実習用の牛、豚300頭殺処分
口蹄疫で、実習用に飼育していた牛や豚が殺処分された県立高鍋農では、野球部員らが悲しみを乗り越え、夏の大会に向けて練習に打ち込んでいる。球児たちは「今できることをやって、いい試合を見せたい」と意気込んでいる。(饒波あゆみ)
同校では、畜産科90人が実習用に牛53頭、豚281頭を飼育していた。5月23日に乳牛1頭に感染が見つかり、同25日にすべて殺処分された。
防疫作業をする人を乗せたバスや、消石灰を積んだトラックが間近を通るグラウンドで、選手たちは大きな声で白球を追いかけた。同科で豚の飼育を担当していた3年生の松浦文也君(17)もその一人。
実家は牛の繁殖農家だが、牛と違って1度に何頭も出産する豚に興味を抱いた。1年生の時から飼育に携わり、朝から晩まで出産に付き添ったこともある。「愛情をかけて世話をした分、成長してくれる」と、やりがいを感じていた。
殺処分の日。学校側は、牛や豚の鳴き声が聞こえないように配慮し、処分場の近くで寮生活を送る畜産科の生徒を学校の体育館に集めてスポーツ大会を開いた。しかし、「今頃、処分されているんだろうな」と思うと、豚の顔が頭に浮かんで離れなかったという。
埋却終了後、学校は3日間休校になり、グラウンドも1週間使えなかった。グラウンドに立てるようになると、豚を失った悲しみを野球にぶつけようと、練習にも熱が入った。しかし、口蹄疫の感染拡大を理由に夏の県大会の前哨戦、NHK杯は中止となり、練習試合もできなくなった。
「試合で実績が積めないのは残念」と松浦君。追い打ちをかけるように、実家の牛も口蹄疫に感染し、殺処分された。それでも野球に集中しようと、雨が降る日も、学校の敷地内でしゃにむに基本練習を繰り返している。
選手たちを見守ってきた塩月嘉仁監督(38)は、殺処分や試合の中止で、選手たちが一時目標を見失ったように思えた。しかし、悲しみを押し殺すかのように、がむしゃらに練習に打ち込む選手たちの姿に、夏の大会に向けて士気を高めているのを感じるようになった。
「一つでも多く勝って、農家の皆さんの元気や、選手たちの自信につながれば」と願う。
松浦君も「試合で活躍して、先生や親を喜ばせたい」と気合十分。高鍋農は大会初日(16日)の第4試合で、小林と対戦する。
(2010年7月11日 読売新聞)
最終更新:2010年07月14日 05:11