「本日のロウリュは終了です、ありがとうございました…」
………
「暑っつ………この仕事、俺まで暑くなってくるな……」
黒影旅館での仕事の仕方も分かってきた。
雑用も大きなこともせず、これまでの資格を活かしてちょっとしたイベント行事なんかをやって、一日を潰しているが……
今日、サウナのロウリュを終えて……明日にはまた別のことを考えなくてはならない。
「あ、漆黒さん……今日はお疲れ様」
「どうも…明日もまた何か考えないといけませんけどね…」
雪がタオルを持ってきて、汗まみれになった体を拭きながら言う。
もう夜だが、他の従業員達はまだまだ元気だ。
業務は自分より余程大変なのに、疲れを見せない所は流石に職歴の長いプロといったところだ。
「そっちこそ大変なんじゃ……」
「まあね……でも毎日忙しいからね、食事処の運搬だったり、部屋を整えたり……」
「母さんも休むようには言ってるけど、なんか……働かないとなってなっちゃって」
そんな感じで愚痴を言い合いながらも、体は綺麗になる。
そして、雪が立ち上がろうとするが、膝から軽くずり落ちてしまう。
「大丈夫ですか!?」
「ご、ごめんごめん、平気だから」
やはり顔に出さないだけで疲れが溜まっているようだ。
このままでは本当に危ないかもしれない……だが、女将が言っても休まないような人だ、ただ言っても聞かないだろう……ここは………
……
「え……マッサージ?」
「ええ、資格持ってるので……」
就活の為に数多くの資格や免許を手に入れた、その中でも1番上手くいったのがマッサージ師の資格だ。マッサージ自体は何度か行ったことがあり、自信もあるし問題は無いだろう。
「漆黒君…いいの?業務にないのに」
「業務とか気にするような体じゃないでしょ、明日の為にも……」
「わ、分かった、今日は漆黒君に任せてみるよ……ちょっと着替えてくるから準備しててね」
そう言うと雪は頬を締めながらいそいそと去っていき……
数分後。
「えっ……え!?雪さん!?」
雪はマッサージ用のベッドに横たわる。
その格好というのが、布面積がほとんど無い、ほぼ紐と言ってもいいほどの水着姿なのだが、問題はそこではない。
胸と股間を申し訳程度に隠すだけのそれはもはや水着ではない。
「な、なんすかそれ!ちょっ!」
「何って…、マッサージするなら水着みたいなのにしようと思って……」
「ご、ごめん……これしか無かったんだよ、漆黒君……じゃあ、お願いね……」
そう言うと雪はベッドの上で横になる。
普段は着物で隠れているので分からなかったが、雪の体は大分ぽっちゃりしている。
しかし、ただ太っているというわけではなく、全体的に肉付きがいいのだ。
肌は白く、触ったら柔らかそうな質感で…そんな彼女が今、ほとんど裸の状態で目の前にいるのだが……
(いかん…今は雪さんの疲れを取るために始めたんだ、集中……)
邪念を振り払うかのように頭を振って、雪の肩に手を置く。
「痛かったりしたらすぐに言ってくれてくださいね」
「うん、ありがとう……」
雪の返事を聞くと同時に俺は手に力を入れていく。
「んぅ……ふぁあ……」
「どうですか?」
「う、うん……マッサージなんて初めてだから基準はわからないけど、凄くいい……」
雪の柔らかい肩を揉みほぐして、首筋から背中にかけて指圧していく。
力加減には細心の注意を払っている。
雪は気持ち良さげな声を上げているが、あまり強くやりすぎると痛みを与えてしまう。あくまで適度な力で行わなければならない。
「あっ……あ、あのさ、漆黒君、変なこと聞くけどさ」
「はい?」
「マッサージって…その……えっちな漫画の知識しかないけど…そういう所触るのって、効果あるの?」
「そ……そんなの知りませんよ、普通そんなのやったことありませんし……」
俺だって健全な男子だ、そういった知識が無いわけでもないが、流石にそれを仕事中にやる勇気など持ち合わせていない。
そもそも、男性従業員が女性従業員の体をマッサージすること自体普通はあり得ない。
「…………こっちからも聞きますよ、雪さん」
「何か……期待してません?」
「っ!?」
反応したかのように雪の体が揺れる。だが、俺は構わず続ける。
今度は雪の腰回りを揉んでいく。
正直、ここが一番疲れが溜まる部分だ。
女性の体の中で一番重いのは腰だと言われている。
そこを重点的に解していくことで、疲れを癒すことに繋がる。
「んっ……んんっ……」
「どうかしましたか?雪さん」
「な、なんでもないよ……続けて……」
「分かりました……」
雪の声が少し艶っぽくなっている気がするが、きっと気のせいでは無いだろう。
実際、彼女の表情もかなり火照っていて、目も潤んでいる。
「そろそろ最後の仕上げに入りますね」
「さ、さ、最後の仕上げ!?」
(ま……まさか……本当に………)
雪の脳内の興奮は最高潮に達した。心臓がバクバクと音を立て、顔がさらに熱くなる。
そしてついにその時が来た。
漆黒の手が雪の太ももに触れる。
そして、ゆっくりと足の付け根へと向かってくる。
そして遂に、漆黒の手は禁断の領域に触れ……
無い。
「はい、これで一通り終わりです」
「え……お、終わり…?」
気が付くとマッサージは終わっていた。ベッドから起き上がる。
「これで疲れが半分くらいは取れたと思いますけど……」
「う、うん……確かに疲れは取れたけど、ある意味その……スッキリしない感覚が……」
だが漆黒はただ自分の為に特別にマッサージをしてくれたのだ、変な気をおこした自分が悪いのだ。
「ねぇ漆黒君、良かったらマッサージを旅館サービスでやってみない?代金は全部君のものでいいから」
「え?そういうの女将の許可無しに決めていいんですか……」
「大丈夫大丈夫、母さんそういうの寛容的だから……」
そう言うと雪は部屋を出て行きしばらくすると女将を連れて戻ってきた。
そして、女将にも許可を取ると早速マッサージを始めることになったのだが……
「よ、よろしく……ボクも ためしたい……」
「ルミナの体に触れる時は扱いに気を付けろよ、もし何かあったら俺のエメラルドソードが黙っちゃいない」
何故かルミナ女将も非常に際どい格好となり、漆黒の首筋にはヘレンの魔剣が立てられていた。
(期待とか関係なくミスしたら死ぬ……)
この状況でルミナにマッサージをするなんて拷問に等しいが、仕事である以上やらない訳にもいかない。
漆黒はこの時死ぬほど息が詰まったという。
最終更新:2023年02月23日 08:16