悪の組織エノルミータはトレスマジアを初めとする魔法少女達と日夜戦っているとされている。
その実態は魔法少女愛とサディスト精神が爆発したエノルミータ総帥マジアベーゼが魔法少女にその欲求を吐き出す為の高度なSMプレイ現場と化していた。
そして、現在マジアベーゼこと柊うてなは………
「いちまい……にまい……さんまい……」
またしても覇気を無くした目をしていた。
「なんか私の見るベーゼって魔法少女を相手している時以外は死んだ目してるような気がする」
「推し……推しに会いたい……」
「ダメだようてな、君はこれから
ジーカの管理もしてもらわなくてはならない」
『
ジーカ』それは全世界全時空共通で使える新たな紙幣。
あの黒いマスコット…ヴェナリータ曰くベーゼは総帥として組織の財税を確認しているのだ。
ましてやメンバーが尋常ではない程増えたので給料も考えなくてはならない。
「お給料……?お給料……私たちそんなの貰ってない……」
「君達はそうだけどね、ここまでの組織になった以上もうサークル感覚ではやっていけないんだ」
完全に思考が宇宙の遥か彼方に向かっている、そもそもこんなこと女子中学生にやらせることではない。
新人のドラグヒースも疑問に思っていた。
(給料……いるのか?)
(総帥を初めとして初期メンバーは殆どが学生、あそこにいるネロアリスに至っては小学生だ)
(私も高校生だがエノルミータに所属出来なかった時を想定してネットで出来る副業はしている……)
(そして戦闘員に給料はいるのか!?)
悪の組織のシビアな世界、そして現実的かつ地獄のような資料の山に魔法少女と戦う時以上に苦しむ悪の総帥、これでは魔法少女どころではない。
「大丈夫大丈夫うてなちゃん、金とかこっちでなんとかするからさー」
「んっ」
キウィとこりすが目の焦点が合ってないうてなを慰めるが、一線を超えたように、うてなが口を開いた。
それは核心であり今まで周囲が分かってても言えなかった事。
「そもそも悪の組織ってどうやって収入を得ればいいんですか?」
「確かに」
収入なんてない、だが減る物は減る。
主にうてなの魔法少女グッズ代とロコムジカのアイドル活動費で結構消化されている。
魔法少女達はグッズ発売やアイドル活動でそれなりに稼いでるのを見ると大きな違いだ。
………
「ううっ……確定申告……お母さん助けて……」
「夢の中でも税金の話してうてなちゃん可哀想……」
一旦休憩しながらもうなされるうてなを尻目に、一同はエノルミータ史上初となるお金の話をする。
「まずハッキリさせておくとこっちは全員給料とかは今まで通りいらない、これでいいわけでしょ」
「まあ、今更貰ったところでな」
「そこの新人3人はどう?」
キウイ達古参組は即座に話がまとまり、話はギンガ達の方へ向かう。
「私は心配ない、イラストレーターとか一日バイトでそれなりに稼いでる」
「それより問題はジュエリーロジャーの………えーと、ぽぽりは?」
「あーしはさ、ほら悪の組織だし合法的に出来る仕事あるじゃん?」
「はあ?流石に裏バイトはまずいだろ、足がつきやすいようなのは」
「違う違う、転売!魔法少女のフィギュアとかここだといい値段で……」
ぽぽりが言い終える前にギンガが物凄い形相で口を塞ぐ。
更に椅子から崩れ落ちて壁まで激突する。
「その仕事絶対に言うな……さもなくば総帥の手によって粛清される」
「えー?でもワルなら合法的に転売が」
(普通の悪の組織ならな!!あの総帥の魔法少女ヲタっぷりを忘れたのか!?)
オタクにとっては死すべき対象、部下でも容赦なく極刑にされてしまうだろう。
なんならエノルミータの財に1番ダメージを与えてるのではないだろうか。
「はぁめんどくさ……あ、そういえばキスマーク、成人してるけど収入とか大丈夫なの?」
「それはもちろん!なんならマジアベーゼ様の役に立てるようにグッズ展開は数多く考えておきましたので」
そう言ってキスマークは鞄から数多くの計画書を用意する、表紙には『エノルミータグッズ事業展開プロジェクト』と書いてあった。
内容はまるで漫画本のようにそこそこ分厚く、コンビニのお菓子を初めとして軽めの家具やなりきりセットまで幅広く考案されていた。
「お、おお……でもこれ需要あるのか?」
「一人や二人はいるんですよ、正義のヒーローより悪の組織を応援するような逆張り根性は、そういう人たちに買ってもらいます」
「確かにそういう奴は居るっちゃいるが………そんなのどうやって売るんだ?企業が認めないだろ」
悪の組織の商品なんてものはそういう雰囲気のものだから成立するのであって、正真正銘の非合法じみた組織が絡む商品など売る許可もしてくれないだろう。
「あ、もしかして公式サイトで販売するとか?」
「いや…公式サイトあってファングッズも買える悪の組織とか前代未聞だから!」
だがキスマークは何食わぬ顔で任せておけと言わんばかりにプロジェクトの紙を回収していった。
「やめて……私の大事な宝物持っていかないで……」
「夢の中で魔法少女グッズ差し押さえられてるようね………」
「中学生の見る夢じゃないだろ……」
………
数日後、あまりにもお金の管理をしすぎたうてなは、財布の中身やお小遣いまで不安に感じるようになった。
「はあ……お母さんも苦労してお金のやりくりしてるんだなぁ、これからは私もあまり無駄遣いはしない方がいいかな」
1つの勉強になり、財布のガードが強固になった悪の総帥。
ただしそのガードはコンビニに入ってすぐ目の前にあった新発売のトレスマジアウエハースを前に木っ端微塵に吹き飛び、うてなは理性を失った。
(ウエハース……限定シール20種類……箱買い……?)
(思い出せ残されたお菓子地獄…量も値段も馬鹿にならない……でも)
(ハッピーになるからプラマイゼロじゃ〜ん!)
推しグッズの前では頭が空っぽになってしまうのがオタクの悲しい性である。
一気にウエハース箱を掴み取り、意気揚々とレジに向かおうとした瞬間。
「あれ?うてなちゃん」
「あびょッッッ」
後ろからクラスメイトのはるかに話しかけられ、現実を思い出し箱を戻し3個だけ取り出した。
ちなみに今更だが、この花菱はるかという少女……他でもないトレスマジアのマジアマゼンタの変身前である。
彼女達はお互いに別の所では戦いを繰り広げている相手であることは知る由もない。
「あ、それ新しく出たトレスマジアのウエハース?」
「う、うん……新しいシールとか、欲しくて……」
「大丈夫?今箱買いしそうになったけど食べる時大変だよ?」
「うん……トレスマジアカレーの時は若干それで地獄を見たけど愛で克服して…」
ありがとう、あの日のカレー地獄。
シールのために買って1ヶ月必死にコツコツと使い切ったあの日のレトルト。
うてなにとってはツヤツヤのいい思い出である。
「折角だからあたしも買っていこう……え」
はるかはウエハースを買おうとしてフリーズする、うてなが不思議に思って視線を合わせると……
『エノルミータウエハース マジアベーゼ様味♡』
(なんじゃこれは〜〜〜!!?)
うてなもあまりの事に2度見してしまう。
トレスマジアウエハースに完全に目を奪われていた為、すぐ隣にこんなモノが置いてあることに一切気付かなかった。
「え……エノルミータ……?こんなの作ってたんだ」
パッケージにはマジアベーゼがデカデカと映っているのだがそもそも彼女の格好はあまりにも破廉恥で大事なところしか隠れてないというもの、とても公共の場で商品に写していいものではない。
そんなエノルミータウエハースを前にはるかも苦笑い。
(知らない……え、何これ!?私こんなの作ってない!!本当に何!?なんなの!?怖いよぉ!!?)
うてなもいつこんなものが作られたのか分からないので恐怖しかなかった、パッケージのようにダブルピースなんてしてないし、こんなニッコニコの写真を撮った覚えもない。
彼女からすれば全く覚えもないのにグラビア雑誌に載せられていたかのような感覚が襲いかかっていた。
何より……
(そこに並ぶのは……トレスマジアの隣はなんか烏滸がましいだろッッ………)
オタクのめんどくさい感情から解釈違いのあまり涙まで浮かんでくる……
(でもちょっと欲しいかも)
「すみませんこれとセットで6個」
「買うんだ!?」
………
結局うてなはトレスマジアもエノルミータもそれぞれ3個ずつウエハースを買ってしまった。
「け、結局私の組織の奴も買ってしまった……というかなんでキャラグッズの事を私が知らないんだ、総帥なのに」
中のウエハースは速攻で食い尽くしていよいよ開封の時。
「へ……へへへ……どんなシール出るかな、レオちゃんとか出てきたらいいなぁ」
「あっ私だ」
「これも私だ 」
「全部私じゃねーか!!」
シールのラインナップを見たら全部マジアベーゼだった、これではマジアベーゼウエハースである。
「というかこのウエハースもなんか変な味がする……ベチャベチャしてるというか、変に臭うというか……口の中でキツく……」
エノルミータウエハースをトレスマジアウエハースで中和しながら、マジアアズールのシールで狂喜乱舞した後自分のシールはポケットに入れ……
状況説明の為ダッシュで家に帰りアジトに帰ろうとした時だった。
「マジアベーゼ様〜〜!!」
「うわっ!?」
電柱の裏からキスマークが飛び出してきた。
咄嗟のことだったのでうてなも驚きそのまま押し倒されてしまう。
「トランスマジア!早くトランスマジアしてくださいなベーゼ様!」
「ま、待って待って声が大きい!うわ!」
キスマークはそのまま強引に星の力でうてなをマジアベーゼに変身させる。
そのまま持ち上げて引っ張っていく。
「せめて説明してくれませんか!?」
「私ベーゼ様に尽くしたくて色んなことをしてきましたの!ウエハースを売ったり、それ以外にもマジアベーゼ様カレーやマジアベーゼ様のASMR、あとファンブックにぬいぐるみに……それから」
「ストップストップ」
「貴方私に話もつけず勝手に商品化したんですか???」
が、キスマークはベーゼの話に聞く耳持たず、引っ張って引っ張って……
「じゃーーん!私貴方に喜んでもらいたくて魔法少女を無力化させておきました」
「え!?」
連れていった先にあったのは、鎖で全身巻き付けられて拘束されたトレスマジアの3人であった。
「え!?こ、これ……貴方一人で?」
「はい♡喜んでいただけましたか?」
ベーゼは考える。
まだ商品について答え聞いてないぞ、とか、一体どんな事をすればここまで一方的になれるのか、とか
何故キスマークはここまでして自分の為に尽くしてくれるのか……レオパルドのように惚れたのだろうか?
だが、今は考えることはやめた。
「フフッ、貴方は形はどうあれ上司を労いたいようですね」
「なら、それを有難く承諾してこそ……でしょうかね?」
荒んでいた気持ちに魔法少女セラピー。
鎖で繋がれても決して屈せず諦めず歯向かうその顔がベーゼの加虐心を引き立ててゾクゾクさせる。
この顔をめちゃくちゃにしてやりたい。
今日は何をしてやろうか?
そしてベーゼは履いていたヒールを脱いで、目の前でヒールとストッキング部分を脱ぎ、生足を上げる。
「では、この間楽しめなかった分じっくりと……」
ベーゼはゆっくりとその足をマジアマゼンタの顔へ……
「うっ……」
「ぐりぐり……ぐりぐり……」
「ああ……マジアベーゼ様が正義の魔法少女にあんな綺麗な足を顔面に擦り付けて……羨ましい……なんて加虐的……踏まれたい……」
キスマークはずっとこの時を待っていた、あまりにも美しい光景に今にも絶頂しそうになる。
傍から見ればいい歳こいた女性が中学生に欲情する肝い光景なのだがそれは気にしてはいけない。
マジアベーゼも今は存分に愉しんでいるのだから。
だがそう長くは続かなかった。
「くさっ……」
マジアマゼンタが咄嗟に漏らしたその一言は、べーゼを5秒に渡る硬直状態に陥らせた。
「え?……お"?あ?」
今やってる事はSMプレイなので、別に構わないことではある、あるのだが
オタクとしては推しに『臭い』と言われたら結構傷付くのも本音。
心が2つあるベーゼはバグった。
「お”……お”お”…?」
「あっ、その、今のは違うの!そこまで臭くないよ!ちょっとびっくりしただけで」
「ただちょっと……足の裏からむわっとした感じの香りがちょっとだけしたから」
「つまりくさいんですか!!」
もうSMどころじゃない、体臭が気にならない女の子はそこまでいない。
若干涙目になってきたが今更後に弾けないので一旦マゼンタから足を離し次はサルファの顔面に足を突っ込む。
「オ"エッ臭ッ!!言われてみるとほんまに腐った匂いが足の裏から………」
「お前そんな格好してたら匂い染み付くに決まっとるやろ」
(えっそんなにする?しないしないしない……いやしないはず、いや)
ストレートなスメハラは結構効くので即座に離し、もうどうにでもなれとアズールに一気に足裏を突っ込んだ、もうどうにでもなれ、互いに尊厳が無くなっていく、これはもうプレイというより戦いであった、本来それでいいはずだが
「う"ごぉっ……」
「うげっ……真横からでもほんのりと香ってくる……」
「そ、そんなキツい臭いでもないから!納豆みたいな感じだから」
「スゥーーーー…………」
「ひぃ!?」
(息を止めてる………そんなに臭かったの私……)
「こんなんじゃ魔法少女に顔向け出来ないいいいいいい!!!」
遂にベーゼの尊厳は木っ端微塵に吹き飛び、泣きながら渦に乗って逃げ出して行った。
キスマークはその後ろ姿を見て泣いてるベーゼ様も推せると思いながら退散した。
「なんか今回はちょっと可哀想だったかな………」
「自業自得や、ウチらアイツにどれだけえらい目にあったと思っとるんや」
「はあ……はあ………」
「てかアズール、お前嗅いでたな?」
…………
「わァ……あ……」
「泣いちゃった!」
一方うてなは精神的ダメージの連続で本格的に参ってキウイに慰めてもらっていた。
「大丈夫うてなちゃん!なんか嗅いでみたらキツいというより興奮するぐらいの匂いだったから!」
「フォローにならない!」
(体臭で逃げ出す悪の総帥………)
気持ちは分かるが腑に落ちない気持ちでギンガはうてなを見る、が……正直それどころではない。
うてなが持ってきたエノルミータウエハース……
「お前、本当にグッズ販売したんだな」
「それはもちろん、1週間後にはエノルミータヌードルも販売しますので」
「あ、そういえばしゅくびさん、あのウエハース変な感触と足がしたんですよね」
「そもそもマジアベーゼ味って何?」
キウイは箱買いしておいたエノルミータウエハースを貪る、確かにウエハースにしては水気がありビシャビシャとした感じがする、何処と無く香りもするし正直なところ美味くない、何がマジアベーゼ味なのかもパッと見よく分からない。
「まさかうてなちゃんの体液とか入れてたりしないだろうな、汗とか!」
「キウイちゃん!?」
「きっしょ……なんで分かるんですか」
「この場合キショいのはアンタの方よ!!」
キスマークは即座に吐いた、枕に染み込んだうてなの寝汗を搾り取って、それをウエハースに注ぎ込んだという。
ちなみにエノルミータヌードルにも入れたらしい。
「体全体にマジアベーゼ様の体の一部が入り込んでいい気持ちになるのに!」
「衛生問題!!なんてものをトレスマジアの隣に置いてくれましたね!?」
「グッズプロジェクトは一旦中止です!中止!レオちゃんはエノルミータヌードルを破壊して!それ以外は各自でエノルミータウエハースを回収!これは総帥命令です!以上解散!」
うてなは大急ぎでエノルミータグッズを回収させて、一旦家に帰った。
「悪の組織なのにそういうの気にするんだな……」
「まあ別に食中毒起こしたいわけでもないしなー」
………
そしてその夜。
「くさっ………くさっ……くさっ………」
マジアマゼンタに言われたあの一言がうてなの脳内でリピートされ続けており、その日のお風呂は念入りに足を洗い、足の匂い改善について調べた後 マジアベーゼ 臭いでエゴサ………
「臭い……マジアベーゼ本当に臭いよ……」
「ハア………ハア………!!」
寝る頃になってくると軽くマゾにも目覚めて逆に興奮してしまい、なかなか寝付けなくなってしまった。
SってことはMってことなんじゃないかな?
グッズ展開が一旦無かったことにされたので、また資金問題で頭を抱えることになることを、うてなはまだ知らない。
最終更新:2024年04月30日 23:27