみん」
「いいから、食べて」
「かがみん…本当にありがとう」
こなたは私のお弁当を見ると、
微笑みながら食べてくれた。
「こなた。先生には相談したの?」
「ううん。してないよ。…しても手遅れだよ、きっと」
「そんなことないわよ!
今からでも職員室に報告しに行こうよ!」
こなたは、私が立ち上がろうとするのを
私の制服の袖を引っ張って止める。
「先生に報告したところで…解決なんかしないよ。
しかもそれが更に理由になって、
もっと陰湿な虐めが始まるかもしれない」
「こなた…どうしてこんな…」
私は、涙を流した。
「これは…仕方ないんだよ。
生まれ受けた運命なんだ。
私、顔も変だし…
オタクで気持ち悪いし…KYだし…」
「そ、そんなこと…」
「いいよ。はっきり言ってくれても。
もう、ここまで来たらそういう悪口にもすっかり慣れた。
私、いつもそうやって虐められてきたしね」
「こなた…今までごめん…
何も気づいてあげられなかった私を許して…」
私はこなたに抱きついた。
「謝らなくてもいいよ。かがみんはいつでも友達だから」
そして昼休みが終わり、私はこなたと別れて教室に戻った。
大丈夫だろうか…
漸次不安だけが募る。
あのまま保健室に連れて行っても
よかったんじゃないだろうか…
そして、今日の授業が終わり、
恐る恐るこなたの教室へと向かう。
教室を覗くと、こなたは居なかった。
学校のあらゆる場所を探し、
最後に、恐らく誰も居ないであろう
裏庭を覗いてみると、
こなたは男子生徒に絡まれて
制服を脱がされようとしていた。
2人の男子がこなたを羽交い絞めにし、
もう2人の男子がこなたの制服を剥ぎ取ろうとしていた。
「やめて、やめてよぉおお!」
こなたは泣き叫んでいた。
その度に、こなたはもう一人の男子生徒に
頬を叩かれていた。
ここで私が出ないわけにはいかない。
こなたのためにも…
「ちょっと!あんたたち!何やってるの!?」
「んだぁ?」
「女はひっこんでろ」
「い…いいからこなたを離しなさいよ!」
「うるせぇな!」
一人の男子が私に殴りかかってきた。
私は、咄嗟に攻撃をかわした。
すると、こなたを羽交い絞めにしていた
二人が後ろから私に歩み寄り、
私を羽交い絞めにする。
こなたは、もう一人の男子に羽交い絞めにされていた。
「ちょっ…何するのよ!」
「あんたは少し眠ってろ」
さっき私に殴りかかった一人が、ゆっくり私に歩み寄る。
そして、私の鳩尾に拳を突っ込む。
「ぐふっ…!」
こなた…
ごめん…私…ダメだった…
バタッ
目が覚めたとき、私は家に居た。
「お、お姉ちゃん大丈夫?」
目の前にはつかさが居た。
「え…何で家にいるの?私」
「びっくりしたよ!裏庭で倒れてるんだもん。
私とゆきちゃんが運んだんだよ?
一体どうしたの?」
「そ、そうか…私は裏庭で…
そうだ!こなたは!?」
「え…こなちゃん?
見つけたときには居なかったよ。
何かあったの?」
「え、ううん。なんでもない」
「そういえば、今日クラスで
お姉ちゃんのことも騒がれてたよ?」
「え…?」
「私は、あまりこなちゃんと
一緒に居ないほうがいいと思うよ…
お姉ちゃんまで虐められたくないでしょ?」
「…じゃあ、あんたはそうやって
ただただ佇立してる傍観者になるわけ?
いや、違ったわね。今朝言ってたものね。
自重してもらいたかったからちょうどいいって。
あんたも加害者よ!」
「…とにかく!お姉ちゃんはこなちゃんから離れて!いい?」
「うるさい!」
私は、勢いよく部屋の扉を閉めた。
同時に、ポケットに入っていた携帯電話が振動する。
携帯を開くと、「こなた」とディスプレイに表示されてあった。
「もしもし?」
「あ、かがみん…」
「どうしたの?…さっきの男子生徒に、何かされたの?」
「…ごめん、それは言えない…ザ…ザザ」
さっきから、雑音が酷い。
「こなた。あんたどこに居るの?
さっきから風の音か何かがちょっとうるさいんだけど。
あんたもしかして外に居るの?」
「あぁ…うん」
「何で家に帰らないのよ。家の人心配してるんじゃないの?」
時計は既に8時を回っていた。
「かがみん、輪廻転生って知ってる?」
「な、何よ唐突に…」
「私、今度は何になろうかなって…あはは…」
「…こ…な…た?」
「まあいいや。それは後で決めても遅くはないよね。
かがみん、今までありがとう…」
「ちょ、ちょっと!こなた!?今あんた何処に居るの!?」
「……屋上」
その時、強い風が吹いたのか、
雑音しか聞こえなくなった。
「こなた!ダメ!早くそこから離れて!
待ってて!今から行くから!」
と、言ってる最中に電話は切れた。
私は、一目散に家を飛び出し、
学校へ我武者羅に走った。
こなた!死なないで!お願い!!
そして学校に着き、私は急いで屋上に上がる。
足が攣りそうなくらい走り、
ようやく屋上へたどり着いた。
「こ、こなた!!」
私は叫んだ。
しかし、見渡す限りこなたは屋上に居なかった。
私は、恐る恐る屋上から下を見下ろす。
手は震えていた。
こなた…お願い。
しかし、私はそれを見つけてしまった。
地面に横たわる、鮮血を周りに飛び散らせ、
ピクリとも動かないこなたの姿が。
「こなたああああああああああああああああああああ!!」
私は泣き叫んだ。
声が枯れても泣き叫んだ。
翌日、こなたが自殺したことは、既に学校中に知れ渡っていた。
喜ぶ生徒は居なかったが、悲しむ生徒も居なかった。
流石に表立って喜ぶ生徒は居ないだろう。
その日から数日は、私にとって一番憂鬱な日々となった。
クラスの誰とも会話できなかった。
しかし、数日経つとクラスの人間も
徐々にこなたの話題を話さなくなった。
代わりに、今度は私の名前が囁かれ始めた。
こなたは本当に一番最適な決断を下したのだろうか。
やり切れない思いが込み上げる。
昼休みにゆたかちゃんに尋ねてみたところ、
こなたのお父さんはずっと家で頭を抱えているらしい。
暗い部屋で、明かりもつけずに。
ゆたかちゃんは、そんなお父さんを必死で慰めているらしい。
早く、元気になってくれればいいのだが…
あれからの数日間、私たちは3人で帰っていた。
まだ、こなたが死んでから1週間も経っていない。
ある日、私たちがいつものように帰っていると、
「あ!猫だ!」
つかさが叫ぶ。
「そうですね。珍しいですね」
「…そうね」
「あれ…?でも、この猫可愛くないね」
「確かにそうですね…どことなく憎たらしそうです…」
私も、よくその猫を見てみると、猫という可愛らしさはなかった。
汚れているからだろうか…
よく見ると、頭の上にアホ毛があった。
それに目の下に、ホクロのような傷もあった。
私は、その猫を抱いてみた。
「お、お姉ちゃん!何してるの!
何かその猫ばい菌付いてそうだよ!?」
「確かに、猫にいきなり触ると危険ですよ?」
しかし、その猫は私が抱き上げるとニャーと鳴き、
とても嬉しそうだった。
「お姉ちゃん!行くよ!」
「あー待って、今行く!」
私は、猫をそっと地面に置いてやった。
「じゃあね」
私が手を振ると、猫は軽やかに住宅街を駆け抜けて行った。
私は、帰り道を急いだ。
翌日、私が学校に来ると、上靴が無かった。
仕方がないので、スリッパを借りて教室に入る。
教室に入ると、嫌な視線が突き刺さる。
「…なあ、柊ぃ」
日下部が私を人気の無い廊下に呼ぶ。
「何よ」
「お前、あのちびっ子とずっと一緒に居たんだよな?」
「…だから何」
「いや…うーん…まぁ、ちょっと気をつけた方がいいと思うんだ」
「…そう。こなたの次は私?」
「…うん。皆今度は柊の事を敵視し出してるからさ」
「どうせあんたも協力するんでしょ?そっちに」
「え…わ、私は…あの…あやのと対策を練ろうかなと…」
「私はもう覚悟は決めてる。
私に協力したらあんたまで同じ目に遭うんじゃないの?」
「…まぁ、そりゃ…そうなんだけどさ」
「あんたが本気で私に協力したいって言うのなら別だけど、
本心は違うんでしょ?」
「…ぁぅ…ごめん柊!」
日下部は走り去っていった。
やっぱりね。
そうだろうと思った。
だけど、私もちょっと変だな…
こなたが死んでからずっと…
そして、授業が始まる。
「柊。教科書72ページの3行目から読んで」
「あ、はい。えーと、磁石を使ってコイルに電流を流すには、
コイルを磁場中に置くだけではだめで、磁石が動く必要があります」
「ごほん!」
隣の男子が咳払いをする。
「磁石を動かすと、コイルを横切る磁場が変化します。
磁場がコイルに電流を流すのではなく磁場の変化がコイルに…」
「ごほんごほん!!」
あちこちの男子が咳払いをする。
「電流を流します。この作用を電磁誘導といいま…」
「げほっごほんごほん!!」
「こら、そこの男子。静かにしろ」
恐らく、態とやっているのだろう。
もう、確実に矛先は私に向けられている。
別に、こなたのことは恨まない。
悪いのは、陰湿に攻撃を仕掛けてくるこのクラスメートだ。
しかし、こなたのように自殺するよりも、
もう少しいい方法があるはずだ。
そうだ。先生に相談してみよう。
ただ、今のままでは立証できる証拠物件がない。
仕方ない…少し、様子を見るか…
「おい、柊。調理パン買って来てくれよ」
とある男子生徒がやってきた。
「何で私がそんなことしないといけないのよ」
「とっとと買ってくればいいんだって、お前も虫だからな」
「そそ。お前は泉こなたと一緒だから」
横から仲間が来た。
「んじゃ俺コロッケな」
「俺はサンドイッチでいいや」
「な、何で私が…」
「早く行けよ!!」
「痛いっ!」
私は、教室から蹴り飛ばされた。
「コーヒー牛乳も買えよ」
教室の扉が勢いよく閉められた。
こなたも…同じ気分だったんだろうな…
助けてもらいたくても、誰も助けてもらえないという
孤独を。
私は、結局調理パンとコーヒー牛乳を買う羽目になった。
勿論、私のお金で。
流石に、男子には勝てない…
悔しくて、涙が出そうになった。
逃げてやろうかと思った。
しかし、それをすると次の日を思うだけで憂鬱になる。
もう、選択肢は残ってないんだ…
その日の夜、私はつかさの部屋に呼ばれた。
「お姉ちゃん…その膝の痣、どうしたの?」
「あぁ…これは転んじゃってね…あはは」
「ううん、分かってるよ。お姉ちゃん。
虐められてるんでしょ?」
「そんなことないわよ」
「お姉ちゃん…先生に相談してみなよ」
「つかさ…」
「私は、お姉ちゃんの味方だからね」
「…ありがとう、つかさ」
次の日、私の机にはゴミが入っていた。
そして、本格的な虐めが始まった。
その日、私は無条件に殴られたり蹴られたり
こなたのように下劣な存在として扱われた。
もう、生きている気がしなかった。
手段はなかった。
先生に相談しよう。
それが一番いい。
昼休み、私は職員室に勇気を出して入り、
担任の桜庭先生に全てを打ち明けることにした。
私の頬に出来た痣や、汚れた制服を見て、
桜庭先生は、すぐに対策を立ててくれた。
まず学年集会を開くこと、
そして、私が名前を挙げた生徒たちを
会議室に呼び出し、私を教室に置き、
詳しく質問をすると。
そして、私から得た情報を、
その生徒達に突きつけると。
その日の6限目、学年集会が開かれた。
桜庭先生が、皆に虐めが存在することを話した。
誰が受けているかは匿名だった。
先生は、今後虐めを続けるものは徹底的に叩き潰すなど、
激しい演説を行った。
先生は本気だったようだ。
その日の放課後、私は一人教室に残され、
今まで私に直接関わった生徒は予め名前を挙げておいたので、
その生徒は会議室へ呼ばれることとなった。
桜庭先生は、私の前へ座った。
机は移動させ、面接時状態となっている。
「さて…で、どうだ?
少しは落ち着いたか?」
「5、6限目は何もされませんでした」
「そうか…で、具体的にいつから始まったんだ?」
「…こな……泉さんが…死んでからです」
「そうか…確か、泉も虐めを受けていたらしいな。
自殺してから女子生徒が言いに来たよ。
もう少し早く言ってくれてればな…」
「泉さんは…元々先生に言うつもりは
なかったそうです」
「反撃を恐れた訳だな…なるほど。
それなら停学処分という手もあったのだが…
何しろ証拠を見つけてないとな」
「証拠は十分にあったと思います。
先生は授業中にこなたの身体、見なかったんですか?
あの痣、制服の黒板消しの跡、蹴破られたスカート、
文字だらけになった机」
「…いや、見てないというわけではないが」
「では、先生は…
こなたを見殺しにしたということですか?」
「ちょっと待て!柊!
先生は気づいてなかったわけではない!
だがな、生徒の誰も訴訟を起こさないと
こちらの独断だけでは手が出せないんだよ!
今回の件は、お前が訴訟を起こしてくれたから、
こうやって先生も協力が出来たんだ」
「でも、先生…」
「では、何であの時にお前が訴訟を起こさなかったんだ。
お前が起こせばよかったんじゃないのか?」
「…確かにそうですね。
あの時は、こなたの言うことが通ると思って
訴訟を起こせなかったんですが…
すみません。言い過ぎました」
「いやいや、謝ることはない。
私も言い過ぎた。
お前は仮にも被害者なんだからな。
さて、事情聴取といこうか」
私は、桜庭先生に今までやられてきたこと、
全てを打ち明けた。
先生は、結局は無力だったんだ…
こなたの言うとおりだった。
先生は、一通り内容について訊ねると、
会議室に向かった。
その間、私一人の時間が続いた。
秒針が動く音だけが教室を響かせる。
そして桜庭先生が帰ってきて、
私に更に色々質問してきた。
それで、私は学校から帰された。
明日からは、普通の生活に戻ることを願う。
今日は、久々にゆっくりと夕食を堪能できた。
翌日、私に関わってきた中でも
まだ誠実な男子生徒が謝りに来た。
「ごめんな、柊。もう泉みたいな扱いしないからさ」
「あぁ…うん。いいわよ」
「サンキュ、柊」
普通の生活がやっと戻ってきたんだ。
しかし、こなたに罪悪感が芽生えて仕方がない。
私だけこんないい思いをしていていいのだろうか。
私は放課後、この間こなたが
あの男子生徒たちに絡まれた中庭に入った。
こなたは、ここで殺されたんだ。
こなたはここでもう死んでいたんだ。
私は、花束を中庭の端に置いて、少し黙祷した。
ずっと強がっていたけど、
やっぱり独りは淋しかった。
いくら傲慢な人間でも絶対に。
こなたは、その辛さをずっと味わって来ていたんだ。
不意に涙が出てきた。
私は、まだこなたの真の理解者でなかったんだ。
あの日の昼休みの後、
二人だけで学校を出ていても良かったんだ。
悔しさと後悔が募る。
でも、こなたが帰る事はない。
この先ずっと。
「ここに居たのか。柊」
私は、振り向いた。
そこには、以前こなたに絡んでいた
男子生徒たちが立っていた。
私と違うクラスの生徒たちだったので、
名前が分からなかったのだ。
「また一人で居るとは、相変わらず無防備な奴だな」
「な…」
一人が私の肩を両手で押さえつけた。
「いつもいつも先生に言って
全て済むと思ったら大間違いなんだよ」
「くっ…」
やはり、こなたの言うとおりだった。
先生に言っても、基本的にはただの保険のようなもの。
結局は、自分で何とかしないといけないのだ。
「さて、泉はイマイチだったからな。
今日はお前で愉しませてもらうよ」
「そうだな。こいつは泉と同類だから、
これくらいの事は許される訳だ。あはは…」
二人が後ろから私を羽交い締めにし、
更に前に居る一人が制服を脱がそうと、
ボタンを外していく。
「ちょっ…何すんのよ!」
「泉こなたと同じ目に遭ってもらう」
「黙ってれば悪いようにはしないって。ははは…」
「やめて、やめてよ…」
男子は私の制服のボタンを全て外し、
私の生身の身体が露になった。
「ついでだし、このブラも取っとくか。ひひ…」
「やめて、お願いだからやめてえええええええ!!」
ガリッ
「ぐわあああああっ!!」
私を支えていた男子生徒が
途端に悲鳴を上げて私から離れる。
更に、もう一人の男子生徒も
悲鳴を上げて私から離れる。
「どうした?」
私の前に居た男子が動きを止めて問いかける。
私が目線を下げると、そこには猫が居た。
それは、この前の放課後に逢った猫である。
「何だぁ?この汚え猫は」
すると、その猫は私の目の前の男子に
飛び掛かり、顔面を引っ掻いた。
「ぎゃあああああああ!!いててててて」
すると、顔を引っ掻かれた一人が
バットを持って現れた。
「畜生、喰らいやがれ!」
猫はバット攻撃を颯爽とかわし、
更に反撃を加えた。
私は見ていることしか出来なかった。
男子生徒は更に悲鳴を上げながら
狂ったようにバットを振り回す。
そして、その男子生徒は私の方にバットを振り降ろして来た。
その時、猫が咄嗟に私の目の前にジャンプし、バット攻撃をもろに喰らった。
そのお陰で私は助かった。
その猫は、最後の力を振り絞り、その男子生徒の片目を裂いた。
男子生徒はまたもや悲鳴を上げた。
その男子生徒は目を押さえて倒れこみ、
悶絶しながら地面を這っていた。
猫は、再び他の男子生徒全員に飛びかかり、
全員の顔面に引っかき傷を負わせた。
男子生徒は、全員悲鳴を上げながら
そのまま逃げて行った。
私は、男子生徒たちに毛を最後まで逆立てていた猫を見た。
その猫は、私の方へ頭から血を流しながらゆっくりと近付いてくる。
私の目からは涙が溢れていた。
私は、その猫を抱きしめて、
「ありがとう…」
と言った。
猫は、そのまま目を閉じた。
もう、鳴き声は聞こえなくなった。
その時、ある人の名前が脳裏をかすめた。
どこからこの名前が出て来たかは解らない。
でも、このアホ毛は多分、
この泣きボクロは多分、
私を守ってくれたのは、多分…
いや、絶対に…そんな気がして…
「ありがとう…こなた」
私は、腕に眠るこなたを抱きしめ続けた。
(終)
最終更新:2024年04月25日 21:00