一行に悲愴をもたらした傷ましい『事故』から数週間ーーフェンディル・「竜のいびき亭」は新緑の季節を迎えていた。
「この、豊かな薫り…...我ら高貴な生き物に相応しい、まさしく神々の飲み物」
「琥珀を思わせる深い水色…...あなたの瞳の色によく映えているね、じい…...兄さん」
いつもながら空気の読めない、いや周囲に図らず鬱陶しい空気を撒き散らす生き物を尻目にアクセルは苦い顔をしている。
「茶くらい黙って喫めないのか、お前ら耳族は」
「というか、その『兄さん』というのは何なのですか。ますます気色悪い」
普段は大人しいツバキまでも追随する。
「いや、だって『じいちゃん』って呼ぶと怒るから」
「当たり前だ!このエクストラバガンザハンサムの俺様をつかまえて、じじい呼ばわりたぁどういう了見でぇ!」
「興奮して口調が耽美じゃなくなってますよ、ファビアスさん」
ヴィオーラは全く慣れたものだ。急に立ち上がったファビアスを軽くいなし、沸いた湯のたっぷり注がれたポットを軽やかな手付きで持ち上げる。座っているファビアスの頭上辺り、かなり高い位置から勢いよく熱湯を注がれ、ティーポットの中の茶葉が薄い金色の水の中で、泳ぐようにジャンピングしている。
「おかわり、如何です?」
「やあヴィオーラちゃん、気が利くね。しかし、今年の初摘みは良い出来だね。このはんなりとした薫りといい、天使の顔(かんばせ)を思わせる薔薇色の茶葉といい、ここ数年で最高の出来じゃないかな!」
「それ、去年のオータムナルなんです」
「へ?」
「今年は初摘みがすごく高騰してて仕入れられなかったので、去年の茶葉なんです」
最終更新:2014年06月21日 10:43