最期の日。

……

そして運命の日、俺が追放されてサナが結婚する日、

今、あのセンコー主導による舞踏会が行われている。
一体あの男にどんな権力と技術が隠れていたのか分からない、新任教師が始めたものとは思えない程に規模の大きいダンスが現在の状況だ。

ただ……なぜ俺の相手がシャリアなのだろうか。

「おいシャリア、普通こういうのって男女で踊るものだろ………」

「私はお姉様以外考えられません」

「………ま、俺もアテがなかったからいいけど。」

センコーは一体何考えてる?
どうにも俺を死なせねーって動いていたが、肝心なあいつがいない。
主催者が舞踏会ほっぽいて何してるんだよ。
ログも舞踏会には顔を見せていない。

当然ながらサナも結婚式の為いない。

「………そっか、最後の日はお前と2人きりか」

「嫌、でしたか?」

「こういう時に贅沢なんか言わねーよ」
俺は今、目の前にいるシャリアと一緒に踊っている。
もうすぐこの体とも別れることになるだろう。
転生してから色々あった。
転生前はただの高校生だったのに、短い間とはいえこうしてお嬢様として生きることになったとはな。
まさかこんな形で終活して、また死ぬことになるとはな。

この時代の処刑って何をやるんだろうか、やっぱり火炙りか?

正直不格好だ、あの時慣れない格好ですっ転んだ時を思い出す。いつあいつのドレスを踏んで引き裂くんじゃないかと思うと迂闊に足も出せない。

「…………」
時間の流れは速い、こんな踊りなどあっさり終わってしまうだろう。
そして、俺は……俺は。

「あ……?」

「お姉様?」

急に前が見辛くなってきた。

なんだこれ?視界が悪くなって、体が思うように動かない。
あれ、おかしいぞ。
なんでだ、まだ始まったばかりなのに、意識が遠のいていく……。

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!お姉様……

ああ、だめだ。
ここで倒れちゃいけない気がするのに


おれは、なにも みえなく……

ーーーーーー
………

「あ?」

ここで、明弥は……目を覚ました。


なんてことは無い、いつもの見た目、いつもの部屋、そして……自分の男の体。

包丁で刺されたはずの胸に触れてみる……刺し跡もない。最初から何も無かったかのように。

あの出来事は全て夢だったのだろうか?重い腰を上げて、いつもの日常を送り始める………



いつものように職場に向かい、少ない金銭を稼ぎ、それで野菜と酒を買い、酒を父親に与え、なんとか買えた野菜で今日の分の食事を作る。

そんな事の繰り返しだった。

母親は既に亡くなり、父親は無職。
ギリギリ中学を卒業し、高校は行く暇がほとんど無いがどうにか命をすり減らして単位を得る……そんな日々。

実感は無いが、今確かに生きている。
死ぬ為にお嬢様の体で生きていた、あの夢よりも。

「しかし変な夢だったな……ぶっ刺されるのは分かるとして、なんで女の体になってんだよ俺」

「ま、実際はちゃんと生きてるだけいいか」



そうして、元の日常に戻っていくのだろう、それが普通なのだから。


………それが?



………日常?


………

「おい親父、今日は酒買ったら金がねーから人参料理な」


「…………なぁ、親父、こんなこと聞くのもなんだけどよ」


「俺の事、殺そうとか思ってない?」

ずっと心の奥底で残っていた。
あの時、夢で殺された時のあの感覚が現実のように感じることがずっとある。
なら、全部吐き出しといていいかな。


「まぁ、これに関しては核心っぽいものはあるような………無いような」


「いや、やっぱりあるわ」


「なんとなくと思って調べたよ、どうやったかは知らんが俺に生命保険掛けやがったな」


「ま、金の為だよな、俺だって分かってたよ………正夢ばかりは勘弁して欲しかった」

………夢が本当になる、それならこの後は……

「包丁は事前に別の所に置いといた、また腹ぶっ刺されるのは御免だから

ドスッ


「あ?」


なんで?


なんで?

なんで刺さった感覚がするんだ?何に刺された?

親父は目の前にいて、何も持ってなくて………

いや、それだけじゃない、なんだ?熱い。炎が近くにあるみたいに熱いぞ。

一体、もうワケがわかんね………

ーーーーーーーー
「お兄さま……お兄様!!」


「あ!?」

また再び目が覚める、今度はまたメリアの体で、見たこともないベッドで。
なんなんだこれは、さっきから何が起きている?
今のは夢?それとも今までが夢?今から現実なのか?

目の前にシャリアが居る、なんと言えばいいだろうか、もしまたやり直しだったら……

「………あ、あー、えっとシャリア……で、いいんだよな?」


「あれ今お兄さまって」

「あ、そうでした……お姉様、これはその……」

「悪い、色々ありすぎて頭が追い付かん、一体何が……」

「お姉様大丈夫……?まだあの舞踏会から数分経ったばかりですよ!」

「何!?」

シャリアから話を聞いた……どうやら自分は踊っている途中で幻覚系の魔法を受けて、あの世界を見ている間にナイフで刺されていたという。
確かにあれから腹部が少し痛い。
ただ問題なのはその幻覚魔法、見えているものが他者にも見える、つまり先程の光景が……

「お、お姉様の幻の中から……鉄の街と、見たことない男性が……」

「そしてお姉様が倒れた後、急に苦しみ出して」
「……」

やはりあの夢は本物だった。
刺され、そして死んだ
そして俺はメリアとしてこの世界に来た。
更には先程の光景が見られたことにより、俺の中身がメリアでは無いことがこんな形でバレてしまった。

「………この通り、俺の精神は何故かメリアにくっついていた、ということだ」

「だから、あの時から急に様子が変わっていたのですね」

「ガッカリしたか?」

「い、いえ…私は気にしていませんので、むしろ……」

「というか、よく俺は腹を刺されて無事だったな、案の定処刑しに来たわけだが」

「あ、はい……ランシー先生が助けてくれて」

「あのセンコー…遅いんだよ、やる事が」

「あっ、それどころじゃありません!お姉様逃げましょう!!あの鉄の街の幻を見て、お姉様が黄金都市のことを知ってるって貴族達が……」

どうやら貴族達が今度は俺に目をつけてきたらしい。
サナの事も心配だ、俺はシャリアに担いでもらいながら
屋敷を出る。
「うぅ……お姉様の体、軽いです」

「すまんな、重くないよな?」

「全然平気です!お兄さま、もう少し筋肉付けてください」

「うるせぇお兄様かお姉様かどっちかにしろ」

………外には、ログの姿がいた。

「メリア……いや、メリアに乗り移った何か、無事だったか」

「お前も把握していたのか、サナを見ていないか」

「サナは大丈夫だ、それより……まずいことになったな」

「それは分かってる、これからどうする気なんだセンコーは」

「ランシー先生はすぐに来ると言っていたが………」


「ガアアアアアア!!!」

突如、とてつもない雄叫びがしたかと思えば、空から黒いドラゴンが飛び出してきて………


「おい!なんかまずいことになったらしいな、早く乗れ!」

「お、お前センコーなのかよ!?」

「いいから乗れよ!話は後だ!」
最終更新:2023年01月21日 17:56