たくっちスノー、試験に出る。

「あ、やっぱりな…デンキウサギというだけあって電気を貯める器官があったか」

「ししょー…ここはどうすれば?」

デニはまた、ライチに『修行の一環』として一緒に狩ってきたデンキウサギの血抜きをしていた。血抜きを終えたら毛皮や肉を分けなければならない。
だが、まだ幼いライチには荷が重すぎた。
そのため、デニが教えながら解体していたのだ。
しかし、やはり慣れない作業で上手くいかないらしい。

「気にするな!誰だって最初は出来ないもんだ。」

「ししょー、肉は何に使うんですか?」

「殆どを干し肉にしちまおう、毛皮は布団になる…あ、やっぱ2、3個残しといてくれ」

ライチは捌けた肉をデニの所に置くと、デニは洞窟に開いた穴に液体を入れる。
「それは?」

「森に行ったとき、植物を何個か摘み取っておいたんだ…これで油が作れる。」

「生の刺身や肉の赤身じゃ洞窟生活で器具もないとしゃぶしゃぶくらいしか作れねぇ、ここらでフライド・ラビットでも試しておこうと思ってな」
そう言いつつ、デニは鍋に火をかけ野菜を温めていく。
その間に肉の下処理だ。まず、脂身の部分を切り取る。次に、内臓を取り出す。そして、皮剥ぎをする。
最後に、食べやすい大きさに切り分ける。
準備が出来たら、後は兎を簡単に油のたまり場で揚げて完成。

「デンキウサギを使ったフライドラビット!完成だ」

デニ達は夕食を食べながらこれからを考える。
半年後には冒険者の試験がある。

「ししょー、どうしてそんなに料理を知ってるんですか?」


「昔から得意だったわけじゃない、旅をするにあたって外食は金がかかるんでな、色々教えてもらった。」

「こうして自炊を覚えたら結構楽になった、お前も覚えて損はないぞ」

「はい」
ライチは元気よく返事をした。
(本当に素直な奴だ)
この子は今からこんな感じでは、将来苦労するだろう。
将来…
「ライチ、俺も気になってたことがある。」

「初めて会ったとき、お前はいじめられていた…が、ここまで過ごしてきて。お前に問題があったように見えない」

「一体この村で何があった。」


デニがそう聞くとライチは教えてくれた……この村の構造を。

デニは村に深入りしたことが無かったので知らなかったが、この村は貧困層と裕福層に分かれている。
今ここの洞窟は貧困層に含まれている。
そして、ライチの家は裕福層の家だったらしい。
原因は分からないらしいが、貧困層の人間は裕福層の人間を憎んでいるらしい。

「それでお前まで……」

「そういうこと…なので」

「いや、納得できない、やっぱ納得できない。」

「前話してた女の子を守れなかったからってか?元裕福だからってか?」

改めてこれで分かった。
この村にライチの味方は誰一人いなかった。
それでもライチは自身の弱さを嘆き、一人で諦めずに強くなろうとしている。
ライチにとって強くなることは、自身の命を守る為でもあり、大切な誰かを守るためでもある。

「俺はその覚悟を見過ごすことは出来ない!」

「ししょー?」

「ライチ、明日から本格的にやるぞ!」
デニがここに来てから洞窟も設備が充実し、ライチも最初に会ったときに比べて肉がついてきた。
戦いの修行をしてもいい頃合いだ。
だが、ひとまず今は…デニはライチと一緒に寝ることにした。
翌朝、二人は洞窟を出た。
デニはライチに木刀を渡す。
ライチはデニに言われた通り素振りを始めた。

その間にデニは村の深くに行くことにした……
「あの先が裕福層って奴の住処ねぇ…」

「あいつが安心して強くなるためにも、コイツの存在は見逃せねぇなぁ…」

デニはちょっとしたお礼参りの為に村に乗り込み、刀を引き抜いて……

「何をしているのですか?」

と、ここで何者かに声をかけられる。
背後を見てみると、今までの物とは違う、高貴な服を着た女性がいつの間にか立っていた。

「そちらで言う貧困層という奴のちょっとしたお礼参りさ、俺としては他人だがある幼気な弟子の為にね」

「……そう、貴方、あの子供の」

「子供なんて一括りのジャンルみたいに言うな、あいつは『ライチ』だ」
そう答えると女は驚いた顔をする。
そして、笑みを浮かべて言った……まるでデニの反応を楽しんでいるかのように……
だが、すぐに表情を戻すと……
今度は真剣な眼差しでこちらを見た。
どうやら、デニの言葉を聞いて考えを改めたようだ。

「……話をする前に名前を言っておくわ、私はルイーズ・ビゴー、あなたは?」

「デニム・ピラート、ここではそう名乗っている。」

「貴方見たところこの村の住民でも、越してきたわけでもないのね?」

「あの洞窟で師弟暮しだし、まだここに来て1週間も経っちゃいないな」

「そう……」
ルイーズがそう呟くと、しばらく沈黙が続く。
そしてルイーズはこう切り出した。
ライチの師匠として、これからも数年間ここに残って欲しい……
正直に言えばこの条件は願ったり叶ったりだ。
何故なら、元より当分この世界から出る気はしなかった。
ただ……

「あなたはまだこの村に来て間もない、まだライチと名乗ったあの子供のことも、何も分かっていない。」

「それはそうだね、分かっていないけど俺はそれでいい。」

「強さを求め、人を愛し、その為に傷付いても諦めないアイツに対して何もしない奴らに比べたら、分からないままでいい」

「………では、私から1つ、忠告して起きたいことがあります」

………

「俺も冒険者の試験に合格してライセンスを得た方がいい?」
ルイーズに詳しく聞くと、冒険者になるには試験を受けて合格する必要があるらしい。
1つは戦闘の試験、もう1つが筆記のテスト。
どちらも突破しないとライセンスは手に入らない。
そして、この世界において冒険者ライセンスというのは裕福でない人間にとって身分証代わりになる程に重要だという。

「だからあいつはまず冒険者試験に合格しようとしてたのか……」

「貴方は見たところライセンスを持っていない……師として、この世界の住民として」

「持ってなきゃ人権すら無いってわけか……」

「やってやるさ、それでライチの為になるなら、俺も参加して揃って冒険者になる」

「最悪俺一人だけ合格しても、少しばかりはアイツの進歩に繋がる」
デニはそう決意すると、洞窟へと戻った。
洞窟に戻るとライチは汗を流しながら素振りをしていた。
デニはライチに近付き声をかける。
するとライチは笑顔になって、駆け寄ってきた。
そして、ライチの頭を撫でる。

「試験……俺も出るつもりだ」

「え?」

「勿論第一優先はお前の合格だ、その上で……」



「まず、俺達は『立場』を手に入れるんだ」
最終更新:2023年02月14日 16:57