「罪人に告ぐ……」
と、彼女は呟いた。
その瞬間、アレが始まる……
監獄長が何を言おうとしているのかを……あるものは絶望し、ある者は嘆く、まるで終わりが来たかのように。
だが、今回は違った。
彼女だけは。
………
「あー……疲れたぁ……」
とある世界の昼頃。
音ノ小路響は最近、世界をある程度越えては旅をしている最中だ。
今は丁度、世界の中で比較的平和な国にいる。
そんな彼女がいる場所は、母校、希望ヶ峰学園に近かったりもするのだが……。
「さてと……次の世界に行こうかな」
と、言って彼女は出発する準備をしていると……
「だーれだ♡」
「…っ!!」
突然、声がしたかと思えば視界が遮られた。後ろから誰かの手で目を隠されたのだ。
(誰!?)
思わず焦る響。
それにこんな事をするのは一体誰なのかと思いながら後ろを振り向こうとすると……
「えへへ~♪ねぇねぇ、誰だと思う?」
と、明るい声で聞いてくる謎の人物。
すぐに分かった、そして……
「……一応聞いておくわ、何しに来たのよ」
「別に調べてきたわけじゃないよ、偶然散歩してたら見つけちゃったんだ」
「よく言うわ……アンタに関しては、それだけは信用出来ないのよ」
「また会えた………お姉ちゃん♡」
「なんでこうも……上手くいかないのかしら。」
声の正体は…響の双子の妹、音ノ小路奏。そう、先程まで響の後ろに居たのは彼女だったのだ。
どうやら、本当に偶然ここを通りかかったらしい。
「でもまぁ、こうしてお姉ちゃんに会えて良かったよ!だっていつ会えるかも分からないからね!」
と、笑顔で言う奏。しかし……
「ちょっと来なさい、場所変えるわよ」
……
改めて、二人は公園に来ていた。ここは人も少なく静かだからと選んだようだ。
ちなみにベンチに座っていたりしている。
そんな中で響が口を開く……
奏に対して言いたい事があったようで……
それは……
「単刀直入に言うわ、どうやって脱獄してきたの?」
「脱獄?」
「言っとくけど、あたしは返答次第ではすぐに特盟に通報する気だから」
「あー……多分来ないと思うけど」
「はぁ?来ない?そんなわけないでしょ、どう考えてもアンタまだこんな所来れるような状況じゃないわよ」
「というか、自分でも罪状分かってんでしょ!この十数年間で何したと思ってんのよ!!」
音ノ小路奏…その実態は殺人鬼。
これまで何十人も殺めており、中には自殺者も多数居る。
現在、終身刑の判決を受けているが未だに出られる気配はない。
だが、それでも彼女の死刑は免れているのである。
そういうルールだから。
「大丈夫だよ、今は殺す気は無いから」
「私が色々手を尽くしてきたのも、お姉ちゃんへの愛が込められてるんだし」
「その話はやめて、本当に気色悪いから……」
「それで、私がどうやって『脱獄』したのか?だっけ?」
「脱獄はしてないよ、ルールに則って私はここに来てるから」
「は?何言ってるのよ、それって釈放……?まさか有り得ないわよそんなの……」
と、否定する響。
だが奏には何か考えがあるらしく……
彼女は話を続ける。
その内容は…………
奏は確かに殺人犯で、判決を受けた。
しかしその判決が下されてから数日後の事だ。
奏の元に手紙が届いた。
差出人は書かれておらず、ただ一言。
『これより【開始】する』
「開始って……何が?」
「私の今の罰……一日外出権が始まってるの」
「い……一日外出!?
時空監獄って、そんなどこかの闇金融の地下労働施設みたいなサービスあんの!?」
「アレは人権を奪われた人達の最高級の至宝で、私が今受けてるのは純然たる罰の1つなんだけどね」
と、響が驚く中淡々と話す奏。
どうやら、
時空監獄にもこのような制度はあるらしい。
しかし、その話を聞いていた響は納得できない部分があった。
何故なら、それが本当ならば……
彼女は……
「……いや、やっぱおかしいでしょ」
「ただの人間を解放するならまだしも、それで適応されるのは犯罪者!アンタみたいな殺人鬼も含まれてる!」
「そんな奴を野に放つなんてどうかしてるわよ!」
「だから私はお姉ちゃんの事以外では殺さないって……まぁそれとは別に、当たり前だけどルールも色々あるよ」
「……一応聞いとくけどルールって?」
「まず、さっき言った闇金融なアレと同じで眠ってる間に連れてこられるのは同じかな」
「でも、一日外出権は何も持たされない……最初からあるのは着ている服ぐらいかな」
つまり、無一文かつ何も無しで丸々外に放り出される。
更にはこれで送り出されるのは犯罪者、相手など選べない。
「つまりは人権ゼロで何も無い状態で放り出されるって事」
「当然だけど犯罪行為は不可能、これでも常に監視しているみたい」
「そして凄い単純に言うと飢えるだのでさっさと死ねって事」
「まどろっこしい……」
そして、もう一つ。
これが最大の問題点なのだが……
それは……
奏が説明しようとしたその時だった。
不意に辺りの空気が変わった。
まるで凍るような感覚が二人を襲う。
「この罰、下手に生き残るとどんどん日数が増えていくんだよ」
「は?」
「一応罰だからそうなるの、一日を耐えたら三日間、その次五日間みたいな感じで……」
「じゃあ、アンタは?」
「その罰のうちの最大指数の一週間外出権」
「一週間!!?」
そう、一週間。
その言葉の意味する事とは……
響は慌ててポケットからスマートフォンを取り出す。
奏が
時空監獄から出てから経過した時を確認すると……今日で……
奏は、出てから六日目だった。
「……」
「どう?」
「引くわ、監獄のルールもだけどなんか平然と六日間宿無し金無しで生きてるアンタが」
響は思った。
もうこいつに関わっちゃいけないと。
もう、これは確定事項だ。そう思っていた。
だが奏は……ここで野放しにして、彼女が何かしらの行動を起こす事も危険だと理解していた。
だから、奏に告げる……
「……もう少し聞いていい?」
「興味あるんだ」
「……そりゃあね」
今自分に出来ることは、少しでも時間を稼いで一週外出権の日数を終わらせる。
終わればまた監獄に戻される、それまでの辛抱だ。
……
「その……外出権、何も持たされずどうやって六日間も平然と生きているのよ?」
「なんか……見た感じ服も汚くないし、風呂も入ってるっぽいし……」
「ん?ああ、コレのこと?」
「え?な、何ソレ……」
「通帳」
「通帳?囚人のくせにそんなのあるの?」
響が聞くと、奏は自分の胸に手を当てながら答え始める。
「うん、実はね……」
と、話を始める奏。
「犯罪は出来ない、かといって生活費を調達してはいけないなんてルールは無いから、普通に通帳は作ってもいいって」
「……まぁ、見るからに前科者で顔も知られてる奏の場合なら、稼げるものなら稼いでみろって感じはするけど……」
先程までの奏の話を聞いて、そもそもこの罰は罪人を生かすつもりなど無い事が分かる。
そんな状況を想像しながら響が呟いた。
「で、いくらあるのよ」
「えっと……確か……」
「まだ二十万くらい残ってるかな」
「は!?」
驚きの声を上げる響。
それもそうだ、毎日一日で十万円以上を稼いだという事になる。
しかし、彼女はさらに驚く事を言ってきた。
それは……
彼女は一日で、10回は仕事をしたと言うのだ。
一日の内、何時間働いたのかは分からないが……
「……あんたそれって」
「うん、お姉ちゃんも聞いたことあるでしょ、一日バイト」
「聞いたことはあるけど…あいつ以外に受けてる人居たんだ、それ…」
『一日バイト』…それは雇用されるのはその日限りではあるが報酬は多い、しかしその分危険も多く裏では違法な事も少なくないとされている仕事の一つだった。
そして、その仕事を受ける者達を世間は蔑んでこう呼ぶ。
就活失敗者……もしくは危険人と呼ぶ。
当然だ、何故ならその一日の仕事の殆どは……
命に関わるような危険な物ばかりだからだ。
「……まぁ、アンタなら大丈夫かもね」
「えへへ、ありがとう」
「別に褒めてないけど」
「あ、でもそろそろ…」
そう言うと、響のスマートフォンの画面を見る。
時刻は午後七時を過ぎている。
つまりは……
「ご飯の時間なんだ」
「……そうね」
奏の言葉に答えると、二人は食堂へと向かった。
「ふぅ……」
食事を終え、部屋に戻った二人だったが……。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「何?」
「お姉ちゃんってさ…あれから、私に勝って、今幸せなの?」
「幸せ?…んーー……」
振り返ってみれば、いい事ばかりでも無かった、世界が滅んでいたかもしれない時もあったし、自分が死んできた時もあったかもしれない。
だが…
「まぁ、悪くはないわね」
「……」
「どうしたのよ」
「いや、お姉ちゃん変わったなって思って」
「私が?…まあそりゃそうでしょ、あれこれありすぎたんだから」
「私の調教が全て解かれた以上は、もういっその事大きく変わってくれないと私としても満足出来ないから」
「また外に出てなんかやったら、あたしがぶちのめすからね」
「うん、それもいいね……お姉ちゃんに反抗されるのも凄く気持ちいいかも♡」
「……あ、私そろそろ行かなきゃ」
そう言って、奏が立ち上がる。
時間はもう八時だ。
響の部屋には時計が無い為、奏が時間を知らせている。
奏は、響に告げる。
今日は、もう寝るように……
明日もまた、響はヒーローとしての役割を果たす為に……
「分かったわ、今日は早く寝なさいよね」
「じゃあね~」
奏は、響に手を振りながら自分の部屋へと戻って行った。
「はぁ……やっとうるさいのがいなくなってくれた」
響はベッドに入り、目を閉じる。
(ん……?)
だが、横になってみて何か違和感を感じる。
(なんか股の所がスースーする……)
気になった響は、体を起こして自分の下腹部を見てみる。
するとそこには……
「え、何コレ……」
パンツを履いていなかったのだ。
「うっそ……なんで……」
響の表情が青ざめる。
……別のところでは。
「一応身内ですから犯罪にはなりませんよ?」
隙を見て響のパンツを剥ぎ取り、自室に持ち帰って保管している奏の姿があった。
そんな彼女の手の中には、ピンクの可愛らしい下着がある。
彼女はそれを鼻に当てると、思い切り息を吸い込んだ。
そして、匂いを思いっきり嗅ぐ……
最終更新:2023年08月08日 06:18