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2010年5月23日0時57分

 「エース中のエース」といわれた宮崎の種牛が口蹄疫禍(こうていえきか)に巻き込まれ、思わぬ最期を迎えた。感染の疑いが持ち上がり、殺処分された「忠富士(ただふじ)」だ。伝説の種牛を祖父に持ち、「宮崎牛」ブランドの期待を一身に背負っていた。

 2002年6月22日、宮崎市生まれの7歳。人間で言うと30代の「働き盛り」だった。

 母方の祖父は、冷凍精液が盗まれる事件が起きたこともある宮崎の伝説の種牛「安平(やすひら)」。優れた肉質の但馬牛(兵庫県)の流れをくむ「但馬系」の母と、体が大きく枝肉重量の大きい鹿児島県の「気高(けだか)系」の父との間に生まれ、「質量兼備の超大型牛」として全国的な人気を博していた。

 感染を逃れるため、宮崎県家畜改良事業団(同県高鍋町)から西都市の牧場へ避難した、「県の宝」とされるエース級種牛は6頭いるが、「とりわけ優秀」との呼び声が高かった。県内で今年度使用を予定していた約15万4千本の精液の、約4分の1を担うはずだった。

 祖父の安平は現在21歳で、事業団内で余生を送っていたが、口蹄疫の発生があったため殺処分の対象となり、そのときを待つ。それに続き、期待の忠富士まで――。しかも、孫の忠富士のほうが、早く迎えた死。「あまりに皮肉で無念な話」と県の担当者はため息をついた。

 「メタボを気にする人が増え、ヘルシー志向が高まるいま、とくに人気が高い種牛だった」。同県国富町で約220頭の肉用牛を飼育し、農林水産祭で内閣総理大臣賞の受賞歴もある畜産農家の笹森義幸さん(47)は、忠富士の魅力をそう表現する。

 笹森さんによると、忠富士の子は安平の子ほどサシ(霜降り)が多くなく「ヘルシー」なうえ、成長が早くて大きく育つため、飼育コストも少なくてすむ。結果的に手頃な価格で良質な「消費者に優しい」肉になるという。


 普通なら子牛の出荷まで9~10カ月はかかるが、忠富士の子は8カ月ほどで約280キロに育つ。枝肉の重量は一般的には430~440キロなのに対し、忠富士の子は500キロを超える場合もあるという。

 「うちも今後、忠富士の子の雌牛をメーンの母牛に据えようと思っていた」という笹森さん。忠富士の早すぎる死は「本当に残念」と声を落とした。(松井望美)
5月 防疫関係

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最終更新:2010年07月17日 03:57