樹「……ああ、映画監督くんじゃないか」
創「火川か……」
創「お前としては、ここでボディーガードの仕事はしない予定だったが………」
樹「そうだね、まさか私自身が命を狙われる危機に陥るとは想定外だった」
樹「しかしね………映画監督くん、今君を護衛することは出来ないよ」
樹「何せ、ここでは私と君含めた全員が護衛対象、全員が危険な状態………」
樹「誰か一人に集中することは出来ないし、いくら私でも数人まとめて護衛はちょっと出来ない」
創「分かっている、お前も狙われないように気を付けてくれ」
樹「それは当然だとも、ボディーガードたるもの自分自身も守れなくては誰かを守る余裕は生まれないものだからね」
樹「私は何があっても皆を置いて死んだりはしないよ、それは約束しよう」
樹「……あ、それはそうと映画監督くん、私ちょっとゴミを捨てたいんだけどゴミ捨て場ってどこなのかな?」
創「………この数日でよくここまで袋になるほどゴミを出したな」
樹「ご飯はついついインスタントを頼んじゃうんだよねー、他にも色々便利そうなものを買ってたら不思議と………」
樹「これちょっと恥ずいから、皆には内緒でね」
創「…………それはいいんだが、火川」
創「お前、ゴミ袋の中にプラスチックと紙が混ざってないか?カップ麺の容器も………」
樹「え?でも、コレちゃんと全部燃えるゴミじゃないの?」
創「………燃えるゴミではあるが、そこから細かく分別はした方がいいぞ」
創「まとめて入れると処理が面倒なことになる、あと普通に燃えないゴミも混ざってるぞ」
樹「そうだったの!?ゴミ袋を持っていく度に
モノクーロンに何度も怒られると思ったら………」
樹「あーそうか………もう1回袋開いて分別し直してくるよ」
樹「ありがとう映画監督くん、それじゃあまたね!」
大慌てでゴミ袋を担いで部屋に向かっていく火川を尻目に、俺は袋からこぼれ落ちたゴミを回収していた。
完璧なボディーガードと言われている火川樹だが、どうやらそういった1面も持ち合わせているようだな。
樹「はぁ………映画監督くん………」
創「火川……お前……」
樹「聞いてよ、頻繁に捨てに行ってるのに部屋にゴミが溜まってく一方でね………」
樹「希望ヶ峰学園には掃除機もないし、モノクマ学園長は掃除は自己責任って箒さえも用意してくれないんだ、酷いよね?」
創「まずはインスタントを食うのを止めればゴミは増えなくなると思うが………」
樹「そうは言われてもねー、私夜型だからついつい夜食をつまみたくなるんだよ」
創「なら、自炊をしてみたらどうだ?」
創「希望ヶ峰学園には畑もあるし、ここの食材を使えば最低限ゴミは無くなるだろう」
樹「う、うーーん………自炊かぁ……」
樹「その……料理はその、なんというか、ね、私、出来なくはないのだけど………」
創「そうか」
創「お前、家事全般が苦手なのか」
樹「ドキッ!!」
樹「…………」
樹「どうしてそう思うの?」
創「入学時に比べてスーツがヨレヨレなところとか」
創「インスタント商品ばかり好んで食べるところとか」
創「ゴミの分別はいいとして、あの日は燃えるゴミの日じゃなかったしな」
樹「それはちゃんと言ってよ!酷いじゃないか!」
樹「……………」
樹「まぁ、そうだね………」
樹「自分で言うのもなんだが、護衛に関しては欠点なしと自負している」
樹「でもね、その……料理とか洗濯とか掃除なんて……これまで全然やったことがないんだよ、仕方ないじゃないか!時間ないし!」
創「この学校に入学する以前はどうしていた?」
樹「家族とかがある程度やってくれていたから………」
創「まぁ普通はそうだよな、そこから急にひとりでやっていく……となったわけか」
樹「ああ、お金はボディーガード代で山ほどあるからここからモノクマ学園長に手配してインスタントラーメンなんかを手配して貰ってたけど……」
樹「気が付いたら部屋の周りゴミだらけだし、服は全然綺麗にならないしで、このままじゃ流石に私の名誉に関わりそうだ!」
樹「どうすればいいかな……映画監督くん」
創「どうするも何も……インスタントラーメンを食うのをやめろ」
樹「えええ!?」
創「それがゴミが増える一番の原因なんだろう、振る舞いが気になるならまずそこから改善するべきだ」
樹「………そ、そうだね、まずそこからやってみるとするよ」
樹「う、う〜ん……映画監督くん」
創「樹!!?なんか痩せたか!?」
樹「あれからインスタントラーメンを購入するのはやめてみたんだが………とてつもなく腹が減ってしまったよ………」
創「夜食を無くしただけでそこまでになるのか!?」
樹「
モノクーロンが出す食事はいつもひと皿だけだし、おかわりも用意してくれない……私のお腹には全然足りてないんだよ!」
創「意外だな……お前、結構食べるのか」
樹「当然さ!護衛をする為にはそれ相応のエネルギーを体に貯めておく必要があるんだよ」
樹「………まぁ、最近は全然してないけど、護衛」
樹「でもダメだ!やっぱり何かしら食べておかないと……… 」
樹「でもせっかく映画監督くんに言われているゴミがある程度は少なくなったのに……」
創「………このままだと本当に見てられなくなるな」
創「………おい、火川……ちょっと俺の部屋に来い」
樹「へ?」
……………
創「満足したか?火川」
樹「うーん、助かったよ映画監督くん……君、料理出来たんだね」
創「監督として指示だけするわけにもいかない、キャストに賄いくらいはと思っていたら自然と身に付いたんだ」
樹「なんだか悪いね、本当なら私も自炊出来なきゃダメなのに」
樹「前に自分も守れないようでは誰かの護衛なんて出来ないなんて偉そうな事言っておいて、この始末か………」
創「………」
創「俺はボディーガードとしてのお前まで咎める気は無い」
創「確かにお前は生活面に深刻な欠点はある、だがその生活を得てボディーガードを行い、完璧に仕事をしてきたわけだろう」
創「料理も洗濯も掃除も今までやってこなかったなら、護衛の仕事が無い今覚えていけばいい」
創「俺も最近は映画を撮れないから暇だ、お前の部屋の手伝いくらいなら出来なくもないぞ」
樹「え、映画監督くん………」
樹「なんというか、その、こういうことにも不慣れだから言いにくいんだけど………」
樹「えっと、ご飯とか色々………ありがとう、なんだろ、上手く言えないな………」
樹「私、頑張って家事してみるかな!それじゃあ……そろそろ帰るね!」
樹は食事を済ませて、部屋から帰って行った……
樹「あっ!映画監督くん!」
創「火川………どうだ?あれから」
樹「その……一応ある程度は練習して、ここに来る前よりは良くなったんだけど、まだ自信は無くてね」
樹「それでね?その、なんというか……」
樹「今度は君の方から私の部屋に来てくれないかな?ちゃんと綺麗にはしてあるからさ」
創「お前の部屋か………」
創「分かった、行こう」
………
火川の部屋は……所々にゴミ袋が置いてあるが、恐らく今までよりは綺麗になっているだろうな。
樹「ご……ごめんね?ちゃんと分別の日になったら捨てに行くからさ」
創「その日が来る前に自分もゴミになることだけは避けて欲しいが」
樹「分かってるよ」
創「それで………どうしたんだ?」
樹「君、まだご飯食べてないかな?良かったら、私が………」
樹「…………」
樹「私と一緒に作らないかな?」
創「ああ、分かった」
………
樹「うん、なんだろ……なんか、こうして2人で並んで料理なんて、前なら考えたことも無かったな」
樹「というか、むしろこれ………なんだろ、言い難いなぁ」
樹「ここに来てから私は君に何かと世話になってるし、ボディーガードとして公私混同はいけないことだと分かっている」
樹「でも、なんだか不思議と………私はずっと君のそばに居たいと思ってしまうんだ」
創「それは大したことじゃない」
創「前に立っているか、横に並んでいるか………それだけの違いだ」
樹「そっか」
樹「あ、あの………映画監督くん……いや、こんな言い方じゃダメだな」
樹「……っ、つ」
樹「創……くん」
樹「あのね、創くん、これからも……私」
樹「ここを出てからも、ボディーガードを続けても………」
樹「君の傍に居て、横に並んで……一緒にご飯とかをこれからも………」
創「…………」
創「俺でいいのか?」
樹「え?………あっ!!まっ、待って!!こ、これよく考えたらつまり……あっ!!」
樹「ご、ご、ごめん!!!今の、まるで告白みたいな事言って、私そんな、君にそんな迷惑は………」
創「そうか」
創「俺は別に構わないぞ、お前の傍なら信用出来る」
樹「……………!!!!」
その後2人で作った料理を食べたが、あれから樹はずっと下を向いていた。
最終更新:2022年08月16日 11:43