「え?私達がエノルミータに入ったときのこと?」
マジアサルファから話を聞いたマジアベーゼこと柊うてなは各メンバー全員がマジアベーゼになったばかりの頃の事を聞いて回っていた。
事の始まりは憤怒世界のマジアサルファが自分がうてなであることを知っていたこと……それを聞くと他のマジアベーゼ達も焦る者も居た。
「えっ?私知られてたの?」
「反応からして悟られてない物の方が多数ですか……私も例のマジアアズールに勘付かれてますよ」
「勘付かれてるっていうか、しつこいようだけど私もただのバンドマンだからトレスマジアの青い人の名前が『豌エ逾槫ー丞、』……ダメだ!またトレスマジア達の本名を言おうとすると文字化けする!」
「ちなみに貴方とライバルしてる仮面のバンドってその人と同一人物ですよどう考えても」
「いや違うでしょジャンル的にも!ありえないからこんな底辺バンドが大物アイドルに喰らいついてるとか!」
「めんどくせー厄介オタクじゃん」
何はともかくマジアベーゼ達のルーツから辿って状況を把握、今求められるのはチームワークであると考えたのだ。
ただし過去を語り合うのは自分達だけではなく、キウィ達を始めとした部下たちを中心に話していくことになる。
今となっては他のうてな達も彼女達の上司ということになるので情報が必要であった。
「じゃあまず誰から……ってまあ他の6人からすれば言い出しっぺの私だよね」
マジアベーゼであるうてなはエノルミータに入ったばかりの時を話す。
最初はトレスマジアの活躍を影から眺めているだけの目立たない存在だったがヴェナリータにスカウトされて……魔法少女になれるかと思ったらこの通りでどうこうすることも出来ずにそのままロード団を倒して代わりに総帥にまでなってしまったという、おそらく他のメンバーからすればありふれたものとうてなは思っていたが意外と釘付けになって聞いていた。
「そんなヴェナリータさんに一方的に……かわいそうに……」
「私としてもあの人に文句言うとか無理無理無理のカタツムリですからね……この年にクーリングオフはきついでしょ」
「まあ私はあくまで前座だし軽めでも」
「それで魔法少女にエッチなことすることに関しての説明は?」
怒りは抑えようとしながらも若干魔法少女への振る舞いにイラッと来ているレッドベーゼは発散のために指の圧力だけでリンゴを潰す。
うてなは魔法少女を相手していたら自分の手で汚されていく姿に興奮を覚えるようになったと、本当にそうとしか言えない説明を挟むが一部うてなからはドン引きされる。
「そ……それでいて堕ちるのは嫌なんだよね」
「当たり前です魔法少女は皆の前で愛される姿として振る舞ってもらうんです闇堕ちとか論外なので」
「多分こいつ私らの中で一番タチ悪いんじゃないの……?これ私でも自分を棚に上げてるって分かるよ」
「酷い言われよう……まあ実際、いずれ私はトレスマジアに倒されることになるだろうとは理解してますよ」
話すだけ話しておいて特等席に座るうてな、隣にはまるで飼い慣らされた猫のようにキウィが待機して正妻の余裕を見せつける。
残るはパラレルうてな達の経緯だがあまりにもめんどくさかったのかスローベーゼが挙手した。
「私はそんな大した物じゃないですよ……えーと確かエノルミータに入社したのはちょうど二十歳の頃でしたかね」
スローベーゼは細々と陰キャのまま進学してなんとか就職出来たものの魔法少女を推してる余裕も時間もないほど多忙なブラック企業に入ってしまい、気力は死んで帰っても寝るだけでメガネは欠かせなくなって……自分というものがすり減っていくように感じた。
自分が望んでいた生活とも違い、魔法少女達がそんな自分を尻目にキラキラと活動しているのを見て遠い存在となり会社が滅べ!と呑んだくれているとゴミ箱でヴェナリータと出会い、似合いの仕事があるとエノルミータに入れてもらい以降は前のうてなと同じだという。
「なんか世知辛いなこのうてなちゃん……」
「というか、よくそれで悪の組織やろうって思ったね」
「あの時は酒の勢いもありましたし……変身するまでは私も本気にしてなかったので、ヴェナリータCEOから総帥の引き継ぎされてもうどうこういう暇なくて」
「別世界として私から質問なんだけど、OL続けなくても退職してエノルミータ一筋にすればいいのに」
「私だってそうしたかったですけどね、子供に現実を伝えると会社って簡単に辞められないんですよ、人間関係とかお金の問題とかそういう気にしてないところが足枷になるんです、CEOもだったら2倍働けとしか言えないし、部下も私と違って魔法少女って年の若手ばかりだし……」
ということで、スローベーゼはそのままマジアベーゼとして昼に突然呼び出しがかかって悪の組織としての仕事や魔法少女との戦闘、夜には会社で残業と仕事尽くしの為……最悪なことにパラレルから転移しても会社は残っているので仕事は抜けられないという。
「私からは以上でーす、休ませてくださーい」
「怠惰どころかめっちゃ働いてるよこのうてなちゃん……なんかアタシ同情してきた」
「じゃあ次は嫉妬のボルトちゃん」
「なんで当たり前のように七つの大罪で呼んでるの?別に私は……バンドとしてエノルミータ始めた時のことでいいんだよね?私の世界にはヴェナリータなんて変なマスコットいなかったし……」
ギターうてなもまたアイドルのトレスマジアに憧れるボーカリストだった、しかし彼女の背中を追っているだけでは真似、二番煎じ……同じ歌手なのにどんなに努力しても近付けないし見てくれない。
だから彼女はロックの方向に行った、彼女達がやらないメイクもしてパフォーマンスも過激にした。
これは迷走ではなく決別だ、自分の中でトレスマジアへの憧れが嫉妬へと変わっていくのを感じていた。
そうしてロックバンド『エノルミータ』は生まれた。
これまでの話はうてなより同じ歌手として共感する所があったのか真珠が号泣していた。
この人向こうの世界じゃエノルミータに含まれていないのになんとも優しい関係性になったものである。
「ちなみに貴方の世界の真珠ってどうなってるかしら」
「えっ知りませんよ会ったこともありませんし……貴方のお友達の手を借りて単独アイドルしてるんじゃないですか」
自分たちの中では唯一の一般人のボルトベーゼ、実はヴェナリータによって頭数に加えられているので魔法も普通に使えるようになってることを知らない。
ギターを弾けば支援の効果があったり音を飛ばしたりできるがロコムジカと被るし大事な後輩に戦ってほしくないということで黙っている。
多分彼女はこのまま気付かないままエノルミータで雑用をし続けることだろう。
「はい、じゃあ次は流れ的にあーしかな?まあヴェナっちにスカウトされてキラキラしてたのは変わんないから大した違いないけど、動機としてはアイツラよりだいぶカワイイはずなのに一生当て馬になりたくなかったからなんだよねー」
(昔のアタシと同じか……)
オルタベーゼに関しては概ね本来のうてなと変わらないが本人としては元が同じ以上、何がどうなって金髪黒ギャルになったのかの方が大事なので聞いてみることにしたが普段の軽いノリと相まって口を紡ぐ。
「はぁ、こんな集団だったから黙っておきたかったけどさぁ……自分相手には誤魔化せないか、そうだよ!あーしも元はお前らと同じネクラ陰キャだったわけ!けどあーしはあの注目の槌を手に入れてからバッチリ生まれ変わったってわけ!」
「へ?」
注目の槌は叩いた物の見た目を自由自在に作り替えてしまうものである、うてなは気付いた……これを人に当てたら?ジメジメしている自分を卒業したくて……キラキラしたくて自分に押し当てたら?
恐る恐るオルタベーゼに質問してみる。
「……そ、それってまさか自分に注目の槌を?」
「あーうん、ヴェナっちが直接あーしに打ったらバリキャワなこの姿になって柊うてなっちは生まれ変わったってわけ」
「物理!それ魔法で人格レベルで本当に作り替えられちゃってるやつ!!怖いよぉこの私!陽キャと思ったら私の中で一番闇が深かった!!」
「ああ精神改造?あるいは洗脳?戦隊の幹部だと結構ありふれたパターンですよね」
これまでとは全く違う側面を話すだけ話してオルタベーゼは何事もなかったかのようにギャルらしく振る舞う、途端にお労しいというか恐ろしさを感じるようになってこりすをセラピーとしてあてがう。
他人事ではない、他のうてな達にとっても……自分たちのそばにいるのはヴェナリータがここまでの外道を見せていたらこうなってもおかしくない、良くも悪くも並行世界の『もしも』の自分達だから。
「そういえば元の私はレッドちゃんの過去は知ってるんだっけ?」
「まあはい……彼女の世界のサルファに教えてもらったので不本意な形ではありますが内容が内容だけに言いたくないところは黙っても構わないと……」
「いや……オルタちゃんも本当は言いたくない所まで話してくれたんだし、私もちゃんと受け入れてるから大丈夫だよ」
レッドベーゼの世界はいわゆる性欲が反転した異質な世界、善悪や性格関係者の反転は某ゲームにもありglokシステムでも珍しくないが性的関心に対する反転という類を見ないタイプ。
自分達の性格を考えると市民のセクハラが酷い世界で彼女がどういった立場になるのか……。
考えてみれば同じく市民だったなら変わらず変態になってそうとパラレルうてな達は思ったがこうして集まって悪の総帥にまでなった以上特別な何かがあるのだろうか。
「多分皆と同じ日に……マゼンタを応援していたら捕まって、抵抗出来なくて……怖くて」
「うん大丈夫、言わなくていい、レッドっちそこオブラートにしていい」
「ギャルうてなちゃんがフォローに回るレベル……」
「う、うん……怖くて、怖くて……ブン殴ってた、全部壊してその後に……ヴェナリータさんが私の所に来たんです」
『君には並外れた才能と後戻り出来ない過去がある、君にこそ悪の総帥が相応しいと考えている』
「……我々と違い全部すっ飛ばして一気に総帥ですか、そっちのロードエノルメは……まあ貴方の戦闘能力を見るに考えるまでもありませんね」
「この世界の私は自分は魔法少女に最後は負けるべきと思ってるけど、私もそうなんだ、私は悪者だから酷いことをする前に魔法少女に敗れるべき、倒されないとダメな人間になっちゃったんだよ」
改めて他のうてなは元の世界のうてなが語る「悪の組織でも市民を襲うのは面白くない」という言葉が響いていく。
この罪の責任は重い、憤怒に呑まれた所で世界がどんなに腐っていたとして手を出してしまった時点でもう許されない存在。
だからこそレッドベーゼは誰よりも滅ぼされなくてはならないのにヴェナリータの想定通りトレスマジアを上回る遥かな強さとそれをコントロール出来ない脆い理性を持ち合わせていた。
「大変なんですねぇ、まあ皆さん私と違ってまだ年頃ですし過ちや甘い言葉で追い込むのはヴェナさんらしくはありますか」
「正直な所一番疑問なのはスカーさんだよね……よくあんな残虐な世界で総帥続けられるよ、傷だらけだし」
「必要なことですよ……表があれば裏があり、右があれば左があり……魔法少女が善になるには悪が必要になる、私は最初はヴェナリータさんにスカウトされた伏兵の一人に過ぎませんでした」
戦いの規模ははるかに上だった暴食の世界で柊うてなは最初から『悪』として育てられた。
ヴェナリータによって街ごと選別されて徹底的な教育、使えないものはロードエノルメに処刑されるか魔法少女に敗れるかの2択。
そんな世界でうてなは魔法少女に対して「自分のような深い傷を遺したい」という猟奇的な執着が芽生えて、マジアベーゼの正体が柊うてなとマジアアズールに指定されても悪として生き続け……結果的に生き残っていたから悪の総帥になれた、それだけのことである。
「話だけ聞くと私が一番たいしたことないですかね?私は元より悪、そしてたまたまトレスマジアと戦い続けて生きてきただけ……」
「でもそれで60年以上だからイかれてるとは思う」
「もしかして一番ちゃんとしてる……?」
「冷静に考えておばあちゃんみたいな年齢でイかれてる方がヤバいだろ」
「でもこいつだしなぁ……」
失礼すぎる流れの中、意識してたわけではないが最後に残ったのは強欲の戦隊オタク、ムーンベーゼであった。
見た目や性格も基本的に元のうてなとそんなに変わらないように見えるので全員が自然と後回しにしていたのである。
「あっ、最後になっちゃいましたけど私ですね、でもエノルミータに入った時の事かぁ……そもそも私の場合、敵が魔力戦隊サンマジカルだし事情も違ってくるんだよなぁ……」
戦隊世界のエノルミータは大きく性質が異なる、更に別の異世界『命道界』から人類を糧に魔力を作る期間を作るためたヴェナリオン・タルタンが暗躍し、その為の作戦遂行のために用意した忠実な部下であり三人の魔獣幹部。
破壊工作に特化したレオワルド将軍、人心掌握に長けるネロ・ジョーカー、そして純粋なサンマジカル対抗の為に作られた人工魔女のムーンライト・マジアベーゼ14世。
「ストップストップ!!貴方一番キャラ濃いじゃないですか!?」
「え、何お前!?人っぽい見た目だけどまさかお前」
「あっはい、私人間じゃないよ?デビルスパイダーっていう種族でマジアベーゼは苗字、柊うてなの方がこの世界で活動する偽名みたいなものですね」
「う、嘘……人って見かけによらないっていうか人じゃない!」
まさかの意外すぎる大穴展開に横で聞いていたエノルミータの面々も6人のうてな達も思わずビックリした。
人間世界に潜伏してからサンマジカルを倒すための情報を集めていた所、スーパー戦隊にハマってそのまま戦隊オタクになってしまったという。
ぶっちゃけエノルミータ的にはサンマジカル以外は驚異でもないし自分とマゼンタが抜けた分レオワルドが上手くやってくれるだろうとのこと。
「皆で力を合わさて悪の組織らしく人類には奴隷になってもらい、各々の欲望を満たせるようにコントロールしながら生かさず殺さずでエノルミータで世界征服しましょう!……あっ心配しなくても皆さんは特別ですよ!私やレオさんの並行存在ですし、面白い戦隊も独り占めさせてくれますから」
意気揚々と笑顔で語るムーンベーゼを前にしてうてなとキウィは顔面蒼白で察する。
一番マトモそうだと思っていたパラレルうてながオルタベーゼ以上の特大地雷原、悪の組織の認識違いを通り越して人として分かり合えない奴であると理解してしまう。
悔しいだろうがこれがただの人間である自分達と人外である彼女の差である。
「ねえキウィちゃん、あの子めちゃくちゃ世界を滅ぼすことに乗り気じゃない?やっぱり戦隊モノってジャンルが違くて私ついていけそうにないよ……」
「なんだったらアレもう吹っ切れすぎて改心してなんだかんだで生き延びるパターンも無理だろ……」
改めてうてな7人お互いのことを理解し合えた。
これから先向こうも自分の正体を知っている者が居る以上、命懸けの戦いは避けられないだろう。
本気で戦うためにもお互いの事を知っておきたい……そして全員の力を借りてやらなくてならないことがあった。
「みなさんにはまだ話してませんでしたね、
シャドー・メイドウィン・黒影という男のこと……今は動きを見せていませんがこんな変な騒ぎを起こしたのも奴のせいであり……今後また余計なことをしてくるでしょう、マジアベーゼが7人もいれば時空の王がなんだというわけです」
「……うっわ、ソレマジでイケてるじゃん」
「我々の組織的にも面倒ですし潰すに越したことはないですね」
「なので……改めてエノルミータ総帥として宣言します、何が起きるか分からないうちに
時空監理局を叩き潰します!」
「っしゃあ!魔法少女以外でここまで乗り気なベーゼとゃん初めて見た!」
◇
同じ頃、パラレルトレスマジア達が集う焼肉店はうてな達のような和気あいあいとした雰囲気はなく殺伐としていた。
向こうも大量に魔法少女の同一存在が集まったことでそれぞれについて話し合っていたのだが……暴食世界の小夜がとんでもない提案をしてきたのだ。
「エノルミータに有利に立つにはマジアベーゼの正体である【譟翫≧縺ヲ縺ェ】の正体を知っておいたほうがいい……しかしこうして口に出してもノイズが走るだけね」
「……どうする気や?ウチはたまたまそいつがベーゼに選ばれる姿を見ているから知ってるが、知らんやつの方が大半みたいやで」
「で、でも……だからってあんまりだよ!」
「何故?この程度で躊躇いがあったら悪を罰することは出来ないわ」
「おっ揉めてるね、ネギ塩くれるついでに事情説明してよ吠くん」
ポチが来店して作戦会議の為にこっそり賄賂(即席ハンバーグ缶)を手渡して吠から情報を聞き出す、小夜がマジアベーゼの正体を特定するために危害を加えようという作戦を考えてこの世界のはるかを始めとして抗議が来ているらしい。
「危害を加えるってどういうこと?」
「つまりは……」
……
「何も難しいことじゃないわ、マジアベーゼに修復不可能な程の深手を負わせる……処刑しなくてもいい、傷を残すだけでいい……同じ傷跡を遺す人間を特定すればマジアベーゼが何者か分かる寸法よ」
最終更新:2025年05月11日 07:09