家庭崩壊

by東京都

もう私には何もない。優しかったお父さんも最期まで私を気にかけていてくれたかがみんもつかさもみゆきさんも…。糟日部を出てから唯一私に優しくしてくれた夫も…。

「こんな感じでいいかな…。」

夫と7年間過ごしたこの古いアパートの天井でも私の体重ぐらいは支えられるだろう。
一体、どこで歯車が狂ってしまったんだろう?お父さんとゆい姉さんの関係が始まってから?ゆーちゃんが自殺してから?ゆい姉さんが事故を起こしてから?たぶん、お父さんとゆい姉さんの関係からだ…。でも、見て見ぬふりをしていた私にも責任はあるよね。
全てを忘れようと、糟日部を出る際に所有するものは全て売るなり捨てるなりした。今はあの時と同じ心境だ。
大好きだった漫画もフィギュアも、ゲームもなにもかもどうでもよくなり、処分した。…あの品々は、ただの趣味ではなかった。かがみんやつかさ、みゆきさんにお父さんとの思い出が染み込んだものばかりだった。
全て忘れたくて処分した。でも、この一冊の本だけは処分しなかった。

中学時代にネットで噂を聞いて、何件も古本屋を回り、やっと見つけた本。
自殺をするためのマニュアル本で、そういった内容がこれでもかというぐらい書いてある。当時はネタとして買っただけで、たいして読みもせず、ほっぽらかしていたっけ。

糟日部を去るための準備をしていた時、この本と再開したんだよね。あの時は食い入るように読んだっけ。

「漫画以外の本で私が一番熱心に読んだ本なんだよね…。」
自暴自棄になっていたけど、あの時はまだ死にたいなんてこれっぽっちも考えていなかった。でも、この本は処分できなかった。

「この本が役に立つ日がくるなんて、想像もつかなかったよ。かがみん…。」

アルバムも写真も全部処分した。でも、かがみんと撮ったこのプリクラだけは最後まで残っていた。家を後にする際に持っていった鞄の底に一枚だけ残っていた。ずぼらな私らしい。
家を出てから半年も経ってからこのプリクラの存在に気づいた。最初は捨てようとしたけど、どうしても捨てることができなかった。お守りのように、
この8年間、大切にとっておいた。…あの本と一緒に。今思えば、今日のために存在した本なのかもしれない。でも、そんなことはもうどうでもいい。
「あの文化祭から8年かぁ…。あっちにいったら、かがみん達もお父さん達も優しく迎えてくれるかな?…あ、私は地獄だよね…。地獄でもいいや。優しくしてくれなくてもいいや。会えるだけで…。」

私は台に乗り、天井の梁からぶら下がった麻縄を首にかけた。そして、この世での最後のステップを踏んだ。

「…午後七時のニュースの時間です。先程、埼玉県糟日部市のアパートの一室で若い女性の遺体が発見されました。
遺体は死後数日間発見されず、損傷が激しいため、現在、警察で身元調査が行われているようです。
現場の白石さん?速報ですね?」
白石「はい、こちら現場の白石です。遺体の身元はアパートの住民の佐藤こなたさん(27)で、自殺で間違いないようです。」
「なぜ身元と、自殺だとすぐにわかったのでしょうか?」
白石「遺体の側に遺書が置いてあり、弁護士の方が数日間連絡がないことが気になり、訪問したところ、遺体を発見した模様です。」
「亡くなった佐藤さんの夫の佐藤恒一容疑者は現在裁判を受けていて、そのことで弁護士の方が訪問したということですか?」
白石「そうです。」
「やはり、佐藤容疑者の裁判が原因での自殺でしょうか?」
白石「遺書の内容は公開されておらず、原因はわかりま…。」
「ありがとうございます、白石さん。
いやぁ、Kさん。罪をおかしたのは夫なのになぜ奥さんが自殺しなければならないんでしょうね?それに、死後数日たち、腐敗が進んだのに近所の人が誰も気づかない…。
世知辛い世の中です。
それではお天気です。Tさん、よろしくお願いします。」

弁護士にこなたの死を伝えられた佐藤恒一は、その日の夜、ベルトで首を吊り、自ら命を絶った。

お父さんとゆい姉さんが関係に気づいたのは私が高校に合格した頃だっけ。たぶん、関係が始まったのは私の高校受験の時期だろう。
毎日、夜になるとお母さんの写真の前で泣きながらお酒を飲んでいたお父さんがお酒を控えるようになったのもその頃だっけ。
お母さんが亡くなってから長い間、男手一つで私を育ててくれたお父さん…。寂しかったにきまっているよね。
結婚してからもきー兄さんとなかなか会えないゆい姉さんだって寂しかったにきまっている。
ゲームでしか恋愛をしたことがない私が、二人の気持ちに気づいてあげられなかったのが原因なのかな?そんな負い目もあって、二人の関係を二年近く、気づかないふりをして、隠し通した。
でも、ゆーちゃんはもっと私の家に来て、すぐに気づいたんだよね。私はそのことすら気づけなかった。
私達の最後の文化祭が終わってから少し経ってから、ゆーちゃんが学校を休みがちになった。
最初はいつものように体調を崩したのかな?と思っていたけど、あの時は…。私は…あの時気づかなければならなかった。ゆーちゃんの異変を…。

「お姉ちゃん…何か面白いゲームない?」
「たくさんあるよー。そうだよね、体調悪くてもずっと部屋にいるだけじゃつまらないよね。どんなのがいい?私が普段やっている…。」
「この前、お姉ちゃんとかがみさんがやっていたのがいいな。」
「え?あれ?でもあれはゆーちゃんには…。」
「お姉ちゃん、あのゲームはストレス解消にいいって言っていたよね?お願い。」
「うん…。そこまで言うなら…。」

次の日、ゆーちゃんは元気に学校に行った。以前に比べて休む日は増えたけど、学校にも登校し始めた。いじめを疑ったこともあるけど、岩崎さんやひよりんと楽しそうにしていたし、大丈夫だろう。
でも、あの日、気づいてしまった…。

あの日学校から帰ると、うちにゆい姉さんの車が停まっていた。休暇で、連絡もなしに来ることは毎度のことだけど、私が帰宅する前に帰ってきているということは…。
運悪くその日はゆーちゃんと一緒に帰ってきていた。
でもゆーちゃんは…。

「お姉ちゃん、ちょっと買い物付き合ってくれない?」

私は渡りに舟とばかりにと、ゆーちゃんに賛同し、家を離れた。…私はなんでゆーちゃんに気づかなかったんだろう…。その日の深夜、私は寝付けず、居間に向かった。電気もつけずに誰かがテレビを見ていた。
ゆーちゃんだった。
ゆーちゃんは私が貸したゲームをやっていた。ゆーちゃんはヘッドホンをはめ、何度も何度も同じ事を繰り返していた。
ゆーちゃんに貸したゲームは敵に見つからないように潜入するゲームで、ゆーちゃんはあるエリアを何度も何度も繰り返していた。
敵に化けて進むエリアで、ゆーちゃんは敵に銃を突きつけては、命乞いする敵の頭や股間を撃っていた。何度も何度も…。
あの時のゆーちゃんの表情は一生忘れられないよ…。
ゆーちゃんはゲームをやりながら、ずっと何かを呟いていた。注意深く聞いてみて、私は後悔した。
そして、ゆーちゃんがお父さんとゆい姉さんのことに気づいていることも知った。ゆーちゃんはずっと呟いていた…。

「変態死ね変態死ね変態死ね変態死ね…。」

その日から、ゆーちゃんは部屋にこもり、ろくに食事もとらなくなった。私もゆーちゃんを避けるようになった。そして、忘れもしない高三の冬…。
ゆーちゃんは入院し、ゆい姉さんが妊娠した。
お父さんもゆい姉さんも、私でもわかるぐらいに慌てていた。誰の子供かなんて今はすぐにわかる。きー兄さんも馬鹿じゃない。
うちに殴りこんできて大変だったなぁ…。
お父さんとゆい姉さん、きー兄さんの間だけでもみ消せたけど、私もゆーちゃんも知っている…。ゆーちゃんが帰省しなかったことを考えて、叔母さんは知らないんだろう。
結局、ゆい姉さんは中絶し、お父さんは酒びたりの日々に戻った。ううん、前よりひどくなった。毎夜お母さんの写真の前で、謝りながら泣いていた。
そして、ゆーちゃんが病院の屋上から飛び降りた。遺書もなく、病気苦の自殺として片付けられたけど、私もお父さんも、ゆい姉さんも原因を知っている。
ゆーちゃんのお葬式が終わって少しすると、ゆい姉さんときー兄さんが離婚した。
そりゃそうだよね。きー兄さんはゆい姉さんのことを絶対に許せないだろうし、ゆい姉さんもお父さんみたいに毎晩お酒を飲んで中絶した子供に謝っていたみたいだし。
お父さんはゆーちゃんへの罪悪感か、昼夜を問わずにお酒を飲んでいた。
私に暴言を吐いたり、暴力を振るったりしなかったけど、よく「かなた…すまない…許してくれ…。」と泣きついてくるようになった。一思いに殴られたほうが楽だったよ…。
事情を知らないかがみん達は精一杯、私を励ましてくれた。

「あんたはゆーちゃんの分も生きなきゃいけないんだから、真面目に、決めた進路を目指さなきゃ駄目よ!」

なんてかがみんは励ましてくれたけど、私にはゆーちゃんの分も生きる資格なんてないよ…。
そして、あの日…年が明けて高校最後の学期が始まった日に、私はお父さんとゆい姉さんを失った。

私が家を出て学校に向かうと、お父さんとゆい姉さんはそれまで行くことができなかったゆーちゃんのお墓参りに向かったみたい。
でも、ゆい姉さんもお父さんもお酒を飲まないとやっていられなかったんだよね…。
飲酒運転をしていたゆい姉さんは登校中の小学生の男の子をはねて、衝突事故を起こしてしまった。
お父さんと男の子は即死で、ゆい姉さんも重態だった。朝のHRで先生に知らされた。もう何がなんだかわからなかった。
お父さんの葬式やらで忙しく、何も覚えていない。私は高校を中退することにした。
もともと大学に行きたいとも思っていなかったし、なによりも、優しくしてくれるかがみん達と一緒にいるのがつらかった。
お父さんとゆい姉さんの情事、ゆーちゃんの自殺の真相を知ったら、皆、私を見捨ててしまうはず。それが一番怖かった。だから私は自分から捨てることにした。
半年後、ある程度回復したゆい姉さんは警察病院を抜け出し、電車に飛び込み、自殺したと、叔母さんから知らされた。

二月に高校を中退し、糟日部を出て大宮に出ることにした。やっぱり、近所の噂とかは広まるもので、いづらくなったんだよね。
当面はコスプレ喫茶でバイトをして生計を立てることにした。
お父さんもけっこう売れっ子だったため、多少の印税もあり、私一人が生活するには困らなかった。
高校を辞めて二ヶ月も経つと、かがみん、つかさ、みゆきさんは東京の大学に行ってしまったため、まったく会わなくなってしまった。それでも、みんな頻繁に電話やメール、手紙をくれた。
今思えば、あれがあったから私はお父さん達の後を追わなかったんだね。
そして、私の生活にも変化が起きた。頻繁にお店に来てくれる人ができた。佐藤恒一という人で、私と同じで漫画やネトゲーが大好きな人だった。
店長も他のバイトの子も皆嫌がっていたけどね。だって、佐藤さんは地元のヤクザなんだもん。でも、私にはそんなことは関係なかった。かがみん達がいなくなってから話をする人がいなくて寂しかった。確かに、言葉遣いは乱暴だけど、ゲームで鍛えた私には慣れっこだもんね。
あの、私の人生で一番の思い出の文化祭からちょうど一年、私は佐藤こなたになった。
夫は優しかった。私はお父さんのこと、ゆーちゃんのこと、親友達のことを夫に全てを話した。
夫は粗暴なヤクザだけど、優しかった。酔っ払った時なんて、お父さんみたいなスキンシップをとってくる。懐かしさもあり、私は幸せだった。
入籍してすぐ、「嫌な思い出があるかもしれんが、商売がやりやすいんだ。な?」と、夫に説得され、糟日部に戻ることになった。ちょうど冬休みの時期でかがみん達も帰省していた。
私が結婚していたことに驚いていたけど、祝福してくれた。でも、みゆきさんとは結局会えなかった。やっぱり、医学部は冬休みでも大変なんだろうなぁ。

でも、再び手にした幸せの日々も、歯車が狂い始めた。
元旦の日に、毎年恒例の、去年はできなかったかがみんの家に参拝しに行った際に夫が逮捕された。
原因は、参拝に来ていた高校の同級生の男子が私の悪口を言ったからだ。夫はその男子を殴り、逮捕された。まぁ、結婚前から何回か喧嘩で捕まったりしていたんだけどね…。
かがみんとつかさはあの男子が悪いと証言してくれて、夫は数日で出てこられるようになった。
でも、その日の夜、ある人が尋ねてきた。かがみんとつかさのお父さんとみゆきさんのお父さんだった。
二人が言うには、「うちの娘達も住民もあんたら夫婦には迷惑している。」と言い、分厚い封筒を渡してきた。手切れ金だってさ。
そうだよね…。かがみん達には迷惑だよね。夫が帰ってくると、私は夫を説得し、再び糟日部を去った。夫がかがみん達の家に殴り込んだりしないか心配だったけど、原因が自分と感じてしまったのか、すんなりと認めた。
数日後、私たちは大宮に引っ越した。それから私達、高校での仲良し四人組は音信不通となった。

たまに夫が逮捕されることはあったけど、大宮に戻ってきてからは少なくなり、
7年間は、比較的穏やかに過ぎていった。
わたしは普段は専業主婦、パートというどこにでもいる奥さんとして生活を営んでいた。友達はいないけど、幸せだった。
結婚して7年目のある日、私は大病にかかり、入院した。
先生が言うには私はお母さんと同じ病気にかかったらしく、手術が必要で、手術をしても助かるかどうかわからないらしい。
夫は先生につかみかかり、「手術しろ!助けないと殺すぞ!」と暴れ、私は手術を受けることになった。
幸運にも、手術は成功し、今後、病気が再発することはまずないとのこと。一ヶ月の入院を経て、私は夫のもとに戻った。
あの、古くて狭い、先見一般では負け組と言われているアパートでも私には幸せだった。帰る場所があるのだから。
でも、私が元気になってから、夫の様子がおかしくなった。
病気というわけではないのだけど、毎日疲れていて、あまりまじめに働かないのに、毎日、朝早くから夜遅くまで帰ってこない。
いつもと変わらぬ朝、夫は私に「ちょっと大きな仕事があるから、二、三日帰ってこれん。悪いな。ああ、これ、生活費な。」と、いつもの倍ぐらいの生活費を置いていった。…それが夫との今生の別れとなるなんて…。

夫が仕事に出て二日後、ニュースで糟日部で強盗殺人が起き、犯人は逃亡中と報道された。
…胸騒ぎがする。家電から夫の携帯に電話しても出ない。こんなことは一度もなかった。夫はいつも家からの電話は3コール以内に出ていた。
そうこうしている間にドアを叩く音が聞こえた。
夫に違いない。だって、私に会いにくる人なんていないんだもん。急いでドアを開けた。

「警察の者ですが、佐藤恒一さんはご在宅ですか?」

何がなんだかわからなかった。直後、アパートの一階から叫び声が聞こえた。聞き違えるわけもない、夫の声だった。
夫は数人の警官に取り押さえられて車に押し込められた。警官は「明日」詳しく説明するとだけ言い残して、夫とともに去っていった。
…きっといつもみたいに喧嘩だよ。すぐ帰ってくるよ。その日は眠れず、昼を迎えた。
見まいと考えても、どうしても気になり、私はニュースを見た。

「昨晩午後8時頃に糟日部で起きた強盗殺人の速報です。
犯人は本日未明に逮捕された模様です。また、殺害された三名の身元が判明しました。
えー…犯人が押し入った家にお住まいの高良みゆきさん(27)と、その場に居合わせた柊かがみさん(27)、柊つかささん(27)と判明いたしました。
凶器の包丁は現場に残されていて、指紋や目撃情報から佐藤恒一容疑者の犯行と判明した模様です。現場の白石さん、詳細を…」

目の前が真っ暗になった。もう、何も考えられないよ…。なんで?なんで夫がかがみん達を?
へー、つかさは結婚して子供がいるんだー。みゆきさんは…あれ?私が入院した病院で働いていたの?
かがみんは…今年司法試験に合格?そういえば法学部に行くって言っていたよねー。あはははは…。

後で岩崎さん、ひよりん、警察の人や弁護士の先生に聞いてわかったことだけど…。
みゆきさん、わたしの手術に立ち会ってたんだってね…。それで、私が大宮にいるって知ったみたい。
そのことをかがみんとつかさに話して、どうすれば、また昔みたいに四人一緒になれるか、暇を見つけては話し合っていたみたい。
かがみんとつかさのお父さんとみゆきさんのお父さんが私に言った「娘達も迷惑している」というのは嘘で、お父さん達が勝手にやったことだったみた。
みゆきさんのお父さんは世間体とかすごい気にする人みたいで、もともと片親だった私とみゆきさんが仲良くするのが嫌だったみたい。
みゆきさん、高校時代から「あの泉という子とは付き合うな。」と言われていたんだってさ。
だから、私達と放課後に寄り道したりしないことが多かったんだね。
みゆきさん、お父さん達が私に手切れ金を渡して糟日部から出て行くように言ったことを後に知って、ずっと悩んでいたみたい。
私のお母さんの病気も大学で学んで、もし、私が発症したら治すために外科医になったんだってね。ごめんね…みゆきさん。
かがみんは勝手に出て行った私のことを怒っていたみたいだけど、この7年間、ずっと探していてくれたんだってね。勉強で忙しかったのに、ごめんね…かがみん。
つかさも私がいなくなって元気をなくしたみたいで、「こなちゃんに会えたら食べさせてあげるんだ!」って私の大好きなチョココロネやクッキーを作る練習をしていたみたい。ごめんね…つかさ。
岩崎さんとひよりんはその日、用事があって参加できなかったみたいだけど、かがみん達は「皆でやった文化祭の日に皆でこなたに会いに行こう!」と決めていたみたい。
その最終決定の日に夫は…。

これは弁護士の先生が教えてくれたんだけど、夫は所属するヤクザ事務所の売り上げを使い込んじゃったみたい。…私の手術費用のために。
わたしも夫も国民保険に入っていなかったから、とても手術を受けることはできなかったんだってさ。
夫は売り上げを使い込んで、その返済のために、私が入院している間も、寝る暇もないぐらい働いていたみたい。
疲れちゃったんだろうね…。最後には強盗をしようと考えてしまったみたい。
みゆきさんの家を選んだ理由は、私が夫によく、高校時代の中が良かった三人の話をしていたせいだと思う…。
家選びをしていて、みゆきさんの家を通りかかった際、「みゆきさんはお金持ち」という私の話を思い出し、突発的に入っちゃったんだって。入ったとき、顔を見られて…。かがみんが夫の顔を覚えていたため、パニックになっちゃって、それで…。

結局、私はいつも誰かに助けられていた。気づかなくちゃいけない時に気づかず、最後は皆に迷惑をかけてしまった。かがみんにも、つかさにも、みゆきさんにも、夫にも…。
裁判が始まる前に何回か夫に会いに行ったけど、夫は私に会わせる顔がないと言って会ってくれなかった。
…やることもないから、毎日家の掃除だけをしていた。食欲も湧かない。ある日、掃除をしていると、一冊の本とかがみんと撮ったプリクラが出てきた。

「これ…まだ残っていたんだ…。」

私はずっとプリクラを見ていた。気づいたら、日が暮れていた。
高校時代の四人での楽しい思い出が眼下に広がる。あの頃は当たり前に過ごしていたけど、なんて幸せな日々だったんだろう…。
お父さんがいて、ゆーちゃんがいて、ゆい姉さんがいて、かがみんが、つかさが、みゆきさんが…。もうあの日に戻ることは決してできない…。

ふと目をそらすと、あの本が置いてある。もう、私には迷う必要も頑張る必要もない。
この本は最初に糟日部を出る際に何十…いや、百回は読んだだろう、読み直す必要はなかった。
私は洗濯を干すための麻縄を天井の梁にかけ、背が低くて、炊事が大変だろうと、夫が買ってくれた台を持ってくる。
そう、今日はあの最高の文化祭からちょうど8年なんだから。今日、かがみん達が会いに来てくれる日だったんだ。

「こんな感じでいいかな…。この本が役に立つ日がくるなんて、想像もつかなかったよ。かがみん…。
あの文化祭から8年かぁ…。あっちにいったら、かがみん達もお父さん達も優しく迎えてくれるかな?
…あ、私は地獄だよね…。地獄でもいいや。優しくしてくれなくてもいいや。会えるだけで…。」

\(=ω=.)/
ようやくコナタ。ご購読のMesdames et Messiers,merci beaucoup!*
by東京都

もう私には何もない。優しかったお父さんも最期まで私を気にかけていてくれたかがみんもつかさもみゆきさんも…。糟日部を出てから唯一私に優しくしてくれた夫も…。

「こんな感じでいいかな…。」

夫と7年間過ごしたこの古いアパートの天井でも私の体重ぐらいは支えられるだろう。
一体、どこで歯車が狂ってしまったんだろう?お父さんとゆい姉さんの関係が始まってから?ゆーちゃんが自殺してから?ゆい姉さんが事故を起こしてから?たぶん、お父さんとゆい姉さんの関係からだ…。でも、見て見ぬふりをしていた私にも責任はあるよね。
全てを忘れようと、糟日部を出る際に所有するものは全て売るなり捨てるなりした。今はあの時と同じ心境だ。
大好きだった漫画もフィギュアも、ゲームもなにもかもどうでもよくなり、処分した。…あの品々は、ただの趣味ではなかった。かがみんやつかさ、みゆきさんにお父さんとの思い出が染み込んだものばかりだった。
全て忘れたくて処分した。でも、この一冊の本だけは処分しなかった。

中学時代にネットで噂を聞いて、何件も古本屋を回り、やっと見つけた本。
自殺をするためのマニュアル本で、そういった内容がこれでもかというぐらい書いてある。当時はネタとして買っただけで、たいして読みもせず、ほっぽらかしていたっけ。

糟日部を去るための準備をしていた時、この本と再開したんだよね。あの時は食い入るように読んだっけ。

「漫画以外の本で私が一番熱心に読んだ本なんだよね…。」
自暴自棄になっていたけど、あの時はまだ死にたいなんてこれっぽっちも考えていなかった。でも、この本は処分できなかった。

「この本が役に立つ日がくるなんて、想像もつかなかったよ。かがみん…。」

アルバムも写真も全部処分した。でも、かがみんと撮ったこのプリクラだけは最後まで残っていた。家を後にする際に持っていった鞄の底に一枚だけ残っていた。ずぼらな私らしい。
家を出てから半年も経ってからこのプリクラの存在に気づいた。最初は捨てようとしたけど、どうしても捨てることができなかった。お守りのように、
この8年間、大切にとっておいた。…あの本と一緒に。今思えば、今日のために存在した本なのかもしれない。でも、そんなことはもうどうでもいい。
「あの文化祭から8年かぁ…。あっちにいったら、かがみん達もお父さん達も優しく迎えてくれるかな?…あ、私は地獄だよね…。地獄でもいいや。優しくしてくれなくてもいいや。会えるだけで…。」

私は台に乗り、天井の梁からぶら下がった麻縄を首にかけた。そして、この世での最後のステップを踏んだ。

「…午後七時のニュースの時間です。先程、埼玉県糟日部市のアパートの一室で若い女性の遺体が発見されました。
遺体は死後数日間発見されず、損傷が激しいため、現在、警察で身元調査が行われているようです。
現場の白石さん?速報ですね?」
白石「はい、こちら現場の白石です。遺体の身元はアパートの住民の佐藤こなたさん(27)で、自殺で間違いないようです。」
「なぜ身元と、自殺だとすぐにわかったのでしょうか?」
白石「遺体の側に遺書が置いてあり、弁護士の方が数日間連絡がないことが気になり、訪問したところ、遺体を発見した模様です。」
「亡くなった佐藤さんの夫の佐藤恒一容疑者は現在裁判を受けていて、そのことで弁護士の方が訪問したということですか?」
白石「そうです。」
「やはり、佐藤容疑者の裁判が原因での自殺でしょうか?」
白石「遺書の内容は公開されておらず、原因はわかりま…。」
「ありがとうございます、白石さん。
いやぁ、Kさん。罪をおかしたのは夫なのになぜ奥さんが自殺しなければならないんでしょうね?それに、死後数日たち、腐敗が進んだのに近所の人が誰も気づかない…。
世知辛い世の中です。
それではお天気です。Tさん、よろしくお願いします。」

弁護士にこなたの死を伝えられた佐藤恒一は、その日の夜、ベルトで首を吊り、自ら命を絶った。

お父さんとゆい姉さんが関係に気づいたのは私が高校に合格した頃だっけ。たぶん、関係が始まったのは私の高校受験の時期だろう。
毎日、夜になるとお母さんの写真の前で泣きながらお酒を飲んでいたお父さんがお酒を控えるようになったのもその頃だっけ。
お母さんが亡くなってから長い間、男手一つで私を育ててくれたお父さん…。寂しかったにきまっているよね。
結婚してからもきー兄さんとなかなか会えないゆい姉さんだって寂しかったにきまっている。
ゲームでしか恋愛をしたことがない私が、二人の気持ちに気づいてあげられなかったのが原因なのかな?そんな負い目もあって、二人の関係を二年近く、気づかないふりをして、隠し通した。
でも、ゆーちゃんはもっと私の家に来て、すぐに気づいたんだよね。私はそのことすら気づけなかった。
私達の最後の文化祭が終わってから少し経ってから、ゆーちゃんが学校を休みがちになった。
最初はいつものように体調を崩したのかな?と思っていたけど、あの時は…。私は…あの時気づかなければならなかった。ゆーちゃんの異変を…。

「お姉ちゃん…何か面白いゲームない?」
「たくさんあるよー。そうだよね、体調悪くてもずっと部屋にいるだけじゃつまらないよね。どんなのがいい?私が普段やっている…。」
「この前、お姉ちゃんとかがみさんがやっていたのがいいな。」
「え?あれ?でもあれはゆーちゃんには…。」
「お姉ちゃん、あのゲームはストレス解消にいいって言っていたよね?お願い。」
「うん…。そこまで言うなら…。」

次の日、ゆーちゃんは元気に学校に行った。以前に比べて休む日は増えたけど、学校にも登校し始めた。いじめを疑ったこともあるけど、岩崎さんやひよりんと楽しそうにしていたし、大丈夫だろう。
でも、あの日、気づいてしまった…。

あの日学校から帰ると、うちにゆい姉さんの車が停まっていた。休暇で、連絡もなしに来ることは毎度のことだけど、私が帰宅する前に帰ってきているということは…。
運悪くその日はゆーちゃんと一緒に帰ってきていた。
でもゆーちゃんは…。

「お姉ちゃん、ちょっと買い物付き合ってくれない?」

私は渡りに舟とばかりにと、ゆーちゃんに賛同し、家を離れた。…私はなんでゆーちゃんに気づかなかったんだろう…。その日の深夜、私は寝付けず、居間に向かった。電気もつけずに誰かがテレビを見ていた。
ゆーちゃんだった。
ゆーちゃんは私が貸したゲームをやっていた。ゆーちゃんはヘッドホンをはめ、何度も何度も同じ事を繰り返していた。
ゆーちゃんに貸したゲームは敵に見つからないように潜入するゲームで、ゆーちゃんはあるエリアを何度も何度も繰り返していた。
敵に化けて進むエリアで、ゆーちゃんは敵に銃を突きつけては、命乞いする敵の頭や股間を撃っていた。何度も何度も…。
あの時のゆーちゃんの表情は一生忘れられないよ…。
ゆーちゃんはゲームをやりながら、ずっと何かを呟いていた。注意深く聞いてみて、私は後悔した。
そして、ゆーちゃんがお父さんとゆい姉さんのことに気づいていることも知った。ゆーちゃんはずっと呟いていた…。

「変態死ね変態死ね変態死ね変態死ね…。」

その日から、ゆーちゃんは部屋にこもり、ろくに食事もとらなくなった。私もゆーちゃんを避けるようになった。そして、忘れもしない高三の冬…。
ゆーちゃんは入院し、ゆい姉さんが妊娠した。
お父さんもゆい姉さんも、私でもわかるぐらいに慌てていた。誰の子供かなんて今はすぐにわかる。きー兄さんも馬鹿じゃない。
うちに殴りこんできて大変だったなぁ…。
お父さんとゆい姉さん、きー兄さんの間だけでもみ消せたけど、私もゆーちゃんも知っている…。ゆーちゃんが帰省しなかったことを考えて、叔母さんは知らないんだろう。
結局、ゆい姉さんは中絶し、お父さんは酒びたりの日々に戻った。ううん、前よりひどくなった。毎夜お母さんの写真の前で、謝りながら泣いていた。
そして、ゆーちゃんが病院の屋上から飛び降りた。遺書もなく、病気苦の自殺として片付けられたけど、私もお父さんも、ゆい姉さんも原因を知っている。
ゆーちゃんのお葬式が終わって少しすると、ゆい姉さんときー兄さんが離婚した。
そりゃそうだよね。きー兄さんはゆい姉さんのことを絶対に許せないだろうし、ゆい姉さんもお父さんみたいに毎晩お酒を飲んで中絶した子供に謝っていたみたいだし。
お父さんはゆーちゃんへの罪悪感か、昼夜を問わずにお酒を飲んでいた。
私に暴言を吐いたり、暴力を振るったりしなかったけど、よく「かなた…すまない…許してくれ…。」と泣きついてくるようになった。一思いに殴られたほうが楽だったよ…。
事情を知らないかがみん達は精一杯、私を励ましてくれた。

「あんたはゆーちゃんの分も生きなきゃいけないんだから、真面目に、決めた進路を目指さなきゃ駄目よ!」

なんてかがみんは励ましてくれたけど、私にはゆーちゃんの分も生きる資格なんてないよ…。
そして、あの日…年が明けて高校最後の学期が始まった日に、私はお父さんとゆい姉さんを失った。

私が家を出て学校に向かうと、お父さんとゆい姉さんはそれまで行くことができなかったゆーちゃんのお墓参りに向かったみたい。
でも、ゆい姉さんもお父さんもお酒を飲まないとやっていられなかったんだよね…。
飲酒運転をしていたゆい姉さんは登校中の小学生の男の子をはねて、衝突事故を起こしてしまった。
お父さんと男の子は即死で、ゆい姉さんも重態だった。朝のHRで先生に知らされた。もう何がなんだかわからなかった。
お父さんの葬式やらで忙しく、何も覚えていない。私は高校を中退することにした。
もともと大学に行きたいとも思っていなかったし、なによりも、優しくしてくれるかがみん達と一緒にいるのがつらかった。
お父さんとゆい姉さんの情事、ゆーちゃんの自殺の真相を知ったら、皆、私を見捨ててしまうはず。それが一番怖かった。だから私は自分から捨てることにした。
半年後、ある程度回復したゆい姉さんは警察病院を抜け出し、電車に飛び込み、自殺したと、叔母さんから知らされた。

二月に高校を中退し、糟日部を出て大宮に出ることにした。やっぱり、近所の噂とかは広まるもので、いづらくなったんだよね。
当面はコスプレ喫茶でバイトをして生計を立てることにした。
お父さんもけっこう売れっ子だったため、多少の印税もあり、私一人が生活するには困らなかった。
高校を辞めて二ヶ月も経つと、かがみん、つかさ、みゆきさんは東京の大学に行ってしまったため、まったく会わなくなってしまった。それでも、みんな頻繁に電話やメール、手紙をくれた。
今思えば、あれがあったから私はお父さん達の後を追わなかったんだね。
そして、私の生活にも変化が起きた。頻繁にお店に来てくれる人ができた。佐藤恒一という人で、私と同じで漫画やネトゲーが大好きな人だった。
店長も他のバイトの子も皆嫌がっていたけどね。だって、佐藤さんは地元のヤクザなんだもん。でも、私にはそんなことは関係なかった。かがみん達がいなくなってから話をする人がいなくて寂しかった。確かに、言葉遣いは乱暴だけど、ゲームで鍛えた私には慣れっこだもんね。
あの、私の人生で一番の思い出の文化祭からちょうど一年、私は佐藤こなたになった。
夫は優しかった。私はお父さんのこと、ゆーちゃんのこと、親友達のことを夫に全てを話した。
夫は粗暴なヤクザだけど、優しかった。酔っ払った時なんて、お父さんみたいなスキンシップをとってくる。懐かしさもあり、私は幸せだった。
入籍してすぐ、「嫌な思い出があるかもしれんが、商売がやりやすいんだ。な?」と、夫に説得され、糟日部に戻ることになった。ちょうど冬休みの時期でかがみん達も帰省していた。
私が結婚していたことに驚いていたけど、祝福してくれた。でも、みゆきさんとは結局会えなかった。やっぱり、医学部は冬休みでも大変なんだろうなぁ。

でも、再び手にした幸せの日々も、歯車が狂い始めた。
元旦の日に、毎年恒例の、去年はできなかったかがみんの家に参拝しに行った際に夫が逮捕された。
原因は、参拝に来ていた高校の同級生の男子が私の悪口を言ったからだ。夫はその男子を殴り、逮捕された。まぁ、結婚前から何回か喧嘩で捕まったりしていたんだけどね…。
かがみんとつかさはあの男子が悪いと証言してくれて、夫は数日で出てこられるようになった。
でも、その日の夜、ある人が尋ねてきた。かがみんとつかさのお父さんとみゆきさんのお父さんだった。
二人が言うには、「うちの娘達も住民もあんたら夫婦には迷惑している。」と言い、分厚い封筒を渡してきた。手切れ金だってさ。
そうだよね…。かがみん達には迷惑だよね。夫が帰ってくると、私は夫を説得し、再び糟日部を去った。夫がかがみん達の家に殴り込んだりしないか心配だったけど、原因が自分と感じてしまったのか、すんなりと認めた。
数日後、私たちは大宮に引っ越した。それから私達、高校での仲良し四人組は音信不通となった。

たまに夫が逮捕されることはあったけど、大宮に戻ってきてからは少なくなり、
7年間は、比較的穏やかに過ぎていった。
わたしは普段は専業主婦、パートというどこにでもいる奥さんとして生活を営んでいた。友達はいないけど、幸せだった。
結婚して7年目のある日、私は大病にかかり、入院した。
先生が言うには私はお母さんと同じ病気にかかったらしく、手術が必要で、手術をしても助かるかどうかわからないらしい。
夫は先生につかみかかり、「手術しろ!助けないと殺すぞ!」と暴れ、私は手術を受けることになった。
幸運にも、手術は成功し、今後、病気が再発することはまずないとのこと。一ヶ月の入院を経て、私は夫のもとに戻った。
あの、古くて狭い、先見一般では負け組と言われているアパートでも私には幸せだった。帰る場所があるのだから。
でも、私が元気になってから、夫の様子がおかしくなった。
病気というわけではないのだけど、毎日疲れていて、あまりまじめに働かないのに、毎日、朝早くから夜遅くまで帰ってこない。
いつもと変わらぬ朝、夫は私に「ちょっと大きな仕事があるから、二、三日帰ってこれん。悪いな。ああ、これ、生活費な。」と、いつもの倍ぐらいの生活費を置いていった。…それが夫との今生の別れとなるなんて…。

夫が仕事に出て二日後、ニュースで糟日部で強盗殺人が起き、犯人は逃亡中と報道された。
…胸騒ぎがする。家電から夫の携帯に電話しても出ない。こんなことは一度もなかった。夫はいつも家からの電話は3コール以内に出ていた。
そうこうしている間にドアを叩く音が聞こえた。
夫に違いない。だって、私に会いにくる人なんていないんだもん。急いでドアを開けた。

「警察の者ですが、佐藤恒一さんはご在宅ですか?」

何がなんだかわからなかった。直後、アパートの一階から叫び声が聞こえた。聞き違えるわけもない、夫の声だった。
夫は数人の警官に取り押さえられて車に押し込められた。警官は「明日」詳しく説明するとだけ言い残して、夫とともに去っていった。
…きっといつもみたいに喧嘩だよ。すぐ帰ってくるよ。その日は眠れず、昼を迎えた。
見まいと考えても、どうしても気になり、私はニュースを見た。

「昨晩午後8時頃に糟日部で起きた強盗殺人の速報です。
犯人は本日未明に逮捕された模様です。また、殺害された三名の身元が判明しました。
えー…犯人が押し入った家にお住まいの高良みゆきさん(27)と、その場に居合わせた柊かがみさん(27)、柊つかささん(27)と判明いたしました。
凶器の包丁は現場に残されていて、指紋や目撃情報から佐藤恒一容疑者の犯行と判明した模様です。現場の白石さん、詳細を…」

目の前が真っ暗になった。もう、何も考えられないよ…。なんで?なんで夫がかがみん達を?
へー、つかさは結婚して子供がいるんだー。みゆきさんは…あれ?私が入院した病院で働いていたの?
かがみんは…今年司法試験に合格?そういえば法学部に行くって言っていたよねー。あはははは…。

後で岩崎さん、ひよりん、警察の人や弁護士の先生に聞いてわかったことだけど…。
みゆきさん、わたしの手術に立ち会ってたんだってね…。それで、私が大宮にいるって知ったみたい。
そのことをかがみんとつかさに話して、どうすれば、また昔みたいに四人一緒になれるか、暇を見つけては話し合っていたみたい。
かがみんとつかさのお父さんとみゆきさんのお父さんが私に言った「娘達も迷惑している」というのは嘘で、お父さん達が勝手にやったことだったみた。
みゆきさんのお父さんは世間体とかすごい気にする人みたいで、もともと片親だった私とみゆきさんが仲良くするのが嫌だったみたい。
みゆきさん、高校時代から「あの泉という子とは付き合うな。」と言われていたんだってさ。
だから、私達と放課後に寄り道したりしないことが多かったんだね。
みゆきさん、お父さん達が私に手切れ金を渡して糟日部から出て行くように言ったことを後に知って、ずっと悩んでいたみたい。
私のお母さんの病気も大学で学んで、もし、私が発症したら治すために外科医になったんだってね。ごめんね…みゆきさん。
かがみんは勝手に出て行った私のことを怒っていたみたいだけど、この7年間、ずっと探していてくれたんだってね。勉強で忙しかったのに、ごめんね…かがみん。
つかさも私がいなくなって元気をなくしたみたいで、「こなちゃんに会えたら食べさせてあげるんだ!」って私の大好きなチョココロネやクッキーを作る練習をしていたみたい。ごめんね…つかさ。
岩崎さんとひよりんはその日、用事があって参加できなかったみたいだけど、かがみん達は「皆でやった文化祭の日に皆でこなたに会いに行こう!」と決めていたみたい。
その最終決定の日に夫は…。

これは弁護士の先生が教えてくれたんだけど、夫は所属するヤクザ事務所の売り上げを使い込んじゃったみたい。…私の手術費用のために。
わたしも夫も国民保険に入っていなかったから、とても手術を受けることはできなかったんだってさ。
夫は売り上げを使い込んで、その返済のために、私が入院している間も、寝る暇もないぐらい働いていたみたい。
疲れちゃったんだろうね…。最後には強盗をしようと考えてしまったみたい。
みゆきさんの家を選んだ理由は、私が夫によく、高校時代の中が良かった三人の話をしていたせいだと思う…。
家選びをしていて、みゆきさんの家を通りかかった際、「みゆきさんはお金持ち」という私の話を思い出し、突発的に入っちゃったんだって。入ったとき、顔を見られて…。かがみんが夫の顔を覚えていたため、パニックになっちゃって、それで…。

結局、私はいつも誰かに助けられていた。気づかなくちゃいけない時に気づかず、最後は皆に迷惑をかけてしまった。かがみんにも、つかさにも、みゆきさんにも、夫にも…。
裁判が始まる前に何回か夫に会いに行ったけど、夫は私に会わせる顔がないと言って会ってくれなかった。
…やることもないから、毎日家の掃除だけをしていた。食欲も湧かない。ある日、掃除をしていると、一冊の本とかがみんと撮ったプリクラが出てきた。

「これ…まだ残っていたんだ…。」

私はずっとプリクラを見ていた。気づいたら、日が暮れていた。
高校時代の四人での楽しい思い出が眼下に広がる。あの頃は当たり前に過ごしていたけど、なんて幸せな日々だったんだろう…。
お父さんがいて、ゆーちゃんがいて、ゆい姉さんがいて、かがみんが、つかさが、みゆきさんが…。もうあの日に戻ることは決してできない…。

ふと目をそらすと、あの本が置いてある。もう、私には迷う必要も頑張る必要もない。
この本は最初に糟日部を出る際に何十…いや、百回は読んだだろう、読み直す必要はなかった。
私は洗濯を干すための麻縄を天井の梁にかけ、背が低くて、炊事が大変だろうと、夫が買ってくれた台を持ってくる。
そう、今日はあの最高の文化祭からちょうど8年なんだから。今日、かがみん達が会いに来てくれる日だったんだ。

「こんな感じでいいかな…。この本が役に立つ日がくるなんて、想像もつかなかったよ。かがみん…。
あの文化祭から8年かぁ…。あっちにいったら、かがみん達もお父さん達も優しく迎えてくれるかな?
…あ、私は地獄だよね…。地獄でもいいや。優しくしてくれなくてもいいや。会えるだけで…。」

\(=ω=.)/
ようやくコナタ。ご購読のMesdames et Messiers,merci beaucoup!
最終更新:2022年04月18日 18:18