宮崎日日新聞 激震口蹄疫へ飛ぶ(魚拓)


 西都市の和牛繁殖農家の50代男性は、28日までワクチン接種を拒んでいる農家の一人だ。対象農家でほぼ接種が完了する中、気持ちの片隅にその覚悟はある。ただ、何の説明もなく突然、家族同然の牛がその後に殺処分される無念さ―。それをまだ受け入れられない。その思いを伝えたくて、25日、本紙に電話を入れた。県の28日の発表によると、27日までに1006戸12万4877頭で接種を終了し、拒否している農家は12戸508頭となった。

 「24日夜、西都市の対策本部から電話がありました。仲間の農家から前もって電話があることを聞いていたので、察しはついた。こっちから『ワクチンのことですか』と聞くと、『明日行きます』と言われた。死刑宣告みたいでした。電話越しに一方的に言われても到底受け入れられません。『前もって説明もなく、そんな話はできない』と興奮して言ってしまった。かわいい牛たちの顔が浮かんだ。20年間、盆も正月もなく、雨の日も牛の世話をしてきた。それを考えたら、『明日、死刑になりますよ』と電話口で簡単に言ってほしくはない」

 翌25日、今度は個人的に知っている橋田和実市長から電話があった。

 「市長が『どんげな感じですか』と遠回しに聞くので、『なんで私たちが犠牲に。家族同然の牛が殺されるのはたまらないことです』と。野菜だったら来年があるけど、牛は何十年もやって築き上げたもんですから」

 35歳の時に父親を亡くし、70代の母と2人で今の母牛19頭、子牛10頭の規模にまで拡大させた。「ここ2カ月は収入がありません。糖尿病を20年以上患っていて、本当は透析も受けんといかん数値です。母は落胆しながらも『殺処分は仕方ない。それより自分の体を心配して』と言ってくれます。牛飼いを再開するために、十分な補償がないと病院代も出ないでしょう」

 市から26、27日は連絡がなく、28日午後に橋田市長と市の幹部が直接訪ねてきた。それでも首を縦には振らなかった。27日には、それまで拒否していた近所の農家がワクチン接種に応じた。

 「悪いことはしていなくても、自分が迷惑を掛けていることは十分分かっているし、このまま自分だけが免れんことも分かっていますが…」。ワクチン接種の時は刻一刻と近づいている。

(2010年5月29日付)


タグ:

防疫関係 5月
最終更新:2010年07月19日 05:26