まだ知らないアイツへ。

………それからというものの。

「な、なぁ……サナ?別にいいんだよ、俺のやりたいことリストに首突っ込まなくて」

「嫌、1個でも多くやっておきたいんでしょ?」

「そりゃそうだが……」

メリアの傍には大体サナがいた。

最初は追放を受け入れるまでは考え直すように言っていたが、メリアは何があっても折れないと悟ってからは、ただ、そばで手伝うようになった。

………それで今回はチョコケーキを作っている。
メリアと、シャリアと、サナの3人で。

突然の事だがつい最近までいがみ合っていたこの2人が一緒にいるので、シャリアは普通に怖かった。

「お……お、お姉様……これ、一体どういう」

「いいんだ、お前は気にしなくていい」

「卒業するぐらいの時には俺はもうトゥシャールじゃなくなる、お前も辛い思いはしなくなるしいい事づくめだろ」

「あ、その前にその性格を治させないと今後の跡継ぎが不安だな、それもやりたいことリストに含まれているが……」

「お、お姉様……何を……?」

そこでサナがメリアの方を見る。

「メリア様、まさか貴方の方も妹に追放の事を話してないなんて……」

「いや……俺は母親から聞いてるし、あの人はしっかりしてる、こんな大事なことをシャリアに伝えてないはずない」

「だ、だって……だって……まさか、本当に家を出ていくなんて思わなくて……」

「俺はそれくらいの事をした、仕方ないんだよシャリア、お前にも酷い事したのは記憶にはあるからな……」

「…………だからせめて、よし出来た。」

話をしながら、遂にチョコケーキが完成した。
メリアは事前にフォグから貰っておいたクラッカーを天井にぶちまける。


………やりたいことリストの1つ
『最初で最後の、妹の誕生祝い』

「人の1度だけの大事な日を祝うこととか、やったことなかったからな」

シャリアも気付く。
この人は追放だけでは済まさない、家から出たらそのままその身を絶つつもりなのだろう。
「ね、姉様……待って、お姉様」

「サナ、今日はこのまま色々買いに行くの付き合ってくれよ」

「まだ、お父様が、お父様がいつものように貴方を庇うから」

「でかいうさぎのぬいぐるみとかさ……女って、綺麗な服とか欲しいよな、ブランド物の……」

「そうやって、そうやって何があっても家に居たのが姉様で」

「人の誕生日は一生モノだ!思いっきり祝おうぜ」

「待って!!どこにも行かないでお姉様!!!」

………
それからのシャリアは、サナよりもずっとメリアのそばに居たまま離れなくなった。
家でも、寝る時も、学校でも……
自分のクラスに行かず、メリアの後ろで
じっとしている。
しかしメリアは特に何も言わず、受け入れていた。

フォグも一応、見て見ぬふりをしている。話題には出すが。

「不思議なもんだな……サナはまだしも、お前の妹が許したようなものなんて」

「これが許してるように見えるか?」

「そんなわけないだろ……これは許してるわけでもない、俺が好きな訳でもない、依存だ」

「この体はそれくらいアイツの事を追い詰めていた、それだけの事だ……そして、そうなったからには、俺が死ぬまでにこいつをなんとかしないと……」

「あ、もちろん勉強もするぞ、ここで頭悪い扱いも癪に障る」

「……メリア」

あれからあまり話しかけてこなかったログが、久しぶりに口を開いたのを見た気がする。

「君はいつも、自分が死ぬ間際の時のことを考えている……まるで重い病を患ったような、希望を失ったような」

「だが君はあくまで……こう言うのもなんだが、家を無くし、立場を失うのみ、やりようはいくらでも……」

「気遣いありがとな、ログ…でもいいんだ」


「死ぬ間際じゃない、『もう死んでる』んだ……あの時から」

「俺の中では、あの婚約破棄を言われたあの日、もう死んでるんだよ、ただ……ちょっとだけ楽しむ余裕を神がくれた、それだけだ」
俺は、ログに言った。……いや、自分に言い聞かせるように言っているのかもしれない。

確かにログの言う通りだが、不思議とそんな気はしなかった。
シャリアの自分を掴む腕が、より一層強くなった気がした。

……これが、この世界が日本じゃゲームとして売られてるんだから変なものだ。
ゲームの中のメリアはどんなヤツだったのだろうか、間違いなく自分のようではない、どんな風に破滅していたのだろうか。

そしてサナは……

「なぁ、俺の事よりも……だ。」

「サナ、やけに遅くないか?」

今日はサナが授業に全然来ない。足が早い魔法を使えるのだから遅刻するなんてことはありえない。それにいつもの教室にもいないらしい。一体どこにいるのか。
フォグも知らないらしく首を横に振っている。
心配になってフォグと一緒に探しに行くことにした。
まず色んな教室に行ってみるが、そこにはいなかった。
次は中庭の方に走って行ってみると、そこでサナが沢山の男に囲まれていた。

「わ、私……だから…釣り合わないので……結婚なんて、急に……」

……
「おいバカ教え子、これをどう見る?」

「バカは余計だが良くない状況なのは誰から見ても分かるだろ」

「おいセンコー、俺が出ると面倒になる、たまには先生らしいことしろ」

「俺がいつも教師みたいなことしてないみたいに言うな、まぁ分かった……俺に任せろ」

フォグが地面に手をつけると、その周囲から黒い粘液が広がり始める。

「特別だ、見せてやるよ……俺の『魔法』」
黒い液体がサナを囲む男達に向かっていき、飲み込んでいく。
するとサナを取り囲んでいた男達は悲鳴をあげながら消えていった。……消えた?!どういうことだ!? そう思った瞬間、サナが倒れた。

「おいお前何した!!」

「心配するな、死んだわけじゃない……あの液体はワープホールみたいなもんだ、それぞれの教室に帰しといただけだよ」

「なんとかしろとは言ったがやり方が乱暴すぎんだろが!!」

……
改めて教室に戻り、サナに事情を聞いてみると……なんと、貴族達全員が求婚してきたという。
それもサリエスに負けずの有名な名門一族達だ。

「これをどう見るセンコー」

「それはもう……モテるを遥かに通り越して……」

「逆に貴族達が怪しいとしか言いようがないな」

「俺も王子様にに賛同」

俺達の席の近くに居たログが会話に入って来た。
「で、お前はどう思う」

「いや、サナの事は私も前々から気になっていた……彼らほどでは無いが」

「なんだログ、お前も好きなのか?」

「そうではない、彼らも本当にサナを想っているかは怪しいところだが……」

「ランシー先生、貴方はサナを紹介する時に『空から落ちてきたといわれている』と言った、私にはどうもそれが引っ掛かる」

「まさか、皆本気でそれを信じて……!?なんでそんなこと……」

「その真意を確かめるためにも」

「全員でサナの居る村に行かないか?」
最終更新:2023年01月21日 17:34