「あ、あの……やっぱり突然伺って迷惑でしたでしょうか?」
「いやいや、迷惑だなんてとんでもない。ただちょっと驚いただけで……」
高良さんをリビングに招き、俺たちはテーブルに向かい合わせに座った。
「そうですよね、驚きますよね……すみません。サプライズ作戦失敗です……」
どうやら、作戦行動中だったらしい……
「いやいや、えーと、その作戦自体は良いと思うよ!ただその……なんつーか、タイミングが悪いって言うか……」
俺の頭の中ではさっきから『WARNING!』の文字表示されっぱなしだ。
非常ベルがそれと共に鳴り続けている。
ここで、高良さんとかがみが鉢合わせることだけは避けなければ……
余計な火種を生むのは目に見えている。
まだ結論だってはっきり出てないのに。
とは言えせっかく来てくれた高良さんを追い返すわけにも行かないし。
「あの、男さん。お加減はいかがですか?寝て無くて大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、もう平気だよ。昨日散々寝たおしたから、朝から宿題やってたんだ。」
「そうですか。良かった。でもお体に触るようでしたら、すぐにおいとまいたしますので」
「い、いや、全然気を使うことないよ!ゆっくりしていっていいからさ、ははは」
「ありがとうございます!」
満面の笑み。
女神の笑顔。
……い、今の俺には眩し過ぎるッ!
「あの……男さん。これおみやげのプリンです。ちょっと背伸びして手作りに挑戦してしまいました。不慣れなもので、お口に合うかわかりませんけれども……」
高良さんは持ってきた包みを開けた。
箱の中に白い陶器のカップが4つ並んでいた。
カップの中に詰まったプリンの量が4つとも微妙に違うのがなんとも手作りっぽい。
「へ~!高良さんの手作り?すごく美味しそうじゃん!」
「い、いえいえ、普段料理をあまりしないものですから、お恥ずかしながら見栄えもあまりよくなくて……」
「そんな謙遜しなさんなって。俺はマズそうなものははっきりマズそうだ、という男だぜ。でもこれはホントに美味そうだ!」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると光栄です」
「早速食べていいかな?高良さんも一緒に食べよう。コーヒーでも入れるから待ってて」
「あ、いえ、男さんは休んでいてください!私がやりますから!コーヒーメーカーと豆の場所だけ教えていただけますか?」
「……えと、ごめん。うち、インスタントコーヒーしかないんだよね……」
「あ?え?す、すみません、私ったら……」
「ははは、ありがとう。じゃあ、インスタントコーヒーがそっちの戸棚に入ってるから取ってくれる?」
俺はカップを準備しながら言った。
テーブルにコーヒーが二つ、そしてプリンも二つ並んだ。
俺はちらりと時計を伺う。
もうすぐ11時。
かがみがやってくる時間だ。
「コーヒー、ありがとうございます。私のプリンも召し上がってくださいね」
「うん、ありがとう。でもその前に。あのさ、高良さん」
「……?はい、なんでしょう?」
「今日、実は今からかが――」
ヴイィィィィィィィ、
ヴイィィィィィィィ、
「あの、男さん。携帯電話が鳴っていますけど?」
「あ、ほんとだ」
俺は携帯を開いた。
【from】柊かがみ
【タイトル】
【本文】
ごめん、男。お見舞いに行くのちょっと遅れそうなの。お昼くらいになるかな。
ごめんね。また行く前に連絡するから。
「………」
幸運にも鉢合わせは回避されたわけか……
「どなたかからのメールですか?」
「あ、うん……
実は今日これからかがみもお見舞いに来てくれる予定だったんだけど……来るのが昼過ぎになりそうっていうメールだった」
「かがみさんが?」
一瞬、高良さんの顔が険しくなった気がした。
「つかささんではなくて、かがみさんですか?」
「……ああ、やっぱり昨日のクッキーのことで勘違いしてるわけだ?言っとくけど、つかさとはなんでもないから!」
「そうなんですか?でも、つかささんは男さんの好みも知ってらっしゃって……」
「あれは、一昨日、高良さんと会う前に駅前で偶然つかさと会って、その時にたまたま話しただけだよ。チョコチップの乗ったクッキーが好きだって」
「そうだったんですか……よかった」
「そ。だからつかさとはなんでもないよ」
「でも……」
次の言葉は、俺でも簡単に予想できるものだった。
「つかささん『とは』何もない、ということはかがみさんとは……」
コーヒーが作る水面を見つめていた高良さんが顔を上げる。
「……なにかあるということでしょうか?」
……彼女の吸い込まれそうな瞳の中に、いつもほどの光は宿っていないように感じたのは、錯覚だったのだろうか?
最終更新:2008年07月05日 18:48