うつ☆すた
by大阪府
「では四人の再会を祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
糠日部駅前にある居酒屋。こなた・かがみ・つかさ・みゆきの
四人がテーブルを囲んでいた。
「いや~懐かしいわね!こうして四人でご飯食べるなんてね」
「本当ですね。皆さんお変わりないようで安心しました」
「もう21だもんね私達。早いよねえ、ね、こなちゃん」
「うん。少し前までは高校生だったのにね」
四人が陵桜学園を卒業してもうすぐ3年が経とうとしていた。
3回生の春休みを利用して、今日こうして久しぶりに再会したわけだ。
「かがみん、学校の方はどうなの?京都は寒いらしいね」
「盆地だから夏が暑くて冬が寒いのよ、困ったもんだわ・・・。
秋からロースクールの試験が始まるから大変よ。毎日図書館で猛勉強してるわ」
かがみは京都大学法学部に現役合格し、京都で一人暮らしをしている。
「そっかぁ・・・みゆきさんも忙しいんだよね?」
「はい。もうすぐ病院での実習もスタートしますし・・・。
でも友達と励ましあいながら、なんとかやれていますね」
みゆきも関東の国立医大にストレートで受かり、入ってからも毎日勉強を
こなしているようだ。
「つかささんと泉さんはどうですか?」
久しぶりにあった友達同士で交わす、当たり前の質問。近況報告。
だがこの問いかけは、こなたにとって残酷なものに感じられた。
「私は栄養士の資格を取ろうと思ってるよ。一回目の試験ではダメかも
しれないけれど・・・」
つかさが答えた。お酒に弱いつかさは、一杯目のビールで、既に顔を
赤くさせていた。
「えっと、私は・・・あんまり高校の頃と変わらないかなあ、あはは」
「もう・・・あんたらしいけどさ。こなたも、そろそろ就職活動始めるん
でしょ?気合入れなきゃダメよ!」
「わかってるよ、かがみん。やるときゃやる女なんだから、私は(≡ω≡.)」
昔と同じかがみのツッコミ。だが今のこなたには、それが鋭いトゲの様に突き刺さる。
こなたはここ1年全く大学に行っていなかった。つかさやみゆきとは
たまに会っていたけれど、その事はずっと伏せてある。
こなたは、大学の空気に馴染むことができなかった。
入学する前は「高校と同じで、適当にやってれば大丈夫だろう」と思っていた。
しかしそれは甘い考えだった。かがみの様に、待っていても向こうからやって
きてくれる友達はいない・・・。入学時のクラスでも親しい友達はできなかった。
一度アニメ関係のサークルに入ったけれど、ノリに着いていけず数ヶ月で辞めてしまった。
コンパや飲み会の様な「みんなでワイワイ騒ぐ事」に自分が向いていないのを
ほとほと痛感させられたのだった・・・。
「あ、すいません。生中おかわりもらえますか」
「お姉ちゃん、ほんとお酒強くなったねえ。私びっくりしちゃった」
「そう?友達にやたら強い子がいてね、その子に付き合ってたら自然に
飲めるようになったのよ」
かがみはどうやら大学でうまくやっているようだ。心なしか高校の頃より
饒舌になっている気がする。それはお酒が入ってるからだけじゃないんだろうな、
とこなたは思った。
「そうそう、かがみん。知ってる?みゆきさんに彼氏ができたんだよ!」
「ほんと?みゆきもやるわね~。どんな人?写真とかある?」
「あ~私も見てみたいな~。ぷはぁ~ばるさみこすぅ♪」
「み、皆さんそんな・・・恥ずかしいですよ・・・。それにつかささん、
顔が真っ赤ですが大丈夫ですか?」
「も~ケチケチしないで見せなさいよ」
「かがみん、飲んだくれのおっさんみたいになってるね(≡ω≡.)」
「う、うるさいわね!」
「はい、この人ですよ・・・」
携帯には、みゆきとスラッとした長身の男性のツーショットが写っていた。
「おぉ、かっこいい!」
三人は声を揃えて言った。そして顔を見合わせて大笑いした。
「何よもう、みんな男の事になったら目の色変えちゃって!
高校の頃はそんなんじゃなかったでしょうに」
「えへへ・・・まあ、大学生だし・・・」
「人の事ばっかり言って、かがみんはどうなのさ~」
「えっ・・・私・・・?」
「そうだよ。あっちで何かロマンスでもありましたか、ん?ん?」
「・・・・・・・・」
かがみは下を向いて頬を染めた。「そんなもの無いわよ!」と愛がこもった
ツッコミが瞬時に返ってくると思っていたこなたは、少し肩透かしをくらった。
「まあ・・・ね、実は私も最近・・・。写真とかはないんだけど・・・」
予想しなかった返答。こなたは目の前が揺らいだ気がした。
「かがみん・・・彼氏できたんだね・・・」
こなたはついうなだれてしまった。・・・高校の頃、こなたは知っていた。
かがみが自分の所へ来る時、友達を越えた淡い「何か」がそこに在った事を。
そして、それを知っていながらこなたは軽くあしらっていた。
”かがみんはいつまでも、私のこと思ってくれる”と勝手に考えていたからだ。
だから、かがみに彼氏ができたことに、ショックを隠せないでいた。
「かがみさん、今度是非写真も見せてくださいね」
「お姉ちゃん隠してたなんてひどいよぉ!」
「はいはい・・・わかったからそんな言わないでよ、恥ずかしいから(///)
あれ、こなたどうしたの?黙っちゃって」
「え・・・えっと、何だか驚いちゃって」
「まっ、失礼ね!わ、私が恋人作ったのそんなにおかしい?」
「いや、そうじゃなくて・・・あはは・・・何だか先越されちゃったよ」
「・・・こなたもすぐにできるわよ。あ、あんたも可愛らしいんだからさ(///)」
「・・・大学生になってもツンデレ属性は健在ですな(≡ω≡.)」
「ツンデレ言うな!!」
「みゆき明日用事あるのね、残念だな」
「すいません、つかささんはちゃんと家まで届けますので・・・。
今日は楽しかったです、また会いましょう」
「うん!また連絡するからね!」
「みゆきさん、おやすみ~(≡ω≡.)」
みゆきとつかさは先にタクシーで帰った。みゆきは明日も学校でテストが
あるそうだ。つかさはジョッキ一杯で見事に撃沈してしまった・・・。
時刻は11時過ぎ。駅前の繁華街も徐々に人が少なくなっている。
「さて、どうする?ハシゴしちゃう?」
「かがみんはすごいね・・・私もお酒はもう飲めないや」
「そっか。・・・じゃあ、酔い覚ましに少し歩こっか」
かがみと二人、並んで歩くのは久しぶりだ。
何故かこなたは緊張で少し足取りが固くなってしまった。
「どうしたのよ、こなた?あんまり喋らないわね。昔は私がいくら言っても
止まらないくらいだったのに」
「そ、そう?そうだったっけ、高校の頃は・・・」
繁華街から少し離れた所まで二人は来ていた。周りは民家ばかりで、
辺りは静まり返っている。
「そうよ。毎日元気爆発!って感じだったわよ」
「・・・3年も経つと、色々変わるんだよ」
言った瞬間、こなたはハッとした。つい本音の欠片がこぼれてしまった。
「何よ、あんたらしくない台詞ね・・・。まあ、確かに3年は長いもんね。
公園寄っていかない?もう少し話したいしさ。だめ?」
「いいよ。飲み物おごったげる」
「あんたが奢るなんて、そんな所にも変化があるのね、ふふふ!」
自販機でホットのお茶を買い、二人は公園のベンチに腰掛けた。
春が近づいてはいるがまだまだ寒い時期だ。空気が澄んで星空がよく見える。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
短い間沈黙が流れた。こなたは胸が詰まった。様々な思いが交錯していた。
いま、かがみは一体何を想ってるのだろう。
「・・・ねえ、こなた」
沈黙を破ったのはかがみだった。
「あのね、二人だし、ちょっとマジトークしてもいいかな・・・」
「う、うん・・・」
「・・・今日はみんなと久しぶりに会えて楽しかった。特にこなた、
あんたが変わらず元気で良かったわよ」
「あ、私も・・・だよ・・・(どうして”私もかがみんと会えて良かった!”
ってはっきり言えないんだろう・・・)」
「私ね、今だから言うけれど・・・高校の時、こなたの事が羨ましかったんだ」
「私の・・・事を・・・?」
「うん・・・。あんたってさ、自分の好きな物に没頭してたでしょ。
たまには向こう見ずになることもあるけどさ、そんな姿に憧れてたのよ。
私って何でも世間体気にしてブレーキかけちゃうタイプだから・・・」
「・・・・・・・」
「大学でね、結構色々あったのよ。何回も落ち込んだ事もあった。
でも最近ようやくさ、自分の気持ちを出せるようになってきたの」
「かがみん・・・」
「弁護士になりたいってのも昔は適当だったけどさ。最近は夢がはっきり
してきたの。民事裁判を担当したいって思ってて。・・・あ、ごめん、
私ばっかり話してるね」
「ううん、大丈夫だよ。かがみんはやっぱり偉いよ、きちんと努力して」
「そんな事・・・あのね、こっからが一番言いたいことなの。私が努力できた
のは、こなたと友達になれたからだと思うの」
「・・・・・・・(かがみ、やめて、私は・・・)」
「こなたと一緒にいられた時間があったから、頑張ってこれたの」
「・・・・・・・(私はそんな立派な人間じゃない・・・)」
「だから、”ありがとう”ってずっと言いたかったんだ、恥ずかしいけど・・・」
「・・・・・・・(ごめん、かがみん、ごめん・・・私の今の姿を知ったら、
かがみんは・・・)」
帰り道。こなたは必死に涙をこらえていた。
夜で余りお互いの表情が見えなくて、本当に助かったと思った。
かがみの言葉一つ一つが自分のみじめさを浮き彫りにする。
何とか”高校生の頃の泉こなた”を演じきって、別れた。
かがみは今週いっぱい滞在するらしく、つかさも加えて三人で遊びに行く
約束をした。だが、こなたは前日に断ろうと決めていた。
家に入るとそうじろうが話しかけてきた。
「こなた、おかえり。かがみちゃん達はどうだった?」
「うん。みんな元気にしてたよ・・・」
「そうか。・・・ところでこなた、今日大学のほうから書類がきてな。
留年の通知だそうだ」
「・・・・・・・」
「うちは余りお金に余裕もない。こなた、きつい言い方になるがもう少し
しっかり学校に行ってくれないと。何か悩みがあるなら一度話を・・・あ、おい、こなた!」
こなたは話をさえぎって、階段を足早に上っていった。
部屋の明かりをつける。床に散乱するお菓子の袋やペットボトル、
隅っこに積まれたゲームや同人誌。いつもと変わらぬ光景だ。
かがみ達と会っていた時は半ば忘れることができていた現実が、
いっぺんにこなたに襲い掛かってくる。
「そうだ・・・私が学校に行かず、ゲームに没頭したりアニメを見たりしてる間、
かがみ達は新しい生活を築いていってたんだな・・・。頑張って勉強をしたり
友達や恋人を作ったり・・・あは・・・あはは・・・」
こなたはベッドに腰を降ろした。
「高校の頃は何とかなるって思ってたけど・・・もうダメだよ・・・
私には何も無い、誰もいないよ・・・う、ううっ・・・」
こなたはしばらくベッドに突っ伏して泣いていた。
”こんなみじめな気持ちになるなら、かがみ達に会わなければよかった・・・”
とさえ考えてしまう自分が、ますます情けなく思えた。
しばらくそうしていたが、そうじろうが眠ったのを確認してから、
下に降りて風呂に入った。寝巻きに着替えて缶ビール片手に部屋へ向かう。
”酒に弱い”なんて大嘘だった。酒は並みのドラッグなんて目じゃないくらい
現実逃避できる代物だと、こなたは知っていた。
「・・・落ち着いたら、またこれだ・・・。私にはここにしか居場所ないもんね」
パソコンの電源を入れる。ディスプレイを見ているだけで、心が少し安らぐのを感じた。
2chの常駐スレやオークションで狙っている獲物のチェックを
一通り済ませた後、こなたは”お気に入り”の中から一つのページをクリックした。
それは「うつ☆すた」という名のページだった。
☆マークの中には髑髏が描かれている。バックは黒一色。不気味な雰囲気だ。
ここは、自殺志願者が集まるサイトだった。
自殺志願者が心情を吐露する場所。そして、心中相手を探す場所でもある・・・。
ここの掲示板を読むのがこなたの日課になっていた。
「もう死にたい」「楽しいことがない」「辛いことばかりだ」
こういった書き込みが並ぶ。こなたは安心する。ここには仲間が大勢いる。
悩み相談の掲示板を一通り読んだ後、心中相手募集の掲示板を開いた。
心中相手募集といっても、成立する事はほとんどない。
多くが冷やかし又は異性を狙う書き込みだ。やはり皆、生に執着がある。
だがこなたは「もう本当に死んでいいかもしれない・・・」という気分だった。
書き込みは北海道から沖縄まで全国から寄せられる。
その中で、こなたの目を引くものがあった。
”名前 きり アドレス
xxxx@xxx.ne.jp
埼玉に住む♀です。心中相手を募集しています。
近場で会える方がいたら、連絡をほしいです。
本気で死のうと思っている方のみ連絡ください。
冷やかしの方はご遠慮願います”
「埼玉・・・私の近くに、私と同じこと考えてる人がいるんだな・・・」
同じ気持ちを持っていても、遠く離れた場所では会うことが難しい。
しかし相手は自分と同じ埼玉在住で、しかも女性だ。
「・・・会って、みようかな・・・」
こなたは思い切ってメールしてみる事にした。
”こんばんは。掲示板を見てメールしました。
HNはモナカです。私も埼玉に住んでいる女子大生です。
死にたいと思っています。よければ会いませんか?”
モナカはいつもこなたが使うハンドルネームだ。
単純に「こなた」と響きが似てる、というだけであるが・・・。
「返事来るかな。まあ、冷やかしって可能性も高いな・・・」
こなたは気長に待つことにした。どうせ今夜も、朝までニコニコ三昧だ・・・。
半ば惰性で続けていても、止めるタイミングが見つからない。
これがネット中毒というものか・・・とこなたは自覚していた。
2時間後メールボックスを開くと、もう返事がきていた。
”こんばんは。メールありがとうございます。
モナカさんが良ければ、是非私も会いたいです。
今週末に糠日部駅で待ち合わせなど、どうでしょうか?”
こなたは驚いた。糠日部・・・ひょっとして、私の近所に住んでいるのか。
”きり”さんと会うことが急に現実味を帯びてきた。
こなたはすぐに承諾のメールを返信し、日時の詳細を決めた。
「きりさん・・・一体どんな人だろう?」
こなたはかがみ、つかさと遊ぶ約束を案の定断ってしまった。
かがみはとても残念がっていて電話してくれたけれど、
こなたは合わせる顔がないと感じていた。
「またこっちにも遊びに来てよね!絶対よ!」
そう言い残して、かがみは京都へ帰っていった。
そして週末になった。”きり”さんと会う日だ。
「改札横のコンビニの前で午後2時に待ち合わせしましょう。
私は薄茶のトレンチコート、青のジーンズ、白黒ボーダーのマフラー
に白のニット帽の姿で行きます」
昨晩きりから貰ったメールだ。こなたにとって、この前かがみ達と
飲みに行って以来の外出となる。友達がいないので予定も無い。
当然外出は必要最低限になる。一日中部屋で過ごす事が多かった。
駅に着く。午後2時を数分過ぎたところだ。
急ぎ足でコンビニに向かうと、メール通りの格好をした後姿が見えた。
こなたは勇気を出して話しかける。
「あ、あの・・・”きり”さんですか?うつ☆すたの掲示板の・・・」
しかし、振り返った姿は・・・
「えっ・・・こ、こなちゃん?」
「つかさ・・・なんでここに・・・」
ニット帽をかぶっていたから、つかさだと気付かなかった。
こなたは面食らってしまった。しかし、この後更に驚くことになる。
「あ、あの、ごめん。私、別の人とここで待ち合わせしていて・・・」
「もしかして・・・こなちゃんが”モナカ”さんなの?」
「えっ・・・じゃ、じゃあつかさが・・・」
「”きり”だよ、うつ☆すたに書き込んでいた・・・私、こなちゃんと
メールしてたんだね、びっくりしちゃった・・・」
駅前にあるカフェ。こなたとつかさの二人が向かい合っていた。
「・・・つかさがあんなとこに書き込んでるなんて、思いもしなかったよ。
つかさが”きり”さんだったなんて・・・」
「私が付けてる黄色いリボンね、これで”きり”だよ。単純すぎて
笑っちゃうでしょ?それにしても、こなちゃんこそ・・・あそこ、自殺
掲示板だよ?」
「うん、わかってる。・・・こんなことになっちゃったから、本当の
事を話すよ。だから、つかさもどうしてうつ☆すたに書き込みしていたか
教えてくれる?」
つかさは無言でこくり、と頷いた。
こなたは高校を卒業してからの3年間をかいつまんで説明した。
大学に馴染めなかった事、ひきこもっている事、留年が決定した事、
そして・・・今までつかさ達に嘘をついていたこと。
話を聞き終えたつかさはため息をついた。
「私も似たようなものだよ・・・。高校の頃はずっとお姉ちゃんに頼りっきり
で、自分では何も努力していなかったから・・・。大学でも浮いちゃって、
授業も出なくなってしまったの。栄養士の資格を取ろうとしてるなんて
大嘘だよ。一人暮らししてるから親もほんとのこと知らないし」
先日皆で会った時とはつかさの話し方が若干違うとこなたは感じた。
高校の頃のおっとりした感じとは違って、話し方がしっかりしているのだ。
だがそのしっかりさの中には、ある種の神経質的なものも感じられる。
「かがみんには・・・言ったの?」
「ううん。お姉ちゃんにはもっと知られたくない事だもん・・・
お姉ちゃんが知ったら、どんなに悲しむか・・・」
「はは・・・一緒だね。私もずっと隠し通してたんだよ、この前」
「そうだったんだね。・・・ほんとの事言うと、高校の頃から私と
こなちゃんは似てるなって思ってたよ。なんというか、他の人に壁作っちゃうよね」
その通りだった。いつもかがみとみゆきの傍に隠れていた気がする。
その日の夜、こなたはつかさが下宿しているアパートにやってきた。
「ここだよ、こなちゃんあがってよ!」
「うん・・・お邪魔します」
つかさの部屋は綺麗に片付いていた。ベッドには熊のぬいぐるみが置いてある。
確か高校の頃、つかさの実家の部屋にあったものだ。
「こなちゃん、高校の時は私達二人きりで話しすること少なかったよね」
「確かにね。かがみんやみゆきさんが一緒にいる事多かったし」
「今日変な事になっちゃったけどさ、この機会に私こなちゃんと仲良くなりたいな」
「つかさ・・・。うん、私もつかさがいてくれれば・・・」
こなたは今まで自分の気持ちをわかってくれる人はいないと思っていた。
でも同じ境遇の人がこんな身近にいるなんて。救われる思いだった。
いつの間にか、こなたの心から死にたいという気持ちは消えていた。
「ねえ、つかさ。私これからもう一度頑張って学校に・・・」
「こなちゃん、あのさ」
つかさがこなたの言葉をさえぎった。
「ねえ、私と・・・いいことしない?」
「へ・・・いいこと、って・・・?」
つかさがこなたを見つめる。その瞳には、妖しい熱が宿っている。
「つ、つかさ・・・」
「えへへ、こなちゃん、握手しよ!」
つかさはこなたの手をぎゅっと握った。突然の事に、こなたは頬を少し
赤らめて俯いた。
「どうして手を・・・あっ・・・」
「ふふっ、こなちゃん、手を開いてみて」
つかさがそっと手を離す。こなたの小さな手の平には、真ん中に二本の
線が入った白い錠剤が乗っていた。
「これは・・・何?」
一円玉を一回り小さくした様な錠剤。どうやら風邪薬などではないらしい。
「ふふふ、良い事って言ったでしょ?これとっても気持ちが良くなるんだよ。
私最近ずっと飲んでるの♪」
「ま、待ってよつかさ。これって、もしかして変な薬なんじゃ・・・」
「あの掲示板で知り合った人に売ってもらってるんだ。大丈夫だよぉ!
はいお水。一緒に飲もうよ!」
「や、やめようよつかさ。危ないよ、それにこれって犯罪なんじゃ・・・」
「これを飲むと、お姉ちゃんに会えるんだよ?」
「え・・・?」
「これはね、夢を見れるお薬なんだよ。フワフワしてて、とっても優しい夢。
自分の願っていることが、何でも叶うんだよ。こなちゃん、お姉ちゃんのこと
好きでしょ?」
「・・・・・・・」
「私も大好きだよ!だから夢の中で、いつもお姉ちゃんに甘えてるんだ~。
耳かきしてもらったり、髪をといでもらったり・・・」
こなたは手の平の錠剤を見つめた。これを飲めば、本当にかがみんに会える・・・?
「で、でも、やっぱりこんな事は・・・」
「こなちゃん、私達友達だよね?」
「う、うん、それは勿論・・・」
「じゃあ一緒に飲んでくれるよね?友達だったら私に付き合ってくれるよね?
私、こなちゃんのずっと傍にいるから・・・お願い・・・」
縋る様なつかさの瞳に、こなたはこれ以上抵抗する事ができなかった。
こなたは夢を見ていた。それは普段の眠りながら見る夢ではない。
意識が覚醒して澄み切っている。起きながらにして感じる別の世界。
夕闇迫る薄暗い教室。こなたとかがみの二人がいた。
椅子に座るこなた。後ろに立ち、優しくこなたの髪をなでるかがみ。
「かがみん、ごめんね・・・いつも宿題見せてもらって・・・」
「いいのよ。私、こなたに勉強教えるの大好きなんだから」
「かがみん、ごめんね・・・いつもわがままばかり言って振り回して・・・」
「いいのよ。私、こなたと一緒にいる時が一番幸せなんだから」
髪に手を沈めたまま、かがみはこなたの首筋にキスした。
「かがみん、ごめんね・・・私、何もできなくて、だめな人間で・・・」
「いいのよ。私、こなたの全てを愛しているから」
かがみはそっと、こなたの耳たぶを口に含んだ。
「かがみん、ごめんね・・・本当は、私もかがみんの事大好きだった・・・」
「私もこなたの事が世界で一番大好きだよ・・・」
こなたは椅子から立ち上がり、かがみを机に押し倒した。
カラスの鳴き声が聞こえる。ブラインドの隙間から僅かに光が漏れる。
いつの間にか夜が明けていた。こなたとつかさは、まだ焦点のはっきり
合わない目で天井を見つめていた。
「・・・こなちゃん、どうだった・・・言ったとおり・・・でしょ?でしょ?」
「うん・・・」
こなたはさっきまでの余韻に浸っていた。
これまでに感じたことのない倦怠感、そして途方も無い幸福感。
「ねえ・・・このお薬、沢山あるんだけど・・・どうする・・・?」
天井から目を離さぬまま、こなたはすぐに返答した。
「・・・ちょうだい、もらえるだけ・・・お金でも何でも払うから・・・」
つかさから”おクスリ”を分けてもらったこなた。
その日から、こなたの生活は激変した。
まず、ほとんど部屋から出ることはなくなった。そして、ネットやゲームを
する事もなくなってしまった。
昼夜問わずベッドに寝転がり、”おクスリ”の力を借りてかがみの夢を見る。
放課後一緒に勉強をしたり、買い物に行ったり旅行に出かけたり・・・
妄想は果てることなく続いた。こなたは幸福感で満たされていた。
春休みは終わり、世間では新学期が始まっていた。
さすがにそうじろうも娘の変化に気付いた。食事さえろくに取らなく
なってしまったこなた。一体どうすれば昔の様に戻れるのか・・・
思案した後に、ゆいの家に電話をかけることにした。
「ああ叔父さん、お久しぶりです。どうしたんですか?」
「ゆいちゃん、実は相談があってな・・・こなたの事なんだが・・・」
そうじろうは、こなたの引きこもりが続いている事を説明した。
「そうなんですか、こなたはまだ学校に行けてないんですね・・・」
「父親として失格かもしれない、だが力を貸してほしいんだ。
俺にはこなたの考えている事がわからないよ・・・」
「・・・わかりました。今度の日曜に伺いますね。久々にゆたかも
連れていっていいですか?こなたに会いたいと言っているので」
ゆたかは現在大学二回生だ。実家から大学に通っている。
高校の頃に比べて体調はずっと良くなった。大学では児童心理学について
学んでいるようだ。
「ああ、是非頼むよ。今のこなたには、話し相手が必要なんだと思う。
ゆたかちゃんの様に、年が近い子の方が良いだろうな・・・」
数日後。
「
もしもぉし、つかさぁ?私だよ、こなちゃんだよぉ」
「あ・・・こなちゃん?どうしたの、酔っ払ってるの?」
「ん~ん、別にぃ。ね、これからつかさんち遊びに行ってもいいかな・・・?」
「今からはちょっと・・・私、夜から用事があって」
「もうつかさんちの前にまで来ちゃってるんだよ、少しでいいからさ」
「えっ・・・?」
つかさは窓を開けて、ベランダから下を見下ろした。
携帯を耳に当てたこなたが、こちらに向かって手を振っている。
「もう、こなちゃん困るよ急に来られても・・・少しだけだよ?」
「へへへ・・・」
「お邪魔しまぁす、っと!」
「こなちゃんどうしたの?なんだか元気良いね?」
「も~最近毎日がずっと楽しくてね、これもつかさのおかげだよ」
「あ~おクスリ使ってるんだね、でもねこなちゃん、あれ毎日ずっと
やってると身体に悪いよ、程々にしなきゃ」
つかさがお茶を淹れたグラスを持ってきた。
「あれ、つかさ、ちょっと待ってよ」
「へ?何?」
「どうしてお茶、二つしか持ってこないの?一つ忘れてるよ」
「どういうこと?だって私とこなちゃんの二人だけだよ?」
「も~何言ってるのつかさは、私とつかさとかがみんでしょ、ちゃんと
三人分持ってきてくれねいとぉ」
「へ・・・お姉ちゃん・・・?」
勿論部屋にはこなたとつかさしかいない。かがみがここにいる筈が無い。
かがみは京都にいるのだから。
「ちゃんとベッドに座ってるでしょ。ね、かがみん、つかさってば実の
お姉さんに酷いよねぇ」
「・・・・・・・・」
幸せそうに頬を緩ませるこなた。その姿につかさは軽い恐怖を覚えた。
「ね、ねぇ、こなちゃん・・・」
「ん~?」
「あの・・・私があげた薬・・・どれくらい使ったの?」
「もう無くなっちゃったんだよ~だから今日、もらいに来たの」
「嘘・・・あんなにあったのに、全部使ったの・・・一日二錠以上は危ない
って言ってたのに・・・」
つかさは悟った。・・・壊れかけている。こなたは薬の過剰摂取によって、
現実と妄想の境目がなくなってきているのだ・・・。
「ねぇつかさぁ、薬ちょうだいよ、かがみんも早くしてって言ってるよぉ」
「だ、ダメだよ・・・こなちゃん、これ以上使ったらダメだよ・・・」
「そんな冷たいこと言わないでさ、友達でしょ・・・ほら、お金もあるよ」
「こんな大金、どこから・・・」
「お父さんの預金通帳から降ろしてきたよ!さぁさぁ、早く渡したまへ~」
終始笑顔で陽気なこなたは、もはや異形の生物にさえ思われた。
つかさは二の腕に鳥肌が立っているのを感じた。
「さっきも言ったでしょ、もうすぐ知り合いが家に来るから・・・
こなちゃん、今日は帰ってよ」
「やだ、帰んない!薬渡してくれるまでは絶対動かないよ・・・
だって、つかさ、私達は親友だもんね」
「や、やめて・・・こっちこないで・・・わかったから、薬は全部あげるから!
だからもう私の家に二度と来ないで!」
「ども♪さぁ、かがみん行こっか!ちょっと帰りにゲマズに寄ってかない?」
こなたは薬の入ったポーチごと持って、部屋を出て行った。
見えるはずの無い友人と話しながら・・・。
「・・・私、知らない・・・こなちゃんが悪いんだよ、私は悪くない・・・」
後には、取り憑かれた様にそう繰り返すつかさがいた。
こなたは病院へ搬送された。
最初に異変に気づいたのは、泉家に訪れたゆいとゆたかである。
「お姉ちゃん、遊びに来たよ!いる?」
ゆたかがドアをノックした。大学生になってから、こなたに憧れたゆたかは
髪を肩まで伸ばしていた。
「返事がないよ?ゆいお姉ちゃん」
「いないのかなぁ?おーい、こなた~」
ノブを回すと、ドアが開いた。こなたがベッドに仰向けに寝ていた。
「なんだ、お姉ちゃん昼寝してた・・・えっ!?」
こなたの姿を見て、ゆたかは飛びのいてしまった。
そこには変わり果てた姿のこなたがいた。
目が異様に飛び出しており、肌も艶を失っている。
唇の端には泡がたまっており、時折スー、スーと息が漏れる。
「叔父さん、大変です!こなたお姉ちゃんが!!」
医師から詳しい話を聞かされた三人は驚いた。
こなたは薬物中毒なのだという。こなたが持っていたポーチからは、
錠剤タイプのドラッグが見つかった。最近若者の間で流行しているもので、
LSDの亜種の幻覚剤らしい。
「一度の使用での効果は比較的マイルドなものです。だから何度も
続けて服用してしまう。そして中毒になる人が多いのです」
医師は、そうじろう達を労わる様に静かに話した。
「俺の、俺のせいだ・・・ちゃんとこなたの話を聞いてやることも
できずに・・・。一度でも、正面から向き合って悩みを聞いてやれば
よかったんだ!うっ、ううう・・・」
「・・・叔父さん・・・」
ゆいとゆたかは、言葉をかけることができなかった。
かがみがこなたの現状について知ったのは、そのすぐ後の事だ。
もうすぐGWなので実家に帰ろうと思っていたかがみは、こなたと
会おうと思い携帯に電話をかけた。しかし何度かけても繋がらない。
実家に電話すると従姉妹のゆいが出た。そこで話を聞いたのだ。
そうじろうはずっと病室でつきっきりらしい。
かがみはすぐに新幹線のチケットを取り、その日の内に埼玉に戻ってきた。
「私、前の時も自分の話ばっかりで・・・あの時からこなたは悩んでいたのに・・・」
かがみはいくら悔やんでも悔やみきれない思いだった。
病院にはつかさとみゆきも既に到着していた。
病室に入り、三人はこなたと対面した。こなたは頬がこけ、目の下に黒ずんだ
痣ができている。死んだ様に眠り込んでいる。三人は息を飲んだ。
「みんなありがとう、忙しいのに来てもらって・・・」
そうじろうは憔悴しきった顔をしている。恐らく何日も眠っていないのだろう。
「こなた・・・こなたっ!」
かがみはこなたの小さな手を握った。微かに温もりを感じる。
「こんなに、こんなになるまで・・・どうして・・・薬なんかに手を
出して・・・」
こなたの眠るベッドに突っ伏して泣きじゃくるかがみ。
つかさとみゆきは動けないでいた。
「あら・・・あのポーチは・・・?」
みゆきは花瓶の横にポーチがあるのを見つけた。どこか見覚えがあるポーチだ。
「あれは・・・私がこなちゃんにあげたやつだよ・・・。大学に入って
すぐ、友達の証だよって言って、こなちゃんに渡したんだ・・・」
つかさは搾り出す様に言った。流石にみゆきの顔を見られなかったが。
「そうだったのですか・・・。私達も自分の生活にかかりっきりで、
泉さんの事に気づいてあげられませんでしたね・・・」
「う、うん・・・」
みゆきは眼鏡を外して、袖で涙をぬぐっている。その時である。
「こ、こなた・・・!気がついたの・・・?」
こなたがうっすらと瞳を開いたのだ。外の廊下にいたゆいとゆたかも、
部屋に駆け込んでくる。
「ん・・・んん・・・」
こなたの緑の瞳は、とても澄んでいた。病院に運ばれた時の様な、何かに
取り憑かれた感じはなくなっていた。
「こなたっ、わかるか・・・?お父さんだぞ!みんなも来てくれてるんだ」
「う・・・ん・・・わか・・・るよ・・・」
こなたはしっかりした意志があるようだった。
「よかった・・・このまま目覚めないのかと・・・こなた・・・こなた・・・」
みんな涙を流してこなたの無事を心から喜んでいるようだ。
つかさだけは後ろめたさがあり、一歩下がってその様子を見ていた。
三日後、こなたは病室の窓から飛び降りた。
何とか一命は取り留めたが、頭を強く打った事、また薬の後遺症もあって
正気に戻ることはなかった。
こなたは郊外の自然に囲まれた所にある、精神病棟に収容されることになった。
町外れの郊外にある精神病棟。
豊かな緑の中に、ひっそりと佇んでいる。ここでは患者の開放治療が行われている。
中庭で思い思いの行動を取る患者達を見つめる白衣の男。
そこへ、カルテを携えた看護士の女がやってきた。
「先生、おはようございます」
「ああ、おはよう。今日も良い天気だね」
「患者達の様子を見ていたのですか?」
「ああ」
「先月入ってきた、203病室の女の子・・・様子はどうです?」
「泉こなた、か。大人しいし、暴れだすような事もない。それに知能も
しっかりしていてね、はたから見たら普通の女の子じゃないか、って
思うときもあるくらいだ。おっ、話をしていたら・・・」
青い髪の少女が元気よく走ってきた。
「先生、おはようございます!」
「おはよう。こなたちゃん、今日も元気だね」
「えへへ・・・。先生、続き書いてきたよ、読んで読んで!」
「わかったわかった。貸してごらん」
「先生、続きってなんです?」
「この子が書いてる小説さ、読ませてもらってるんだ。・・・君はいいのかい?
カルテを届けにいくんだろ?」
「あ、いけない!では私はこれで・・・」
看護士は慌てて病棟の方へ走っていった。
「さて、と・・・。こなたちゃん、凄いな。また大分進んだんじゃないのかい?」
「うん!こなた、頑張ったんだよ、先生に見てもらいたくて・・・へへ!」
医師はこなたから原稿を受け取った。
表紙には真ん中に大きな字で「涼宮ハルヒの憂鬱」と書いてある。
「今回は、どんな話なんだい?」
「えっとね、SOS団が野球大会に出る話なんだよ!」
「へぇ、野球か・・・俺も昔はやってたんだよ」
こなたの書く「涼宮ハルヒの憂鬱」、これは世界を意のままに変える力を
持った女子高生涼宮ハルヒが、周りの友達と色んな騒動を巻き起こす、
という話である。医師はこなたの治療を担当して以来、いつも原稿を読ませて
もらっている。文章を書く患者はたまにいるが、書かれた文章の多くは
支離滅裂なものだ。それに比べて「涼宮ハルヒの憂鬱」は非常に整った文章である。
そして何より医師が驚いたのは、登場人物達の感情描写が豊かな事である。
「こなたちゃん、前から思っていたんだが・・・」
「なぁに?先生?面白くなかった・・・?」
「いや、とても楽しく読ませてもらったよ。この話なんだが・・・もしかすると、
登場人物にモデルがいるんじゃないかと思ってね・・・。どうかな?」
医師の問いかけに、こなたは驚いた表情を見せた。そして、頬を淡く染めた。
「先生ってすごいね。わかっちゃったんだ・・・。誰にも言わないでくれる?」
「ああ、約束する」
「・・・わかった!えっとね、このハルヒってのは私なんだ。こんな
何でもできる私になりたい!って思いながら書いたの。
この有希っていうのはみゆきさん。眼鏡をかけてて頭が良くて」
「みゆきさん?」
「私の友達だよ!みくるはつかさ。いっつもおっちょこちょいな子なの」
(泉こなたは、正常だった頃の日々を、この小説に反映しているのか・・・)
医師は考えた。この小説は、楽しかった日々の再現なのだろうか。
「じゃあ、この男の子は誰だい?キョン君だったかな?」
「・・・・・・・」
先ほどまで元気だったこなたは、急に黙って俯いてしまった。
「これは・・・もしかしてボーイフレンドとか、かな」
「・・・・・・・」
こなたは返事をしない。どうやら聞かれたくない部分のようだ。
「ごめん・・・悪かったよ。この話は終わりにしようか」
「これは・・・かがみん・・・」
「え・・・?」
「かがみん・・・私の一番大好きなかがみんだよ・・・」
「かがみん・・・男の子かい?」
こなたは無言で首を横に振った。
「かがみんは女の子だけど・・・好きだったの。とっても好きだったの。
いっつもわがままばかりの私に、ついてきてくれたの」
「・・・・・・・」
「かがみんは私の王子様なの。ずっと、ずっと・・・私のそばにいてくれる・・・」
夕暮れの糠日部。街は赤く染まっていた。
ベランダで、つかさが煙草を吹かしている。
「・・・・・・・」
ここ最近で、周りは大きく変化した。
こなたは精神病棟に行き、そうじろうはショックの余り病床に臥せってしまった。
かがみも勉強を続けられる状態ではなく、大学を休学した。
「・・・私が、悪かったのかな・・・かな・・・」
煙を吐き出しながら、つかさは呟いた。
こなたが飛び降りた時、他の人は皆、どうしてこなたが自ら命を絶とう
としたのかわからないようだった。・・・だがつかさは気づいていた。
「・・・こなちゃん、お姉ちゃんに顔見せできなかったんだね・・・」
こなたが病室で目覚めた時のこと。こなたはかがみを見た瞬間、明らかに
動揺していた。自分のボロボロになった姿を見られたからだろう。
最も見られたくない存在であるかがみに・・・。
「こなちゃんは、純粋すぎるよ・・・」
こなたのそうした微妙な気持ちの揺れを理解できたのは、同じ立場にいる
つかさだけだったのかもしれない。
「・・・こなちゃん、私はこっち側で生きるよ。こなちゃんには悪いと
思うけれど・・・。どんなに人から醜いって言われても、無様な姿になっても
私は生き続けるよ。だって私は、綺麗じゃないから・・・」
つかさは煙草を投げ捨てて、立ち上がった。
(了)
最終更新:2022年05月03日 09:20