もしも
「私の・・・名前・・・ない・・・」
今日は高校受験の合格発表の日
ここ陵桜学園では結果を見に来た学生でごった返していた
大喜びで叫んでる人、泣いている人、無言のまま去っていく人
いろんな人がいる
大きな板に張られた合格者達の受験番号
その中に私の番号はなかった
私はショックで自分の受験票と掲示板を何度も確かめた
でも結果は変わらない
自然と流れてくる涙
ふと隣からも泣き声が聞こえてきた
そこには紫髪のショートヘアーの女の子が立っていた
彼女は泣いていたけどその涙は嬉しさに満ちていた 私の涙とは違う
その横には同じ髪の色をしたツインテールの子が立っていた
表情にはあまり出していないけど、よほど嬉しかったんだろう 腰のあたりで小さなガッツポーズを決めていた
二人の会話で彼女達は双子だと分かった
・・・私もあんな風に泣いて喜びたかったな・・・
その近くにはピンク色の髪のメガネ娘が母親と喜び合っていた
とても仲のよさそうな親子
・・・私もお母さんとあんな風に触れ合いたかった・・・
私は誰とも口を聞くことなく帰路に着いた
~泉家~
「そうか・・・残念だったな」
「うん・・・ごめんなさい。 お父さん・・・」
「こなたはちゃんと努力したじゃないか それでダメだったんならしかたない
合格したA高校で頑張りなさい」
「・・・・・・うん」
私が陵桜を受けたのはある理由がある
私は中学校でイジメを受けていた
女子らしいネチネチしたイジメ
何度もくじけそうになった
その度に 「卒業までの我慢だ!高校になったら・・・」
そう自分に言い聞かせた
陵桜にはイジメの噂なんて全くなかった
優等生が集まるというだけでなく、自由な校風がイジメを生み出さないらしい
だから私はこの学校を目指した
偏差値が高く競争率も高かった
ちゃんと努力した 全てはイジメを受けたくない一心で
・・・でも・・・・・・
A高校は県内有数のDQN校だった
イジメなんかは日常茶飯事
噂ではドラッグの取引も頻繁に行われているとか
万引き援助交際恐喝・・・他にもいろいろな評判を聞く
生徒も先生も人間のクズばかり
私もこんな高校になんか行きたくなかった・・・
でも受験日の関係で陵桜とここしか受けれなかった
この高校で私はやっていけるのかな・・・
「つ、冷たいよ やめてよ・・・」
「キャハハww その頭のアホ毛に水撒いてやってんだから感謝しろよ」
入学して数ヶ月
私は再びイジメにあっていた
イジメ集団のリーダー格は中学のとき私を虐めていた連中の一人だった
私を発見した彼女は、ある日数人の仲間を引き連れて私の前にやって来た
最初は遠慮がちだった連れも次第に面白くなってきたのか、今では何の躊躇もなく私に嫌がらせをしてくる
クラスの他の子達は自分にも被害が出るのを恐れ、私を避けるようになった
学校の先生も見て見ぬふり いかにもDQN高校にいそうな教師・・・
私の苦痛の日々が再び始まった
イジメは次第にエスカレートしていった
初めは物を隠される程度だった
今は直接の暴力にまできている アザも沢山できた
彼女達はイジメの醍醐味がジワジワといたぶっていくことだと知っているらしい
もう誰がどう見てもイジメと分かるのに・・・
誰も・・・誰も私の味方になってくれない・・・
お父さんも娘の異変に全く気付いていないみたいだ
こんな人に助けを求めても無駄だと思った
だからお父さんにこのことは言ってない
「お母さん・・・辛いよ・・・
何で私だけこんな目に・・・」
今日も私は遺影にそう話しかける
冬になった
私に対してのイジメはまだ続いている
でも不登校にはなっていない
自分でもよく学校に行き続けてるなぁと思う
中学校の頃一度引きこもったことがある
その時に見た夢にお母さんが現れた
お母さんは何も言わずにただ泣いていた
とても悲しそうな顔・・・
お母さんにこんな顔はさせたくなかった
だから私はせめて学校には行こうと決心したのだ
「こもってきたなー 換気しよっか」
窓を開けると凍える様な風が入ってきた
その風がやけに沁みる・・・
「お姉ちゃんこれからよろしくお願いします」
「うん こちらこそよろしくね」
従姉妹のゆーちゃんが陵桜学園に合格した
ここから通うため家に居候することになった
よりによって私が行きたかった陵桜学園・・・
ちょっとした嫉妬の感情も沸いてきた・・・
嫌なやつだな私って
素直に従姉妹の合格も喜べないなんて・・・
~数ヵ月後~
もう私の精神も限界に達しようとしてきた
学校では毎日毎日執拗なイジメ
家に帰るとゆーちゃんが自分の学校の話をしてくる
友達が何人出来ただの中学校との違いだの学校が楽しくて仕方がないだの・・・
私もそんな体験してみたかったよ するつもりだった
でも今の状況は?中学校のときと変わらずイジメイジメ
おかげで友達も出来てない
楽しいことなんか一つもないよ!
もはやゆーちゃんのその話を聞くだけでイライラする
胸が絞めつけられる イジメよりも辛い・・・
ゆーちゃんは何も悪くない
そんなこと分かってるのに・・・私はついに彼女に手を上げてしまった・・・
「今日学校でね―――」
「うん(またか・・・)」
「田村さんがね―――」
「うん(毎日毎日・・・・・・)」
「きっとお姉ちゃんとも気が合うよ」
「そうだね(ホントいいかげんに・・・)」
「ホントに陵桜学園に入って良かった 私幸せだよー」
プツン
その最後の一言で私の中の何かが切れた
バシッ!! ドカッ!!
私は思わずゆーちゃんをテーブルに叩きつけてしまった
「痛いっ! ど、どうしたの?お姉ちゃん・・・」
「どうしたもこうしたもないよ・・・ 毎日毎日その話ばっかり
幸せみたいで良かったね! そうだよね陵桜学園に入れたんだもんね!!
いいなーゆーちゃんは頭が良くて どうせ私はバカだよ! だから陵桜にも落ちてあんな底辺高校行って・・・
私? 私には友達なんかいないよ それどころか周りは敵ばっかり!
これ見てよ このアザ、傷 腫れが全然引かないんだよ?
幸せなんか私にはまったく来ない!! 楽しいことなんかない!!
私はこんな思いをしてるのにゆーちゃんは・・・・・・」
そこまで言って私は正気に戻った
つい感情のままに叫んでしまった・・・
目の前には怯えた目をして涙を流しながら何度も何度も私に謝り続けている従姉妹の姿
気が付くと私は家を飛び出していた
私は何て最低な奴なんだ・・・
関係ないゆーたんに当たるなんて
これじゃ学校で私を虐めてる奴らと同レベルじゃないか・・・
もう生きてても意味ない こんなクズなんか!
お母さんもうすぐそっちにいくからね・・・
私はある場所へ向かっていた
私が今いる場所は10階建てのビルの上
もうこんな人生に未練なんかない
お母さん・・・早く会いたいよ・・・
私は転落防止用のアミを乗り越えた
上から見ると思ったよりも高く感じた でも不思議と恐怖はなかった
これまで死ぬ事より辛い人生を送ってきた
ここを一歩踏み出した瞬間私は楽になれるのだ
ふと遠くの方に目が行った
陵桜の合格発表の日に見かけた3人の姿を発見したのだ
「あの3人友達になったんだね・・・」
3人は楽しそうにお喋りしながら歩いている 放課後にどこか寄り道でもしてるのかな?
私はこういうものに憧れてたのかもね・・・
私は泣きながら笑っていた
「神様・・・もしも・・・もし生まれ変われるのなら・・・・・・あのこたちのような友達が出来て・・・
そして毎日一緒に登校して、お話をして、どこかに遊びに行って・・・笑い合って・・・
そんなありふれた日々を・・・・・・・・・」
私は幸せへの一歩を踏み出した
(終)
最終更新:2024年04月23日 21:42