2010年5月19日3時3分
宮崎県で家畜の伝染病の口蹄疫(こうていえき)が広がっている問題で、鳩山政権は18日、(1)発生地から半径10キロ以内のすべての家畜にワクチンを打った上で殺処分とする(2)発生地から半径10~20キロの家畜をすべて政府が買い上げる――を柱とする対策を固め、地元自治体や農協などと調整に入った。
同県はこれまで、農林水産省の指針に従って、口蹄疫への感染や感染が疑われる家畜が確認された場合、同じ農場で飼われている牛や豚のすべてを殺処分としてきた。対象は18日夜の時点で約11万8千頭にのぼっている。10キロ圏を加えると、農水省の推計では、新たに牛4万頭、豚12万6千頭が殺処分の対象となる見通しだ。政府は市場価格の一定割合の手当金を畜産業者に支払う。
宮崎県はこれまで、農水省の指針に従って10キロ圏を「移動制限区域」として、家畜や、その死体の移動を禁じてきた。しかし今回の口蹄疫は感染力が強いため、政府は、この区域内の家畜をすべて殺処分して拡大を防ぐ必要があると判断した。一度に何千頭も殺処分することはできないため、あらかじめ対象の全家畜にワクチンを打ち、ウイルスの勢いを弱めた上で、順次処分する方針だ。ワクチンが使われるのは、国内の口蹄疫対策で初めての例となる。
さらに、家畜の移動を制限している発生地から10~20キロの「搬出制限区域」では、全頭を食肉に加工した上で、政府が市場価格に準じる価格で買い上げる。肉は流通させず処分する見込みだ。
口蹄疫対策を検討するために農水省が設置した専門家らによる委員会も18日、ワクチンの使用を検討するべきだという見解で一致した。
今回の口蹄疫で殺処分対象となっている約11万8千頭のうち、処分が終わったのは約5万頭にとどまる。
ウイルスは生きている家畜の体内で増殖する。委員会は「殺処分の遅れで、流行地域内で感染動物から出るウイルスがかなり濃厚になっている」という認識で一致。殺処分の対象となった家畜にワクチンを使い、処分を待っている間にウイルスが増えてしまう事態を防ぐ。流行地域外で健康な家畜を対象に予防的にワクチンを使うことは、当面想定していない。
政府がまとめた対策案については、宮崎県で現地対策本部長を務める山田正彦・農水副大臣が18日、東国原英夫知事ら自治体関係者、農協幹部と非公開で会談した際に打診した。
対策案を実行に移すには、感染が起きた農場内に殺処分を限定している家畜伝染病予防法の改正や、特別措置法の立法が必要との指摘もある。平野博文官房長官は18日の会見で「法改正でなければならないとなれば、与野党で理解を頂き、早急に対策をすることもあり得る」と述べた。
一方、赤松広隆農水相は18日の会見で、「所有者の了解を得ながら殺処分することは、今の法律でも読めないことはない」と述べ、法改正を待たずに、健康な牛も含めた殺処分を行えるという考えを示した。
鳩山由紀夫首相は18日夜、首相官邸で記者団に「(殺処分された家畜を)埋める場所を急いで決定し、すべての車両の消毒を徹底するのがスタートであり、さらにその次を考えていく」と述べた。
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宮崎県の東国原知事は18日、「非常事態宣言」を出した。法律などの根拠がある宣言ではなく、知事が独自に県民に危機を訴える目的だという。同日の定例記者会見で知事は、発生地域や周辺の県民に対して「不要不急の外出は控え、感染拡大防止に協力願いたい」と呼びかけた。
4月 対応 補償 農水省発表 防疫関係
最終更新:2010年07月18日 04:37