ある所に泥棒の兄弟がいた。
この兄弟、泥棒としてそこそこ腕は良かったものの肝心なところで詰めが甘いため、いつも失敗してばかりでした
「チクショー、どうにか失敗せずに大金が盗めないものか」
いつものように弟がボヤくが、いつもと違い兄は気にしないとばかりに自信ありげに答える
「大丈夫だ弟、絶対上手くいく作戦を思いついたんだ」
「絶対上手くいく?それは本当なのか?」
「ああ、こいつを手に入れたからな」
と言って、つい先程『どうしても必要だから』と兄が言い出して科学者の家から盗み出した丸い物体を取り出す
「それ、なんかの発明品なのか?」
「聞いて驚け、こいつはタイム・マシンなのだ」
「マジで!?すっごーい!」
目を輝かせる弟に、兄は得意そうに胸を張る
「これさえあれば、未来に行って大金持ちになれるのだ!どうだすごいだろう!」
「未来に!?それってどういう事!?」
「いいか、金持ちから盗むのは変わらない……ただし盗むのは未来、ちょっと先の金だ」
「100年とかじゃダメだ、持って帰った時に使えない可能性がある、5年くらいならそこまで変わってないだろ」
「で、5年後から盗んだ後に元の時代に戻っちまえばどうすることも出来ない」
「奴らは5年前から来た俺たちの仕業なんて気付かないし、5年も経てば俺たちも歳をとって顔が変わるからバレることもない、完璧な作戦だろ?」
「俺たちは未来泥棒って事か!」
「そういうことだ、どうだ凄いだろ!」
「俺にもその作戦やらせてくれよ!」
「勿論だ、何かあった時はすぐに知らせてくれ」
こうして兄弟はタイム・マシンによる未来泥棒を決行するのだった
「ところで兄ちゃん、一体どこから盗むんだ?」
「任せておけ、ちょうどいい所がある」
と、兄は近くの建設予定地に連れていく
「どうやらここにはでっかい銀行が出来るそうだ、となると金庫もある」
「金庫がありそうな所から5年後に飛べば、あらゆる警備を無視して大金は目の前ってわけだ」
「今日は冴えまくってるよ兄さん!」
「よし、金庫部屋が置かれそうな所に行くぞ!」
「おう!」
そして二人は建設中の銀行の金庫部屋に忍び込む
「ここら辺でいいんじゃないです?」
「ああ、タイム・マシンを起動するぞ!」
兄がボタンを押すと、二人の間の空間が乱れて……あっという間に時が経って綺麗な銀行の金庫部屋になった
もちろん、2人は若いままだ
「やった!成功だ!」
「札束がこんなにあるぞ!」
「よし、持ち込めるだけ持ち込め!」
兄弟達は早速アタッシュケースを用意して、近くにある札束を次々と入れていった。
「これだけあれば一生遊んで暮らせるな!」
「でも本当に大丈夫かな?俺たちの事を気付く奴はいないのか?」
「大丈夫さ弟、だってもうすぐ過去に戻るんだもんな!」
「だよな!よーし、タイム・マシンを起動してくれ!」
「任せろ!」
再びタイム・マシンを動かすと、銀行は建設途中に戻ったが……お金はしっかり持ってきていた
作戦は成功、何もかも思い通り上手くいった……
訳ではなかった。
あれから5年どころか1年も経たずに兄弟達は捕まってしまったのだ。
彼らは警察官に捕まって、尋問にかけられる
「どういう事だ、まだ起こってないはずなのにどうして捕まらないといけない」
「いいえ、貴方は既に大変な罪を犯した…それはこれだ」
警察官はそう言って、一人の男を紹介する
「「あっ!」」
兄弟達は直ぐに気づいた、その人はタイム・マシンを開発し、兄弟に盗まれた科学者によく似ていたのだ
「初めまして、私は貴方達にタイム・マシンを盗まれた科学者の子孫です」
「ま、孫!?まさか彼は未来から!?」
「私だけではありません、この警察官も未来から来ていますし、今貴方達が居るのも未来なのです」
兄弟達が咄嗟に窓から外を見ると、突拍子もなく見たことが無い光景が広がっていた
「5年後……じゃない?」
「ここは500年後の未来です」
「ご、ごひゃく!!?」
ここで兄弟達は気付いた、タイム・マシンの事か……
弟が口を開く
「なんでバレたんだ?兄ちゃんの未来泥棒計画は完璧だったはず………」
「ええ、アイデア自体は悪くなかった……ですが貴方達は肝心なところで詰めが甘かった」
「肝心なところ?」
「その時代の監視カメラに映ってましたよ、貴方達の姿と共にあのタイム・マシンが」
「「あ」」
確かに、盗む際にタイム・マシンを使い、隠したところをしっかりと写真に撮られてしまっていたのだ。
「当時はそれがどんな物体だったのか分からず仕舞いで迷宮入りしましたが、先祖の無念を晴らすべく研究の末に祖父の代でそれがタイム・マシンと分かり、私の代で遂に実用化に成功したわけです」
そう言うと科学者と警察官は彼らが持っていたものと同じタイム・マシンだった
彼の言うことが確かなら、この時代の人々は皆これを持っており、過去に行って時を超えた犯罪を抑え込むことも容易だろう
兄は遂に観念して語った
「まいった、確かに詰めが甘かった、『未来泥棒』が居るなら『未来警察官』が居るのも当たり前じゃないか……」
「うぅ、俺達の作戦は失敗かぁ」
「いいえ、貴方達の作戦は成功していましたよ……」
「こうしてタイム・マシンという存在を広め無ければね」
おしまい。
最終更新:2021年10月26日 19:56