創「羽生?調子はどうだ」
陸奥「ああ、響原かい……どうにもこうにも最悪さ」
陸奥「もしもの危機を想定して精神安定の薬は沢山作り始めたんだけど………こんな状況さ、どこまで気休めになるかも分かりやしないよ」
創「流石薬剤師、手が早いな………」
陸奥「響原も何か困ってたりはしないかい?今なら手が空いてるから簡単な薬なら作ればするけど」
創「大丈夫だ………お前の方こそ大丈夫か?ずっと薬を作り続けて……1番頑張ってるんじゃないのか?」
陸奥「アタシがいちばん健康気にしないでどうすんだよ、ちゃんと休んだりしてるよ」
陸奥「アタシの事はなーんにも心配いらないから、気にしなくていいんだよ」
創「ならいいんだが………まさか、あちこち回って薬をくばってたりはしないよな?」
陸奥「ああ、今のところはね………だが、こんな状況がいつまでも続けばちょうどアンタが言ってた通りのことが起こるだろうね」
陸奥「ま、1番は殺し合いなんてふざけた事起こらない事なんだが………どうにもそれは難しそうだ」
創「…………出来ることなら犠牲者が増えて欲しくないのだが」
創「何より、お前が………」
陸奥「何だい?そこまでアタシの事を心配してくれるのかい?」
陸奥「そういやアンタ、アタシから薬学を学びたいだなんて言ってたねぇ」
陸奥「折角だ、軽い病気や怪我に効く薬の作り方でも教えようか?」
創「いいのか?」
陸奥「ああ、もし仮にアタシがいなくなったとしても………」
創「おい、羽生」
陸奥「冗談さ、そんな辛気臭い顔をするんじゃないよ」
陸奥「ま、確かにこの冗談は大分キツかったかもしれないけどれ」
創「………二度とこんなこと言うんじゃないぞ」
陸奥「ああ、悪かったね………それで、薬の作り方なんだけど………」
……………
陸奥「と、まぁこんなもんさ、後は材料さえあれば簡単に作れる」
創「こ……こんなに単純でいいのか?」
陸奥「まァ実際、1番単純で簡単なやつを教えたからね」
創「だが、材料はあるのか?」
陸奥「ああ、外にプランターがあったんでね………そこから貰った」
創「なるほど、俺も後で行ってみるか」
陸奥「おや、響原じゃないかい」
創「羽生、また薬のことについて色々教えてくれないか?」
陸奥「ああいいとも………どうだい、今度は作りながら雑談でもしないかい?」
創「お前がいいなら………」
………
陸奥「前にアタシが作れない………いや、作らないと言った方がいいかな、それで上げた薬を覚えてるかい?」
創「毒薬と劇薬………つまり、人を傷付ける薬だな」
陸奥「ああ、アタシは何があっても人を殺すために使われるような薬なんて認めない」
陸奥「良薬口に苦しとか、オーバードーズとか………薬には何かしら問題があったとしても、人を治さない薬なんて、あっちゃいけねぇのさ」
創「…………そうだな、お前も俺も、何があっても毒は作っちゃならない」
創「例えそれが事故だったとしても」
陸奥「ああ、だからアタシがこうしてアンタに付きっきりで教えてるんだしねぇ」
陸奥「……………」
陸奥「が、実はそれはそれとして………アタシが作りたくない奴があるんだよね」
創「何?それは一体なんだ?」
陸奥「アンタ、そこまで知りたがるのかい?」
創「当然無理にとは言わんが」
陸奥「………………」
陸奥「媚薬だよ」
創「………媚薬?」
陸奥「ほら、アンタも映画や作品で見たことがあるだろう?オンナに飲ませて………まぁ、なんだ、アレするための下心丸出しの馬鹿な薬さ」
創「ああ、惚れ薬等の類か………常軌を逸したフィクションの産物と思っていたが、現実に作れるのか?」
陸奥「まぁ今アンタが想像しているような魔法じみたモンは作れないけど………その」
陸奥「アレよ、生理反応起こすやつを言ってるわけ、アタシは」
創「………ああ、そんなものか」
創「大方、ここに来るまでに色んな奴に作るように言われたか?」
陸奥「まぁそんな感じさ、どんなに大金積まれても作ろうとは思わなかったがね」
創「………」
陸奥「あんな頭がバカで構成されたような奴ら、知らないよ………まさか漫画で起こってることがリアルで起こるとでも思ってるようだ」
創「そうだな、映画は現実では決して有り得ないような出来事だから面白いんだ」
陸奥「………へっ」
陸奥「ああ、響原」
創「羽生」
創「酷い顔だな」
陸奥「気にしなくていい、これはいつもの顔さ」
創「何を言うか、入学したばかりの頃はそんな面構えじゃなかっただろう」
陸奥「は………ま、始まってなかったからね、その時は」
創「始まってない……?」
陸奥「とうとうここでも頼まれるようになっちまったのさ、媚薬」
創「!」
創「それは災難だな………やはり、嫌だと言ってもしつこく頼んできたのか?」
創「一体誰が?俺から苦情を言いに行ってもいいが………」
陸奥「やめときな、無意味だよそんなことしたところで」
陸奥「それに今回は一応珍しいパターンでねぇ………」
陸奥「流石に女共から媚薬を頼まれるのは初めてだったのさアタシ」
創「何?女性から……?一体誰が?」
陸奥「さあ、誰だったかねぇ?………何せ、アタシ達クラス一個分しかいないんだよ?検討はつくはずだ」
陸奥「どこぞのボディーガード?怪盗?あるいは登山家、柔道選手?」
陸奥「………誰にせよ、アタシ達には一体何のためにそんなもの使うんだかって話さ」
創「…………」
陸奥「一応可能性はゼロじゃないんだから貞操には気をつけておくんだよ」
創「あ、ああ………」
創「…………」
陸奥「間違っても媚薬を覚えたいなんて言うんじゃないよ」
創「ああ、絶対に覚えない………俺も狙われかねないしな」
陸奥「ああ、そんな理由でもいい………媚薬なんて、あった所で何にもならないね」
創「…………」
創「ただ、俺はどんな気持ちでこれから女子たちと会話をすればいい?」
陸奥「気にする事はない、みんな誰だってそういう時期があるもんさ、獣だからね………」
創「………」
陸奥「何?」
創「お前………ずっとこんな調子なのか?休んだ方がいい」
陸奥「前も言ったけどアタシはちゃんと健康管理しているさ、しっかり休むべきところで休んでいる」
創「だったらもっと休め、休んで媚薬の事なんて忘れろ」
陸奥「ああ、そうだね………じゃ、アンタに甘えて、睡眠薬作ってもらおうかな」
創「………分かった、それだったら前教えてくれた奴だな?任せろ」
陸奥「………ああ、響原……かい?」
創「………羽生、大丈夫か?」
陸奥「ああ、アンタの薬がばっちり効いたおかげでね……」
陸奥「へへ、こいつはいい薬だよ……」
陸奥「これは、アタシの気遣いのコーヒーだ………ゆっくりと飲みな」
創「コーヒーか……お前がわざわざそんなものを用意してくれるなんて珍しい」
創「まぁ、有難く飲んでおくが………」
創「……なんだ?コーヒーにしては、何か妙なコクが………なにか、混ざって………」
創「なんだ………足、重く………?なにが………起こ…………」
………
陸奥「…………」
陸奥「ごめん、本当にごめんよ、響原、アタシ………アタシは………」
……………
創「…………こ、ここは………お前………」
陸奥「………」
創「羽生!?」
陸奥「ぁ……………ぁ、ごめんよ………コーヒーに、睡眠薬を混ぜたのさ………」
創「何をしている!?薬を悪用されることを嫌うお前が、何でそんなことを!?」
陸奥「分かってる………分かってんだよ………でも……アタシはもう抑えきれないんだ………」
創「………」
陸奥「響……原、アンタ、あの時くれた薬………配分、間違ってんだよ……」
陸奥「アレが………間違えたせいで、アンタ………作っちまったんだよ………媚薬………」
陸奥「アタシだってこんな事するのは異常だって分かってる、でも………アンタを見ていると胸の内が収まらない………アンタのことを………もう、滅茶苦茶にしたい」
陸奥「はぁ………はぁ……だから媚薬なんて作りたくないんだっ……いつもアタシが………こんな………」
創「おい、落ち着け……羽生!」
陸奥「落ち着けないよ………今回ばかりはアンタの薬のせいなんだ、アンタが悪いんだよ………」
陸奥「も、もう無理…………アタシは………」
陸奥「アンタのこと………こんな風に………思っ………て…………」
ドサッ
創「羽生?」
陸奥「…………」
陸奥「zzzz」
創「眠ったのか……睡眠薬としての効果が今になって効いたのか、それとも………」
創「………」
創「もう、好奇心で薬のことを学ぶのはやめにしよう……今回のような間違いを犯さない為にも」
最終更新:2022年09月04日 14:22