エノルミータ、時空始動!

今や並行世界を誰もが越えられるようになった時代のある世界。
異界の住民に見込まれて平和を守る正義の魔法少女達に立ち向かう悪の組織があった。

その名はエノルミータ、魔法少女と戦っているがその詳細は明らかとなっていない。
中でもエノルミータ総帥マジアベーゼは目的や行動が一切掴めない。
突如として所属していたかと思えば圧倒的カリスマ性で次々と仲間を懐柔し、前総帥に反逆を翻して1年も経たず新総帥へと就任した。
その後も自ら戦いに出向き、前線で魔法少女を虐げる。
勝ってはいない、だが負けてもいない。

マジアベーゼは確実に各世界の魔法少女達に屈辱を味合わせている。


___そんな組織に、今私は足を踏み入れようとしている。

「こいつが……エノルミータのアジト?随分と……狂ったデザインだ」

マジアベーゼの名が時空に知れ渡ってからは早かった、次から次へと悪の組織に所属したい人間が集まっているのだ。
正義に選ばれる存在以上に悪の素質がある存在は数多くいる、今ここにいる自分のように。

「今、魔法少女と戦うならここが1番いい」

彼女の名は羽刈ギンガ。
魔法少女の戦いで間接的に妹を失い、復讐の為……エノルミータに足を踏み入れた。


__
アジトに入ってから数多くのテストを受けられた、当然だ…所属すればこれから死にに行くようなものだからだ。

これまでに数多くの候補が振り落とされていった。ある者は厳しさに触れ、正気を失い発狂。
ある者は恐怖に耐えきれず自害。
気が付けば何万人も居た候補者は自身を含めて100人いるかいないか程にまでなっていた。
ギンガは…………上手くやったようだ、次が終われば晴れてエノルミータの一員となる。

だがそう簡単に終わるはずもない。
最終試験…マジアベーゼ直々の面接。普段は周囲から認識阻害が掛かっている総帥の姿を初めて見ることになるのだが……

(子供…?)

ギンガは現在高校1年生、初めて見た総帥の見た目は自分より年下、およそ中学生くらいの女子にしか見えない。
影武者ではない、魔法少女と戦う時とは違う一切関心の無い冷たい姿は悪の組織としての振る舞いを感じられる。
機嫌を損ねたらこれまでの努力も思いも全てが無に帰すことになるだろう。

ギンガ一同が何を言われてどう答えるべきか……
(何も話さない……一体、何を私たちに問うつもりなんだ……)

(だがな……私は全てを……あのドラグレジスター達を倒すためにここまでやってきたんだ!)

(なんでも来い……マジアベーゼ!!)

………

(………スゥーー………………ハァ〜〜〜〜〜)

(なんで私こんな事になってるんだろう)

マジアベーゼ…本名『柊うてな』
趣味、魔法少女の鑑賞。

ある日唐突にマスコットのような存在に狙われて悪の女幹部になり…
時に虐げて、時に直で推しを楽しんで、時に解釈違いに苦しんで……
そしてエノルミータ総帥になり、ただひたすら魔法少女との戦いを個人的性癖と推しとして愉しむ為に繰り返していただけなのだが。

気が付けば数万人近くの入隊希望者が現れるくらい大規模な組織になってしまっていた。

(どうしてこんなことに………まさかこんなデカい組織になるとは……)

(というか何話したらいいのか分からない……こういう時何を聞けばいいんだろう……)

関係者がスパルタな試験で結構落としてくれると言っていたので安心したが、それでもこの数である。
マジアベーゼはとりあえず総帥っぽい振る舞いで考え中であった。

(と……とりあえず無難な質問で2,3人くらいだけ合格させよう……)「貴方は何故ここに来ましたか」

(凄い無難な質問が来た……どうする?素直に答えるべきか、総帥の喜びそうな答えを考えるか?)

ギンガは考えた末、自分の気持ちに嘘は付きたくないと結論付け真っ先に挙手した。


「天竜聖ドラグレジスター……という集まりをご存知でしょうか」

「それが何か?」

「私はドラグレジスターの戦いで妹を失いました、復讐の為に奴らを倒したい、その為にこの組織が必要です」

「無論それ以外の魔法少女との戦いも協力を惜しみません、奴らを倒すために奴らと同じ力だって独自で手に入れました」

「私に魔法少女を倒させてくれませんか?」

「…………もう座っていいですよ」

ギンガは果たしてこれがいい反応を貰えたのかは分からない、しかし全てをここに賭けてきたのだ。
その一方マジアベーゼは。

(ドラグレジスター………どんな顔するんだろう)

もうドラグレジスターと戦う気はあった。

その一方ギンガはまだ安心できなかった。
仮に、もし仮に合格出来たとして一緒に協力して戦うことになるのだ。
復讐以前に人間関係で揉めるのは癪に障る。

(周りに居るこいつらがどんな答え方をするのか…それで判断するしかない)

ギンガが周りを見ていると、また1人手を挙げて答えた。

「私はかつてのエノルミータのように『魔法少女狩り』をしたくここに参りました」

(魔法少女狩り……!?そんな事をしていたのか、私もその路線で答えるべきか……いやダメだ!総帥がこれ以上ないくらい眉をひそめてる!地雷だ!)

「………一応聞いておきますが、貴方なんで魔法少女狩りなんてやりたいんですか?」

「才能のある人間をミンチのようにグチャグチャに捻り潰すのが楽しいからじゃ

発言していた者が言い終える間も無く銃声が会場全体に響き倒れ込んだ。
気が付いたらギンガ達の後ろに軍服のような少女が居た。
他でもない、これまで何千という希望者を地獄のようなプランで次々と振り落としてきたエノルミータ所属『レオパルド』だ。

(いつの間に……似たようなこと言ってたら死んでたな)

「流石にそこまでやる必要は…?」

「いやそうは言ってもここでやんなきゃ」

「ベーゼちゃんそいつ殺してたでしょ?」

言ってることに間違いはないだろう、地獄のような空気が周囲一帯に広がっていく。
魔法少女を倒す組織において魔法少女狩りが地雷となる……この面接が途端にハードモードに変化した。
そしてギンガも気付く。

(あれ?というか魔法少女狩りが気に入らないって、私詰んだのでは。)


そこからは早かった。

レオパルドの合流と震えが止まらないベーゼは質問一つで次から次へと気に入らない希望者を切り捨てていった

「私が来たらこの組織で時空征服が出来ます!」

「ウチそういう所じゃないので帰ってください」

「魔法少女とエッチしたいです」

「思い上がるな!!」

(いよいよ鉄拳制裁まで………)

遂に暴力まで出るようになり面接どころではなくなっていく。
マジアベーゼのストレスもそろそろピークに達しようとしていた。

「もういいです次の人で最後です、さっさと言って終わらせてください」

「はい!!」


「私はマジアベーゼ様が好きです♡」

「マジアベーゼ様の為になるならなんでもします」

…………

「終わった」

ギンガは頭を抱えていた、マジアベーゼが本気で苛立つ前に言いたいことを言えたのは良かったが。
(あれで本当によかったのだろうか……)
「これで面接は終わり、結果発表に移ります」
「合格者は次の人含めて3人です、じゃあ待機室で待ってて下さい」
ギンガはよろよろと立ち上がりそのまま待機室へと向かうのであった。

「うてなちゃんお疲れ〜」

「いや本当に疲れすぎて頭が痛い……」

その一方、うてなも変身を解いて一旦自宅で横になっていた。
レオパルドの変身前であるキウィも真摯になってうてなのメンタルケアをしている。

「にしてもさぁ〜、これまで自分でスカウトしてたくせにうてなちゃんに希望者なんとかしろって酷いもんだよ」

「キウィちゃんが結構落としてくれて少しは助かったけどね…」

「それは希望者がカスばっかだったんだよ、ただ単にひねくれ根性だけで来てるような奴らばっかだったし」

「あっそれで思い出したけどキウィちゃんあの面接の」

「ああ大丈夫、ちゃんと致命傷にならない位置を狙ったから、それでうてなちゃんどうすんの?3人入れるらしいけど」

「えっ」

完全に頭がどうにかなってしまっていた為、直前に自分が何を喋っていたのかも覚えていなかった、というか誰がどんな奴かも把握出来ていない。
柊うてなの苦難は続く。
仕方ないので改めて3人選び直すしかなかった。

「えーとまず1人目……あ、そういえばドラグレジスターと戦いたいって言ってたの誰だっけ」

「この高校生」

「よし採用」

「うてなちゃんドラグレジスターとやりたいだけだよね」

「でも残り2人どうしよう……」

「もう消去法でよくね?」

…………
数時間後、ギンガは黒いマスコットのような生物に呼び出されてまたアジトに送られた。
曰くそのマスコットはアベーゼを初めとするエノルミータ初期構成員を集めていた者で、ちょっとした教育のためにアベーゼに希望者を選ばせたという。

そして肝心なアベーゼだが総帥の席で覇気のない顔で項垂れていた。

「徹夜で3人絞るの大変だった」

「その為僕の方から結果報告させてもらうよ、と言ってもここに招待された時点で分かってるとは思うけど」

かくして 羽刈ギンガ/ドラグヒース、夢見しゅくび/キスマーク、鯣ぽぽり/ジュエリーロジャーがエノルミータに幹部格として所属、一応有象無象も戦闘員として使えるとして雇ったらしいが。


(言いにくッッ!!)

うてなもギンガも頭を抱えた、方や新たな仲間、方や一緒に入ってきた同期。
だというのになんというか、名前が言い難いのだ。
とは言ってもうてなの判断では他に良さそうなのが居なかったので仕方ないのだが………

「あ、そういえば他のメンバーは?」

「最近は敵だらけでね、魔法少女以外にもヒーローだとかなんだとかが我々を邪魔している」

「ネロアリス、ロコムジカ、ルベルブルーメは各地に飛んで邪魔者を排除している、レオパルドは休憩中だ」

ギンガも想像していたが現状は敵だらけのようだ、目的であるドラグレジスターに辿り着けるかどうかも分からない。

「そしてギンガ、君は魔法少女を倒すためなら我々への協力だって惜しまないと言ったね、それを証明してもらおう」

ギンガはすぐに理解した、まだ終わっていない、それどころかここからが本当の試練。
試されている…今ここで。

「……誰を倒せばいい?」

「『トレスマジア』、我々がここまでの規模になる前から相対しているこの街出身の魔法少女だ」


…………

そしてマジアベーゼと3人の新人は改めて街に降り立ち、トレスマジアが現れるのを待つ。
ただひたすらに公園で時間を見ながら。

「えーと……ベーゼ様、でいいのか?」

「様付けはいりません」

「じゃあベーゼ、どうしてただ待っている?魔法少女を集めたいなら街を壊すなり、市民に被害を及ぼすなり……」

「なんでわざわざそんなこと……無関係な人まで巻き込んだら面白くないじゃないですか」

まだ会ってまもないが、ドラグヒースはマジアベーゼのことがよく分からない、人を苦しめない、負けも多い、何をしたいのか分からない。
それでも尚、『時空危険帳簿』に載るほど平行世界各地で指名手配されている存在である。
ヒースはふと横を見る、キスマーク……

(そういえばコイツはマジアベーゼが好きで加入したいと言ってきた奴、何か知ってるかもしれない)

「キスマーク……でいいのか?」

「はい、何か?」

「マジアベーゼは……あの総帥はなんであんなに恐れられている?」

「今に分かりますよ、マジアベーゼ様の素晴らしさが」

そうこうしている間に遂にトレスマジアに気付かれ、4人は包囲される。
マジアマゼンタ、マジアアズール、マジアサルファ。
待っている間にベーゼに徹底的に情報を叩き込まれたので、3人は情報を把握していた。
ベーゼとしてはただオタトークをしていたら止まらなくなっただけなのだが。

「待っていたぞ……トレスマジア……」

「なんや、今回は見ない顔もぎょうさんおらなぁ」

「新しい仲間…?」

「こっちは復讐かかってるんだ!ベーゼには悪いが速攻で終わらせる!来い!!」

ドラグヒースはベーゼの前に立ち、構えを取る。
そしてトレスマジア達の方を睨むが……


「何もしてこない…?」

「ああ、なるほどなぁ……違うでマゼンタ」

「こいつは口だけやなくて魔法がカウンター系なんや、挑発してウチらにデカいの叩き込もうとしとるの見え見えや」

(………!!ま、まだ何も言ってないのに見抜かれた!?)

「お、図星のようやな」

まだ何もしていないのにマジアサルファに見抜かれてしまった。
彼女の指摘通りギンガが努力して手に入れた能力というのは異次元の穴を作るというもの。
攻撃を異次元に吸い込み、好きな所に放出するというものだが………攻撃として成立させるにはわざと攻撃を受ける状態にならなくてはならない、それを一瞬で……

ドラグヒースは考えが甘かったことを理解された、これが魔法少女、こんなことではドラグレジスターに勝つなど……

(ベーゼとあの黒いやつは私にこれを気付かせる為に………)

「だ、だが!私の魔法がお前たちに負ける道理は……う"っ!?」

喋り追える間も無く、サルファが突撃してドラグキースに突っ込んできた。
見えなかった、タイミングも掴めなかった。
このままでは……
攻撃をガードしようにも動きが全く見えず、劣勢になっていくばかりだった。

(いちかばちか………道連れにして異次元空間を通して海に飛び込むしか……ダメだ、人間二人分はそこまで遠くに飛ばせない!)

「キスマーク!ジュエリーロジャー!援護を………あっもうやられてる!!」

あまりにも早すぎる決着、キスマークとジュエリーロジャーは既にマゼンタとアズールに倒されてコンクリートにキスをして横たわっていた。

「これじゃあ1人で来た時と対して変わらへんなあマジアベーゼ、仲良く吹っ飛ばしたるから覚悟しいや」

(悔しい……悔しい、悔しい!!魔法少女!!こんなヤツらが妹を……まだ力が足りない……)

トドメを刺されそうになったその時だった。


「ご苦労ですドラグヒース、最初にしては素晴らしいですよ」

「貴方の顔、とても綺麗です」

「マジアベーゼ!?」

マジアベーゼが間に立ち、ドラグキースを飛ばして守る。

「私は……あんな大口叩いておいて」

「いいえ、初めてにしてはあのサルファ相手によくやってくれましたよ」

「おかげでこちらも準備万端です」

「準備…?」

ベーゼは数多くの植木鉢を次々と鞭で叩くと巨大な花の怪物に変化していく。
周囲の生物や物体から怪物を作り出す、それがベーゼの魔法のようだ。
「なんやまた性懲りなくこんな……」

「今回のは一味違う!時空通販から取り寄せた花粉がめっちゃ濃いタイプのものです、具体的にはスギの5倍」

「ぶ"ぇ"あ"あ"あ"!!やめろやワレこの季節に!!」

高濃度の花粉がサルファの顔面を襲う、目は真っ赤になり涙と鼻水で顔がぐじゅぐじゅになりとても女の子には耐え難い体液まみれの顔面に変わり果てる。
もう既にマゼンタもアズールも花の餌食となっていた。

「フフフ……なかなかいい眺めですねトレスマジア……」

何をやっているんだと思ったが、キスマークから聞いたことを思い出した。

(マジアベーゼ様は魔法少女には勝てない、でも魔法少女の前では常に上位のサディストに大変身)

(時にエロティックに、時に愉しく、調教だって傍から見ればそれは拷問)

(魔法少女を虐げて、苦しめて、楽しむことに関しては右に出るものはない……まさに快楽と苦痛のスペシャリスト!)

(だから彼女はマジアベーゼ様なんです!)

「こ、これは……花粉症が酷すぎて集中出来ひん……」

「さてここからどう楽しみぶぇっしゃあああああ!!!」

「おどれおぼえとげよ!!」

が、自分がどうなるかは想定してなかったのですぐ近くに居たベーゼも例外無く花粉が直撃しバカでかいクシャミと鼻水がサルファに直撃する。

ドラグヒースもこの状況に流石に我に返り、同じく顔面グッシャグシャになったベーゼと満身創痍の2人を担ぎ異次元空間へ逃げ込んだ……


「ぎゃああああああ!!!」

が、2人でも運べるか怪しいと思っていたほどである。
4人なんて遠くに行けるはずもなく、用水路に飛び込んでしまう。

「………あ、あの、帰還用のアレだったら普通に出せるので」

「先に言って!!」


………
花の怪物は別のヒーローが退治したが花粉があまりにもキツすぎた為街全体に蔓延。
別の場所に居たレオパルド、ネロアリス、ロコムジカ、ルベルブルーメまで重度の花粉症に陥り元凶であるマジアベーゼはエノルミータで袋叩きにされた後、おでんのゆで卵を顔に押し付けられた。

「あっつ"い!!」

ギンガはエノルミータに入れたのはいいが、これはこれで大丈夫なのだろうかと不安になった。

そしてうてなもまだ知る由もなかった。

この新しい仲間がエノルミータ総帥としての苦難の始まりであったことは……



「ハアハア………マジアベーゼ様の花粉症姿……推せる……」

「アベーゼ様が購入したものの更に10倍の物にすり替えておいてよかった……♡」
最終更新:2024年04月30日 23:03