クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2006.02.10

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kuriari

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クリフトとアリーナの想いは Part4.2
155 :煩悩神官が現れた!:2006/02/10(金) 11:06:32 ID:oQS9E1y20

―――夢を見た。
   姫様が驚いていた。
   姫様が怒っていた。
   姫様が笑っていた。
   姫様が・・・抱きついてきた・・・頬を伝う涙・・・そして

   私が最後に見た光景は、真っ白なシーツに赤いシミ―――


「クリフト、知ってるか? イムルで見る夢は『正夢』らしいぜ?」
ソロさんの言葉を聞いた瞬間、私は己が如何に愚かな人間であるかを思い知った。
あのような夢を見てしまった、それだけでも罪深いというのに・・・

―――私は彼の言葉を耳にした瞬間、己がうちで欲望という名の獣が
目覚めるのを確かに感じたのです。


ステンドグラス越しに注がれる月の光に、
私はかなり長い時を過ごしてしまったことに気づいた。
己の心の脆さに震撼して、教会に駆け込んだのが早朝。
月の高さからみて、そろそろ真夜中に差し掛かる時刻ではないだろうか。
祈って祈って祈り続けた。だがまだ己の内の浅ましい欲望は消えたわけではない。
どれほど懺悔しても、私の汚さが消えるわけではない。
結局は私がその欲望を理性で抑え続けていくしかないのだ。
無垢な姫様を己の欲望で汚すわけにはいかない。
私が男であるにもかかわらず、姫様の側仕えとして容認してくれた王の信頼を
裏切るわけにはいかない。それに『約束』もある。
己の立場はわきまえている。まだ、大丈夫だ。私はまだ、壊れていない。
私はサントハイム王国の神官、クリフト。まだ、大丈夫、だ。
祈りの姿勢で強張った体を無理矢理立たせ、私は宿に向かった。

宿の中はほとんどの照明が落とされていた。
私はかすかな空腹を覚え、カウンターで帳簿を付けていた
宿のご主人に許しをもらい食堂でお茶を飲むことにした。
何かお出ししましょうか、というご主人のご厚意を辞退し、
人気のない厨房でひとりお茶を入れていると、戸口が遠慮がちにゆっくりと開いた。
      • 姫様!?
その人影が誰であるかを認めた瞬間、私の心の蔵がはねた。
落ち着け、という思考と裏腹に鼓動はますます早まっていく。
音を立てないように静かに入ってきた姫様も、私の姿を見つけると、
少し驚いたような顔をした。
「クリフト、今帰ったの?」
「姫様・・・はい、ただいま戻りました」
薄い夜着に柔らかなローブ。薄暗いランプに照らし出された姫様は天使のよう。
「こんな時間までおきていらっしゃったのですか?」
「ん、ちょっと寝付けなくって。お水でももらおうかなと思って降りてきたの」
「そうですか。あ、いまお茶を入れたところです。ご一緒にいかがですか?」
「そうね、折角だからもらおうかしら」
いつもどおりの会話。いつもどおりの笑顔。大丈夫だ。
姫様を席に着かせ、カップを手渡す。
「熱いですから。気をつけてくださいね」
姫様は、ありがとう、と嬉しそうに受け取った。
が、私の顔をまじまじと見つめると、急に表情を曇らせうつむいてしまった。
「姫様?」
私は何か粗相をしてしまったのだろうか?変な顔をしていたのだろうか?
少しうろたえ口を開きかけた私を制すように、姫様が顔を上げた。
澄んだ瞳が私を捉える。

「クリフト、あなたね、何でも背負い込みすぎよ!」
いきなり強い口調で投げつけられた言葉。姫様は怒っていた。
「ソロから聞いたわ。あなた、『夢』にショックを受けて教会に
こもっていたんですって? 確かにあの『夢』は衝撃的だったけど、
まだ正夢と決まったわけではないわ。運命なんて変えてしまえばいいのよ。
なにより、あなたが罪を感じる必要はないわよね。それなのに一日中、
そんなに疲れ果てるまでお祈りするのって、おかしいじゃない!」
姫様はそこで言葉を切ると、かぶりを振った。
「ううん、ごめんなさい。そんなことが言いたいんじゃないわ。
私ね、あなたが、いつでも無理しすぎるから、その、・・・」
      • 心配だったのよ。
消え入りそうに呟かれた言葉。
それは私を気遣うもので、とても優しさに満ちていた。
「もしかして、それをおっしゃるために?」
姫様は視線をそらしながら、かすかに頷いた。
眠れなかったのではないのだ。私にそれを言うために起きていてくださったのだ。
姫様、私などのために。あぁ、姫様、姫様、姫様!
こみ上げる想い。いとおしいと、心底思う。
「ありがとう・・・ございます」
万感の思いを込め、やっとの思いでつむぎだした言葉は、少し掠れて。
そんな私の動揺を知ってか、知らずか。
姫様は「わかればいいのよ」と少し頬を赤くしながらカップに口を付けた。

優しい時間が過ぎた。
「目が冴えてしまったから少し付き合ってよ」とおっしゃった姫様は、
村で見聞きしてきたことを楽しそうに話してくれた。
特に同じ年頃の女性との会話は、姫様の一番のお気に入りだったらしい。
大きな目がきらきらと輝いてとても美しく、私はつい見惚れてしまっていた。
「ねぇ、クリフト・・・クリフト?」
ぼんやりして見えたのだろうか。姫様がこちらを伺うように覗き込んできた。
「眠くなっちゃった?もう寝に行く?」
「大丈夫ですよ。もともと夜更かしは得意な方ですからね」
「そう?でも、やっぱりなんか元気ないわね・・・。そうだわ!」
そうおっしゃると、姫様は立ち上がり私の傍にやってきた。
「ね、元気の出る『おまじない』してあげる」
「『おまじない』ですか?」
私が不思議そうな顔をすると、姫様は「そう、とっておきの、よ」と、
ちょっと照れたような、はにかむような笑顔を見せた。

その瞬間、私は強い既視感におそわれた!この光景、どこかで・・・!?

そっとさしのべられる腕。それはとても優しく私の頭を抱き寄せて。
「!?」
気がついた時には姫様の胸の中に納まっていた。姫様のやわらかい双丘に
包み込まれるように。
「今日教えてもらった『おまじない』、よ。大切な人にしてあげるとね、
その人が元気になるんだって」
「ひ、姫様、いけま・・・」
私が声をあげようとすると、姫様は胸を押し付けるようにして口を封じた。
胸の柔らかさ、姫様の鼓動、そして暖かなぬくもりが、私の本能を刺激する。
己のうちの獣が目覚める。このまま流されてしまえと獣が叫ぶ。
理性と本能がせめぎあい己が裂けてしまいそうだ。
私は歯を食いしばり、必死になって理性を保つ。
そんな私の鼓膜を姫様の震える声が打った。
「クリフト、あのね、私ね、私ね、あなたのことずっと・・・」
全身が総毛だった。姫様は何を言おうとしているのか!
駄目だ。言わせては、駄目だ。歯止めがきかなくなる。 
私は全身に力をいれ、姫様を引き離した。
「姫様、いけません。そのようなことは一国の姫君のなさることでは
ございません!」
私の剣幕に、姫様はビクッと体を強張らせた。まっすぐに私を見つめる瞳に、
驚きと戸惑いの色が見える。そして拒絶されたことに対する悲しみも・・・。
私は一つ呼吸をすると、自らの迷いを吹っ切るかのように、
ゆっくりと話し始めた。

「姫様、私はあなたの臣下です。そして一介の神官にすぎません。
身分が違いすぎます」
「そんなこと、わかってるわ!でも」
「姫様!私が申し上げることをお聞きください。
いいですか?今、わが国がどのような状況におかれているかはご存知でしょう。
このような時に、陛下のご不在の折に、私に何をお求めになるのですか」
姫様の瞳から悲しみが溢れ出した。陶磁器のようにすべらかな頬をきらめきながら
滑り落ちていく。私は激しい胸の痛みを覚えながら言葉をつむぎだす。
「姫様。あなたは、今のサントハイムを見捨てることはできますか?
もしお出来になるのでしたら、このクリフト、あなたをさらって
どこへなりとでも行きましょう」
姫様は、はっとしたように私を見た。
「お出来にならないでしょうね。私の姫様は、そういう方ですから」
「クリフト、私・・・」
「姫様。多分、今の私があなたの望むことをすることは、その、
難しいことではありません。でも、あなたは本心からそれをお望みですか?
違うでしょう?陛下を、お父上を裏切るような行為をあなたはお望みにならない。
ですから、私は今、あなたのお気持ちをお受けすることはできないのです」
そう、今であってはならない。
今、姫様を抱くことは、私が好きな『あなた』を永遠に失うことに繋がるから。
身分が違う、立場が違う、それ以前に祝福されない状況で情に流されることは
あってはならない。
私はあなたを失いたくない。いつもまっすぐでくもりのない『あなた』を。

姫様は、ずっと黙っていた。
そして長い沈黙の後、ひどく寂しそうにポツリとつぶやいた。
「私は、旅に出る前、王女である前に一人の人間でいたかった」
えぇ、だから旅に出られたのですよね。
「でもね、今の私は自分が王女であることを捨てられないの」
そうですね、あなたは捨てられない。捨てられるわけがない。
あなたが本当に欲しかったのは王女である自分を一人の人間として
受け入れてくれる世界だったのだから。
そして姫様はそのことに気づいてしまった。
「姫様。そんなに悲しそうな顔をなさらないでください。
私はとうに覚悟しておりましたよ」
本当はもっと先に・・・姫様が十分大人なってから伝えるはずだった言葉。
目を伏せうつむいている姫様を見つめ、多分、今言うべき言葉なのだろうと私は思った。

「あなたが王女を辞められないなら、私があなたにふさわしい男になるだけですよ」

その言葉に、姫様が目を瞠る。私は姫様の髪を手で梳きながら微笑んだ。
大それたことだと思う。しかし、それしかあなたを手に入れる手段はなかった。
だから私は、寝る間も惜しんで勉学に励んだ。
王の信用を得るために、必死になって己と戦ってきた。
あなたが王女だからといって、諦められるほど私は強くない。
欲しいものは欲しい。どんな手段を使っても。
今のままのあなたを得られるのなら苦労のしがいがあるというものだ。
「姫様、私はあきらめませんから」
なんて自分勝手で、傲慢な。
受け入れることも、拒絶することも、そして約束すら出来ない。それでも。
「あきらめませんから」

―――――私は『アリーナ』を愛してしまったのですから。

「クリフト、ありがとう」
姫様が微笑んだ。
それは今までに見たこともないほど、大人っぽく、艶やかで。
彼女が今、『花』から『華』へと変化したのだと感じた。
「よ~し、こうなったら一刻も早くお父様たちを見つけ出さなくっちゃ!」
息を呑んだその瞬間には、姫様はいつもの姫様に戻ってしまっていて。
私は少し残念に思いながらも、あの姫様で迫られていたら理性が持っただろうか、
などと暢気に考えた。
「そうと決まったら、今日はもう寝ましょう!」
姫様の元気に思わず私の顔も綻ぶ。
「おやすみなさいませ、姫様」
「おやすみのキスは?」
「だめです」
「ケチ」
      • 勘弁してくださいよ。
わざと唇を突き出してくるその姿が妙にかわいらしくて、
またそのすねた様子が男心をくすぐって。
私は腕を伸ばし、姫様の頭をくしゃくしゃと撫でた。
子ども扱いされて、ちょっと不満そうだった姫様だったが、
どうやら納得してくれたようで、来た時同様、静かに食堂を出て行った。


昇る音を聞きとげると、私はほうっとため息をついた。
ふらりと椅子に腰掛け、机の上にうつ伏せる。
洗いたての真っ白なテーブルクロスから立ちのぼるお日様のかおりが、
姫様の姿を連想させた。

実のところを言うと、姫様が知らないことがある。
あれは旅に出る直前のこと、私は陛下と神官長様に呼び出され、
こう申し付けられていた。
アリーナの旅に同行せよ。そしてその間、全身全霊をかけて守るように。
  ただし、アリーナに手を出した場合、そなたの男性機能は永遠に失われることになる。
  そなたの理性に期待する。
つまり、姫様の貞操の危機は、私の『男』としての危機でもあったわけで。
私は身震いした。
あのまま流されなくて良かった・・・。

陛下は侮れない方である。私が入念に秘密裏で動いていたことすらお見通しであった。
神官職を選んだのは、少しでも長く姫様の側にいるため。
いかにも欲のなさそうな顔をして、周りを欺くための手段。
そして身分の低い私が知識を吸収することができ、かつ最短で出世できる道だったからだ。
また、姫様のお側でお仕えすることにより、宮廷の作法等を学ぶこともでき、
下働きの者たちとも親交を持つことにより、城の内情に精通することもできた。
神官職というのは特殊で、人からの信頼を得やすい立場にもある。
姫様自身の信用と信頼も勝ち取ることができた。実際、姫様の手綱をとることが
できるのは、陛下とブライ様を除いて私しかいないのが現状である。
危険がともなう旅ともなれば、信用と信頼を持っているもの同士が一番良い。
となれば、ブライ様と私が候補に上がる。ただし、いくらお目付け役の
ブライ様が一緒とはいえ、娘に懸想している男と何の制約もなく送り出す
ことには不安を感じたのだろう。だから陛下は先手を打ってきた。

では、危険を感じつつも、なぜ陛下は私を選んだのか?
答えは簡単である。私が一番『危険』であると同時に
一番『安全』な男であるからだ。
私が望むこと、それは姫様を完全な形で永久的に手に入れることだ。
それは周囲に認められて初めて達成できることで、
一夜限りの関係など、もってのほかである。
つまり私は、将来的には危険な存在となったとしても、
現時点ではもっとも安心できる存在といえる。
しかも、姫様至上主義だからなにがあっても、姫様だけはお守りするし。
要するに私は、姫様に『べたぼれ状態』であることを逆手に取られた形だ。
それでも、私はまだ若く、姫様の方から迫られた場合に思いとどまるかどうか、
一抹の不安が残る。だから念には念を入れて男性機能云々の駄目押しをした。
『男性機能喪失』・・・これほどまでに恐ろしいものがあろうか。
たとえ姫様と恋仲になっていようとも、これを失っては、結婚は難しい。
というより、姫様が離れていくだろう。よしんば、結婚できたとして、
どうして『人生を謳歌』できようか!!
まだ、『死』を言い渡された方がましである。強制された『死』であれば、
姫様の中に美しい思い出として残ることもできよう。しかし、
男性機能喪失は、全てを『台無し』にしてしまう。おそらくここまで
計算された上で、言い渡されたのだ。誠にもって陛下のご慧眼には恐れ入る。
とはいえ、私の下心にお気づきになりながら放置されているところを見ると、
『欲しければ這い上がって来い』ということなのだろう。
結婚への可能性がわずかでもあるうちは、私は姫様と一線を越えることはない。
将来的にはわからないが・・・多分。

もっとも、私自身、陛下のお考え同様、この旅で姫様と・・・なことは
考えてもいなかった。
姫様はまだ子供だったし・・・。

私はふと先ほどのことを思い出した。
まさか、この時点であの言葉を口にさせられるとは思っていなかった。
子供だと思っていた姫様は、いつの間にか成長していた。
『女』の顔をしていた。
『女』の・・・。そう、とてもとても『成長』されていた。
それはもう、『立派』に!!
私は胸が熱くなった。それは父親にも似た感慨で。
込み上げた熱いものが鼻からほとばしった。
ん?鼻?
違和感を覚えた私は、伏せていた顔を上げた。

そこには―――――真っ白な『テーブルクロス』に赤いシミ―――――

もしかして、あの『夢』はこれ?

私は、泣きたいような、笑いたいような気持ちになった。
が、ついにはそれすら億劫になり、そのままテーブルに突っ伏した。

「知ってるか?イムルでみる『夢』は『正夢』らしいぜ?」
            • コンナ『マサユメ』ダッタラ、イラナイ。


(おまけ)
「お、俺、今すげーもん見た気がする」
「拙者、クリフト殿のあんなに壊れた表情を見るのは初めてでござる」
「クリフト君、あの程度で鼻血とは・・・若いですねぇ」
「でもさ、俺、あの出血量には少し同情するぜ」
「体が火照っているでしょうからな・・・。そういえば、ブライ殿は?」
「お歳ですからねぇ。夜がお早いようですよ、最近」
「そっか、ヒャドでもかけてもらえば熱も下がっただろうに。ついてねぇな、あいつ」
「ヒャドで済むとは到底思えないでござるが」
「ま、血抜きが終われば、熱も下がるんじゃないですか」
「おう、それもそうだな。じゃ、明日の朝クリフト回収ということで」
「ブライ殿より早起きするのは、ちと辛いですな」
「同感です。でもマヒャドで食堂が大破して朝食抜きも辛いですからね。
じゃ、寝ましょうか」

こうしてイムルの夜は更けていった・・・。
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