ロートルは大きなビルに呼び出されていた、ここは……
グローリースターも所属するヒーロー達の事務所だった。
指示された通りに奥へ、上へと進んでいく………そこに、あの人はいた。
「ハロー、君が……ロートル・アルタイルで間違いないようね。」
ロートルは声の感じで分かった、あそこにいる女性が一昨日に突然電話を掛けていたのだろう。
今目の前にいるあの女性も原理は分からないが自分がその相手だとすぐに理解した。
「そういえば私の事を話してなかったわね……ごめんなさい」
「私はプライズ・サービス、このヒーロー事務所『
エンタープライズ』の所長をしているわ。」
プライズと名乗った女性は、事務的なスーツを付けていながらも大きく胸元が露出し、男の目を引く格好をしていた。
だがそれよりも目立つのはその顔だ、左目の下にある泣きぼくろが特徴的だった。
「さて早速だけど……改めて君の事について聞かせてくれるかしら?まず君は何者か」
「ぼ、僕は……ロートル・アルタイル、信じてもらえないかもしれませんが、ここに居たという
グローリースターの……お、弟です。」
「どうやらそうみたいね、私もあの時までは存在すら彼から聞いてなかったけど」
自分の存在は本当に世間に知られてないようだ、気にすることでは無い、それで当然なのだから。
「あの…どうして僕のことが分かったんですか?」
「……『異能力』よ、私は読心、つまり人間が考えてる事を読み取ることが出来るの。」
兄が生きていた頃に聞いたことがある、たまに特殊な力を持って命を宿す事がある……それが『異能力』。実際にそんなものが存在するなんて思いもしなかったが、目の前で起こっている事が現実として受け止めさせる。
「話はここまで、そろそろ本題に入りましょう。」
そうだ、自分もこの話をする為にここまで来た。
「兄が……亡くなったというのは……」
「ええ、確かな情報よ…その、あまりにも酷い状態で見せることも出来ない。」
「……そうですか、そして……」
「僕が……兄さんの代わりにって……」
「
グローリースターの死が明らかになることは何としても避けなくてはならない、その為には代わりが必要になってくる」
グローリースターの弟であるロートルに白羽の矢が立ったというわけだ。
だが何故こんな自分を選んできたのか、ロートル自身分からなかった。
「貴方の心は不安で埋め尽くされているようね…もちろん、我々
エンタープライズは君の為に一切の協力は惜しまないわ」
ロートルの意思は揺るがなかった。
「あら、本気なの?あなたの心には不安や恐怖の感情が大きく感じるわ」
実際その通りだ、だが……
「確かに、怖いし……兄さんのようにはなれないと、分かっています、ただ」
「そもそも今の僕には……この話を断る権利なんて無いと思ったから………」
「そう……じゃあ、決まりね」
「ロートル・アルタイル……今日から貴方が
グローリースターよ」
「はい。」
こうしてロートル、ロートル・アルタイルは星のヒーローになった。
………
「ねぇ、あなた……もっと笑顔になれないの?」
「無理な質問ですね」
その日の夜のこと
プライズは夜空を見ながら秘書と話をしていた。
新生
グローリースターの事について、これから忙しくなる為夜まで作業を進めておかなくてはならない。
「私からもよろしいですか、サービス所長」
「何故彼を?あの方の代役でしたら、もっと適した……それこそヒーロー候補を……彼はまだ若過ぎるし、異能力を持ってないように見えましたが」
「そうね……私の読心能力、アレって実は電話越しでも使えるって知ってた?」
「いえ、私は初耳です」
「彼の電話に見慣れない番号があったから、掛けて報告したの、そしたら弟だって」
秘書はプライズに近付き、目を潜めて聞き出す
「……一体、どんなものが見えたんですか」
「……逆ね、『何も見えなかった』。」
「はい?」
「元々電話越しだと読心能力は半減する、その上で……彼に見えている物が何も見えてこなかった。」
「簡単に言えば、興味ね」
プライズは自身の胸元に手を当てながら話す。
彼女は読心能力者、その読心能力を最大限活かすことで相手の考えを読むことが出来る。
相手の思考が読めれば、相手が次に何をするかが分かる。
その応用で相手の嘘を見抜くことも出来る。
そんなプライズだからこそ、このヒーロー事務所『
エンタープライズ』をやりくりし、健全な心を持ったヒーローを集めてきた。
資料をまとめた後、隣の棚に小さな鍵が付いていることに気付く。
「やだ、あの子に大事な物渡すの忘れてるじゃない……クロフク、車出せる?」
「はい、今すぐにでも。」
……
一方その頃、ロートルは…
「兄さんが……ここに……?」
グローリースターのスーツから住所を辿り、大きな家にたどり着いた
ロートルが住んでいる所に比べ遥かに大きい場所で、近隣住民の話だと家の中で
グローリースターは寝泊まりしていたという。
「どういう……兄さん、僕達の家に時々帰ってきて、すぐ仕事に行ってたんじゃ……」
「ソーーリーー!アルタイル!」
ロートルが困惑している後ろで、黒い車がとんでもないスピードで飛ばして、即座に急ブレーキで止まる。
ドアが開いてプライズが飛び出してくる。
「忘れてた!ここの鍵渡してなかった……アルタイル?」
「………えーと、サービス…所長?」
「なんですか、これ……」
……
プライズは持ってきた鍵で中を開けてロートルを中に入れる。
中の家具はつい最近まで使用された痕跡があり、服や食料までしっかり揃っていた。
兄が…ほぼ、この家に居たことは間違いないようだ。
「とすると、君はずっと小さな家に居て、お兄さんがここに住んでいたことは一切知らなかったと」
「はい……まさか、こんな場所があるなんて思いもしませんでした」
「そうね、ここが貴方のお兄さんの家よ、そして……貴方のこれからの家になるかもしれない」
そう、ロートルは死んだ兄の代わりに
グローリースターになったのだ。
ヒーローという存在はロートルにとって少し憧れだった。
「それで……貴方が言うには、貴方が住んでいた方の家に彼はちょっと帰ってきて、少し滞在しては仕事に行っていたと……」
(妙ね…なんでわざわざこんな広い家に弟を招かず生活していたのか?私自身あの時電話して弟の存在を知った……)
「所長、そろそろお時間ですが」
「あら、そういえば急ぎの用事だったものね……じゃあアルタイル君、明日から貴方はヒーローとして
エンタープライズで頑張ってもらうわね」
「僕、一体どうすれば……」
「大丈夫よ、またその時が来たら私が手とり足とり教えてあげるわ」
「だから安心しなさい、お休み」
ロートルは不安な気持ちを抱きながら、ベッドに入った。
生まれて初めて分厚いベッドを被って眠りについた。
今までと打って変わって暖かすぎて、逆に寝付けなかった。
冷蔵庫を開けてみた、これまでの生活では口にしたこともない食料品が山ほどあった。
「兄さん…貴方は僕に何も知らせず、一体どんな生活をしていたんだ」
最終更新:2023年01月02日 23:03