……翌朝。
「おはようござ……?」
「あ、うん、悪いけどもう起きてるんだ。」
メリアは時計を確認する……この体は朝の七時に目覚めるスケジュールらしいが、自分は六時に目覚める。
その一時間の間も暇なので、ベッドを直し適当に掃除も済ませておいた。
「あの……」
「流石に着替えのしかたは分からないから、頼むわ」
「はい」
………
メイドは困惑しながらメリアのお召し物を整える。
傍から見れば今まで傍若無人なお嬢様だったこの体がこの態度になれば違和感があるのではないのか……?と考えたが、そうでもないようだ。
着替えてすぐメリアはキッチンに寄ってみた、元々生前は貧乏でろくでもない父親を僅かな金で養っていたのでそれなりに自炊は出来たからだ。
だが……流石に文化も技術も現代とははるかに異なる。
異世界にダイヤルをひねるだけで火がつくような便利な器具もあるわけなく、ガスコンロやIHなどあるはずもない。
ましてマイ包丁なんてものは貴族であるメリアにはない。
とりあえず野菜でも切ってみようと思い、ジャガイモを手に取る。
「お嬢様!危ないですよ!」
「えっ?」
そのまま料理人に止められ、食堂に戻される。
流石にこの姿では自ら料理するのは止められるようだ。
……
(流石に金持ち……いい物食っているな)
野菜、パン、牛乳の朝食。
これらの組み合わせは生前から食べていたが、それよりも豪華で彩りの多い食事。
プロの作った満足いく味を数年ぶりに味わい……
「うん、結構いけるな……いい味だ」
とは言うが既に婚約破棄、時期も分からなく追放が確定した身…いずれ得られなくなる至福をじっくり味わい尽くし、汚れなく全て食べ尽くした。
(あっ)
食べた後にドレスを着て食べてたことを思い出し、汚れを確認し……
「お姉様が…全部完食してる……あんなに嫌いな物が多くて殆ど残していたお姉様が……」
妹のシャリアはその光景に軽く驚いていた。
……
食事を終えた後、メイドに鞄を渡される。
どうやらこの異世界にも学校があるらしい。
外に出ると馬車が用意されてあった。
普通の二人乗りの小さなものだ。
しかしそれでもメリアにとっては初めての体験であり、少し緊張する。
「ほぉ~、これが馬車って奴か、漫画で見るより余程座り心地良さそうだな」
初めて見る街の風景、中世ヨーロッパのような風景だが……やはりどこか違う。
転生者は大体アニメや漫画の知識でファンタジーゲームの世界に転生、チート能力を知っているというパターンが多いが、メリアはそうでもなかった
まだ慣れないことも多い為、とりあえず揺られて待っていた。
ふと隣の女性に目をやる、母親は前に妹がいると言っていたので恐らくそれだろう。
「ちょっといいか?」
「ひっ!?は、はい……」
女性は一瞬怯えながらも慎重にメリアに近付き、隣に座る。
メリアはドレスに触れて名前を確認する。
(シャリア…こいつはシャリアっていうのか)
ふと目をやるとシャリアは顔中から汗を吹き出し、足が震えていた。
「ああ、悪い……もういいぞ。」
「はい…………」
シャリアはすぐに離れていく。
メリアはため息をつく。
「あいつ、大丈夫かよ……」
シャリアは極度の人見知りで、家族以外には全く心を開いていない。
その為メリアは嫌われているのでは?と思ったが……多分これも元の体が余程酷かったのだろう、自分ではどうしようもならない……
しばらくしていると、学校らしきものが見えてきた。
入口近くには『アルカナティール学園』と書いてある。
「あそこか、よし……」
……
馬車は学校前で降りて、後は中に入るだけとなったが……
「あっ、シャリア待ってくれ」
「は、はひっ!!」
「俺、靴箱の場所知ら……忘れてるんだよ、ついでにどこだったのか教えてくれないか?」
「ま、まず……今日は入る前に、体育館で全校集会があるって……」
「そうなのか?じゃあまた後でいいよ」
「は、はい……」
メリアはシャリアに礼を言って別れた。
そして体育館に向かう。
途中何人かの生徒達がこちらに振り向くが、メリアは気にせず前へ進む。
「……多分俺、ここでも評判悪いんだろうな」
「昔からこういう学校の校長の話とか苦手だったし、早く終わってくれないか」
「……てか、奥になんか見えるな。」
台の上で一瞬何かの人影が見えた、3人、話す人にしては多い。
「……転校生か何かか?」
すると、集会が始まり……教師の挨拶が始まる。
「み、皆さんおはようございます!こ、今回は……その、転校生を……紹介したいのですが」
(お、やっぱりか)
「く、く、くれぐれも………迷惑もないように、では、どうぞ」
「はい」
そう言って入ってきたのは……メリアにも分かる、『オーラ』が違う。
これまでの誰よりも雰囲気も気品も大きく違う、高貴なオーラを放つ男が現れた。
「私はログファレス・バルデス・カルバラン……今日よりこのアルカナティール学園でお世話になります、こういった学園で知識を得たいと思い転校してきたものです」
その発言を聞いて一同はざわめき出す。
「カルデバラン……!?」「嘘だろ……まさか、あの遠い砂漠にあるっていう『カルデバラン魔国』の皇子……!? 」「なんでここに……!?」
どうやらあの転校生は遠い国の王子様らしい、これは流石のメリアも迂闊に近付けないと思い、眉をしかめた。
(王子って……なんでこのタイミングで……)
「ちょ、ちょっとおい!」
「俺のインパクト薄れる!!」
と、そういえばもう1人誰か居たことをメリアも忘れていた。
皇子は空気を読んで軽く後ろに下がる。
「で!俺はこの学校で新しく教師として就任することになった、フォグ・ランシーだ!」
「このログ王子共々よろしく頼むぜ、なんなら王子に学園紹介したのも俺だしな!」
なんなんだろうかあれは。
皇子が学校に転入してきただけでもわけわからないのに、それ以上に変な奴が教師としてやってきた。
一体何がしたいんだあの二人は……
しかし、皇子が居る手前あまり騒ぐのも良くない。
それに、皇子と同じくメリアもこの学園について詳しくないのだ。
とりあえず今は黙っているしかない。
そして集会は終わり、クラス表を見ていると、メリアのクラスの担任はメリアを呼びつけた。
その途中、サリエスとすれ違ったが軽い愛想だけ返して向かおうとすると。
「おい、待て」
「あ、悪い、なんか返事とか必要だったか?」
「今、私相手に通り過ぎようとしたのか?分かっているのか、お前は」
「そうは言っても俺はもうお前の婚約者じゃないんだろ、そもそも破棄してきたのもお前」
「良かったじゃないか、こんなクソお嬢様に構うよりは他の女と結婚出来るぞ、サナとかってさ……」
「貴様ッ!」
その時、サリエスはメリアの胸ぐらを掴んだ。
周りの生徒達が騒ぎ出し、教師が駆けつけてくる。
それを見たサリエスは手を離し、睨みながら去っていった。
「なんなんだよアイツ……」
最終更新:2023年01月21日 16:59