……暫くして、RRRからどうにかデータを回収し、戻ってきた
グローリースターことロートル。
「ちゃんと戻ってきて偉いわ、よく頑張ったわね」
その言葉を聞いて、なんだか……不思議な、変な気分だった。そして、その心境もプライズはすぐに読み取れる。
「どうかしたの?」
「あ……その……なんて言ったらいいのか、わかんない……けど……」
「あまり……褒められることに……慣れて、なくて……」
「…………」
「…あら、貴方……データ以外にも何か持ってるわね?」
「あっ……」
ロートルは自分が紙を握らされていたことを思い出す。
RRR事務所を出る時に渡されたものだ。
仕事に使うものと思い、これもプライズに提出すると………
「………あら、これは」
紙を開き、中を見て……
「これ、誰から貰ったの?」
「フレ……キングバニーさんから……」
「キングバニーね……確かに彼女なら、これくらいの情報を持っていてもおかしくないわ」
「一体何が書いてあったんですか?」
「……あるテロリスト達の、潜伏場所」
「!」
今、どんな顔をすれば良いのかわからない。
遂に……覚悟はしていたが、この時が来てしまった。
戦う為に…動く時が。
「アルタイル君、貴方も分かっていると思うけど私達ヒーロー組織は…こういう危険なこともしている、勿論安全の為にヒーロースーツは銃弾なんかは簡単に弾くように出来ている。」
「でも、キングバニーがそれを渡してきたという事は……僕らにも……」
「そうね、RRRだけじゃ心許ないと判断して貴方に渡すように送ったのね」
「
グローリースターとキングバニーの2人がかりなら、どんな組織でも早急に壊滅できる……」
……だが、ロートルも分かる大きな問題が残っている、確かに
グローリースターとキングバニーならどんな相手にも負けないだろう。
本当にそれが、以前までの
グローリースターなら。
「そう、今の
グローリースターは貴方……仕方ないことではあるけど、戦闘経験は一切ない素人……」
「実力で言えばキングバニーの半分以下、それどころか
エンタープライズのいずれかにも劣っているのが今の貴方ね」
「すみません……」
「謝るような事じゃないから、貴方が気にすることじゃないわ……」
だが、プライズ所長の言うことは最もだ。
これまで戦闘どころか喧嘩すらろくにしたこともない自分に、この仕事をやるまでに何か出来ないのだろうか?
それに……
ロートルは思う。
(僕は兄さんの代役としてここにいる)
もし自分がいなければ、代わりに別の人の
グローリースターとして今頃は……
その方が良かったのではないかと……思ってしまう。
だが…自分は果たさなくてはならない。
ロートル・アルタイルという男はもういない、兄の代わりに自分が
グローリースターにならなくてはならない。
サービス所長の口が開く。
「……そういえば
グローリースター、トレーニング室はどうしたの?」
「まだ……行ってません。」
この事務所のヒーロー達にはそれぞれトレーニング室がある、それぞれ自分に合う設備や休息のための趣味の道具を置く、一種の私室のようになっている。
当然
グローリースターにもそれはある、だがロートルは入っていない……いや、入れていなかった。
………
自分のトレーニング室前、扉に触れようとすると…青色の電子状のパネルが飛び出してくる、所謂最新鋭のパスコードだ。
数字ではなくキーワード式で、プライズにこの件を聞くとそのヒーローにとって、一番好きなものにしている者が多い、と聞くが……
「開か…ない……」
グローリースターはこのの部屋を開けたことがない。
もちろん何もしなかった訳では無い、思い付く言葉は何かしら入れてみた。
兄の気持ちになり、ヒーローの気持ちになりどういう言葉を入れるかを必死に考えて打ち込んだ。
まず自分の名前『ロートル』と『アルタイル』を入れてみた、反応しないがそこは想定していた。
次に荒唐無稽にヒーローらしい言葉を入れた。『正義』『愛と平和』『希望』『幸福』……何通りか試して、開いた試しはない。
前にプライズに頭を下げて頼んでみたが、個人情報保護の為に変更は出来ないという、パスワードを聞いても思い当たるものがオタすぎて分からないと言われた。
他のヒーローや技術者にはまず相手にされなかった。
やっぱり無理だったのだ。
自分は兄のようなヒーローになることは出来ない、ただの偽者でしかない。
本物になんてなれっこない。
そう諦めかけた時、ふとロートルは思い出す。
………
「なぁ、フレンよ」
「………何」
「お前
グローリースターが土下座しているところ見たことある?」
「知らない………」
もう自分には四の五の言ってられない。
再びRRRに向かい、シルバーに会いに行ってみた、頭を下げて。
「……じゃー確認するけど、そちらのトレーニング部屋の?パスワードを……わ、忘れて?それを俺に相談?俺、別事務所の技術者だよ?そっちどうしたの?」
「僕、あまり……相手にされなくて」
「知らない……」
「それで……もう、シルバーさんにしか話せないと、思って……」
「別にトレーニング室無くても簡単な筋トレくらいは出来るんだけどな……ほら、フレンも今ここでスクワットしながら話聞いてるし」
「部屋……他のヒーローに貸してるだけ……」
ロートルは本当に申し訳なさそうな顔をしながら額から汗を流している。
「貸す…そうだ、他ヒーローのトレーニング室貸してもらえよ、お前ん所はうちと違ってたくさんあるんだから」
「……有料らしくて、1、2回使ったら、もう全財産が」
「知らない……」
なんか話せば話すほどボロが出てきそうでロートルは泣きそうだった、でもこれしか方法が思い当たらず……
「でも……
グローリースターが言いたいことは分かった、パスワードに入れた言葉忘れたってこと」
「私思い当たるものがある。」
「えっ、本当ですか!?」
「それ俺も聞いていい?」
「お前が知ってるのはどうなの?、」
「僕も別にシルバーさんくらいなら…」
「俺らがライバル事務所って忘れてない?まあいいや教えてやれサクッと」
フレンは背丈が違いすぎるので屈んで膝を付き、ロートルを傍にやって他の人に聞こえないように耳打ちをした。
その瞬間、ロートルの顔が青ざめる。
シルバーが首を傾げる。
そして、シルバーが口を開く。
「おいどうしたよ、なんか想定外でもあったか?」
「そんな……本当にそんな事を、そんなことあるわけ……」
「そうは言われても……私は前に貴方から聞いたのをそのまま、言っただけ」
「試してみれば、分かる」
「ありがとう……ございます……」
ロートルは、足取りを少し重くしてラボ室から抜けていった。
「………一体、何言ったのマジで」
「本当に、パスワードをそのまま」
ロートルは、兄の形見であるグローブを手に取って、拳を握る。プライズに頼んでグローブだけは新調しないようにしていた。
手の甲に星のマークがある、兄と同じ星のヒーローバッジ。……
兄さん、僕も、ヒーローになれるかな。
………………
その後、フレンに言われたパスワードを打ち込んだ。扉は開いた。
ようやく、そこに入れるというのに気分は晴れやかじゃなかった。
最終更新:2023年01月02日 23:08