◇農家「肉質低下」「エサ代大変」
国内有数の畜産都市、宮崎県都城市で家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)の感染疑い例が確認されたことを受け、家畜の移動を禁じた移動制限区域(発生農家から半径10キロ)にある県内有数の食肉処理場「ミヤチク高崎工場」(都城市)が12日から稼働を全面停止した。実質、稼働停止状態の「ミヤチク都農工場」(都農町)と合わせ、県内の食肉処理能力はほぼ半減し、宮崎産の牛肉・豚肉の流通に大きな影響を及ぼしている。【桐山友一】
◇農相「近く再開させたい」
県によると、ミヤチク高崎工場は09年度、牛1万6126頭、豚22万9299頭の処理実績がある。県内7カ所ある食肉処理場のうち牛の処理頭数ではトップで、県内の約27%、豚は約21%を占める。同工場は10日午後から新たな搬入を停止し、残った枝肉の処理を進めていた。
一方、4月に制限区域内に入り、稼働を停止していた都農工場は、5月31日に国の特例で再開。搬出制限区域内(半径10~20キロ)の家畜の出荷を促すための稼働再開だったが、値崩れを懸念する農家やルートの問題などもあって搬入そのものが滞っている。今月3日以降は事実上、停止状態で、牛・豚計約7700頭の搬入予定が牛のみ90頭にとどまっている。
ミヤチクの高崎工場と都農工場を合わせた処理頭数は、牛で県内の約53%、豚で約40%にものぼる。
ミヤチクは食肉卸大手のスターゼン(東京)など1000以上の業者に食肉を供給しており、「ミヤチクの工場の稼働停止が長引けば、宮崎産の牛や豚の流通がかなり少なくなる可能性がある」(スターゼン広報IR室)と懸念が広がる。
ミヤチクは、近隣の都城市食肉センターや小林市食肉センターなどに牛・豚の処理を委託するよう調整を進めている。
ただ、処理能力に限界があるのも実情。都城市食肉センターは「既存の取引先からの依頼もあり、余力があれば可能な限り受け入れたい」と話している。
移動制限区域内の牛舎で約160頭を飼う都城市上水流(かみづる)町の肥育農家、谷ケ久保(たにがくぼ)守さん(55)は、JA宮崎経済連経由で多くの牛をミヤチク高崎工場へ出荷していた。今月は6頭の出荷予定だったが、口蹄疫の発生を受けてストップしたまま。毎月の牛のエサ代は約180万円にものぼるが、収入も途絶える状況で資金繰りに頭を悩ませる。
「このまま牛にエサだけをやり続ければ、皮下脂肪が厚くなって肉質が落ちてしまう」という。「2年前に飼料価格が高騰した際の借金もまだ返せていないのに、新たな借金はとても厳しい。もう、なるようにしかならない」と声を落とした。
◇ ◇
山田正彦農相は14日の衆院農林水産委員会で、ミヤチク高崎工場について「県と協議をして、できれば早い段階で再開にこぎつけたい」と述べた。
最終更新:2010年07月16日 03:49