えびの市で発生した口蹄疫の影響を受け、4月下旬から1カ月余、生きた牛豚や関連物の移動が禁止された湧水町吉松地区。稲作が盛んな同地区では、規制の結果、田植え前に堆肥を入れての土作りができなかった農家も多く、一部で減収の懸念も出ている。
同地区の田植えは6月上旬から本格化する。農家は通常、田植えの1カ月半ほど前までに、牛ふん堆肥を散布して土作りを行うが、口蹄疫により4月28日以降、堆肥の散布ができなくなった。
「移動制限区域に入ると、堆肥も動かせなくなるなんて、ほとんどの米農家は知らなかった」と話すのは、旧吉松町で農業委員を務めた同町川添の福吉康夫さん(77)。
日置市の酒造会社と契約し、12ヘクタールで焼酎用麹米を有機栽培する竹中池湧水有機生産組合(組合員25人)は特に大きな影響を受けた。
同組合は、10アール当たり2トン投入する牛ふんの完熟堆肥と田植え前に散布する同150キロの有機肥料だけで有機米を栽培している。
昨年は収穫前にウンカ被害に遭ったことから、同組合は今年、被害防止策として田植えを例年より10日遅らせ6月中旬にする取り決めをしていた。このため、有機米部会の15農家が土作りを始める前に、移動制限区域が設定されてしまった。
栽培8ヘクタールのうち2.7ヘクタールで有機米を作る部会長の同町川添、桑原利浩さん(46)は、「慣行栽培分は化学肥料の追肥などで補っていけるが、有機の田は収量減を覚悟しないといけない」と話す。
移動制限は4日午前0時に解除されたが、堆肥を田に投入してなじませる時間はない。桑原佐年組合長(62)は、顧問の元農協営農指導員上畠勝さん(67)=えびの市飯野=と話し合い、稲の生育を見ながら、8月上~中旬に有機油かすを追肥する方針を決めた。「1割程度の減収にとどめたい」(上畠さん)と願う。
桑原組合長は「口蹄疫の影響は畜産農家だけでなく、あらゆる分野に及ぶことが移動制限区域に入って初めて理解できた。だからこそ、地域住民が共通認識を持ち対応するのが大事だ」と話す。
最終更新:2010年07月17日 05:45