たくっちスノー、知ってしまう。

朱達がライチとデニを引っ張り出して、試験会場からも抜け出して行った時の事……

「フフ……残念だが、試験の実態を知っている上に、逆らうときたなら……」

「総力を上げてでも消えてもらうしかないな。」


ベルガはヤッパン大国の騎士達を総動員し、試験も人々もほっぽいて前進していった………

…………

「まさかここに逆戻りするとはネ……」

そしてライチとデニは朱達に村の洞窟まで戻された。
あと、コンドルマスクとリントも一緒だった。

「何なのよ一体、一体何が起きていたのよ」

「いや……細かく話せば長くなるんだけどな、突然呼び出されたかと思えば、ライチは試験を受ける権限が無いと」

「受ける権限が無い?」

「それって前にシャンが言ってた、貧困層は1度落ちたらもう二度と受けられないって奴アルか?」

「えっ……軽い気持ちであの試験出たけど、そんな危険な所だったの?」
そう、俺達はそれを承知で冒険者に成るための試験を受けに来ていた。
ライチは、自分の夢の為だと言って、そして俺は……手に入れた方が得になると言われて。
そして、受からなかった時の為のアフターケアも想定していた、だが……
「………貧困層は人権を持たない、冒険者のライセンスがその証となる、その為にライチを冒険者にさせようとしていた」

「そして、貧困層は合格出来なければ人間の全てを奪われ、スラム街に放り込まれる……商はそう言っていた」

「でもライチは違う、髪も、顔も、体も、これまで覚えてきたものも、記憶も……全てがこいつのオリジナルだ、何も消されていないだろ!」

「じゃあ、ここがそのスラム街の1つじゃ?」

「いや違う、普通に裕福層らしき人間もおったわ」

「考えてみれば、コイツ不思議なことが多すぎるアル………」
こんな洞窟で、しかも無職なのに俺が軽く教えただけでここまで強いとなるとな……
そもそもどうやってここに来たのか、どうやってライチとして存在してこられたのか? 謎だらけだし、不思議過ぎて逆に疑ってしまうくらいだ。
それに、何か隠してる感もある……

「ライチ……」

洞窟の中に誰か入ってくる、あれは……

「ルイーズ…か?」

「だ…誰!?」

「この村の裕福層の1人だよ、俺にも試験を受けるように推奨した奴だ」


「ライチ……」

「ちょうどいいところに来たよルイーズ、ライチの事で聞きたいことが山ほどある……説明してもらおうか」


「ええ……もう、私も隠せないと思い、ここに来ましたから」

………
まずデニは前提となる話を全員にした。
ライチは過去に熊に襲われそうになった少女を守れなかったことを後悔し、身分を捨てて洞窟で修行をしていた、その時自分と会った……

「あれからライチは強くなったよ、間違いなくな……な?コンドルマスク」

「………」

「そう……」

「まず最初に俺が聞きたいのは、ライチが……俺が来る以前から試験に落ちていたのか?」

「………そうよ」

「元貴族でもなんとかならなかったのか?」

「ならなかったから、今のライチがある」

「………ライチに、一体何があった?人権無きものは、思考も顔も髪も全ての個性を奪われると聞いているが」
それが商に聞いた話。直接見てはいていないが、事前にスラム街に行ったから分かる。
なら、ライチは?

「……聞かれてるところ悪いけど、貴方達、試験は?」

「あ!こいつ引っ張って行ったからバックレになるアル!」

「………見たところ全員旅人ね、そしてその見た目」


「間違いなく不合格扱いされ、全てを奪われていたはずよ」

「は!?わ、私どころか……コンドルマスクまで!?」

「待つアル!ジュ達まで見知らぬヤツに戦力外通告されたら頭に来るネよ!」


「……合格の基準を教えてくれ」

デニは冷静に聞き返す、ライチの事がわかるならなんでも聞いておきたい。

「冒険者大国ヤッパン…それがあの国の表向きの名前だけど、実際は冒険者なんてどこにもいない。」


「あの試験の合格基準は、あの3日間の戦いで『傷1つつかずいつまでも戦い抜ける人材』であること。」

ルイーズが放つそれは、傍から見れば不可能な条件であった。
それはつまり、どんな状況でもどんな相手でも問題なく戦い、怪我ひとつなく生還しろと言っているもの。そんなの無理に決まってる、人間には。
現にライチは、コンドルマスクは、朱達だって…いや、あの真剣勝負の中で負傷しない奴はいない。

「ふざけてるわね……」

「ルイーズ、俺の質問に答える番だ」

「結論から言うと、ライチは……大きく変わってしまった。」

「変わり果てた姿が俺が今見ているライチってことか…」


「……黙ってて、ごめんなさい」

「……私、なのよ」


「……ライチと共に森に行って、熊に襲われかけた時の話に出てくるのは……私なのよ」

「……は?」

一体何を言っているんだ。
さっき熊に襲われかけた時の話はした。
だがライチから聞いた時、その女性は自分と同年代の子供だったはず、ライチとルイーズじゃ10年以上も離れているようにしか見えない。

「あの時……襲われかけた恐怖から、どうして助けてくれなかったのかと、八つ当たりをして…それがあの結果を産んだ、大人になった今は…あの時の事をずっと後悔している」

「待て、おい待て!!」

「年齢的に釣り合わないだろ!!ライチはどう見てもまだ子供で!アンタはどう見ても子供1人産んでるくらいの歳じゃないか!!」

「…………個性がなくなるっていうのは、それほどの事なの」



「ライチが最初に試験を受けたのは20年前、忘れもしないあの時。」



「あの時から……ライチは永遠に10歳のまま、死ぬことも生きることも無くここに居た。」
ルイーズの話を聞いて、俺は絶句していた。
目の前にいるルイーズと名乗る女は、本当にライチが言っていたその子なのか?
それに、ライチを永遠に10歳のままにしているって、そこまで出来るのか……?

「………ふざけてるわけじゃないネ?」

「ええ、記憶も髪もなくなって、性転換までしているけど……私には分かる、ライチだった。」

「………試験に受からなかったらスラム街に行くはずが、なんでこの村に?」

「……あ、もしかしてシャンが言ってたことは正しかったんじゃないアルか」

「どういうことネ、商」


「そう、確かにここは元々、人権も中身も失った空っぽの人間が捨てられるスラム街だった、二十年前までは。」

長い年月が大きな劣化を生み、ゴミ捨て場のスラム街がただの小さな村に変わり果てていた。
ただ1つ、ライチだけがそのまま残って……
最終更新:2023年02月14日 17:08