…………
改めて、魔法の確認をする為に魔法の授業が始まった。
「まず俺から行くぞ」
「もう俺にブッ刺すなよ!?」
フォグは若干離れると、メリアは手を叩き、地面や壁に念じると周囲から鋼鉄製の刃が飛び出してくる……先程メリアが喧嘩の勢いで出した『剣の魔法』だ。
「錬金術じゃねーんだから手を叩くなよ……」
「なんかイメージ的にそれっぽい感じがしたんだ……よし、次は槍でも出してみるか」
「……?メリア、君は何を言っているんだ?」
そばで見ていたログは首を傾げる。
……メリアが聞いてみると、魔法は今後の人生を揺るがす大事なもの。
あらゆる魔法を使えるのは『最初だ け』。
即ち………1度魔法を使えば、以降はその魔法しか使えなくなるというのがこの世界の理だった。
「マジかよ……じゃあ俺ずっと剣を出すだけの魔法かよ……」
「実用性があるだけマシだろ、次!ログ皇子はどんなの?」
「私はこれといって珍しいものでは無い、カルバラン魔国の王族は代々『砂の魔法』を覚えることになっている。」
ログが手を広げると、周囲から砂が形成され、更に念じると巨大な手の形になる。
「更に兄達は鉄に触れると粉微塵に……つまり、砂鉄に変えることが出来る、まだ私は未熟だ」
「カルバラン魔国と戦争だけはしたくないな……よし最後、サナ!」
「はい!」
サナが足を踏み出すと……1歩。
1歩足を踏み出すだけで、車のような速さで教室の端まで到達した。
「ふむ……加速魔法か…、あまり目にする物では無いものだったが」
「実際ここじゃ人気無い魔法だけど、これ使うと実家の農作業とか凄く捗るからこれにしたんだ」
「俺も調理とかの効率捗る魔法にしとけば良かった………」
「そんなピンポイントな魔法選んだ方が将来後悔すると思うがな」
もう少し慎重に魔法を選べばよかった、そもそもこの体が既に剣の魔法と決めていた可能性の方が高いのだが……
ふとある可能性が思い立った。
「なぁログ、魔国というからには魔法に詳しいのか?」
「まぁ、魔法に関して深く精通しているのがカルバラン魔国であるからには……」
「じゃ、数ある魔法の中で一番強いのは?」
「そんな物が定義されているわけ無いだろう、決まってしまえば全人類がその魔法しか使わなくなる」
「じゃあログの主観でいいんだよ」
「私の主観か……そうだな、この学園の生徒限定で見るとするなら、あのサリエス・イルタールの指輪の魔法だろう。」
メリアはそれを聞き、教科書と時点から指輪の魔法の詳細を確認する。
……指輪の魔法、それはその名の通り指輪を使用する魔法で、対象を指輪の中に閉じ込めたり、逆に入っていたものを出すことが出来る。
そういえばサリエスは十本の指全てに指輪を付けていた。
しかし、何故こんな魔法が強いのだろうか? メリアは疑問に思った。
確かに便利ではあるが、使い方によってはもっと便利な魔法がある筈だ。
「指輪の魔法は非常に応用が効く、炎の魔法を覚えたものは炎しか出せない、だが指輪の魔法なら2つの指輪に炎と水を入れれば2つの魔法を使えると言っても等しい」
「その分、器用貧乏にはなるって欠点もあるけどな」
「へー……」
……
「それで、お前達3人は今後の予定決めたのか」
「まだその流れ終わってなかったのかよ」
「有意義な学生生活を送る上で目標は大事でしょうが」
「有意義な学生生活送ってこなかったやつが言う言葉だぞそれ」
「おだまり」
メリアがフォグに突っ込むと、サナが話し始めた。
どうやらサナは、サリエスとの婚約を望んでいないらしい。
サリエスに自分を助けてくれた恩義はあるが、何故か自分の知らないところで結婚まで流れが決まってしまったという。
「そもそも私はなんでこの学校に来れたかも分からない……気持ちは嬉しいけど、とても私じゃ、サリエス様には釣り合わない……」
「ランシー先生は何か聞いているのか?」
「いや、俺もそこまでは……あ、そういえば君って空から落ちてきたとかなんとか?」
「お母さんはそう言ってたけど……そんな事あるわけない、なのに皆それを信じてる。」
(サナの方もなんか苦労しているな……サリエスの奴、何考えている?)
「私は……カルバラン魔国に居るだけでは覚えられないような知識を得るために来た、それが目標だな」
「はい、それで肝心なジャジャ馬令嬢様は?」
「頑なに俺の事そういう呼び方しやがるなセンコー……アホのくせに」
心の中でログとサナはそう思った。
「俺はこれだ、目標っつーか……」
メリアは机の棚からノートを取り出し、文字をびっしり書いた中身を広げる。
「追放されるまでにやりたいこと100だ」
「…おー、思い切ったな」
「俺だって全部やり切れるとは思ってねーよ、立てるだけ立てといた」
転生前、死期が近い人間が満足して息を引き取る為の行動として『終活』というものを聞いたことがある。
終活と言ってもメリアは既に1度死んでいるが、この体もまた死が近い状況であることもそうだ。
なら、前の体では出来なかったことを、1つでもしておきたい。
この世界には、きっと沢山の文化がある。
科学、魔法、芸術、政治、文化、宗教、種族、数え切れないほど、前の世界とは違う。
経緯はどうあれ迷い込んだこの世界を少しでも楽しみ、その中で死んでいくのも悪くないだろう。
「………てなわけで」
「サナ・ヒカリ、今更こんなこと言ったって何も変わりはしない、別にサリエスと関係を戻したいなんて微塵も思ってないし、俺は追放されて当然だ」
「だが、受け入れるだけで何も無くそのままにしてはいけない、泥這いつくばる覚悟は出来ている」
「本当に、今まですまなかった。」
メリアの土下座に、ログは目を見開いた。
そしてその光景に、クラス中の生徒達が集まってくる。
メリアのその姿に、ログは何が起きているのか分からなかった
一体何が起きている?
メリアの近くにサナが近寄る……。
「その気持ちは……この瞬間だけは、嘘じゃないって私には分かる」
「今まで沢山あなたに騙されてきたからこそ、それだけは本当だと伝わる」
「でも、これだけは言わせて欲しい」
「………追放ってどういうこと?」
「ん?お前……サリエスの婚約者になったのに俺がどうなったのか何も聞いてないのか?」
「サリエスの奴が俺に追放するように言った、俺はそれを受け入れた、それだけだ」
「まだ予定こそ決まってないが、お前の件とかその他諸々でトゥシャール家ではなくなる、そうなったら野ざらしだな」
「犬に食われるか野党に殺されるか奴隷に堕ちるか、まぁそんなところだろ俺の末路なんて」
「だからほら、こうしてその時に備えて死ぬまでにやりたいことリスト作ったんだし……」
「私……」
「私、サリエス様からそんな事聞いてない………」
メリアはサナの一言に耳を傾けた。
サナは、目に涙を浮かべていた。
今まで気丈に振る舞っていたサナが、涙を流しながらメリアに訴えかけていた。
メリアは立ち上がり、サナを抱き締める。
サナは、震える声でメリアにこう告げた。
「私……サリエス様と本当は結婚したくない、農村で、私と同じ農民と結婚したい……」
「それは俺じゃなくて、サリエスに伝えるんだな……」
そしてその光景を見ていたログとフォグは……
「……何やら、この国では面倒なことが起きているのか?」
「ああ、もしかしたらコレただの結婚騒ぎじゃないかもな」
「………サナ・ヒカリ、何がサリエス・イルタールを惹き付けるのか……?」
最終更新:2023年01月21日 17:27