宮崎日日新聞 激震口蹄疫へ飛ぶ(魚拓)


 口蹄疫の発生農場から半径10キロ内の牛や豚を対象にしたワクチン接種がほぼ完了したが、国が抜本的な防疫策のセットとして示した搬出制限区域(半径10〜20キロ)内の「緩衝地帯」化は先行きが見えない。皮や内臓といった食肉処理時の残渣(ざんさ)が処分できず、国が促す牛や豚の早期出荷のめどが立たないためだ。国や県は協議を続けているが、開始時期も補償内容も示されない農家はいら立ち、食肉処理場の能力に対し対象家畜数は膨大で「現実的に不可能だ」との声も上がる。

 国は19日、牛や豚をゼロにし、感染拡大の勢いを止める「緩衝地帯」をつくるため、農家に早期出荷を促し、損失分を国が全額補償する方針を打ち出した。移動制限区域内にある「ミヤチク」都農工場(都農町)の再開も特例で決定。しかし、残渣を受け入れていた肥料生産業者が都城市にあるため、同市内の農家などが「感染拡大を招く可能性がある」として難色を示し、計画は早々につまずいた。

 県循環社会推進課によると、残渣は焼却後、処分場で埋め立てるか、肥料などの原料として再利用する必要があり、埋却などは廃棄物処理法違反になるという。

 県などは、宮崎市大瀬町の廃棄物処理施設「エコクリーンプラザみやざき」での処分を検討しているが、関係団体には「輸送ルートの畜産農家の同意も必要で、食肉処理は当面の間は難しい」との見方を伝えている。

 与えられた時間は限られている。東京農工大農学部の白井淳資教授(獣医伝染病学)は「緩衝地帯化は早ければ早いほどいい。ワクチンを接種した牛や豚に抗体ができる1〜2週間以内につくるのが理想だ」と語る。

 農林水産省によると、早期出荷の対象となるのは牛1万6500頭、豚3万1800頭。一方、同工場の1日当たり処理能力は牛60頭、豚820頭にとどまる。仮に、搬出制限区域内にある「南日本ハム」(日向市)と合わせても、処理には豚で2週間、牛は9カ月以上かかる見込みだ。ある和牛肥育農家は「子牛や子豚は今も次々産まれている。誰がみてもさばき切れないのは分かり切っている」と対策の実効性を疑問視する。

 対象農家には具体的な補償や時期も示されておらず、国富町の和牛肥育農家山元正人さん(57)は「国はどこまで考えてものを言ったのか。見切り発車で農家は混乱している」と憤る。

 白井教授は「時間をかけ過ぎては緩衝地帯をつくっても意味がない。区域を狭めて対象頭数を減らすなど、柔軟な対応も必要ではないか」と話している。

(2010年5月27日付)


最終更新:2010年07月19日 04:29