修業を始めて早くも三日。
黒野菜以外の野菜の栽培も始め、洞窟の尖った部分を削り徐々に住みやすい環境にしていった。
「ライチ、とりあえず暫くあの洞窟に居る石食ってる奴はやめとくか」
三日間無理くり調理して分かったが、あの生物は栄養素が低くとてもじゃないが毎日食べたいと思えない味だった。
しかし、ライチはその生き物を不満も言わずバクバク食べていた
「うん、わかった」
ライチが素直に言う事を聞いてくれるから助かる。
だが、問題は…
「となると、肉を取るには狩りに出る必要がある……この辺りに動物がいそうな所とかあるか?」
「近くに川ならある…はず」
「なら、魚はいけるか…」
魚がいると言う事は環境がいい証拠だ。
ここを出て川を探すのも良いかもしれない しかし…
(俺はこの世界にまだ詳しくないからな…俺ならまだしも、人間のライチが食えるようなやつなのか?)
ライチの体は非常に脆い、基本的な事をする前にまず安定的に栄養になるモノを確保しなくてはならない。
とにかくあてがあるなら、行ってみなければ何も始まらない。
「ライチ、ひとまず川行くぞ……修行の一環で」
「はい」
…
デニはライチに案内されて進むと、本当に洞窟の近くに小さめの川があった。
川は綺麗で澄んでいる。水の中には見たこともない様な魚が何匹もいた。
「おぉ!これはすげぇ!」
思わず感嘆の声が出る。
これだけいれば当面の食料確保には困らないだろう。
早速魚を捕まえようとするが……
(どうしたもんかな…手掴みしたいが、万が一毒があったとしてライチに…取らせるのも修行だからな…)
(てか、なんか変に過保護になっちまってるな俺)
ライチの方を見ると、普通に小さな丸い魚を手掴みしていた。
まあ、何年も洞窟暮らしをしていたのだ、普通に考えれば魚が捕れなくては生きていけないだろう。
だが、取れた魚を見て残念そうにリリースしようとするが、それをデニが掴む。
「この魚はなんだ?」
「この辺りだとよく見かける…キバフグです」
「食えないのか?…ああ、そういうことか、物は試しだ」
デニは水面に手を突っ込んでキバフグを大量に回収してみる。
その数は優に五十を越えていた。
デニはそれを口に運び噛み締めてみると口の中一杯に独特の旨味が広がる。
「おお!うめえじゃねえか!だが……確かにこのままじゃ食えないのも分かる。」
これまで、フグは色々口にしてきたが…基本的に毒が無い物はなかった。
デニはいかなる手段を以てしても死ぬことはないので、そのまま食べても何の支障もないが、このままでは……
もちろん何も考えて無いわけではない。
デニは懐から包丁を取り出す。
そして、次々とキバフグに刃を入れていく。
すると紫色に染まった物体を抜き取ってデニは満足気にそれを捨てる。
「何をしているんですか?」
「フグってのは体内に毒袋っていう部位があるんだ、こいつを取り除けば食うことが出来る」
「この川の水も澄んでいるし、上手くやれば…」
「ライチ、洞窟から野菜何個か持ってきてくれ」
「はい!」
しばらくして…
「出来た!俺特製キバフグのしゃぶしゃぶ!」
デニは鍋の中に入れたキバフグの切り身を箸で摘んで持ち上げると、白い湯気が上がる。
そこに旅先で手に入れたポン酢をかけて食べてみた。
噛めば噛むほど白身からエキスが溢れ出してきて、それがポン酢の酸味を引き立てる。
「おお!こいつはいける…火と水と鍋だけあればいいからしゃぶしゃぶってのはずいぶん楽だな」
「ほら、お前もしっかり湯立てて食ってみろよ」
「はい」
ライチは言われるまま、しゃぶしゃぶされたキバフグを口に運ぶ。
ライチは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔になり美味しいと言いながら食べ始めた。
「これ…こんなに美味しいんだ」
「毒さえ無ければそんなもんさ、しかもこいつ結構栄養ありそうだぞ」
キバフグのしゃぶしゃぶをありったけ食べた後、デニはまだ生きているキバフグを捕まえておいた。
万が一を考え、洞窟の湧き水の中で養殖しようと考えたのだ。
そして、これで野菜、魚は調達できたが後は肉だ。デニはライチに案内され近くの森へと向かう。
「ライチ、この辺りで動物が住めそうな場所ないか?」
「動物……この辺りは木が多いからあまりいないと思う……でもここの森、あの…山に繋がってて…」
「前にお前が言ってた凶暴クマの居るあの山か、なら深手は避けたいな。」
森の入り口近くを確認してると、茂みが揺れる音がした。
デニが包囲網を張り巡らせてみると、兎のような影が見えた。
「あれ何ウサギ?」
「この辺りに居るものだと…多分デンキウサギかと」
「なんだそのうなぎみたいなの…しかし兎に電気持ちか、面倒だな」
デニは電撃の対策について考える。
正直、デニにとって電撃攻撃など大したダメージにはならない。
だが、これはライチの修行の一環。自分だけ良かったところで意味はないのはキバフグの件と同じだ。
ここはあえて、別の方法を試みることにした。
デニは近くの木を切り倒して、加工を始める。
「ししょー、それは?」
「さっきキバフグを捌いたとき、名前通りでっかい牙が生えてるなーと思って残しておいたんだ、これがさっそく役に立つぞ」
デニは持っていた刃物で牙を削り、先ほど作った木の道具と合わせる。
「それは?」
「鉄砲もどき…あ、覚えにくかったら『テッポ』でいいぞ、狩りをする為に使う道具だ」
「ライチ、これも修行だ、こいつを当ててデンキウサギを仕留めてみな」
デニは出来たばかりのテッポをライチに渡し、手本を見せるように目の前に現れたデンキウサギの頭に狙いを定める。
だが……小刻みに震えている。
(ヤベェ……流石に即席で作ったものはぶっ放したことねぇから……なんかすげぇ不安になってくる)
そう思った時だった。
鉄砲から、バチッと音がして、牙を加工した弾丸がデンキウサギの耳を掠めて飛んでいった。
「え?当たった……ししょー、僕当てました!」
「え?マジで?…まあよくやった」
デニは嬉しがるライチの頭を撫でる。
「よし、じゃあもう何匹か当てて、捕まえる所までやってみるか」
「はい」
しばらくして、ライチは三匹のデンキウサギを捕まえてきた。
ライチはデニに褒められて嬉しいのかニコニコしている。
デニもそんなライチを見て微笑む。
これも別の所で放し飼いにすれば肉には困らないだろう。
最終更新:2023年02月14日 16:56