たくっちスノー、突然の危機。

「食え!!いっぱい食っていいぞライチ!」

「ん……ん……」

2日目の夜、昨日破浪兄妹が派手に作りすぎた本格中華料理の残りを食べていた。
デニはどんどん皿をライチの方によそっていく。

「あいつ、なんか今日機嫌いいアルな」

「ライチが初めて勝ったのが余程嬉しかったようネ」

朱と商も昨日テンション上がりすぎて食材全部使い切ってしまったので、なんとか残り物を温めて食べていた。

……更には明日までに全部食べなくてはならない。

「で、それはいいとして………」

「なんでライチ共と戦ってた奴らもこの部屋来てるアルか!!」

「それ昨日から俺達の部屋で勝手に飯食った君らが言えたことじゃないけどね」

2日目で戦ったリントとコンドルマスクも何故か部屋に居て食事に加わっていた。
コンドルマスクは開く部分があったのでマスク越しに黙々と食べている。

リントは両手が羽になってて何も掴めないので食わせてもらうのを待っている。

「君さ、その餌を待つヒナの構えやめてくれない?」

「う、うるさいわね!こうでもしないとハーピーは食べられないんだから仕方ないじゃない!」
リントに催促されながらデニは彼女の口に料理を運ぶ。
確かに鳥みたいな顔してるし、腕とか翼みたいだもんな。
なんでこいつら当たり前のように俺らの食卓にいるんだろう
まあ、暇よりはいいけど。

「で、こいつ誰アルか」

「そういえば俺も戦った時軽く吹っ飛ばしたから名前聞いてなかったわ」

「他人事だと思って……!!私はリントリンゴ、空を飛ぶ生物達の中で『神の果実』という意味が……」

「あっヤベッ海老落としたネ」

「おい明日までに掃除しないとまずいぞ」

「聞けよ!!」
リントがバタバタしてる時にコンドルマスクの肩を掴む。
こいつは一体何なんだ? なんでここにいるのか分からん。
自分に勝ったライチの事を認めているのだろうか、試合中もそうだが常に沈黙なので意図が分からない。

「それにしても、なんだかんだ言ってもう試験が明日で終わりか」

「3日間戦い続けるルールって単純と思ったけど、結構ハードだったアルネ」

現在2日間、体を休める暇なんてこの夜ぐらいしかなかった。
屋敷に戻って夕食を食べ、就寝する。それだけだ
初日の1回戦目はなんとかなったが、次の2回戦で苦戦、特にライチはコンドルマスクとの激戦で傷が全然癒えるはずもない。

「3日目のライチはちょっと不安だが、どうしたものか」

「ジュ達はライチと戦うの嫌アルヨ、手加減出来ないネ」

「私もその子供とはやれないわ、こっちもアンタにやられて脚を負傷してるのよ」

「………ししょー」

「僕、明日はししょーと戦いたいです」

「え?」
ライチが突然そんなことを言った。
ここまで一緒に過ごして、本当に軽く手合わせをした事はあるが……相手をしたことは無い。

まさか、そんな事を言ってくるとは……

「いいんじゃないアルネ?お前としてもライチと真剣にやれるのなんて今しかないはずヨ」

「つってもまだ俺とライチじゃ差がありすぎるだろ……」

正直悩むが、確かにライチと大っぴらに相手を出来る機会なんてそんなに無いのかもしれない。
ライチを鍛える為にも、俺は彼女に向き合う必要がある。
もし、ここでライチが負けたとしても、それはそれでいいだろう。
その時は、あいつももっと強くなるはずだ。
だから、今回は本気で相手しよう。
そして、いつかまた戦う時は……。
俺が、負けてもいい。


………
そして、試験最終日の3日目。

ライチとデニの姿はどこにもなかった。

「何アルか、あいつらあんな事言っておいてどこにもいないアル」

「冒険者試験は取っとくって言ってたから、途中棄権することも無いはずネ」

「私達もついでに辺りを見て見たけど、それっぽいのは居なかったわ」

「…………」

コンドルマスクやリントも見ていない。
やはり、あの二人を探さない事には何も始まらないようだ。
しかし、どうやって見つければいいのか……
そもそもあの二人はどこに行ったんだ。
冒険者ギルドの受付にも行ってみたが、まだ試験中だというのに外に出る奴なんて居るわけないと言う。
「あいつ本当にどこ行ったアル……」

辺りを見てもそれらしき人物は見えなかった。

しばらく歩いて……
「コンドルマスクがライチ見たかもって!」

「本当ネ!?」

コンドルマスクに問い詰めると、寄せ書きのようなものを渡してきた

「誰がサイン寄越せって言ったアルかボケ!!」

「いや待って!これ……この文字!」

リントによると、これはサインの寄せ書きのようで鳥人特有の特殊文字だという、ややこしい。
それに書いてあった通りの場所に行ってみると……


「あ、居た!!」

ライチとデニは居た、誰かと話しているようだ。
「あの人………誰だったかしら?」

「あれ確かあの国の将軍で試験仕切ってた奴ネ」

「ベルカ・ラディアだったか……?それが一体ライチ達と何の話を?」
よく見ると、ライチの様子がおかしい。何か怯えているように見える。
すると、ベルカこちらに気付いたらしくこちらを向いた気がした。
まずいな……。
とりあえず隠れよう。
茂みに隠れながら様子を伺うことにした。
だが……会話の内容が聞き取りにくい。

「全然聞こえネぇ」

「私、結構耳いい方だけど」

「よし、行け!」

「どいつもこいつもハーピー使いが荒いんだけど!?」

………

「……俺さ、さっきから言っている言葉の意味が全然わかんないんだけど?」


「言葉の通りだ」



「調べてみたところ、そのライチという子供は試験を受ける条件を満たしてない事が分かった。」
どうやらライチが試験を受けられないらしい。
なんでだ? 俺には意味がわからなかった。
ライチは強いし、俺より頭も良い。
なのにどうしてなんだ? あいつは冒険者になりたいと言って、俺と一緒に冒険者になる為に強くなろうとしていた、だが……ここに来て……

思い当たるものはある、だが…それも考えられない。

「確かにな、俺も事前には聞いてあるよ、この試験の事」

「この試験は貧困層は受からなかったらもう二度と受けることは出来ない、いや、それどころか……人権を奪われるとは聞いた」


「だがライチは違うだろ!!今ここに俺の傍に………」


と、その時。
朱達がライチを担いで、飛び出していく

「お前ら……何のつもりだ!?」

「おい!お前もさっさと逃げろネ!さっき見て分かったけど、話が通じるヤツじゃ無かったアルよ!!」
朱はそう言って、俺の事も引っ張り出していく。
………

どうやら、そろそろまずいかもしれないな
最終更新:2023年02月14日 17:07