家庭内暴力
by大阪府
「ゆーちゃんおはよ~。今日は暑いね」
「あ、お姉ちゃんおはよう。目が赤いけど大丈夫?」
「徹夜でゲームしてたの。いや~第五階層まで潜ったらFOEが半端ない強さで
hageちゃって困ったよ~(≡ω≡.)」
ゆたかが泉家にお世話になり始めてから、ちょうど二ヶ月が経つ。
いつも通りの穏やかな朝。一見何事もないように見える。しかし・・・
「ゆーちゃん、こなた、おはよう!朝ごはんできてるぞ」
「は~い!ささ、ゆーちゃん早く食べないと遅刻だよ」
「う、うん・・・」
「ははは、ゆーちゃんは今日も可愛いなあ!」
「いえ、そんな・・・」
ゆたかには悩みがあった。それは叔父のそうじろうのことだ。
そうじろうが毎日、ゆたかに過剰ともいえるスキンシップをしてくるのだ。
ゲームをしている時や、こなたと居間で昼寝をしている時など、身体を
触ってくる。その他様々な日常の場面でもそういった事が度々ある。
こなたは「これはお父さんの愛情表現なんだよね」と言っている。
確かに愛情表現であって悪気はないのかもしれない。でも・・・。
正直なところ、ゆたかは余り良い気分ではなかった。
「それじゃあお父さん行って来るね」
「行ってきます・・・」
「ああ。二人とも気をつけてな!」
「・・・おかしい・・・」
ゆたかは昔から病弱で、家で寝ていることが多かった。
その事もあってか感受性は人一倍強くなった。だから、自分の部屋が
学校に行く前と帰ってからでは少し様子が違う、という事にもすぐに気づいた。
「日記の位置がずれてる・・・それに・・・下着を入れた棚が・・・」
ベッドの下着入れの棚。僅かだが乱れがあるのを発見した。
「ねえこなたお姉ちゃん」
「ん~なぁに?」
「今日、私の部屋に入ったりした・・・?」
「いくら私でもそんなことしないよ~」
「そうだよね・・・変なこと聞いちゃってごめん」
こなたは嘘をついてなさそうだ。ということは・・・考えたくないけれど・・・。
このままうやむやにしていても辛いだけだ。ゆたかは決心した。
「あの・・・叔父さん」
「ん?どうしたんだい、ゆーちゃん」
「叔父さんに・・・たずねたいことがあって・・・」
「何だい?ゆーちゃん、キャミソール似合ってるね、可愛い腕して」
「いやっ!」
ゆたかは突然の事に驚いて、そうじろうの手を振り払ってしまった。
「ゆーちゃん、どうしたの。いつもの事じゃないか」
「・・・叔父さん、私が学校に行っている間に、勝手に部屋に・・・」
「・・・・・・・・」
「私、叔父さんには感謝してます。でも、こういう事は・・・」
「ごめんね、いま原稿がたまっててね、また明日話し合わないか」
「・・・・・・・」
翌日。ゆたかは書斎を訪れた。
今日はこなたはバイトがあり、まだ帰っていない。
「・・・叔父さん」
「ゆーちゃん、おかえり!早かったな」
「あの、昨日の話の続き・・・」
「へ?話だって?いったい何の事だい」
「ふ・・・ふざけないでくださいっ!私の部屋を漁ったりしてるんでしょ?
やめてください!それに、私の身体を触るのも、今まで我慢してきたけど・・・」
「・・・心外だな、そういう言い方は。・・・まったく」
「へ・・・?叔父さん・・・きゃっ!」
突然そうじろうはゆたかを押し倒した。シャツを捲り上げられ、ブラジャーと
微かに膨らむ胸が顕わになった。
「いや、やめて!誰か・・・助けて!こなたお姉ちゃん!!」
「誰も助けにこないよ。ゆーちゃんが可愛いから悪いんだ、ゆーちゃんが・・・」
その時、玄関の引き戸が開く音が聞こえた。
(お・・・お姉ちゃん・・・?)
そうじろうは我を失っており、音に気づいてないようだ。
今のうちに助けを呼ばないと・・・。
「・・・・・っ・・・・」
ゆたかは愕然とした。恐怖の余りに声が出ない。息が詰まる・・・。
そうじろうは、ゆたかのパンティに手をかけている。
「あ・・・あ・・・」
しかしその時、書斎のドアがほんの少しだけ開いた。覗いた緑の瞳は
一瞬驚きの表情を見せ、そして恐怖に怯えていた。
(やっぱりお姉ちゃんだ・・・お姉ちゃん、助けて・・・)
「お父さん何してるのっ!」そう叫んで飛び込んでくるこなた。
その姿をゆたかは想像していた。だがこなたは申し訳なさそうに目を伏せ、
ドアを閉めてしまったのだ。ゆたかは信じられなかった。
(そ・・・んな・・・お姉ちゃん、どうして・・・どうして・・・)
ゆたかは急に意識が遠のいていくのを感じた。
その夜。ゆたかの部屋。
「ゆーちゃん気分悪いんだって?おかゆ作ってきたよ」
お膳を持ったこなたが入ってきた。お膳には小さな土鍋とお椀、漬物の小皿と
お茶が乗ってある。ゆたかはベッドにうずくまっていた。
「食欲ないだろうけどさ、少しでもお腹に入れておかないと・・・」
「どうして・・・」
おかゆをお椀によそるこなたの動きが止まった。
「ゆーちゃん・・・」
「どうして助けてくれなかったの・・・どうしてそんなに普通なの!」
「・・・・・・・」
ゆたかは身体を起こし、真っ直ぐにこなたを睨んだ。瞳から大粒の涙がこぼれる。
「こなたお姉ちゃん、私と目があったでしょ?見てたでしょ?ねえ!」
「何のことだっけ・・・。私何も見てないよ」
「嘘だ!!」
「あはは・・・ゆーちゃん、そんなレナじゃないんだから・・・」
「とぼけないでよっ!今日の夕方だよ、私が叔父さんに、叔父さんにっ・・・」
「あれは・・・お父さんとゆーちゃんが昼寝してただけだよね・・・」
その瞬間、ゆたかはこなたの頬を叩いた。お椀が床に転がった。
「もういいよ・・・おかしいよお姉ちゃん。そうまでして叔父さんの
肩を持つんだね・・・出てって」
「ゆーちゃん・・・」
「早く出てってよ!!ご飯もいらない!」
時刻はちょうど零時になろうとしている。
ゆたかは睡眠薬を飲んで眠った。全てを忘れたい気分だった。
だから、下の階で何が起こっていたかを知らない・・・。
「こなた、お前覗いていたんだってな。バイトはどうした?」
書斎。こなたとそうじろうが向かい合って立っている。
「あ、あの、今日は早く上がったから、それで・・・うぐっ!!」
こなたのみぞおちに拳がめりこんだ。たまらずこなたは蹲る。
「あ・・・うぅ・・・ぐうっ・・・・」
「だからと言って覗く馬鹿がいるか!?俺とお前の関係がばれたらどうする?」
「で・・・でも・・・ゆーちゃんは関係ないよ、手を出さないで・・・
ゆーちゃんは身体が弱いんだよ・・・」
「こなた、口答えする気か?それならまたやろうか?この前みたいに
”お仕置き”を」
その言葉を聞いた途端、こなたの顔から血の気が失せた。
「や、やめて・・・お父さんやめて、”お仕置き”だけは、お願いだから
やめてよぉ・・・」
「だったら口答えするな、わかったな」
「・・・・はい・・・・」
「お前はいつも通りしていればいい。知らぬ存ぜぬで通すんだ。
大丈夫だ、ちゃんと口止めの手段は打ってある」
「うう・・・(ごめん、ごめんねゆーちゃん・・・私、ゆーちゃんの
こと助けられないよ・・・・)」
翌日の朝。ゆたかは制服に着替えた。
学校なんて行ける気分じゃない・・・しかし、家にいるのはその何百倍も
嫌だったからだ。心身に鞭打って自分をなんとか奮い立たせた。
「やあゆーちゃん。今日は学校行けるのかい?」
そうじろうが悠長に話しかけてくる。一体、どの口で・・・。
「私、学校から帰ったら自宅に戻ります。そしてゆいお姉ちゃんに全て言います」
「おお、怖い怖い・・・でもそれは困るなあ。ゆーちゃん、これ何だかわかるかい」
そうじろうは懐からSDカードを取り出した。
「それは・・・」
「昨日の様子、ばっちり隠し撮りさせてもらったんだよ。・・・もしゆーちゃんが
ゆいちゃんや他の人に昨日のことを言えば、昨日の映像をコピーしてばらまくよ。
そうだな・・・君と仲良しのショートカットの娘、みなみちゃんだったかな?
ゆーちゃんのこんな姿を見たら驚くだろうね」
「・・・・・・・・」
ゆたかは言葉が出なかった。数日前までは多少嫌だと思うことはあっても、
優しい叔父さんだとゆたかは思っていた。こんな本性を隠し持っていたなんて。
「あなたは、悪魔です・・・・・」
「そうかい?なかなかカッコよくていいね。学校、気をつけて行くんだよ」
ゆたかは気が気ではなかった。
学校に行きはしたが、当然まともに授業を受けていられるはずがない。
長いこと我慢していたけれど、とうとう三時間目の途中で倒れて、保健室に
運ばれてしまった。
昼休みになって、みなみとひより、そしてパトリシアの三人が様子を見に来た。
「う、うう・・・」
「大丈夫?朝からずっと辛そうだったけれど・・・」
「三時間目に急に気を失ったんだよ。それで私達が保健室に連れてきたの」
「ユタカ、風邪デスか?お薬いりますか?」
「みんな、ありがとう・・・う、うっ・・・ぐすっ・・・」
突然泣き出したゆたかに三人は驚いた。
「ゆたか・・・何かあったの?」
みなみがゆたかの手を握った。みなみが心から自分の事を心配してくれている、
その優しさが伝わってきて、ゆたかは少し暖かい気持ちになった。
「小早川さん。私達友達になってまだ短いけど、何でも相談してね」
「そうデス!愛と友情のツープラトン!」
「みんな、ありがとう、ありがとう・・・」
みんなに全て打ち明けたい、でも、それは・・・。私のあんな姿を見られる
なんてできない。大事な友達だからこそ、なおさら・・・。
「あの・・・私、私・・・」
三人は真剣な眼差しでゆたかを見つめる。
「家・・・で・・・こなたお姉ちゃんに・・・いじめられてるの」
その日の放課後。
こなたは1年D組の教室に来た。ゆたかが心配だったからだ。
こなたは昨日一晩考え、やはり誤解を解いて今までのことをゆたかに
打ち明けようと思った。何も関係のないゆたかを巻き込んでしまった。
私はゆたかを見殺しにした・・・こなたは大きな罪悪感に苦しめられていた。
「あ、ひよりーん!ゆーちゃん知らない?」
オタク仲間のひよりは、いつもこなたを慕ってくれている。
しかし今日は様子がおかしかった。
「・・・何ですか?」
「えっと・・・ゆーちゃん知らない?」
「知りません。・・・じゃあ私用事があるんで」
ひよりは席を立ち、出ていってしまった。いつもと違う冷ややかな反応。
どうしてだろ・・・こなたは妙な胸騒ぎを感じていた。
と、そこへみなみがやって来た。しかし、みなみもこなたを見るなり、
露骨に嫌な顔をして目を背けた。
「あの、みなみちゃん、ゆーちゃんは・・・」
「・・・・・・・」
「知らないかな、ごめんね。じゃあ私はこれで・・・」
「もう、ゆたかに近づくのはやめてください」
「え?」
みなみの瞳にははっきりとした敵意が感じられた。
「この教室にも来ないで。ゆたか、迷惑してるから」
「そんな・・・みなみちゃん、何言ってるの」
「触らないで!」
みなみの怒声に、教室に残っていた生徒が皆振り向いた。
「ゆたかはあなたのせいで辛い思いしてるんです。あなたと同じように
気持ち悪いオタクだって思われて・・・もうゆたかを苦しめないで!」
・
・教室の空気が凍りつく。たまらずにこなたは外へ走り出た。
「あの人、小早川さんの従姉妹だよね。何かあったのかなあ」
「確かによく大声でオタク話してたよな。小早川も迷惑してたんじゃないか」
帰り際にクラスにいた生徒の囁き声が聞こえた。
トイレの個室に入る。張り詰めていた心の糸が切れ、こなたは嗚咽を漏らした。
「う・・・どうして、どうして私ばっかり・・・こんな目に・・・ぐすっ」
もしかしてゆーちゃんが皆に昨日の事を話したのか・・・。でもお父さんに
弱みを握られていてそれはできないはず。・・・だから私が悪い、っていう
話にしたのか・・・。私がゆーちゃんを見捨てたのは事実だけど、だけど、
だけど・・・私だって辛いのに・・・。
こなたはしばらくの間、声を抑えて泣いていた。
落ち着いた後に学校を出た。もうすぐバイトの時間だ。働いていれば、まだ
気が紛れる。
「泉さんこんにちは。今日も頑張ろうね」
「うん、ダンスの練習しっかりしてきたよ!」
やっぱりバイトに来て良かった。こなたは笑顔になった。
「あ、パトリシアさん遅刻ギリギリだよ。早く着替えてね、お客さんから
キリコ・キュービィのコスプレがリクエストされてるよ」
「・・・!」
そうだった、今日はパティも来る日だった。もしかして彼女も・・・
こなたの身体が緊張で固まった。その予感が的中する。
「や、やあパティ・・・」
こなたが声をかけると、パトリシアは更衣室のテーブルに置いてあった
紙コップの中身をこなたにぶちまけた。
「きゃあ!」
中身はオレンジジュースのようだ。こなたが着ている衣装が黄色く汚れた。
「コナタ悪い人!ユタカに・・・ユタカにひどい事しました、許せないDEATH!」
「パティやめて!痛っ!うううっ・・・」
パトリシアに胸倉を掴まれ、こなたはロッカーに突き飛ばされた。
その騒ぎに他のバイト仲間もかけつけてくる。
「ちょっとパトリシアさん、泉さん何してるの!」
「離して!離してください!コナタは私の友達を傷つけた!」
二、三人が必死になってパトリシアを抑える。こなたはロッカーにもたれて
座り込んだ。
「泉さんどういうこと?パトリシアさんの友達と何かあったわけ?」
「いつものほほんとした彼女があんなに怒って・・・よっぽどの事が
あったんじゃないの?」
こなたに向かって、訝しげな視線が向けられる。
「私・・・別に、そんな・・・」
ゆたかへの罪悪感からか、こなたは「何もしてない」ときっぱり否定する
ことはできなかった。そこへ店長がやってきた。
「泉さん、パトリシアさん、今日の所は帰ってもらえるかな。
お客さんにも迷惑がかかるんでね。また問題が解決してから、改めて
働いてもらうことにするから・・・」
私にはバイトする権利さえないのか・・・こなたは心が暗い闇へと沈んで
いくのを感じた。店から出る際、パトリシアの方を見ることができなかった。
「うんうん、そうね、じゃあ今週カラオケ行こうか。つかさ達にも声かけとくね」
「わぁい!楽しみにしとくよ。あ、そうそうこの前言ってたゲームね・・・」
「あ~こなたごめん。うちのクラス今日宿題多くてね。そろそろ切るわ」
「そう・・・長々とごめんね。来週もこなたと地獄に付き合ってもらう(≡ω≡.)」
「なぁにわけわかんない事言ってんのよ!じゃあ、また明日ね!」
受話器を置く。こなたはため息をついた。
親友のかがみとの電話。こなたにとって、家の居る時間の中で唯一安らげる
瞬間になってしまった。泉家にはこなたの味方はいない・・・。
「また長電話してたの。私も電話使いたいのに」
ノックもせずにゆたかが部屋に入ってきた。目が据わっている。ゆたかの
こんな表情を見たことがあるのは、私だけじゃないか・・・こなたは思った。
「ご、ごめんねゆーちゃん。はい、電話・・・」
「もういい」
ゆたかはおもむろに壁の方へ歩いていく。そして、壁に貼ってあるポスター
を片っ端から破りはじめた。
「ゆーちゃん何するの!私の大事なポスターを・・・やめて!」
こなたの静止を振り払ったゆたかは、今度は飾ってあるフィギュアを掴み
壁に叩きつけた。
「やめてよっ!全部私の大切な宝物なのに・・・ゆーちゃんやめてよぉ・・・」
「私のこと助けてくれなかった癖に!見捨てたくせに!私もこなたお姉ちゃんの
大切なもの全部壊してやる!離せっ!!」
「ゆーちゃん、私だって・・・私だって・・・ううっ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・今日はこれくらいにしとくよ、お姉ちゃん」
滅茶苦茶になった部屋。その真ん中にこなたは崩れ落ちた。
その日の夜遅く、そうじろうは再びこなたを呼び出した。
「お父さん・・・・・・・」
「こなた。何やらゆーちゃんと揉めてたみたいだな。これでゆーちゃんが
嫌いになったか?」
「ゆーちゃんは、大切な従姉妹だよ・・・」
「どうだ、こなた。お前がゆーちゃんをかばうのをやめたら、俺は
金輪際お前には手を出さないことにする。お前の代わりにゆーちゃんを
たっぷり可愛がることにするから」
にいっ、とそうじろうの口元が嫌らしく歪む。その微笑を見るたびに、
こなたはぞっとしてしまう。
「・・・やだ」
「ん?」
「もうやだ!お父さんいい加減にしてよ!私はゆーちゃんが傷つくのも嫌!
私自身が嫌なことされるのも、もう耐えられない!お父さん、もとの
優しいお父さんに戻って!お願いだから・・・」
そうじろうの顔から笑みが消えた。
「こなた・・・お前最近生意気になったなあ。誰の金で高校に通えてる
と思ってるんだ?」
「・・・・・・・・」
「やっぱり”お仕置き”するしかないな。服を脱げ」
「いやあっ・・・やめて、お父さん嫌だよ、もう私・・・」
「早くしろ!!さっさとしないとゆたかをやるぞ!!」
服従しなければゆたかが酷い目に合う。これは脅しだけではないだろう。
こなたは一糸纏わぬ姿になった。
「ふう、暑くなってきたのに・・・”お仕置き”するこっちの身にもなってくれ」
「ひ、ひいっ・・・・あ・・・あ・・・」
そうじろうは引き出しから火鉢を取り出した・・・。
「あちゃ~、また取れなかったわ」
「かがみん交替してみ!・・・ほら取れたよ(≡ω≡.) 」
「わぁ、こなちゃんすごいね~!」
こなたはかがみとつかさと共にゲームセンターで遊んでいた。
友達の絆だけが、辛うじてこなたを支えてくれていた。
「さて、と。そろそろ帰ろうか。今日はカラオケも行ったしよく遊んだわね。
「う、うん・・・」
「あんた最近元気ないから・・・私もつかさもみゆきも心配してたのよ。
何か悩み事があるんじゃないの?」
「いや、そんなことないよ・・・大丈夫。それよりさ、今からアニメイト
行かない?新しいグッズが出たの」
「でもこなちゃん、もうすっかり夜になっちゃったよ」
「少しだけだからさ、本屋とかでもいいから。ね、行こうよ・・・」
「こなた、また別の機会にしようよ。今日はくたびれちゃったよ」
「・・・そんな事言わないで、お願いだから・・・どこでもいいから、
もう少し遊ぼうよ・・・かがみん、つかさぁ・・・うっ・・・!」
こなたはかがみの袖に必死にしがみついた。あの家には帰りたくない・・・。
「ちょ、ちょっと!何も泣くことないでしょうが!」
「こなちゃん、やっぱり何かあったの?」
もう限界だ・・・かがみとつかさならわかってくれるかもしれない。
「私・・・ひっく、ぐすっ・・・辛いことがあって・・・家に帰りたくない・・・」
「・・・・・・・・」
こなたの家はお父さんもゆたかちゃんも仲良しなはずだが・・・
かがみとつかさは困惑し、顔を見合わせた。
「・・・家で、何か嫌なことがあったの?」
かがみの問いかけに、こなたは泣きじゃくりながら無言で頷く。
「・・・わかった。こなた、あんた今日うちに泊まりに来なさいよ」
「かがみん・・・」
「一晩くらいなら大丈夫でしょ。ゆっくり話聞くから。つかさもいいわよね?」
「もちろんだよ!こなちゃんも一緒に晩御飯食べようね」
「二人とも・・・ありがと、ほんとに・・・・かがみん達に出会えてよかった」
「ちょ、ちょっと大袈裟ね!わ、私も・・・あんたは大事な友達だって
思ってるけどさ・・・(///)」
ゆたかをそうじろうと二人きりにしたら危険かもしれない。
そんな思いもよぎったが、今のこなたにはもう自分の身を挺してゆたかを
守るだけの気力はなかった。
かがみの部屋。
夕食を済ませた後、かがみとつかさはこなたの話を聞くことになった。
真相を知ったかがみは戦慄した。つかさは顔を両手で覆い、涙を流している。
「まさか・・・そんな・・・。あんな優しそうな、こなたのお父さんが・・・」
「可哀想だよ、こなちゃんも、ゆたかちゃんも・・・酷すぎるよ・・・」
全てを話し終えたこなたは、自分の身体が少し軽くなっているように感じた。
同時に、もう今までの暮らしには戻れない、これからどうなるかわからない
という不安も感じた。
「それが本当なら・・・私達の親にも協力してもらわなくちゃ」
「そうだね、先生にも言おうよ」
かがみんはこなたを抱きしめた。
「あんた・・・今までずっと我慢して・・・ぐすっ、ほんとによく耐えたね
「かがみん・・・つらかったよ・・・う・・・うわぁああああぁぁん!!」
三人は抱き合って涙を流した。その時、こなたの携帯に電話がかかってきた。
(じ~ご~く~をみ~れ~ば~ こ~こ~ろ~がか~わ~く~♪)
こなたの携帯の着うたが鳴り響く。三人は沈黙した。
「・・・こなた、お父さんから?じゃあ出なくていいわよ・・・」
「いや・・・ゆーちゃんからだ・・・もしや何かあったのかも・・・」
恐る恐る携帯を耳に近づけるこなた。ボタンを押すと、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「た・・・助けてっ!お姉ちゃん助けてぇっ!!」
「ゆーちゃん!?何があったの?」
「叔父さんが・・・叔父さんが急に暴れだして・・・きゃぁああっ!!」
後ろで家具が倒れる音、何かが割れる音などが聞こえる。
「逃げるなゆたか!叔父さんのところに来いっ!!」
そうじろうの怒声だ。こなたが帰ってこない事に逆上しているようだ・・・。
「お姉ちゃん早く帰ってきてっ!このままじゃ私殺される・・・!」
「・・・わかった、すぐに行くね。ゆーちゃんはいま部屋の中だね?」
「うん・・・」
「絶対に開けちゃダメだよ!何か重いものを置いてドアを塞いで!」
「わかった・・・ううっ・・・お姉ちゃん、私、お姉ちゃんにこの前
酷いことして・・・」
「・・・いいんだよ。じゃあ行くね」
こなたは電話を切って立ち上がった。
「こなた・・・もしかして帰るつもりなの?」
「うん・・・」
「ダメだよこなちゃん!また酷い目に合わされるよ!」
こなたは寂しそうに微笑んだ。
「お父さんを止められるのは私だけだから・・・。それにまたゆーちゃんを
見殺しにするなんてできないよ・・・」
「こなちゃん・・・」
出て行こうとするこなたに、かがみが右手を差し出した。
「指きりよ。約束して・・・絶対に無茶しないでね。ゆたかちゃんを連れて
帰ってくるのよ!私達も親に話して、警察に連絡するから」
「かがみん・・・。わかった、約束するよ。ゆーちゃんと一緒に帰ってくる。
そしたら四人で朝まで桃鉄でもやろうよ」
こなたも手を差し出し、小指を強く絡めた。
泉家。
こなたが玄関の戸を開けると、バキッという大きな音がした。
「ゆーちゃん!ドアは開けたぞ!今行くからね、ふふふふふ・・・・」
ゆたかの部屋にそうじろうが入ろうとしている。そうじろうは、部屋の
ドアをハンマーで叩き破ったようだ。
「お父さん!もうやめてっ!!私帰ってきたよ!!」
こなたが叫ぶ。悪鬼のような顔をしたそうじろうが振り向いた。
「こなたぁ、遅いぞぉ。何やってた?」
「ゆーちゃんには手を出さないで!私のこと好きにしていいから・・・」
「そうかぁ?じゃあ後で存分に好きにさせてもらうか・・・だが、
まずはゆーちゃんからだな」
そうじろうがゆたかの部屋に入っていった。ゆたかの悲鳴が聞こえる。
「ダメだ・・・お父さん、もう・・・私の言葉も届かないんだね・・・
昔は・・・とっても優しいお父さんだったのに・・・」
「やめてぇ!こないでぇ!!」
ゆたかは必死に抵抗する。しかし、身体の弱いゆたかの力では、
どうやっても大の男の腕を振り払うことは適わなかった。
「ゆーちゃん、恨むんなら自分の運命を恨むんだよ。そんな病弱に
生まれたことと、可愛く生まれたこと・・・ブスなら狙わなかったんだがな」
そうじろうはゆたかを押し倒した。ゆたかのスカートに手を伸ばす。
「助けて、お姉ちゃん助けて・・・」
「まだこなたに期待してんのか。あいつがそんな勇気あるわけ・・・」
その時、そうじろうは後頭部に強い衝撃を感じた。
「うぉっ・・・!」
たまらずそうじろうはゆたかから離れてのけぞる。頭を抑えながら、ドアの方を睨んだ。
「・・・こなた、てめぇ・・・」
「ゆーちゃん、早く逃げて!かがみんの家に行くんだよ!」
「てめぇ・・・親に手ぇ上げるたぁどういうことだ?」
「お父さん・・・昔のお父さんは優しかったよ。でも今のお父さんは・・・
お父さんなんかじゃない!ゆーちゃんにまでこんな酷いことして!!」
「言ったな・・・」
普段ならここでひるんでしまうこなただが、今日は視線を逸らさなかった。
真っ直ぐに父を睨み返す。
「さ、ゆーちゃん早く!」
「う、うん・・・」
「させるかよぉ!お前ら二人とも俺のもんだ!」
立ち上がろうとしたゆたかに、そうじろうが殴り飛ばした。
身体の軽いゆたかは、壁まで吹っ飛ばされ、叩きつけられた。
「ゆ・・・ゆーちゃん!!しっかりしてっ、しっかりしてよぉ!」
こなたは駆け寄ってゆたかを抱き上げた。
ゆたかは気絶しているようだ。頬が強く腫れて、鼻血を流している。
「酷い・・・こんな・・・ここまで・・・ゆーちゃんは何も悪くないのに・・・」
「そうだよ、全部お前の責任だ、こなた!お前のせいでかなたも死んだんだよ!」
ぴくっ、とこなだの身体が震えた。
「お父さん・・・」
「何だ?まだ言いたいことがあるのか?」
こなたは立ち上がり、そうじろうの方を向いた。
「もう・・・もう・・・終わりにしよう。私達、もう生きていたらだめだよ・・・」
「? お前、それは・・・」
こなたは出刃包丁を構えていた。
「お、おいこなた・・・何持ってるんだ、危ないぞ・・・わかった、
お父さんが悪かったから・・・な、な・・・?」
こなたは無言で父のほうへと歩み寄った。
七月。学校は夏休みになった。
空の青が一層深くなった。もうすっかり夏だ。
街を見下ろす高台にある霊園。その駐車場に一台の車が停まった。
「ゆたか、着いたよ。降りな」
「うん」
ゆいとゆたかの二人が車から降りた。ゆいは花束を抱えている。
霊園の道を歩いてゆく。少し歩くだけで汗がにじむくらい厳しい暑さだ。
「ゆたか、身体大丈夫?怪我の具合は?」
「うん、もう痛くないよ」
霊園の端の方、一つのお墓の前で二人は立ち止まった。
「・・・こなたお姉ちゃん、来たよ。ほらお姉ちゃんの好きなチョココロネだよ」
ここには、かなたと共にこなたの遺骨も納められている。
- あの日・・・ゆたかが目を覚ますと、部屋には大量の血が飛び散っていた。
床の中央には大きい血だまり。恐る恐る外に出ると、廊下にそうじろうが
倒れていた。
「叔父さん・・・?・・・もしかして・・・死んでる・・・?」
ゆたかはその場にへたりこんだ。足の震えが止まらない。
「あっ・・・あ、う・・・お、お姉ちゃん・・・」
必死に這いながらこなたの部屋へ向かう。
「おねえ・・・ちゃん・・・たす、け・・・て・・・」
舌がもつれる。必死の思いでこなたの部屋まで辿り着き、ドアを開けた。
その時の光景は、一生忘れないのではないか・・・とゆたかは思う。
部屋の真ん中にこなたがいた。だが足が地についていない。
- こなたは浮いていた。天井のロープに結び付けられて、微かに揺れていた。
こなたの机には、数冊の日記帳と「ゆーちゃんへ」と書かれた手紙が置かれていた。
「・・・あれから色々な事がわかってね。こなたの事、叔父さんの事・・・」
ゆいは墓に水をかけながら口を開いた。
「ゆたか、本当に聞くのね?」
「うん。私は聞かなくちゃいけない。どんなに辛くても。それが、こなた
お姉ちゃんへの弔いになるんだと思う・・・」
「・・・わかった。・・・こなたはどうやら5年ほど前から叔父さんに
家庭内暴力を受けていたらしいの。それには性的虐待も含まれていた」
「・・・・・・・・」
「叔父さんがずっと良くしてもらっていた出版社が潰れちゃったらしいわ。
それで仕事が減って、荒れてしまったのね・・・。そしてこなたにその
ストレスをぶつける様になったらしいの」
以下は泉こなたの日記からの抜粋である。
「○月×日
今日はお父さんの機嫌が悪く、何度も殴られてしまった。
お父さんは何度も”お前のせいでかなたが死んだんだ”と叫んでいた。
そうかもしれない。私がお父さんからお母さんを奪ってしまったんだから、
殴られても仕方ないのかもしれない」
「○月×日
お父さんが”お仕置き”という罰を考えた。火鉢で墨を焚き、そこに入れて
おいた火箸を私の背中に押し付けるのだ。余りの痛さで私は失神した。
叩かれたり蹴られたりしたほうが、何百倍もましだ・・・」
「○月×日
かがみ達が男の子の話をしていた。”やっぱり、すぐにエッチを求め
られたりするのかしらね・・・”と、高校生らしい話もしていた。
かがみは私が処女じゃないと知ったらどういう顔をするだろうか。
しかも、初めての相手がお父さんだと知ったら・・・」
「○月×日
かがみ達と海に行ってきた。お父さんからも離れられて、とても穏やかで
楽しい日が続いた。最初は断ろうと思っていた。背中の火傷がばれるかも
しれないからだ。私が髪を必要以上に伸ばしてるのも背中を隠すため。
オタクキャラを装い、スクール水着を着る事で何とかしのぐことができた。
- でも、本当はかがみ達に本当の事を話して、助けてもらいたい」
「○月×日
今日からゆたかちゃんが一緒に暮らす事になった。
お父さんが変わってくれるかもしれない、という希望とゆたかちゃんまで
巻き込まれてしまうのではないか、という不安が渦巻く。
良い方向に向かってくれればいいのだけど・・・」
ゆたかへの手紙
「ゆーちゃんごめんね。ゆい姉さん達と幸せになってください」
「・・・私、警察官失格だね。こんなに近くにいて何もしてやれないなんて・・・」
ゆいが声を押し殺して泣いている。
「ゆたかも、辛かったね、本当に・・・本当に・・・」
ゆたかは、ゆいに強く抱きしめられた。だがゆたかは涙を流さなかった。
「ゆいお姉ちゃん、私・・・これから強くなる」
「ゆたか・・・」
「努力して少しでも身体が良くなるようにする。そして、子供達を
助ける仕事に就きたい。こなたお姉ちゃんの事何もわかってやれなかった・・・。
だから、こなたお姉ちゃんと同じ立場にいる人達を助けて、
罪滅ぼししたい。きっと、お姉ちゃんは見ててくれると思うから・・・」
「・・・・・ゆたかは偉いね。私も、一から出直しだ」
こなたの墓を見つめるゆたかの横顔は、少し大人びた表情をしていた。
(了)
オマケ
「・・・という話を考えたんだけど、こなちゃんどうかなぁ?」
「・・・・・・・(≡ω≡;)」
「つかさ、酷いじゃないの!創作小説でも加減があるでしょ?
こなたがドン引きしてんじゃないの!いくらこなたのお父さんがロリコンで
家にこもりっぱなしのド変態だとしても酷いわよ!」
「・・・あの、かがみん、それは言い過ぎではないかと・・・(≡ω≡;)」
「確かにそれはありますね。しかしつかささん、若干詰めが甘いと思われます。
途中の1年生によるいじめのシーンなど、もう少し執拗かつ陰湿に書けば
更に良くなったかもしれません」
「・・・・・・・(≡ω≡;)」
「みゆきまで何考えてるのよ!いくらこなたがチビでオタクで空気読めなくて
やったら髪の毛長くて気持ち悪い、いじめられ要素ありまくり少女だと
してもそれは酷いんじゃないの?」
「・・・かがみん、どっちの味方なの・・・(≡ω≡;)」
終わりです。最後まで読んでくれた皆さんありがとう!
今回はかなりハードになってしまいましたが、それだけこなたの
魅力があるということで、ご勘弁を・・・(≡ω≡.)
最終更新:2022年04月18日 18:13