世界、二重結合

町田がブレンシュトルムから帰還した際、召喚魔法を利用したのは良かったが、その勢いが強かった事が大きな作用を招き……


ブレンシュトルムその物の転移、世界の融合……
転移前と転移後の世界が混ざった『二重世界』を作り出してしまったことになる。


「えー、まぁ……はい」

「私は皆で帰るつもりが世界ごと帰ってきてしまったようです」


「はあああああ!?」


「町田!!お前よくそこから当たり前のように会社に来たな!」

「帰ってすぐ仕事に行く時間でしたので」

「外の様子がおかしいとは思わなかったのか!」

「通勤中は仕事の事しか頭にありませんので」

「とりあえず……世間や政府は既にこの事象を認知しているのでしょうか」

「逆に3日間も経って何も無いとは思うのか!」

「いえ、これ私の方から総理大臣か何かに話しておいた方がいいのかと思いまして、流石にそこまでの人にアポ取りしたことはないので」

町田がそう言うと、上司は少し黙り込んだ。
そして暫くするとこう言った。

―――まずは、連絡をしてみろ! そして電話をした。

―――お忙しいところ申し訳ございません、私は××社の町田という者なのですが、今そちらのお時間よろしいか?

―――ああ、大丈夫ですよ。

「総理大臣ってフットワーク軽いですね」

「本当にかけるやつがあるか馬鹿!!」


………

「異世界の件で話をつけるなら、他の仲間も連れていきませんと」

町田は話を付ける前に、同じく異世界転移されていた3人をこちらに連れてこようとした。
しかし、それは上手くいかない。
何故ならば、全員が赤の他人であった為互いに連絡先も知らないからだ。

「……仕方ありません、1人で向かいましょう」

……

「__ということがありまして、我々は異世界転移された後に帰還しようと魔法を使用した結果、ブレンシュトルムと我々の世界が融合し1つになってしまったわけでありまして……」

町田は総理大臣の所に赴くと緊急会見を開いてもらい、自分が体験したことを全て打ち明けた。

「つまり……君達は異世界に行った後、そこで生活していたということかね?」

「はい、そうです」

「そして、ここに…世界がこうなった以上、誰もが否定することは出来ない」

「世界はどんな風になりましたか」

「世界が1つ混ざったということは、実質人口が2倍になったということ、更に魔族…世間一般的にはモンスターと呼ばれる異種族もいる」

「それよりも問題なのは互いの世界の文明や文化の違いだ」

「特に我々の世界では科学が発達している一方で、異世界では魔法技術が発展している」

「例えば、我々の世界には空を飛ぶ乗り物が存在するが、それに対する反応はどうか」

「おそらく……空に浮かぶ島が突如として出現したと思うでしょうね」

「それで住めばいい話だが……」

「皆様、今回ばかりは頭を下げて済むような……」

「いや、君も勝手に連れられて殺されそうになったのだろう、他の者の怪我もなく無事に帰してくれた以上責めるわけににもいくまい」
町田は異世界での出来事を話すと、総理は町田達を許した。
そして、総理は今後の対応について話し始めた。

――我々としては、異世界人を受け入れる体制を整える必要がある。
――また、今後起こりうる事態への対策とその為の準備を行う。
――その点については協力してくれるかな?
町田は深く頭をさげた。
こうして、町田は1度帰ることにしたのだが……

「なんで当たり前のように会社にいる!」

「なんでって私ここの社員なんですけど……」

町田としてはどうしようもならないのでそのまま会社でサラリーマンをすることにした。

出来れば元に戻したいところだが、そこまでの魔力は最早残っていない。


「なら仕事しかやることがありません」

「い、いやしかし……」


「町田をさっきから呼んでいる奴が……」

「はい?」

町田が振り向くとそこには1人の男がいた。
歳は20代前半といったところだろうか。
黒髪で短めの髪型、眼鏡をかけた青年だった。
その男は町田の方を見るとこう言った。

「お前がこんなところに居るとはな……」

「あー……どちら様でしょうか、私忙しくてクレームを受け付ける暇はありませんが」

………

「俺は……ブレンシュトルムのアケノシウム四天王……」

「カロンだ」

「ああ、魔王軍の四天王……やはり、仮にも勇者一派だった私を殺しに来たのでしょうか?」


「この国はブレンシュトルムと違って面倒なので決闘もしたくないのですが………」

「いや、状況が状況なのでな、我々もあまり戦う必要は無くなった」

「面を拝みに来た」

「そうですか、こちらも聞きたいことは山ほどありましたので」
町田は目の前のカロンに話を聞くことにした。
この世界は一体何なの、そもそもどうしてここに来たのか。
町田はそれらの疑問をぶつけた。
しかし、この男からは明確な答えは得られないだろう。

「その格好もですが、よくこの世界のドレスコード身につけましたね」

「知能が高い魔族は適応力が高い、文明も規律も大きく異なるが3日もあれば生き方くらいは分かる」

「平穏に行きたいものはお前の居るような国に、争いを好むものは戦争をしている国に出向いて軍人になった」

「お前の集落や働き口にも既に何人か魔族が入り込むことに成功している」

「そうですか、いずれは私の会社にも貴方達の部下が来るかもしれませんね」

「ではスライムのように知能の低いものは?」

「お前達で言う動物を人為的に飼育している場所へ隔離されている、愛玩扱いだが奴らはそれでも幸福に生きていけるだろう」

モンスターはなんだかんだ上手くやっていけているようだ。

「そういえば、お前はこれからどうするつもりだ」

「私はとりあえず会社に居ます、というより本来私はこういう立場ですので」

「そうか、まぁ……俺達としても、勇者と戦う理由は無いからな」

「では、私は忙しいのでこれで」

「ああ」
町田はそう言うと、その場を去った。
そして、残されたカロンはこう呟いた。
――あいつは……あの時と変わらないままだ。
――まるで、自分が変わってしまったことに気づいていない。
最終更新:2023年08月08日 20:01