一夜の戦い

「じゃあ、あらためて……」

「しっこく、にゅうしゃおめでとう」

こうして、ローレンは晴れて正式な黒影旅館の従業員となった。
この時色々とこの職場について教えてもらった。


魔術師の名門『黒影家』その一族の現在の跡取りに値するのが、あのヘレンとルミナの兄妹。
雪は口をつむんだが向こうで色々あり、没落とは違うがとても大変な状態になってしまったという。

立て直しの為ルミナが再起した結果、偶然にも温泉を掘り起こし、自分達の大きな家を温泉旅館へと改装、2人は板長と女将となり現在に至るという。

「ここのひとたち みんないいひとだからだいじょうぶ」

「……ありがとうございます」

「きょうはもうねないと、あしたもまたいそがしいから」

「…………」

そこまではいいとして、何故自分の寝室が女将と同じ所なのだろうか。いや、別に嫌とは言えないが…
ただ何となく落ち着かないのだ。
布団を隣に敷いてその上で横になっているのだが……。
(うっ……!!)

大きい、見た目も背丈も子供のようにしか見えないのに、なんなんだこれは!? いかんいかん、変なことを考えるのはよそう、仕事に支障が出るかもしれない。
とにかく目を閉じて、羊でも数えよう。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹。

目の前にぶどうがふた

「うわあああああああ!!!」

その瞬間、襖の小さな隙間から氷で出来たナイフが飛んできた、向こうからヘレンの声がする。

「そういえば従業員になるにあたって俺から言い忘れたことがある」

「別に選り好みしてるわけじゃないし、こっちも色々あったんだが、この旅館で男性の従業員は俺とお前だけなんだ」

「ここからが本題だが、ルミナはそんな見た目でも娘も孫もいるし、旦那はワケあって先立たれてる」

「もしなんか間違いでも起こしたら、殺す☆」

それだけ言うと、襖の向こうで気配は消えた。
改めてとんでもない旅館に雇われてしまった、明日からもこんな調子でやっていけるか不安だ。
いや、俺はただ働きに来ただけだ、何も問題はないはずだ。うん、大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、なんとか眠りにつこうとした。

……

「う……」
寝れない、今日一日で色々なことが起こりすぎて疲れているはずなのに目が冴えてしまう。
しかし、いつまでも起きている訳にはいかない。
明日も早いのだから、早く眠らないと……。
そう思っても、中々眠りにつけない、職に着けたという実感がまだ心に無いのだろうか。

「こういう時はどうすれば……」

隣のルミナ女将は既に眠りについている、寝息を立てずに横になる姿だけ見ているとただの子供にしか見えない…胸以外は。
着物は袖をきつく絞めて着るものだから、体の形が殆ど見えなくなると聞いたことがある…
あんな小さい体型に、セクシー女優のような谷間が作れるのか? そもそもあの体つきで子供を産めるものなのか?

「うっ……」

駄目だ、考えるな考えれば考えるほどあれが気になってしまう、下手に手を出したら本当に命がない、せっかく就活を終えたのに命が尽きてしまう。

「じっとしても寝れないままだし、ここは……」

とりあえず、一旦外の空気でも吸って頭を冷やす事にしよう。
静かに立ち上がり、音を立てないように襖に……
「んん……」

「うっ!」

まずい、起こしてしまったか……?
後ろを見てみると、女将の寝相が変わっていた、布団が少しズレている。

「流石にそのままにしておくのもな……」

女将の布団を直そうとした時だった。
寝ながら体を揺らしたことで布団が全部ずり下がり、その体が露になる。

「……」

その光景を見た瞬間、俺の中で何かが壊れた音がした。
それは理性という名の壁が崩れ落ちた音か、それとも俺の中のスイッチが入った音か。
どちらにせよ、俺の中に残っていた僅かな良心は消え去った。

「ふぅー、ふぅー………」

呼吸を整えて、ゆっくりゆっくりと女将の体に近づいていく。
そっと手を伸ばし、ルミナ女将の胸に触った。
すると、そこには夢にまで見た感触があった。

「んあっ……」

片手で収まりきれないほどの乳房、その柔らかさはマシュマロのようだ。
もう片方の手は、着物の裾から侵入させ、太ももに触れる。
ルミナの体は子供のように小さく、肌はまるで陶器のように白く滑らかで、吸い付くような質感がある。
そして何より、ルミナのほんのりとした体温を感じる。

「ん……んんっ……」

目が覚める様子は無いが、びくびくと反応し体をよじらせる。女将の表情を見ると、頬を赤らめ口元を緩ませていた。
その姿は普段の姿からは想像もつかないくらい艶っぽく、愛らしいものだった。
俺の興奮は最高潮に達しようとしていた。
もう止められない―――。
そう思ったその時。

「えいっ!!」

「うっ!!」

その瞬間、頭部に冷たいものを感じて目が覚める。
目の先にはバケツを持った雪が居た。

「あ、あ……その、おはよう、漆黒君」

「ご、ごめんね……ヘレン叔父さんが、こうやって叩き起しておいた方がいいって……」

時刻は現在五時、ギリギリ太陽が登り始めた頃……ルミナはもういない。
どうやらあの夜中、ルミナの胸を揉みしだいて居たのは夢だったらしい。

「い、いえ……大丈夫です」

「……?」

雪の顔が赤い、まさかとは思うが……。
「雪さん、何か…」

「えっ!?い、いえ!なんでもないよ!」

と、そんな事考えてる場合じゃない。
旅館となるともう下準備をしなくてはならないはずだ、何をするかはまだ決めてないが、もう行動に移しておかないと。

「あっ……洗濯しないとダメだし、布団私が畳んでおくね」

「あっ、すみません」
俺は急いで着替える。
その後、雪が洗面所まで案内してくれた。


………………
(あっ……あっ……夜中、見ちゃった……トイレ行こうと思って夜中、起きたら……)

(漆黒さんが……母さんの胸を…)

あれは事故だったのか?それとも故意なのか?

(漆黒君はきっと私のことをそういう目では見てないだろうけど……)

(あんな姿を見られて、私はどんな顔すればいいんだろ……)
雪は顔を赤くしながら悶々としていた。
最終更新:2023年02月23日 08:14