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「柊つかさ……か」

 今日最後に会った人間の名前を呟く。
 ……一人暮らしだと、一人言も怪しくないから良いよな。

「……しっかし、参ったなぁ」

 本当に参った。

『へ、返事はいつでもいいからっ』

 そんなこと言われてもなぁ。
 困る。困惑しか生まれてこない。

 ……俺には、好きな人が、いるっていうのに。


―――

 彼女と出逢ったのは、今年の三月末。
 今は二学期だから、半年前くらいか。
 その年、俺はこの土地に引っ越してきた。
 そんで、一人で来たものだから道に迷ってしまったのだ。
 方向音痴には自信があるのである。
 ……やがて日も暮れ、交番すら見当たらず、こりゃもう公園で野宿するしかないですかーと諦めかけていたその時だった。

「ちょっと、そこの人。生徒手帳落としたわよ?」

 柊かがみに出逢ったのは。


―――

「へぇ、あんた転校生なんだ。こんな時期に珍しいわね」

 お互いに名乗り、こちらの事情を話すと、案内してくれるそうで、今は歩きながら会話をしているのだった。
 うちとけやすい娘だな。

「ああ……ちょっと、色々事情があってな。一人でこんなところまで、さ」

「……あんた、もしかして問題児?」

「はは、そんなもんだな」

 彼女は初対面の俺にも気さくに対応してくれた。
 こんな知らない土地に一人で引っ越してきた俺には、それが、とても嬉しかったんだ。


―――

「えーと、あ、男、ここよ、住所だと、ここのアパートの302号室だって」

「おおー、ここかー」

 …………ボロッ!
 今にも崩れそうな鉄骨丸出しな造り。
 一番下の段が無い階段。
 全体に絡まる何かのつた。
 名前は『羅輝崇多荘』……どこぞの暴走族か。読めねえぞ。

「……ここ、あんまり通らないから知らなかったけど……凄いわね」

「ああ……なあ柊、ホントにここか? オラはちょっと信じたくないだす」

「いやあんた何人よ!
 ……ううん、ここで間違いないわね。ほら、ここに住所が」

 柊には引っ越し先の住所を書いた紙を渡していたのだが、それと照らし合わせるように看板を見せられる。……マジですね。

「ていうか、あんた自分が住むアパートなのに調べなかったの?」

「いや、全部人任せ」

「……さっきからの話聞いてると計画性皆無ねあんた」

「うぐっ」

 ……まあ、こんなボロ家でも新しい俺の家だ。受け入れようじゃないか。

「ま、助かったよ柊。公園で野宿せずにすんだ」

「あはは、どういたしまして。
 ……って、もうこんな時間! 私もう帰るわね。
 じゃあ、学校でまた会えたらね」

 言うと、そそくさと駆け出す柊。

「ち、ちょっと待てよ! 礼がしたい! 連絡先かなんか教えてくれないか!?」

 すぐに呼び止めたが、「そんなのいいわよー!」と言いながら走り去っていってしまった。


 ―――まあ、その一週間後、同じクラスで見事なまでに再会することになるのだが。


―――

 そんな感じで、俺と柊は出逢ったのだが、同じクラスになった後、一回お礼としてスイーツを奢って以降はあまり話すことはなかった。
 ……だから、好きと言うか、憧れや尊敬に近いかもしれない。
 ―――うーん。

「柊つかさのことも、真剣に考えてみようかな」

 幸いいつでも良いらしいし、考える時間はある。

「よっ……と」

 寝転んでいた体勢から起き上がる。
 リモコンを取り何気なくテレビを付けた。

『これが俺様の真の力だ―――!』

『何……だと……!』

 なんかアニメやってる。今日は水曜日だっけ。


―――

 見終わった。今日は三回何……だと……!

 ……さ、晩飯作ろ。

―――

 ……もう12時か。寝よ、明日は一限目体育だし。
 歯を磨き、布団を敷いて寝転ぶ。
 ぶらりと下がった紐を引いて、電気を消した。

 ―――とりあえず、明日は柊つかさについて、誰かに聞いてみよう。


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最終更新:2008年09月17日 17:11