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殺戮を大いに行う涼宮ハルヒのための団 - (2008/11/14 (金) 17:32:07) のソース
*殺戮を大いに行う涼宮ハルヒのための団 ◆NIKUcB1AGw 「午前7:00から F-02 午前9:00から E-10 午前11:00から E-03 」 古泉一樹は、放送を聞きながらメモ用紙にペンを走らせる。 自分の近辺が禁止エリアに指定されなかったことに、彼はわずかな安堵を感じていた。 しかし、まだ気を緩めるわけにはいかない。死者の発表という重大事項が残っているのだから。 古泉は、仲間の名が呼ばれないことを心から祈る。だがその思いは、あっけなく打ち砕かれた。 「涼宮ハルヒ」 その名前が呼ばれたとたん、古泉は思わず手にしたペンを取り落としていた。 (涼宮ハルヒが……死んだ……?) あまりにも早く、あまりにもあっけなく告げられた、守るべき人間の死。 それは古泉の明晰な頭脳を、混乱の極致に追い込む。 考えなければならないことがあるとはわかっているのに、頭の中が真っ白になって何も考えられない。 もはやそのあとの放送は、彼の頭に入っていかなかった。放送が終わっても、古泉はいっさいの反応を見せない。 だがその直後、小屋の外から聞こえてきた声が、彼の停止した脳を覚醒させた。 「うおおおおおおお!!」 まるで、獣のような叫び声。だが古泉はその絶叫に、親しい人物の声を見いだしていた。 (まさか……彼が近くに?) 未だ痛みを訴え続ける体を無理に動かし、古泉は小屋の外へ飛び出した。 ◇ ◇ ◇ あれから、どれだけ走っただろうか。 現在地を確認するために地図を取り出そうとして、荷物を学校に置いてきたことに気づく。 この体になると食事は必要ないらしいので食料はなくしてもかまわないが、地図がないのはさすがに不便だ。 (まあいいか……殺したやつから奪えば) そうだ。別に地図は俺しか持っていないわけじゃない。どうせ他の連中を殺すんだ。 殺したやつが持ってた地図を奪えばいい。 「みんなおはよう」 そんなことを考えていたら、どこからか声が響いてきた。どうやら、主催者様の放送とやららしい。 まず、禁止エリアとかいうのが発表される。メモを取りたいところだが、あいにく筆記用具が手元にない。 仕方ない、これもあとで死体からぶんどるか……。それまでは、自分の頭に叩き込んで忘れないようにしないとな。 「そしてもう一つ、お待ちかねの死者発表だよ」 死者……。その言葉を聞いただけで、胸が痛む。落ち着け、俺。もう吹っ切ったんだ。いや、吹っ切らなきゃいけないんだ。 「涼宮ハルヒ」 いくらそう考えても、無駄な抵抗だった。ハルヒの名前を聞いたとたん、俺の中の罪悪感がふくれあがる。 ああ、そうだ。夢でも幻でもない。俺は、涼宮ハルヒをこの手で殺したんだ。 わがままで、無茶ばっかりして、俺たちを散々振り回して……それでも、一緒にいたいと思っていた女を。 悲しみとか後悔とかいったマイナスの感情が、胸の中で暴れ回る。 苦しいなんて言葉じゃ表現できない感情の流れが、俺の心を蹂躙する。 死んだ方がましなんじゃないかとすら思えてきた。けど、俺はまだ死ぬわけにはいかない。 俺は他の参加者を皆殺しにして、優勝しなけりゃならないんだ。死ぬのはそれからだ。 強く強く自分に言い聞かせて、俺は何とか持ち直す。 しかしそこまで頑張って立ち直った俺の心を、放送を読み上げるおっさんはいとも簡単に粉砕してくれた。 「さっき死んだ五人の中にはねぇ――――長い付き合いの、仲良しの友達に殺された人もいるんだよ」 俺のことか。俺のことをピンポイントで言ってるのか、おい。 「いやいや、実に立派。 殺し合いだもの、情も思い出も切り捨てる、かっこいいねぇ」 違う、そうじゃない。俺は、あいつを守りたかったんだ。 人間をやめてでも、無関係の人間を殺してでも、俺はハルヒを、みんなを、SOS団を……。 「うおおおおおおお!!」 気が付けば、俺は叫んでいた。昨日までの俺が客観的に見ていれば、ドンビキするだろう大声で。 それだけでは足らずに、俺は地面に自分の拳を突き立てる。何度も、何度も。 自分の中の激情を、暴力で発散するしかない。自分から見ても惨めだ。 だが、他にどうすればいい! このやるせない気持ち、どうやって打ち消せばいい! そんな自問自答を繰り返す。だが、それも長くは続かない。 俺に向かって、誰かが近づいてくるのに気づいたからだ。ヒーローのような中世の騎士のような、奇妙な仮面をかぶった男だった。 この抑えきれない感情は、あいつにぶつけてやればいい。最初はそう思った。 だが、俺は気づいた。気づいてしまった。そいつが着ているのが、北高の制服だってことに。 アホの谷口や国木田の名前は、名簿にはなかった。つまりあいつは……。 いや、考えたら不必要な迷いが生まれる。よけいなことは考えるな。 あいつは俺が名前を知らない、会ったこともない北高の生徒だ。そうであってくれ! 時間をかければ、それだけ迷いが大きくなる。一撃で殺す! 俺は肘から刃を出現させ(最初に読んだ説明書によれば、高周波ソードというらしい)、一気に踏み込んでそれを振り下ろす。 だが、踏み込みが浅かったらしい。刃は、仮面に浅い傷を付けただけだった。 「待ってください!」 仮面野郎が、声をあげる。やめろ、喋るな。声であいつだってわかっちまうじゃないか。 そんな俺の願いを踏みにじるかのように、仮面野郎はその仮面を脱ぐ。 それによって、俺のちっぽけな自己暗示は意味をなさなくなってしまった。 「わかりませんか、僕の顔」 ああ、わかるさ。1年足らずの高校生活の中で、さんざん見てきた顔だ。 この殺し合いには48人も参加してる人間がいるってのに、なんで俺は知り合いにばっかり出くわすんだ。 あとは朝比奈さんと朝倉でコンプリートじゃないか。 これは何か? 運命の女神の導きか何かか? だとしたら運命の女神ってのは、人の不幸を見てげらげら笑うのが好きな性格ブスに決まってる。 つまり、何が言いたいのかというとだ……。目の前の男は紛れもなく、SOS団副団長古泉一樹だった。 ◇ ◇ ◇ 自分が素顔を晒したとたん、動きが止まった。その事実から、古泉は目の前の怪人が自分の捜していた人物であると確信する。 外見に面影も何もないが、それはお互い様だ。先程見せた能力も考慮すると、支給品の強化服か何かなのだろう。古泉はそう推測した。 何はともあれ、自分だとわかってもらえれば攻撃を受けることはないはず。 いつもの微笑を浮かべ、古泉は目の前の男に話しかける。 「気づいてもらえたようですね。だいぶ気が立っているようですが、まずはお話を……」 「その必要はない」 「え?」 相手の予想外のリアクションに、古泉の表情が曇る。 「悪い、古泉。死んでくれ」 キョンは、淡々とした声で告げる。そして、今一度高周波ソードを振るった。 その刃は、古泉の肩を切り裂く。だが、やはり浅い。 (くそっ! まだ迷ってるのかよ、俺は!) 誓ったはずだった。知り合いであろうと、容赦なく殺すと。だが、それが出来ない。 自分の甘さに、キョンは苛立ちを募らせる。 (今度こそ!) 三度攻撃態勢に入るキョン。だが、その攻撃は古泉の声に止められる。 「待ってください! いくらなんでも、何の説明もなく知り合いを殺そうとするのはひどいでしょう! せめて理由を教えて……」 「話す必要なんかないと言ったはずだぜ!」 「涼宮さんですか……?」 「!」 古泉の口にした名前に、キョンは明らかな動揺を見せる。 「やはりそうですか……。涼宮さんが死んだことを知って、彼女を生き返らせるために優勝を狙うつもりなんですね?」 「……少し違うな。俺は、最初から殺し合いに乗るつもりだったんだ」 「え?」 古泉の顔に浮かぶのは、困惑の色。それも当然だろう。 普段のキョンを知る者なら、彼が積極的に殺人を犯す様子など想像できるはずがない。 「俺はみんなを守りたかった……。みんなで日常に帰りたかった! だから俺は、自分の手を血に染めてでも……!」 「落ち着いてください、言ってることがつながってませんよ」 「落ち着く……? 落ち着いてられるかよ……。俺は……俺は! 殺しちまったんだよ! 一番守りたかったやつを! ハルヒを! この手でな!」 「な……!」 キョンの告白に、古泉は絶句する。これまでさんざん衝撃を受けてきた彼だが、今回のそれはもっとも強く彼の心を揺らしていた。 キョンがハルヒを殺す。一体何があって、そんな結果に至ったのか。古泉にはまったく想像が出来ない。 「笑えるだろ……? 人間やめてまで、無関係の人間殺してまで守ろうとした女を、自分で殺しちまったんだからな……。 完全に道化だよ……。だから俺は、もうとことんまで道化に徹してやる。 最後まで生き残って、優勝のご褒美で長門に全員生き返らせてもらう。それが俺に出来る償いだ。 ということで古泉、死んでくれ。大丈夫、お前も俺が優勝したら生き返らせてもらうから」 もう話すことはないとばかりに、キョンは今一度刃を構える。 そのキョンを見据えながら、古泉ははっきりと言い放った。 「お断りします」 「何……? そうか、まあそうだよなあ。ハルヒを殺した俺の言葉なんて、信用できないよな」 「そうじゃありません。あなたの決意を信用しているからこそです」 「どういうことだ」 「あなたが修羅の道を行くというのであれば……僕もお供しましょう。そういうことです」 古泉が申し出たのは、キョンと自分との共闘。しかし……。 「断る」 キョンはその申し出を、即座に却下する。 「俺は、自分の仲間に手を汚してほしくない。罪をかぶるのは、俺一人で十分だ。 自己満足だとわかっちゃいるがな……。だから死んでくれ、古泉。今すぐに」 「なるほど、僕が手を汚すのがいやだと……。なら、手を汚さずあなたに協力すればいいんですね?」 「そんな方法があるってのか?」 「ええ。僕が主催者に対抗できる仲間を捜していると偽って、他の参加者を集めます。 そして人数が集まったところを、あなたが不意打ちで……」 「一網打尽、ってことか……」 「ええ、どうやら今のあなたは常人離れした戦闘力を手に入れているようですから、不意打ちなら複数の敵相手でも大丈夫でしょう。 これならあなたの希望も僕の希望も叶えられますが……。いかがです?」 「…………」 キョンは、即座には答えを出さない。彼が口を開くのを、古泉は息を呑んで待つ。 「一つ聞かせろ、古泉」 「何でしょう?」 「なんでそこまでして、俺に協力しようとする。死にたくないからか?」 「もちろん死ぬのは嫌ですが……。それだけじゃありませんよ。 涼宮さんの保護は、僕が『機関』から与えられた使命です。それを達成できなかった以上、僕は責任を取る必要があります。 涼宮さんを復活させられる可能性がある以上、僕は自分の手を汚すこともためらいません。 それに使命云々を抜きにしても、僕は涼宮さんやSOS団が好きです。もちろん、あなたも。 友達の役に立ちたい。これだけで十分だと思いませんか?」 微笑を浮かべながら、古泉は語る。 「……今日ほどお前の笑顔が胡散臭いと思った日はないぜ」 「ははは、これは手厳しい」 「まあいいさ。その話、乗ってやるよ」 「わかっていただけましたか。ありがとうございます」 「だがな、古泉。最後にはお前にも死んでもらう。それは覚悟しておけよ」 「ええ……。もちろんです」 笑みを消し、古泉はキョンの言葉を受け入れた。 ◇ ◇ ◇ その後二人は地図を広げ、本格的な策を練り始めた。 「僕たちの現在地は、G-7です。とりあえず、この島で僕らが行っていないところを埋めていきましょう。 僕は東に向かい、モールやゴルフ場の辺りを探索してみます。あなたは南西に向かい、レストランや別荘群を探索してみてください。 ああ、博物館には近づかないでくださいね。まだ危険人物がいるかも知れませんから」 すでにキョンのここまでの道のりを聞いていた古泉は、お互いの移動ルートをそう定める。 「そして今から半日後……午後6時にここで落ち合わせるということでどうでしょうか」 「ああ、それでいい」 「では、早速行動を……ああ、そうだ」 「どうした?」 「こう灰色と白の毛並みの……丸っこいシルエットのもふもふっとした巨大生物に会ってませんか?」 「……なんだ、その小学生が妄想したようなおもしろ動物は。見てないぞ」 「そうですか、ならかまいません」 あっさり話題を切ると、古泉は地図を自分のデイパックにしまう。 「それでは、半日後にまたお会いしましょう」 「ああ、そうだな」 キョンと古泉は、それぞれ自分の向かう方向へと歩き出す。しかし二人の距離が10mと離れないうちに、キョンが口を開いた。 「古泉……」 「なんでしょう」 「俺がお前を殺すまで、誰にも殺されるなよ」 「了解しました」 苦笑を浮かべながら、古泉は世間話でもしているような声色でキョンの言葉を肯定した。 ◇ ◇ ◇ 「さて……」 キョンの姿が見えなくなると、古泉はその足を止めた。 (我ながら、とっさに考えたにしてはいいアイディアでしたが……。どうしますか……) 古泉は迷っていた。自らが考案し、キョンに伝えた作戦を実行するかを。 あれははっきり言って、自分の命を守るための出任せだ。しかし、実行する意志が皆無ではない。 古泉も優勝してハルヒを生き返らせるというキョンの案に、魅力を感じないわけではなかった。 だが彼は、キョンほど長門を全面的に信用していなかった。 長門の力が常人の常識を超えているということは、古泉も知っている。 だが、果たして死んだ人間を生き返らせるという行為まで可能なのか? 彼はその点に確信が持てなかった。 消滅したはずの朝倉がこの殺し合いに参加している、という事実は確かにある。 だが彼女は、長門と同じ対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。早い話が人間ではない。 人間より簡単に消せるということは、人間より簡単に再生できるということにならないだろうか。 なぜか一瞬、再生に失敗してちっちゃくなった朝倉を想像してしまい和んだが、それは置いておく。 とにかく彼女を蘇生させられるからといって、他の人間も蘇生させられるという証明にはならない。 とはいえ、「絶対に出来ない」と言い切る根拠もない。 蘇生を完全に否定できるなら何が何でもキョンを止めたのだが、古泉に結論を出せるだけの情報はなかった。 出来ないかも知れない。しかし、出来るかも知れないのだ。 (なんにせよ、涼宮ハルヒと合流するという目的がなくなった今、他にやるべきこともありませんし……。 とりあえず動いて損はありませんね……) 止めていた足を、再び動かし始める古泉。その脳裏に、ふと心優しい獣の姿が浮かぶ。 (トトロ……。ひょっとしたら、あなたとは道を違えることになるかも知れませんね……。 許してくれとは言いません。必要とあらば、僕は迷わず殺戮の道を行きます。 僕にとって涼宮ハルヒはすべてとはいかなくても……人生の中であまりに大きな割合を占める存在なんです) 再びロビンマスクの仮面に素顔を隠し、古泉は行く。 目の辺りから縦一文字に傷が入ったその仮面は、涙を流しているようにも見えた。 【G-7 採掘所/一日目・朝】 【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】 【状態】疲労(中)、脇腹・胸部に痛み(肋骨にヒビ?)、右肩負傷、精神的疲労(中) 、強い迷い 【装備】ロビンマスクの仮面@キン肉マン 【持ち物】ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジカメ@涼宮ハルヒの憂鬱、不明支給品1、デイパック(支給品一式入り) 【思考】 1:本当にハルヒが蘇生できるなら、キョンに協力するが…… 2:何にせよ仲間は必要なので、島の東部を探索して他の参加者を捜す。 3:みくる、キョンの妹と合流は一時保留? 朝倉涼子は警戒。 4:午後6時に、キョンと合流。 【備考】 ※ほんの僅かながら、自分の『超能力』が使用できる事に気付きました。 ※『超能力』を使用するごとに、精神的に疲労を感じます。 ※ロビンマスクの仮面による火炎放射には軽度な精神的な疲労を伴いますが、仮面さえ被れば誰にでも使用できます。 【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱 【状態】健康、0号ガイバー状態、返り血に塗れている、精神的に不安定 【持ち物】なし 【思考】 1:仲間も含めた参加者は全員殺す。そして、長門に仲間を蘇生してもらう。 2:島の南東を周り、見つけた参加者を殺す。 3:午後6時に、採掘場で古泉と合流。 4:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう ※ハルヒを殺したことへのショックでやや精神不安定ですが、理性はあります。 *時系列順で読む Back:[[君が残した光]] Next:[[灼熱のファイヤーデスマッチ!の巻]] *投下順で読む Back:[[君が残した光]] Next:[[灼熱のファイヤーデスマッチ!の巻]] |[[倦怠ライフ・リターンズ ]]|キョン|[[キョン> キョン]]| |[[優しい隣獣]]|古泉一樹|[[追撃への序曲]]| ----