勇者グレンダは今。

「ククク……勇者グレンダよ、貴様の仲間達の事はいつでも我が部下を通して伝わってくる」

「騎士、レッドナイトと僧侶、真由美は人権を失い馬車のように働かされている」

「魔法使い、町田も行く行くは……ククク、貴様達との世界が融合したのは想定外だが、いずれ貴様が死んだ時には完全に二つの世界を……」

「と言いたいが、お前が動けないのでは非常につまらん」

「…何とでも言えよ、俺だっていつでも魔王ゼノバースを倒したいとは思う」

「でも俺はもうずっとこの檻の中だ」

異世界転移に巻き込まれた最後の一人、グレンダは勇者だった。
まだ小学生だったがその心は正義感に満ちており、志や精神は勇者に相応しいこの時代では珍しい少年だった。

だが、彼は帰還してからは自室に閉じ込めれて外にも出られていない。

「別に母さんを恨むつもりは無いよ」

「俺はこの世界からしたら2ヶ月も行方不明になって、皆必死に俺を探してくれたんだから」

「どこにも行かないようにしたくもなる、それだけ母さんも父さんも俺の事を大事に思ってるんだから」

「ククク……人間というものは不便な感情を抱えている……」

「こっちは四天王の一人、バルガンが紛争地で戦死したという、こちらでは人間同士で殺し合いをしてるというのに」

「貴様は勇者でありながら何もできないでいるのだ」

「うるせぇ!分かってんだよそんな事ぐらい!!」

「……」

「…………ふたつ聞いてもいいか」

「なんだ?ふたつも聞いてくるとはな」


「どうしてお前は何もしてこない?ブレンシュトルムに居た時みたいに人類を滅ぼして統一は……」

「ふむ 愚問だな」

「お前の世界の人間は話がわかる、規則も細かい」

「我ら魔族もただ殺すことを快楽とする貴様らで言うところの異常者でもない」

「なら、適応出来る範囲なら適応し、満足出来る範囲ならそこで満足すればいい」


「何より貴様らの国に喧嘩を売るのは、出来なくは無いが非常に面倒臭い!」

「鋼鉄製の巨大な船、大砲を備えた車、翼を生やした巨大な鳥類、全てブレンシュトルムには無かったものだ」

「どれだけの被害が出るかも分からんのに喧嘩を売るのは、非常に面倒臭い!それだけだ」

そう言いながらゼノバースは机の上に置いてある紅茶を飲む。
そしてティーカップを置くとまた話し出す。
グレンダは真剣な眼差しで話を聞いていた。

「もう1つはなんだ」

「俺やほかの三人を召喚した、あの最初の王国の事なんだが……」

「あの件については、我も耳に挟んでいる」

「奴ら人間は我らに対抗するためわざわざ異界から勇者を召喚して、それに賭けていたのだからな」

「でも、俺達はこういう戦いなんてゲームでしかやったことないし……強さだって、ブレンシュトルムで与えられたステータスが全てで、それ以上成長なんて…」

「貴様の世界が平和ボケしていることなど、融合後の現状を見れば我でも分かる」

「それを町田さんが正直に話したら、処刑されそうになって、俺達が世界に帰れるようにしたら………」

「新たな世界からの召喚をエネルギーにした結果、ブレンシュトルムごと逆転移して世界が1つになった……それも二週間も前だ」


「それがどうかしたのか?」

「いや……融合した後は、ブレンシュトルムの王族とかそこら辺はどうしてるんだろうと思って」

「ふむ」

「我らにとってはどうでもいい事ではあるが、貴様にとっては他人事でも無いだろうな」
ゼノバースは少し考えると、指パッチンをした。
するとゼノバースの前に映像が現れる。
そこには一人の女性が映っていた。
年齢は20代後半ぐらいだろうか、髪は黒く長いストレートヘアだ。
目鼻立ちが整っており、とても美人だ。
ゼノバースは椅子から立ち上がると女性の方に歩いていく。

「貴様の世界では相当名の知れた人間なのだろう」

「ああ、会ったことは無いけど凄い有名な女優だよ」

「これはあくまで仮想映像だが、もし我や部下がこうしてこの女を一瞬にして拉致したら……貴様の国はどうする?」

「数百の護衛が救出に向かうよ…勿論俺も出来るなら行く、自衛隊とかSPと大きな戦いになる……子供並みの発想だけどそんな感じか」

「さっき我が考えたとおり面倒臭い結果になるだろう」

「なら、逆はどうだ?」

「かの王国の姫が、貴様の世界の大国に拉致されたとして、ブレンシュトルムの奴らはどうすると思う??」

「……大国の定義にもよる」

「核っていう、存在そのものがヤバい兵器を保有している国なのか………あるいは、大量の軍隊を率いていつでも攻め込めるような国なのか………」

「そこまで複雑に考えるな、貴様の考える『単純に強い国』の定義でいい」




「…………どうにも、しないとか?」
ゼノバースは呆れたようにため息をつく。
グレンダは申し訳なさそうな表情を浮かべている。
そんな彼に構わず、彼は話を続けた。

「そうか、貴様でもそう思うか」

「事実だ」

「ブレンシュトルムでは人類の頂点なんて大口を叩かれていたアルシュウ大国が……」

「今となっては時代に取り残された弱小国家だ、それより下なんて想像するまでもない」
異世界の勇者、グレンダは目の前に映し出される映像を消し、元の席に戻った。
そして再び紅茶を口に含む。
グレンダは何かを考え込むように腕を組み、俯いている。
現代科学の世界と、異世界魔術の世界。

少しづつ、ほんの少しずつだが

一方的な拒否反応が起こりつつあった……
最終更新:2023年08月08日 20:12