琴子「あうう………」
創「どうした黒川」
琴子「ずーーっと、気分が優れない〜、いい歌が作れない〜…………」
創「ああ、そうやってギターで作った歌を引いているのか………」
琴子「そ〜だよ〜………でも最近はいい曲が作れないんだぁ………」
琴子「こんなに楽しくない生活ばかりで、いい歌が作れない環境で、すごく辛いよ〜」
創「………こればかりは仕方ない、としか言えないがお前もそればかりでは精神的にもたないだろう」
創「一応聞いておくが、この状態で曲を作ったのか?」
琴子「うん、色々、たっくさんね〜……」
琴子「でも、琴子は気分が良くない時に歌を作ると………あまりいいの出来ないんだ〜」
創「気分が良くないなら無理して作らなければいいと思うのだが………」
琴子「でも、琴子は音楽を作らないと生きていけないの〜」
創「…………変わった性分だな」
創「それで、ここでどんな曲を作った?」
琴子「あー、待って……リストを用意したから、見て〜」
創「前見たものとは違うリストだな」
琴子「10曲ごとに変えてるからね〜」
創「まるでCDのジャケットだな………」
創「ああ、予想していたが曲名の時点で暗いというか重いな」
創「どんな気持ちでこれらの曲を作ったんだ」
琴子「うーん、辛くて、辛くて………でも音楽を作っていたくて〜」
琴子「あっ………」
琴子「今、また思いついた………」
創「こんな状態で生まれた歌だろ、絶対ろくでもないぞ」
創「というか、今こうして俺と話している間も曲を考えていたのか………」
琴子「今も………ってよりは、寝る時以外はずーーーっと考えているかなー」
琴子「ご飯の時、お風呂の時、歯磨きの時、遊ぶ時、お勉強する時までー」
創「空想力半端ないな、そこまで考えて開発していると脳が疲れっぱなしになると思うが」
琴子「それでも………ここに来てからは嫌なことばっかりだから、こんな曲しか作れないんだけど………」
創「………いい気分になれば、いい歌を作れると解釈していいんだな?」
琴子「だいたいそんな感じかなー」
創「よし……だったら、俺に考えがある、少し時間をくれ」
…………
創「黒川、待たせてしまって悪かったな」
琴子「んん………創〜、琴子に一体何をするつもりなの〜?」
創「何、要はお前の音楽と気分を取り戻すためにここで楽しいことをすればいいのだろう」
創「そんなもの俺の得意分野だ……と言っても、お前のように常日頃から映画を作ったり考えたりは出来ない」
創「とにかく俺の部屋に来てみろ」
琴子「え、え〜?」
…………
琴子「なにこれ、なにこれ〜?」
創「どういうわけか俺の部屋は特設巨大スクリーンになっていてな……」
創「映画も知らないものはいない有名な作品が数多くある」
創「ずっとネタが思いつくのだろう?なら、これを見ておけば何かしらいい作品が思い浮かぶはずだろう」
琴子「………創〜?」
創「お前が好きそうな作品も探しておいた、こういう子供向け作品も2、3個はあるが………」
琴子「ううん、琴子それじゃなくていい」
創「そうか、自分で選びたいなら好きにするといい………俺はスクリーンと座席のセッティングを済ませてくる。」
琴子「………いや、映画見なくてもいいや〜」
琴子「琴子はタイトルを見れるだけで満足できるから〜」
創「………何?映画は見なくていいのか!?」
琴子「うん、琴子にはなんだか………もったいないや〜」
創「もったいない………だと………!?」
琴子「じゃ、しばらくタイトル見せてもらうかも〜、ありがと〜、創〜」
創「…………………」
……………
琴子「あ〜、恋愛モノだ〜、大人向け〜、こういうの琴子興味あるかも〜 見ないけど〜」
琴子「ふわ〜 むかいのロロモもある〜、名前だけ聞いたことあるな〜」
琴子「あはっ、かいじゅうものまである〜」
創「…………いいのか?」
琴子「何が〜?」
創「………本当に、ここで映画を見ていかないのか?」
琴子「だって、琴子はそれでいいんだよ〜」
琴子「琴子はそれだけあれば、幸せになれるんだよ〜」
創「…………」
…………
創「満足………したのか?」
琴子「うん、とっても楽しかったよ〜」
創「来たかったらいつでも来い」
創「あと………見たくなったら、ちゃんと見せてやるよ、映画」
創「黒川」
琴子「あっ、創〜!また、部屋に行きたいな〜」
創「………… 」
創「決めた、今日は映画を見ろ」
琴子「え?」
創「俺は常々思う、映画というものは人を選ぶ権利は無い」
創「そりゃ12禁とかはあるが……人種も、性別も……幸福も、一切の差別なく平等に見ることが出来るのが映画というものだ。」
創「お前にも映画を見る権利はある………もちろん強要はしないが、何故……勿体ないなんて思えるんだ………!?」
琴子「創は優しい……のかなぁ〜?」
琴子「でも、本当に琴子はいいんだ〜」
琴子「だってね〜、琴子はね〜」
琴子「『わるいこ』なんだから」
創「…………何?」
琴子「…………だからね、琴子はダメなんだ、しあわせになっちゃいけないから、そう言われてるから………」
創「………」
創「お前が悪い子、か………」
創「俺の目には、とてもそんな風になど見えないのだがな」
琴子「…………」
創「だが、俺はもう決めたんだ………お前がどう返事しようと、俺はお前に映画を見せる」
琴子「………見るの、義務になっちゃうかなー?」
創「義務でもいい、1回だけでもいい………映画の中身で人を幸せに出来なくて何が映画監督だ」
創「俺がリスペクトした中でも最高の作品をお前に見せてやる」
琴子「へぇー………創、はりきってる」
琴子「わかった、見ちゃおうかなー」
…………
琴子「あははー、これ、これが映画なんだー」
創「………」
琴子「………これが、これ………」
琴子「…………あの、創、もう、いいかなー」
創「まだラストまで時間はあるぞ」
琴子「…………これ以上は、『おとうさん』に怒られちゃう」
創「なら一緒に怒られてやるよ、ここまで来れたらの話だがな………」
琴子「おとうさん………おとうさん………」
琴子「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、琴子、おとうさんの言う通りに、おとうさんの為だけに………」
創「黒川?」
琴子「おとうさん………おとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさん」
ガクッ
創「黒川!?」
琴子「うーーーん、うーーーん………」
創「黒川……大丈夫か、あれからずっと意識が朦朧として………」
琴子「………あっ、『おとうさん』」
創「………何?」
琴子「おとうさん、琴子またいっぱい曲作ったよ、部屋で待ってるから 来てね」
創「………黒川」
…………
ここが……黒川の、いや………これは部屋なのか?
ベッド以外、何一つ家具は置いてない……楽譜も楽器もそれ以外も、全部ハリボテ………
琴子「………おとうさん、また、用意出来たよ〜」
創「……これは、曲?」
琴子「これを 売って お金にするんだよね〜 また 沢山用意するから、ぜったい 用意するから」
琴子「琴子は……おとうさんの為に がんばるから〜」
琴子「わるい琴子は、おとうさんに従うから〜」
琴子「また10個ぐらい用意できたから〜、またすぐ用意するね〜」
創「黒川?お前、この間からどうしたんだ?」
創「………ダメだ、聞こえていない………」
創「おとうさん……父親か、琴子とその親に一体何があったのか………」
創「少なくとも………奴の幸せがあの程度な時点で、ろくなものでは無いと思うが………」
琴子「おとうさん、おとうさん………」
創「………だが、あれから黒川はずっとこのままだ」
琴子「琴子、わるいこなんだから、従わないと、生きていけないから」
創「俺に出来ることは………」
…………
琴子「………?」
琴子「おとうさん………」
琴子「いや、違う」
琴子「創」
創「!」
創「気が付いたのか?」
琴子「うん」
琴子「ごめん おとうさんだと思っていたけど………おとうさん こんな事しないからね〜」
琴子「だから、すぐ分かった」
創「お前、一体何があった?」
琴子「それ、言わないとダメ〜?」
創「………言いたくないなら無理には聞かん」
創「だがこれだけは言う………何も気にするな」
創「誰がなんと言おうが、俺は何度でも言う………映画を楽しむ権利はどんな人間にだってある」
琴子「…………」
琴子「私にそんな人並みの楽しみが、果たして許されるのかな………」
創「……黒川」
琴子「あはは〜、ありがと、創〜」
最終更新:2022年09月04日 14:18