ラミス帰還!

前回、ファンタジー感を出すために新メニューを作ることを決め、なんやかんやあり『ドラゴンそば』の作成が決まったのだが……

「じゃあ雪がドラゴンの確保、俺がドラゴンの肉を捌いて漆黒が麺を茹でるの工程でいいな」

「雪さんだけ負担が半端ないんですけど」

「大丈夫ドラゴンといっても滅茶苦茶強いわけじゃないから」

………
数時間後

「かくして実物のドラゴンそばが出来た」

「こんな労力をかけずに作られていい食品なのだろうか」

「なんか普通の蕎麦にしか見えないけど」

「肉なんて大体捌いて調理すれば似たような形だ、ここから食っていけば……」

「とはいっても……」

俺は目の前に横たわる黒い物体を見る。
それは丁度黒光りした鱗に覆われたトカゲのような生き物の皮だった。
このドラゴンもどきは先程、雪が捕まえてきたものなのだが……。
そのあまりの大きさと威圧感に腰が抜けてしまったのだ。

「よくあんなの捕まえてきたな」

「さすがに昔と比べると鈍っちゃったけどね…」

「ただな……この肉なんかイマイチだな、出汁が合わないのか?」

「というよりはなんか変にブヨブヨしてて噛みにくい……」
俺達は今ドラゴンの肉を食べている。
というのも俺達が考えた新メニューを試すためだ。
だが、いざ食べてみるとなかなか味が悪い。
確かに味としては鶏肉に近い感じはあるのだが、食感がどうにも受け付けない。

「調理法が合わないんじゃないです?」

「とはいっても、ドラゴンの正しい調理法なんて専門家じゃないし分からんぞ」

「魔法使いなのに……俺も流石にドラゴン関係の資格なんて持ってないですよ」

「というか、和と魔術を混ぜるのがこんな面倒で大変だったとは思わなかったぞ……」

「ブルドーザーに牛くっ付けるみたいな物だからね……」

「逆に今まで考えたりとかしなかったんですか、この店……」

「…いるよ、いるんだけど……ラミスが帰ってくればなぁ」

「ラミス?」

「女将…母さんの実の娘だよ、私からすれば義理の姉に当たる人かな」
へぇー。
そういえば、まだ黒影旅館でその人を見ていなかった、雪さんも義理の娘と言っていたし。

出来ればその人が来る前にちゃんとした『ドラゴンそば』を完成させたいところだけど……
俺の作った手打ちのそば麺に、かつお節風味と葱の出汁、そこからかまぼこ、ほうれん草、そしてメインの雪さんが取ってきたドラゴンの肉を薄切りに、軽く煮込んだものを投入する。

パッと見は問題ないように見えるが、果たして上手くいくかどうか……。

「よし、じゃあ改良していくか……ルミナももうやる気だしな」

「……そろそろ かえってくる」

「え?」

「もう、ラミスが くる。」

「え?」


と、その時店の戸が開く音がした。
まだ店を開く時刻じゃない、とすると……


「母さん、元気してる?……いや、毎日そんな感じか」

「いつぶりか、わすれたけど……おかえり ラミス」

「え……え!?これがあの女将の娘!?」

全然違いすぎる、見た目も雰囲気も! 顔つき…あの大人びた表情。どこか幼さが残った可愛らしい印象のルミナ女将とは別の印象を受ける。
背丈も雪さんより少し高いくらいで、胸もそこまで大きくはない。
義理の娘と言っていた雪さんはまだしも、実の親子でここまで違うものなのだろうか。
というか、傍から見たらあっちが母親に見える。

「……あれ、この黒影旅館、叔父さん以外に男性居たの?」

「(本当に今まであまり雇ってなかったのか……)最近ここで雇われたローレン・漆黒といいます」

「そう…開店前だっていうのに揃って何をしているの?」

………
「今になってファンタジー系和風料理……だから私は店開く時に普通の和食御膳じゃインパクト薄いって言ったのになぁ……」

「ごめん……」

「まぁ、変なのが出るよりはいいかもしれないけど……」
ラミスさんは俺が作っていたドラゴンそばを見て、一瞬目を見開いた後納得したように呟いた。
やっぱり、こういう見た目は珍しいんだろう。
しかし、見た目は良くても味に問題があるのは現状。

「蕎麦を打ったのは誰?」

「俺の手打ちです、資格持ってるので」

「だよね、ウチは時間ないから簡単な調理免許とフグとかのそういうのしか取ってないし、まぁ私ここ出て色々取ってきたけど」

「麺は標準の上くらい、店でも出せる……具選び放題は母さんね、これも悪くない……ただ、ドラゴンの肉……」

「貴方、ドラゴンの肉を食べた事ある?」

「いえ……そもそもこの時初めて見ました」

「なら、皆知らなくて当然ね……母さんや雪ちゃんもグルメってわけじゃないし……」

ラミスさんは俺が茹でておいた麺を一口食べながら、何かを考え込むような素振りを見せる。

「貴方もイメージ出来ると思うけど、ドラゴンの肉質って結構硬いの」

「竜肉は一般的(魔法使い基準)に見るとステーキとか、ローストドラゴンとか、カットしたあとそのまま焼くのが定番で……多分これ、煮込んで柔らかくしようとしたのね」

「うん……」

ラミスさんが言うには、ドラゴンの肉は柔らかくしようとすると中途半端に弾力が出て噛みづらくなるという。
確かに、煮込めば柔らかくなると思ってやったのだが、まさかこんな結果になるとは。

「やっぱりドラゴンのしゃぶしゃぶの方が……」

「バイ菌ヤバいから生ダメに決まってるでしょ叔父さん」

(ルミナさんの言ってること正しかったのか……)

「ど、どうしよう……もうドラゴン使う気で50頭くらいしばいてきたんだけど……」

「この人もこの人で極端だな!1家揃って極端なんだけど!」

「雪ちゃんと私を一緒くたにしないで……まぁ、私も魔法使いの温泉旅館っぽいことを考える為に店を出たわけなんだけど……」

………

「まずもう取ってきちゃったものは仕方ないから、ドラゴン……雪ちゃんが持ってきたのはスカイドラゴンね」

「このタイプはそのままカットして素揚げすれば食えたものにはなるわ、名前はシンプルに『ドラカツ丼』」
ラミスさんはそう言いながら、厨房にあった包丁を手に取る。
そして余ってるドラゴンの肉を捌いて即座に揚げて米に乗せる。

「卵入れないんですか?」

「漆黒君はカツ丼って卵とじ派なの?ソースかける人もいるみたいね」

「でも私はこう!」

その上からマヨネーズをかけて、添え物に青のりを着けた

「なんか……旅館の料理と言うより屋台みたいに……」

「それはマヨネーズと青のりに対する偏見よ、粉物以外でもこのセットは万能なのよ」

「ラミス姉さん、ここで高いものとか結構食べてたからそういうのが好みになってるんだよね……」

雪さんとラミスさんは二人並んでカウンター席に座っている。
その光景だけ見れば仲睦まじい姉妹にも見える。

「で、雪ちゃん……貴方、そばは何本打たせたの?」

「これから改良していくからって50食分は……」

「『ミノタウロスそば』って名前で販売しましょう」

「それただのブランド牛蕎麦じゃないです!?」
最終更新:2023年02月23日 08:17