作戦決行。

それから、特番番組はアンティークのおかげで何の問題も無く終わった。

改めて楽屋に戻ると、フレンとシルバーがそばに居た。

「あら、すっかり貴方達もこの子のお気に入りね」

「ま、トレーニング相手なんでね」

「でも、RRRの方の服はどうしたの?」

「………着たくなかった」

フレンはムスッとした態度で答え、シルバーももうこれ以上は聞くなという顔でロートルを見る、こっそりアンティークに聞いてみた。

(RRRの服ってどんなの作ってるの?)

(最近提供されたものから傾向を見ると女性物の水着、中でも面積が非常に薄くて体に密着するものを好んでいるようです)

(ああ……)

「……本題に入るけど、前々から私達もロートルも危険視している、テロ組織の事…」

「叩くのにもう3日もないって事で、改めて情報共有ってわけだ」

「その話、私も聞いていいかしら?エンタープライズも関わるならグローリースターのみに任せられなくなるかもしれない……アンティークも動かすわ」

「はい」

「シルバーさん、RRRの所長さんは呼ばないんですか?」

「こういう仕事興味無いんだよアイツ、馬鹿みたいな格好のヒーロースーツ作るか、フレンの尻を撫でるか、なんかダラダラしてるかの3パターンしかないバカだからな」

………
改めて、2つの事務所によるテロ妨害計画の話し合いが始まった。仮の会議室にはプライズの他にロートル、フレン、シルバー、アンティークの5人。
アンティークの能力は1分間だけ時間を停止する能力。
作戦会議の最中、アンティークの能力を使い、全員の時を止めて周囲を確認し、怪しいものが無いことを確認して鍵を閉める。

「異常ありませんでした」

「ありがとうアンティーク」

「それで、テロ組織は何が厄介なんだフレン?武装がやばいのか?」

「普通の人も機動兵器の類を使ってもおかしくないけど……1番はやっぱり……」


「その組織には私達のように『異能力者』が3人いるらしい」
特殊な能力をヒーローとして正しく使う者もいれば、このテロリスト達のように反した使う者もいる。
だが、彼らのような存在がいるからこそ、この世界のバランスが崩れずに済んでいる……そんな風に兄は1度言っていた。

それでも、悪事は見逃せない。

「なるほど、この能力者をなんとかすればいいわけか」

「だったらそれぞれフレン達RRR、そこにいるアンティークやプライズさんらエンタープライズ……」

「そして……僕1人で能力者と。」

「そうだな、ロートルとしてはこれが初戦闘だ……あんま無茶はさせたくないんだが……」

「この世界の異能力ってそんなスケールのデカいもんじゃないから大丈夫だと安心してたけど、そこのロボットの1分停止見てたらそうも思わなくなった!!」

「なんだよ1分って!!金髪の吸血鬼ですら10秒ちょいだぞ!!チートにも程が…まあいい!どんなのがいるんだ、フレン」

「まず一つはスモーキー……異能力は『草煙』、口から吐く息がタバコを吸って吐いた時のあれみたいになっているが……その濃度は通常のタバコを吸った時の百倍」

「肺死ぬ!てか結局しょっぼいな!!」

「それはウチからヒーローを用意するわ、確かちょうど……換気の異能力を持つエコロジーマンが空いてたし」

「いやそっちもそっちで地味な能力だな……2人目は?」

「2人目……『バトルコング』ゴリラの遺伝子があって、ゴリラに変身できる……これは私達がやる。」

「とすると、僕は……」

「残った、3人目の異能力者……それもグローリースターと因縁のある……」

「『カミラー』」


そう言って、フレンはその人の写真を見せてくれた。
……見たところ、アンティークよりもずっと小さな、金髪の……


「………」

「あらどうしたのアルタイル君神妙な顔して、小さい女の子とはいえ犯罪者よ?」

「いや、これは『あの人また女の子と関係あるのかよ……』って顔だな…_」

「そろそろロートルに対する兄の認識がゆがみ始める時期だろう……」

「待ってアルタイル君……カミラー?この子は危険よ」

「え?」

プライズ所長は以前グローリースターと戦っているともあり、カミラーの情報をいくつか持っていた。
まだ十歳程度の少女にも関わらずエンタープライズの要注意リストに入れられていること。
異能力に頼らず、歯の1本1本にそれぞれ別の特殊な薬を塗ってあること。そして、彼女の持つ異能によって何人ものヒーローが殺されてきた事。
「な、なんですかそれ……」

「ああ、私達の予想でも勝てるかどうかわからないほどの強さを持った子だからね、2大ヒーローの力が無いと止められないのも分かる」

「で、カミラーってどんな能力を持っているんだよ?」

「カミラーの能力は『液体操作』……自身に対しては唾液などの体液を動かせるくらいだが……」

「奴は口付けという手段で長い舌を敵の口内に入れ、水分を搾り取ったり、逆に肺に体液を流し込んで窒息死させる……」

「なるほど、だから女吸血鬼(カミラー)なんて言われているわけか、それをグローリースターが……」

体格的には男性でそれなりに歳をとったロートルなら優位に立てる、マスクを付けているので顔もそう簡単に狙われない。
唇を奪われなければいい……そんな単純な話でもない事もまた確かではあるが……
カミラーの能力の詳細を聞いたシルバーはその作戦を立てた。
まず、ロートルがカミラーの相手をする。
その際、牙を使ってきたらアンティークが時間を止めて身代わりになる、アンドロイドならどんな薬の効果も通用しないからだ。

「あとは、スターバスターでサクッと」

「結局スターバスターなんなのか分かんないままなのに!?」

「そういうのは後付けで世間の流れで決まっていくもんだよ!!」

「ええ……」

「私からも一応用意はしてあるわ、アンティーク、あれを着せてあげて」

「分かりました」

そう言うと、また一瞬でロートルの服が変わる。

「うおっ、これが時間停止能力……マジで一瞬で服が変わったようにしか見えねえ」

「こ、これって……!」

ロートルが着ていたのは、一度データだけ見せてもらった新しいグローリースターのスーツ。つまり、本物と同じ衣装だった。
それも、細部まで同じ。
まるで、本物が生きているような感覚に陥る。
ロートルの感情が高ぶっていく。
今ここに兄さんがいる気がした。
兄さんの代わりとして生きていく覚悟が改めて決まった瞬間でもあった。

やはりグローリースターの服を着ていると……そんな安心感が湧いてくる。

「やります!僕……やります!!」

「あーストップ、アルタイル君……今、一応グローリースターは活動休止中、やる時はバレないようにしましょうね」

「あ、そうでしたすみません……」
最終更新:2023年01月05日 23:32