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家畜伝染病・口蹄疫(こうていえき)の問題で、宮崎県は26日までに、対象の牛や豚約12万5千頭へのワクチン接種をほぼ終えた。接種後の家畜は感染しても発症しにくくなるが、ウイルスが潜在化する。口蹄疫の封じ込めには、殺処分まで消毒を徹底し、「空白地帯」を一刻も早く設ける必要がある。「ワクチン作戦」が奏功するかどうか、正念場はこれからだ。

 同県都農町にある農場の50代男性は毎日朝、昼、夕の3回、牛舎内や屋根に消毒液を散布し、周辺の路上に消石灰をまくなど、消毒作業を欠かさない。競り中止で出荷できない子牛など約30頭を抱えて懸命の努力を重ねてきた。しかし、発生農場から半径10キロの移動制限区域内のため、殺処分を前提にしたワクチン接種の対象になった。

 処分がいつになるのか、めどは立たない。最後まで牛への愛情は消えないが「(防疫の)意識がちょっと薄れてしまうのは確か」。消毒作業と並行し、新たな母牛の調達準備も進める。「必ず再開できる、という思いだけが支え。廃業せざるをえない農家は、とても消毒を続ける気持ちになれないのでは」と話す。

 町は、ワクチン接種対象の約200戸に「注射後の牛・豚はウイルスを持っていると考えて、消毒を徹底してください」との文書を郵送した。

 接種後、1~2週間で体内に免疫ができ、感染してもウイルスは増殖しにくくなる。半面、症状も出にくくなり、知らぬ間にウイルスが周囲に漏れる可能性もある。

 町によると、一部の農家には当初、「ワクチンを打てば口蹄疫にかからない」との気の緩みがあった。収入を断たれた農家が殺処分を待つ間、消毒を徹底できるのか、という心配もあるという。

ワクチン接種とともに、国は、発生農場から半径10~20キロの搬出制限区域の牛や豚を食肉処理して早期出荷する方針だ。ウイルスは生きた牛や豚の体内でしか増えないので「空白地帯」を設け、ウイルスの拡散を防ぐ狙いがある。

 農林水産省によると、対象は牛が約1万6千頭、豚が約1万5千頭。国と県は、都農町の移動制限区域内にある操業停止中の食肉処理場を特例で再開させることを決めた。

 しかし、対策の発表から1週間過ぎても再開時期は未定だ。食肉加工で出る骨や内臓などの処理施設が移動制限区域外にあり、運び出せないためだ。加工場の関係者は「運び出すには農家の理解が必要。県など関係機関で協議してもらわなければ」と話す。

 政府の現地対策本部を指揮する小川勝也首相補佐官は26日、「どのような形で理解を得て、搬出するのがいいのか、まだ詰めが残っている。農家の皆さんや県の考え方などを整理し、方針を決めたい」と語った。

2010年5月27日19時40分


最終更新:2010年07月19日 04:36