☆―――
……その日から、俺の日常は変わった。
つかさとの付き合い。
かがみとの親交。
泉や高翌良との交流。
その全てが、俺の世界を変えていった。
―――そして、季節は冬へと移りだす。
―――
あれから、一週間の時がたった。
つかさとの付き合いは順調で、かがみはもちろん、こなたやみゆきとも仲良くなっていった。
……そして、今日は祝日。
何だかんだで二人きりでは出来なかった、初デートの日だ―――
―――
その日、俺はいつも通り六時に起きた。
待ち合わせは午前十時。
場所は、つかさの強い希望により遊園地だ―――
朝食を摂った後、俺は柊家に向かった。
……今日は、結構寒いな。
―――
ピンポーン。
チャイムを鳴らす。すると、家の中から「はーい」という声が聞こえた。
ガチャリ。
「あ、男。時間通りね」
「あれ? かがみか。つかさは?」
「ごめんねー、つかさったら、今日寝坊したゃってて……寒いでしょ? 上がって待っててよ」
おお、柊家に入るのは初めてだな。
中に踏み込み、辺りを世話しなく見回す。
「緊張しなくても平気よ。今日は私とつかさしかいないから」
「ほう、しかしそれでは、かがみが家で一人にならないか?」
「え? ……あ、ああ、平気よ。今日はこなたの家に行くから」
「……仲、良いよな」
「―――そうね、もう二年以上の付き合いだし」
「そっか」
リビングについた。
「じゃあ、ここに座ってて」
「おう」
「コーヒーいる?」
「ああ」
「お砂糖いくつ?」
「いらないよ」
「ん……はい」
「さんきゅ……お、旨い」
「苦くないの?」
「ああ……甘いのが、苦手なんだ。
……つかさは? まだ、かかるのか?」
「いや、もう少しだと思うわ。急いで準備してるところでしょ」
―――そうかがみが言った瞬間、奥の方でバタバタと音がした。
奥の方……階段から、つかさが現れた。
「ご、ごごごごめんね男くん! 待たせちゃって」
「おう、おはようつかさ」
「え? ―――あ、うん、おはよ」
「つかさ……あんた、昨日遅くまで寝てなかったでしょ?」
「う、うん……楽しみで……えへへ」
「遠足かっ」
「……それよりつかさ。あんた、お弁当作るって言ってなかったっけ?」
「…………ああああああーー!」
―――
「……ぐすん」
「つかさ、俺は気にしてないって」
「男くんが気にしなくても私が気にするの~」
あのまま落ち込んだつかさを連れて、柊家をでた。
遊園地には電車で行く。
……まあ、とりあえず、隣で落ち込んでるつかさをどうにかしないとな……。
ふいに、つかさの手を握る。
「男くん……?」
「大丈夫。つかさがいれば、弁当なんていらないよ」
「ぁう……」
顔を真っ赤にして照れるつかさ。
やがて、その顔は、笑顔になった。
「あ、ありがと……」
つかさのこの笑顔が、俺は好きだった。
―――そう。
俺は、この一週間で、柊つかさのことが、しっかり好きになっていた。
☆―――
「……さて、と」
二人を見送ったあと、私は暇になった。
……ホントにこなたの家に行こうかな……。
「しかし……」
ホントにあの二人は、もどかしいことこの上無い。
今回だって、私が説得してようやく二人きりでのデートだし。
……ここまでしたのには訳があった。
……夜、つかさの部屋から聞こえるんだ。
―――苦しそうな、呻き声が。
……きっとつかさは板挟みにあっている。
友情と愛情の板挟み。
こなたやみゆきと一緒にいたいけど、男とは二人きりでいたい。
……解決口の無い悩みだ。
どちらかを切り捨てるしかない。
―――でも、つかさはどちらも捨てられなかった。
だからみんなで。
男とは二人きりにはなれないけれど、みんなと一緒。
……つかさは、それを選んだんだ。
……好きな人が、自分以外の女の子と仲睦まじげに話してるなんて、苦しいだろうに。
つかさは、友情をとった。
―――でも、きっとこのままじゃ、つかさはどんどんストレスに悩まされるだろう。
だから私は、二人きりで遊びに行け、と。
つかさのストレスを少しでも減らしてあげれるように、した。
「―――さて」
こなたに電話して、遊べるか聞いてみるか。
☆―――
電車。
「なあ、つかさ。遊園地に着いたらまず何乗りたい?」
揺れる電車の中、渋滞の人達に押されて縮こまっているつかさに話しかける。
「う、うーん。やっぱり観覧車かな?」
「それは最後まで取っておいた方が良くないか?」
「それもそうだねー。あ、じゃあメリーゴーランドとかは?」
「……一人で乗れよ?」
「えー、男くんも一緒に乗ろうよー」
「……まあいいや、何に乗るかは着いてから決めよう」
「は、話逸らされた……」
―――
―――そして、遊園地。
名を、『あいまい遊園地』。
「わー、私、遊園地なんて中学以来だよー」
「俺は、小学以来かな」
……友達と来ることなんて、無かったしな。
「……男くん? 入らないの」
「ん? ああ、じゃあ入ろうか」
受付に行き、チケットを二枚買った。
一枚を、つかさに渡す。
「はい、つかさ。
―――んじゃ、行くか」
「うんっ」
―――
メリーゴーランド
「くぅ……結局、俺も乗ってるし。……でも、つかさにあんな顔で頼まれちゃなあ」
「えー? 楽しいよー?」
―――
コーヒーカップ
「速く回すぞつかさ! それ!」
「ひいぃ、ち、ちょっとはやいよ~、おとこく~ん」
「ぐるんぐるんー」
「バルサミコ酢ー」
―――
ジェットコースター
ゴトン……ゴトン……ゴトン……。
「た、高いよ男くん……」
「ああ、これは高いな……」
しかも坂がめちゃくちゃ急だ。
「……あ、く、くる……きちゃうよ! 男く……きゃああああああーー!?」
「うおーー!」
二人して酔った。
―――
休憩、昼食。
『あーいまーい遊園地♪』
この遊園地のテーマソングが聞こえる。……変な曲だな。
「ふう……気持ち悪い……」
「わ、私も……」
「せっかく買った焼きそばも口を通らないぜ……」
「だから私は嫌だって言ったのに~」
「つかさだって俺が嫌がったのにメリーゴーランドに乗せただろ。おあいこだぞ」
「私はメリーゴーランドで楽しんだけど男くんはジェットコースターで楽しめてなかったからおあいこじゃないよ~」
そんな会話をしながら、俺達はゆっくりと腹を満たしていった。
ブルルル。
バイブレーション。
……つかさの携帯が震えていた。
「なにかな……あ、お姉ちゃんからだ。
楽しんでる? 体調崩してない? だって」
……かがみはやっぱ、家族想いだよな……。
「えー、と。
男くんのせいで気持ち悪いです。っと」
「やめいっ」
勘違いするだろっ。
「じ、冗談だよー」
―――
「さて、次はどこ行く? つかさ」
「うーん……あ! あそこ行ってみよ! 男くん!」
そう言ってつかさが指差したのは、「鏡の迷宮」。
いわゆる、ミラーハウスだった。
―――
「お、男くん、どこー?」
つかさの声が聞こえる。……姿は、見えない。
見えるのは大量の自分―――
「―――これは、結界かっ」
「へんなこと言ってないでこっち来てよー」
―――つまりは、はぐれた。
「ちょっと待ってろ! すぐ行く!」
……結局、探すのに三十分かかってしまった。
……もう、あの迷路には入らねえ……。
―――
……日も、暮れてきたな。
「つかさ」
「…………」
……拗ねてる。
「つかさー」
「…………」
……まあ、三十分も一人にしちゃったしなあ……。
「つかさ、黙ってると抱き締めるぞ」
「ふ、ふぇ!?」
「おお、やっと反応したな」
「だ、抱き締めるなんて……こんなとこで……で、でも、男くんがそうしたいなら……」
「おーい、つかささーん?」
「は、はいっ」
「もう遅いし、締めに観覧車行こう」
「うんっ……ってあれ?」
―――
時間的に、観覧車のところには列がなかった。
よって、ついてすぐに乗り込めた。
「わ、わ、上ってくよ男くんっ」
向かいに座ったつかさが興奮した声を上げる。
「……なあ、つかさ。ホントに遊園地来たことあんのか?」
「あるよー、でも、久しぶりだから、つい興奮しちゃって」
「そっか」
……ま、俺はあんまり興奮しないけど。……冷めてるのかなあ、俺。
―――やがて、観覧車は頂上近くに差し掛かった。
「綺麗だね……」
「ああ……」
夕焼けの町。
赤い光に照らされた町は、いつもと違う気がした。
―――何か、行動したくなった。
赤は、人を興奮させる色だと、前本で読んだっけ。
「―――つかさ」
「ん? なあに、男くん」
「……そっち、行っていいか?」
「そっちって……隣?」
「ああ」
「いい、よ」
許可を得て、つかさの隣へと移動する。
ドクン。
つかさの顔を見る。
顔は、間違いなく陽の色以外の赤色で染まっていた。
ドクン、ドクン。
……つかさと、目が会う。可愛らしい、大きな瞳。
―――そういや、俺からは、まだ言ってなかったっけ。
ドクン、ドクン、ドクン。
顔をじっと見る。
そっと、つかさの肩に手をかけた。
「―――つかさ、俺は、お前が好きだ」
……そのままそっと、肩を引き寄せる。
そして、彼女の唇に、自分のそれを重ねた。
「ん……」
息を漏らすつかさは、しっかりと瞳を閉じていた。
―――なんてベタなシチュエーション。
こなたにギャルゲみたい! とでも言われそうな状況だった。
……数秒して、顔を離す。
「……男、くん」
呟くつかさの目じりには、少し涙が溜まっていた。
瞳を閉じれば零れ落ちそうな、涙。
それを拭わぬまま、
「―――私も、男くんが、好き。大好き」
―――そう、笑顔で言った。
……一粒の涙が、つかさの頬を伝って、落ちた。
―――
……帰り道は、無言だった。
と言っても、気まずい沈黙じゃなく、どこか心地良い沈黙。……そう、感じていた。
夕暮れの中、二人で歩いてく。
手を、しっかりと絡めて。
……平和で、幸せな日常だった。
―――そう、この頃までは。
最終更新:2008年09月10日 18:37