「……決めた、②だ!日輪刀のように鬼を狩れる武器を作る!」
「了解!」
ポチが指示すると黒影が
はじまりの書を開き、指を噛んで血を出して真っ白なページに矢印を引くと切り離されたページが広がるように飛び出していく、一見するとただのコミックスまとめたものにしか見えないデザインだがこういう要素があると神秘性のあるアイテムであることを実感させられる。
「一応聞いておくけど理由は?」
「③は論外すぎる、禰豆子ちゃんが強くなるのは一見すると戦力が増えるかもしれないが炭治郎くんの実力を安易に追い越すことになるかもしれない、更に無惨が注意を引きやすくなって早い段階で始末に来たらそれこそ詰む、①も悪くないかもとは思ったけど時空は等価交換のような要素もあるよね?最終選別が難しくなるかもしれないし、燕の呼吸が水の呼吸と相性が悪かったら炭治郎くんとの連携に乱れが起きるかもしれない、武器の種類を増やすのが一番現実的かもしれない」
ルートが決まったことで黒影達のやることは決まった、この選択肢では炭治郎達とはしばらく会えなくなるがポチの推測では自分達が活動している頃には恐らく最低でも強くなって最終選別にも合格し、善逸や伊之助に出会って元十二鬼月下弦である響凱を討伐するところまでは成長していることだろう。
……あくまで推測上ではあるが。
◇
「ポチ、鬼舞辻無惨の目的については聞いたけど彼の配下に居る部下とかはどんなのがいる?」
「無惨は数多くの鬼を作り出してるけど中でも脅威となるのは『十二鬼月』と呼ばれる恐るべき精鋭、といっても下弦はワケあって一気に消えていくから一部除いてルート研究で警戒すべきは上弦の鬼六人だね」
そもそも自分達もこの世界に足を踏み入れてる以上動き方次第では目をつけられてもおかしくない、いくら自分達が不死身だからってやりすぎたら無惨の逆鱗に触れて徹底的に抗戦、妨害を受けて当然の立場にある。
更に言えばポチからすれば非常に厄介な存在が上弦の鬼の中にいる、いずれ巻き込まれるとしてもまだ炭治郎も自分も十二鬼月が本格的に動くような自体だけは避けていきたい。
この選択もはっきり言って危ない、鬼殺隊(正確には現在それらと無関係な黒影)が日輪刀以外に鬼を殺す手段を増やそうとしていることはなるべく隠さなくては……。
ということで、黒影は日輪刀のような鬼を殺せる武器を作成するべく行動を開始する……。
◇
ポチに連れられて移動したのは陽光山という大きな山。
ここは環境や陽の当たりが他と比べて特集であり、この世界で最も太陽に近い場所であり一年中常に一定の陽光が射す場所として知られている。
この山で四六時中陽光を浴びて変質した鉄である猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石を加工することで日輪刀の刀身が作られるのだ。
更に日輪刀を鍛造・研磨する刀鍛冶達は集団で過ごしており、住処であり仕事場である里は存在が酷くされております鬼殺隊も徹底的な警戒体制の元に移動しているぐらいである。
黒影なら恐らく移動できるかもしれないがそれはまずい、何故なら自分達は鬼殺隊の味方をしているつもりでも彼らからすれば赤の他人、ましてや刀鍛冶の里に土足で上がり込んできたとなると警戒態勢並びに指名手配となってお尋ね者扱いでもおかしくない。
「ひとまずあの鉱石をちょっと回収してくるから」
「回収してくるって加工法知ってるの?」
「要するに日本刀と同じだろ?俺もよく日本刀は作ってるし任せろ!」
「いや任せろじゃなくてどれが素材になる鉱石か分かるの!?」
黒影は話も聞かずに山の中に突撃していき、ポチも仕方ないので山に入っていく。
年中日が差す山というだけはあり非常に蒸し暑い、季節的にはまだ夏に入ってないはずだがもしも現代のような猛暑に入ったらとても動物は生きていけないだろう。
ポチはこの暑さの中で気付いたことがあり、地面に露出した鉱石に手を触れてみるとまるで料理中の中華鍋の如く熱い、長期間太陽の熱が溜まりきってるようであり鬼を殺せるのも説得力がある。
しかしこれでは採掘するのも一苦労だが、黒影はともかく鬼殺隊はどのようにして回収しているのだろうか?
こんな時代にショベルカーだのがあるわけないし……。
「てか暑いな本当に!水必要だろこの時代にも……ってか塩!塩分でしょ塩分!ああもう仕方ない!黒影は日輪刀作るんだしここをキャンプ地とする!!」
ポチは善は急げというか栄養は急げとばかりに常に用意している食材入れから時空間に接続、簡易的に適当な肉やキノコを取り出してその辺の石に置く。
先程も言った通り石はめちゃくちゃ熱くなっているのでその辺の大自然でバーベキューみたいなことを軽々と出来る、神聖な地で何やってんだコイツ。
塩ぶっかけて串焼きにしたり、ホイルを巻いていい感じに焼き加減にして肉を味わう。
こうでもしなければ満足出来ない、大事な栄養をしっかり摂取しなければ。
黒影は別に食わなくてもいいので放置。
「うわ……うっま、でも肉食った石で日輪刀作るってなるとちょっと申し訳なさもあるな、これも後で回収しよう……その前に色々試してみたいな、野菜も食べないと、そうだ玉ねぎ!」
なんか結構経っているのに黒影が戻ってこないのでポチはそのまま陽光山で派手にバーベキュー続行。
玉ねぎを取り出したかと思えば次々に野菜を出す手が止まらなくなり、なんというか一周回って山に住んでる人とか言っても誤魔化せそうな感じになってきた。
何を隠そうポチはエリートバカ五人衆の中で一番のグルメであり大食いだ。
残りの四人が仕事中はあまり飯に関心がなかったり効率性を求めたり外食ばかりしているなか、ポチはめちゃくちゃその世界の飯に関心がある。
ポチが出てくる世界は大体色気に走るか飯に走るか……そう、この人性欲に忠実なのではなく人間の三大欲求全てに忠実なのである!
「うっま!こういう大自然の中で野菜食べると格別だな!この世界の野菜でまたやろう、トウモロコシとかで!」
「ん?なんだお前、匂いがするんで来てみれば随分派手な真似してるじゃねえか」
「あっ良かったらどうです焼きバナナ美味しいですよ」
「おう」
本当に黒影が帰ってこないのでしばらく堪能、ネットで『焼きバナナ』というものがあり丸ごと食べても美味しいと試してみたかったので生のものも含めても食べて食べて食べまくる……つもりだったが、すぐ隣に居た大柄の男を見てバナナを貪る手が止まってしまうどころか喉に詰まりそうになる。
(ゲェ〜〜〜ッ!!?音柱の宇髄天元!!?)
すぐ隣で軽い気持ちで誘って焼きバナナを派手に食っていたのは、鬼殺隊の中でも最も位が高い九名の剣士『柱』と呼ばれる存在の一人、ド派手な装飾や振る舞いを好み爆音と共に敵を切り刻む"誰よりも派手に戦場を駆ける者"こと宇髄天元だった。
考えてみれば当然、年中太陽が光って鬼が寄らなさそうな聖地でもこの山は日輪刀の鉱石が作られる生命線。
時空新時代によって鬼以外にも魔の手が迫る現在、万が一の為に鬼殺隊が警護に回っても変な話ではない、しかしまさかそれが柱だったとは……!!
しかし焦ってる場合じゃない!!
(ど、どうしよう!?俺達は猩々緋鉱石を集めに来たわけだから宇髄さんら鬼殺隊からすれば泥棒みたいなものだ!ああでも説明して分かるような事情でもないし……どうしよう、どうしよう!?局長に連絡入れ……無理だ!ここでコソコソ出来ないしもし黒影が来たらやばいことに……)
「ところで、こんな所に何の用だ?わざわざこんな場所で肉や野菜食いに行く暇人ってわけでもねえだろ」
「うっ……それはそのえっと、この山の神秘的な力をこの身に宿すべく修行の身で……(やっべ〜何言ってんだ俺〜!!怪しすぎる〜!!パワースポットってなんだったっけ!?)」
「ふうん……?」
天元は腰を下ろして相変わらず焼きバナナを食べながらじっくりとポチの顔を見る。
ポチが一体何者なのか見定めているのだろうか、派手なことが大好きな男なのに表情の意図が全く読めない、それはそれでコレはコレを通せるのが恐ろしさを加速させる、しかしここを警護していたのがもし風柱とか蛇柱だったらと考えると余計に面倒かつ誤魔化しきれない状態だったかもしれないので逆に良かったのかもしれない。
まさかここに恋柱が来るなんて都合の良いことあるわけないし。
正直m超えの大男に詰められてるだけでさっき食べてた肉の味を忘れるくらいには怖いのにいい感じの言い訳が思いつかないが、天元は立ち上がりバナナの皮まで呑み込んでしまうとその場を離れる。
「あまり深入りするなよ、軽い気持ちでここに居たら地味な干物になっちまうからな」
「あっ……は、はい!ご気遣いありがとうございます!旅の人!」
ポチはあくまでお互い山に修行しに来た旅人であることにしてその場から逃げ出す。
これはまずいことになった、明日も天元がいるかどうかは分からないが陽光山に柱がいるということは頻繁に鉱石を回収しようとすれば間違いなく怪しまれる。
道具を作るにしても頻繁に尚且つ失敗は許されないということになる。
恐らくもう二度とこの山に来ることは出来ないだろう……黒影を置き去りにしたことは悪いと思っているが食材は食べ残さずゴミもしっかり処理してるので罰当たりにもなってないだろう、しかし怖い。
柱を相手にした時の気持ちがなんとなく分かった気がしてきた。
「おーいポチ?何してるわけ?」
「うっげえええ!!?って黒影局長ぉー!?」
空から突然黒影が声をかけてくるので正直言うと食べてたもの逆流しそうになるがなんとか黒影であることに気づき冷静になる。
……黒影の身体には大量に猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石が詰め込まれている、もしこの姿を見られていたら本格的にまずいことになっていただろう。
「局長……一応聞いときますが鉱石掘ってる時に誰かに会いませんでした?」
「ん?そうだなぁ特に誰も観なかったけど?まあ人の反応は結構あったけどね」
「結構!?宇髄さん以外にも人来てたんだやっぱり……ってことは奥さん三人や部下たちも?」
「ん?何の話」
鉱石を抱えて山を去る2人の姿を、木の上から天元が覗き見ていたことには気付かない……。
◇
その夜、ポチは陽光山に鬼殺隊何人かと最高位の剣士である『柱』と呼ばれる存在が警備していること、柱の一人である宇髄天元に見つかってしまった事を話す。
これ以降鉱石を取りに行くことは不可能に等しいだろう、黒影は大量に鉱石を確保しているもののこの量で新たな武器を作らなくてはならない。
山からある程度離れた場所で黒影は普段包丁に使う砥石とポチが用意した簡易的な加工セットを用意する。
猩々緋鉱石を金槌で叩きながら黒影はポチから柱の話を聞く。
「柱っていう凄物連中はやっぱり生かしておきたいんだよね?最終的にどこまで生き延びる?」
「最終決戦までに一人が戦死、一人が怪我による引退、残った7人も無惨を倒す頃には殆どが死亡だよ、それだけ過酷なんだ……鬼舞辻無惨を狩るっていうのは」
「なるほど、未来をより明るいものにしていくためには沢山生きていた方が嬉しいよね、それで君が会ったのは?」
「音柱の宇髄天元、多分あの場所で柱と遭遇してしまったら?を想定したら危険寄りではある……局長が会わなくてよかったですよ」
「ふむ、竈門炭治郎以外にも柱の運命を変えてみたら新たなルートが模索できるかもしれないな……どんなのがいるの?」
「さっき言った音柱の他に炎柱、風柱、水柱、岩柱、霞柱、蛇柱、恋柱、蟲柱……皆重要になってくる人でそれぞれ肩書に沿った呼吸が出来る」
「ふーん……つまり俺の場合は『燕柱』か」
「いや局長はなれないからね柱、まず鬼殺隊じゃないし」
「じゃあどうやったら柱になれるの?この日輪武器を開発してそれで鬼を倒すとか?」
「まあ理論上は……いや、そんなルートさすがに認められるか怪しいけど」
鬼殺隊から柱に昇格する条件は主に2つ、『十二鬼月の討伐』及び『鬼を50体討伐』というものでゲーム脳のポチでも分かりやすいシンプルなもの。
黒影の事だから本気で『燕柱』になろうとしているならとんでもないことになっていただろう、そもそも9人欠番いないし。
もし燕の呼吸を広める話になっていたら黒影は柱になろうとしていたのだろうか……。
「あっ今更だけど3つの選択肢は念の為ブックマーク化してあるけど、他のルートから情報や道具を持ち出すことは出来ないよ、燕の呼吸ルートで今俺が作ってるものを持っていったりは出来ないわけだね」
「当然と言えば当然だけど後々厄介になってきそうな落とし穴だな……それで局長はどんな武器を作るの?」
単に日輪刀といっても形は様々だ、刀ではあるものの特異な性質があり呼吸ごとに使い分けている。
現に柱が持つ日輪刀は各々専用の刃となっており単純にサムライソードではない、黒影はこういうところで見栄っ張りなので絶対に差別化していくことになるだろう。
「というか言っておくとですね局長、日輪刀って鬼の頸斬れたら倒せる以外は普通の刀ですよ」
「首特攻さえ出来なければ普通の刀と、実際強度とかに補正あるわけじゃなさそうだしね」
黒影も打ってて分かってきたのが形を整えていく際のキレがどんどん良くなっていく。
既に三日三晩不眠不休で打ち続けているが全く疲れることなく集中して打ち続けているのはさすが神の領域といったところか、なんだかんだこの人凄いときは冗談抜きでやることが凄い。
「とりあえず作ってみた、ポチの言う事をまとめると要はこの日輪パワーが込められた鉱石による刃物で頸を切っちまえばいい、その為に合理的な武器を作り出した!その名も……」
【日輪鋏】
「いや確かに合理的だけど!!」
黒影は日輪刀を小さくして2つ重ねたような鋏を作成していた、確かにこれなら頸を切断することに特化しているがあまりにも極端すぎる、これいざという時に鬼と戦えるのか?
刀鍛冶の人間が人々の為に洋はさみを作り出した事例もあるとはいえ……通常より大きめで鬼にとってはギロチンになりえるとはいえ……。
「これを日輪刀と同じ運用の武器として使ってくださいってのはちょっと俺がお館様の立場なら悩むかなぁ……」
「でも切れ味抜群で殺傷性は保証できるよ?」
「鋏で安全に戦闘できるのは局長くらいだよ、もっとないの?」
「一応銃の方も作ってみたよ、弾丸の話は聞いたから」
黒影は新しく作った猩々緋鉱石製の弾丸を総勢数千個差し出す。
あまりにも多すぎる量として加工しているが、黒影が用意した長い銃と試し撃ちしたものを見てポチも気づく。
これは……ショットガン、散弾銃と呼ばれるものだ。
確かにゾンビゲーで至近距離でこれをぶっぱなして首を破壊するのは見たことがあるが……。
「日輪散弾銃と日輪鋏、これはきっと鬼殺隊の助けになるはずだぞ〜!」
「俺はもう不安しかないけど……ところで局長、その作った武器ってどうやって鬼殺隊に広めるつもり……ああ、ここで3つの選択肢とか言うつもり?」
「まあそんなところだね、この日輪散弾銃と日輪鋏、どのよ〜にして鬼殺隊に与えていくことになるのか!」
「悪いがお前らに選択権はねえよ」
黒影が選択肢を出そうとした瞬間、煙玉のような物が飛んできて周囲が煙に包まれる。
黒影が腕を振るうだけで煙を払うと作った日輪散弾銃と日輪鋏……どころか猩々緋鉱石のストックも全て無くなっており探していると、大きな袋を担いだ宇髄天の姿が!!
どうやらポチの話の時点で怪しまれており、ずっと監視されていたようだ!
だ……だが!
「この反応……鬼がいるねっ!?」
すぐ近くで黒影が鬼の反応を感じ取る、そこにいたのは白い小さな女の子のような見た目だが間違いなく鬼……いや、ただの鬼じゃないのかポチは口を抑えてしまい、黒影に耳打ちする。
「……あ、あれ十二鬼月、下弦の肆だ!」
「なんだって?偶然とはいえこれはラッキー……日輪鋏は俺が持ってる分残ってるから討伐しちまおうか!」
「いや、その……下弦の肆は……厄介だ」
【下弦の肆】零余子、十二鬼月の一人でポチが厄介といったことには理由がある……それは下弦の鬼の情報が全く無いことだ、何故なら彼女は本来のルートでは鬼殺隊と相見える事なく無惨の癇癪で殺される。
どんな血鬼術を使うのかもどこまで戦えるかも分からないが腐っても十二鬼月、戦闘力はズブの素人相手では返り討ちにされてしまうだろう。
しかもそれでいて彼女は柱のような強者には逃げる、無惨は下弦の鬼である自覚がないと怒り心頭だったが、この状況においては非常に厄介だ。
「……多分聞かれてるあの子に!俺達の事、新しい武器のこと!鬼は無惨と定期的に情報提供出来るからこのままじゃ無惨に!」
「ええい時間がない!ポチ選んで!選択肢!!」
【第二の選択】
『零余子を執るか、天元を追うか』
①宇髄天元を追いかけてこのまま鬼殺隊の元へ向かう
(局長には悪いけど鬼殺隊に言って素直に説明し謝るのも大事かもしれない、ただどこまで零余子が聞いていたのか分からないけど俺達は制作中にこの世界に関するネタバレをベラベラ喋りすぎた……!どこまで無惨の耳に届くことか)
②零余子を優先して持っている日輪鋏で狩りに行く
(ここで零余子を殺しても無惨に情報が行き渡らないくらいで炭治郎達には直接関係ないし、何より彼女がどれだけ強いのか知らない……もし局長が柱並みの実力を見せれば逃走するし、宇髄さんを見失ったら鉱石を勝手に盗み加工したお尋ね者ってことになるかもしれん……!)
③零余子を討った上で天元を追いかける
(両方を狙う……?二兎を追う者は一兎をも得ずって言うくらいだリスクが高い、万が一成功すれば俺達の立場は良くなるだろうとはいえ、出来るのかそんなこと……!?いや、厄介なのは絶対に無理とは言い切れないところだ!)
最終更新:2025年08月09日 20:26