■「畜産の宝守って」 「防疫に公平性を」
県家畜改良事業団(高鍋町)の種雄牛49頭の殺処分方針がなお波紋を広げている。政府は26日、その救済策ともとれる国保有の種雄牛提供を表明したが、東国原知事が「畜産界の宝」と述べるなど、県民に49頭の「助命」を求める声は根強い。一方、感染拡大防止や公平性の観点から、決められたとおり殺処分を実施すべきとの声もある。殺処分を前提としたワクチン接種がほぼ終了する中で、49頭の救済を望みつつも「ほかにどう説明すればいいのか」とのジレンマも。本県畜産を思えばこそ、苦悩は深い。
「種雄牛をつくるには約9年間の時間が必要。超法規的な判断も検討してほしい」。県議会自民党などの県議13人は26日、県庁に政府現地対策チームの小川勝也首相補佐官を訪ね、種雄牛49頭の救済を申し入れた。
宮崎牛復活に「49頭は欠かせない」という声は根強い。都農町の和牛繁殖農家女性(51)は「西都市に避難しているエース級5頭がずっと無事とは限らない。(児湯地区で)系統の良い母牛はいなくなるので、せめて種雄牛は途絶えさせないで」と訴える。政府が提供するという種雄牛については「市場での価値が分からない。地元の誇りである種雄牛の代わりにはならないだろう」と不安を隠さなかった。
逆に、川南町内の養豚業者は殺処分回避を求める県などに対し、「防疫意識が低い」と批判する。町内の牛・豚畜産農家が口蹄疫の拡大を防ごうと、必死に消毒作業に励んでいるが、感染を止められない。「県や家畜改良事業団は口蹄疫に関して認識が低すぎる。県が法律違反をするのもおかしい。49頭は殺処分すべきだ」と話した。
川南町の和牛繁殖農家松浦忠夫さん(55)は殺処分と「助命」の間で心が揺れ動いているという。松浦さんは「ワクチンを拒否している農家もいる中で、49頭を特例で助ければ示しがつかないだろう。しかし、多くの年月をかけてつくった種雄牛は大きな財産」と頭を抱えた。
JA宮崎中央会の羽田正治会長は26日、県庁を訪れ知事と懇談。その後の取材に対し「なかなか進まない家畜の埋却を進めるべきで、49頭については知事に一任した」と説明。種雄牛の問題よりも埋却を進め、口蹄疫の終息を最優先すべきだという思いをにじませた。
(2010年5月27日付)
最終更新:2010年07月19日 04:29