ロートルの件でフレンとシルバーが協力してくれる………ということになったが、まだ不安も大きかった。
あれから戻った後、
グローリースターは活動休止が発表された。
プライズが唐突にこの件を公開し、再活動日は未定と話した。
ヒーローを名乗る必要は無いので……ロートル・アルタイルとして外に出るのは、これで二度目だった。
「………ま、忙しく時間がないよりはそれくらいがいいだろ、ロートル」
シルバーとフレンも、仕事時とは別のプライベートな状態で居る。
「…………5日間で戦えるようになって、これから、1番になれるくらいに、強くなって……」
「まー焦りは禁物だ、お前は右も左も分からない状況なんだから遠慮なく頼れ」
「お前まだ若いだろ?友達はまだしも家族構成とかはどうなんだ?」
「分かりません……死んだのか、いなくなったのかも、聞いてなくて、兄さんだけが頼りで、言う通りにしてました」
「家から出るなと言われて、ずっと兄さんが帰ってくるのを待つ生活をしていました、僕が
グローリースターになるまで……」
グローリースターがロートルに与えた影響は色んな意味で大きい。
ロートル・アルタイルという少年はようやく、陽の光を浴びて外に出た。
戦う以前にアフターケアも必要なのだろう、だからプライズは活動休止を行った……シルバーはそう考察する。
「………それで、ロートルが抱えてる一番の問題は」
「はい……僕、無能力者……なので」
「能力…者…ねぇ」
人として見ればおよそ10%、少ないようで世界規模で見れば実はかなりの数が当てはまる、特殊な能力持ち。
フレンもその1人だが、残念な事にロートルはそうではないという。
「それって自分の判断でわかるものなの?」
「はい、ここまで家で色々試しましたけど、それらしい物が出なかったので……」
「つっても、アニメやマンガのキャラクターみたいに能力者つってもみんな大した力は持ってないじゃないかよ」
「空を自在に飛べるーとか、炎とかを操るーみたいなのかと思ってたが……まあリアルではあるけど」
シルバーはフレンを少し見てきたから分かる、能力者といっても特別な派手なものではない。
たとえば、フレンの能力は『冷気』だが、周囲を凍らせるなどが出来る訳ではなく、ただ体温が低いだけ。
体温を下げる方にコントロール出来るぐらいだ。
キングバニーは敵を倒す時大きな太腿や肘で相手を締め上げて一瞬で気絶させる。
「それをシルバーに……密着すれば敵の体温を極度に低下させて無力化させられると教えられた」
「あの絞め技、意味あったんですね……」
「ヒーローっぽくないから教えなきゃ良かったかなと俺は思ってるけどな……」
「……話を戻すが、私は別に能力者でなくてもなんら問題は無いと思っている。」
「
グローリースターは小細工無しの筋肉系だしスーツがある程度補強してくれる、ロートルの今の問題はガリガリすぎることだから、あと4日で筋肉ある程度つければいい」
「4日で筋肉がつくなら、ビルダーは苦労しないんだがな………」
筋肉をつけるにはタンパク質が必要、しかし食事だけで摂取できる量は少なく、肉を食べようとしても値段が高い。
そもそもロートルの食生活を考えると、まともに食事を摂っているかも怪しいところがある。
シルバーの言う通り、4日間でいきなり肉体改造は不可能に近い。
フレンは何かしらドーピングを行ってこの体を手に入れたが、2人は死んでもそれを打ち明けないだろう。
「まぁ飯は俺、トレーニングはフレンで分担として、もっとこう何か……何かないのか」
「あっそうだロートル、スーパーヒーローなんだしよ、お前兄さんから必殺技とか聞いてないか?」
「必殺技……?悪にトドメを刺す時に……やるやつ……?」
「えーと……スターバスター……というのを前に聞いたような」
「そうそうそれ!そういうのだよ!!」
「え…何それ知らない……」
「フレンお前……」
「で、スターバスターってどういう技なの?」
「僕も名前しか聞いてなくて……」
スターバスターの詳細は誰にも分からない
つまり、ロートルが当てずっぽうで使うしかないのだ。
しかし、どう使えば良いか分からない。
ヒーローが使える必殺技といえば……やはり、パンチだろうか。
「とりあえずスターバスターはまた体育館で適当に考えるとして、さっき言った分担で……」
「待ってシルバー、飯は私がやる、シルバーがトレーニング担当でいい」
「え?でも俺、確かにお前にも色々教えたけど簡単な筋トレぐらいだぞ?」
「最初はそれくらいでいい、私のトレーニング室も他のメンバーが借りていることが多いし、第一お前は金が無い」
「う……だからRRR入ったのもあるしな、俺………」
(フレンさんのスーツ作る為じゃなかったんだ……)
プルルル プルルル
と、会話中にメール音がなる。
「うわ、またクソ所長だ、しばらく忙しいからスーツ作れないって返信しといたろ……」
「えっもうそっち新ヒーロースーツ作るんですか」
「いや、これは私の所に来たな」
「え?」
「新ヒーロースーツのデザインを出す先はシルバーの迷惑にならないように私が先に見るように伝えておいた」
フレンが端末を操作してそれを確認する。
そこには……
新しいデザインとしてチアリーダーのような衣装を着たフレンが映っていた。
胸元は大きく開いていて谷間が見えており、下はスカートになっている。
露出が多く、肌の見える面積が多い。
それを見たフレンは無言で端末を握り潰した。
「………RRR、いつもああなんですか?」
「冗談で仲間に言ってたことなんだが、フレンが所長になる日も遠くないかもしれないな………」
………
まずロートルの筋肉を付けるために……ということで、1度シルバーは離れてフレンとロートルだけで行動することになった。
フレン曰く、二人きりの方が集中できるだろうということらしい。
二人は街中にある大きな公園に来ていた。
広い芝生があり、散歩したり、休憩したりする人も多い。
休日には家族連れも多く来る場所でもある。
今は平日の昼過ぎなので、あまり人は居ないが。
「公園なんて僕、初めて来ました……」
「そうか、早速だがまず訓練を始める。」
フレンはドッジボールなどで使われるような中くらいのボールを取り出す。
「右も左も分からないなら、まずは攻めるより反射神経を鍛えた方が命を守りやすい」
「……避ける、訓練ということですか?」
「そうだ、まず試しに1回お前に向かって軽く投げる」
そう言ってフレンは周囲に覇気を込め、深く呼吸しながら、地面を震わせて片足を大きく開いて……
その姿を遠くから見ていたシルバーは青ざめる。
(ば……バカお前ッ!!お前それで手加減してるつもりか!?)
(お前自分の体格と筋肉量分かってんのかよ!!!)
(死ぬぞ!ロートルの骨折れるぞ!!)
しかし、フレンの放ったボールは地面に落ちるどころか……
そのまま音速を超えて衝撃波を放ちながらロートルの顔面へ一直線だった。
ドゴォン!!! ボールとは思えない轟音と共に砂煙が上がる。
………
ボールは、どうにかロートルには当たらず、というか咄嗟に屈んだおかげでかわせたが、真後ろの家の壁を粉々に破壊した。
「あっ」
(………やっぱり、トレーニングは俺が教えよう。)
最終更新:2023年01月02日 23:21