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―――



―――

「ふあ……」

 いつもの朝。
 時刻は……あれ?

「八……時?」


 ―――【いつも通り】が、崩れてく。



―――

「はあ、はあ、はあ……」

 間に合った……。
 高速で準備し、神速で駅へ行き、音速で電車に乗り、光速で学校まで駆けた。

 教室前に着いた。
 ……本鈴、三分前。
 危なかったー、マジで。
 ドアに手をかけ―――

「あ、男」

 後ろから、かがみの声がした。
 振り返る。

「よ、かがみ。おはよう」

「今来たの? あんたにしては随分遅いわね」

「ああ……寝坊しちまって」

 こんなん、こっちに来てから一度も無かったのに。

「へえ、珍しいこともあるのね」

「……あ、そだ、つかさは? 何か変化あったか?」

「ううん。至って普通よ。……心配しすぎなのかも」

「そか」

 それは、なによりだ。

「あ、それと、つかさにちゃんと謝っときなさいね。今日も二人で早起きしたんだから。つかさ、落ち込んでたわよ」

「あー……そうだな。ってか、それならかがみにも、だろ」

「ああ、私はいいのよ。私の意思でつかさに着いているだけだし、明日からは私は行かないしね」

「そうなのか? どした、急に」

「今朝ね、電車の中で、明日からは私一人で早起きして行くから大丈夫、って言ってたのよ」

「へー……っと、チャイムもう鳴るな。入ろうぜ」

 ガララ、とドアを引き、中に促す。

「ん、そうね」

 そして俺達は、教室に入っていった。

―――

 一限目が終了した。黒井先生が教室を出ていく……寝癖、激しいな。

「よ! 男ー、今朝はどうしたんだよ?」

 ぼーっとしてると、友人、友こと……何だっけ?

「ああ、珍しく寝坊しちゃってさ。
 昨日ちょっと考えながら寝たからかもな」

「ほほう、悩みごとかい少年。どれ、話してみ?」

「誰だよお前……。
 個人的な悩みだ。それに解決した臭いし、相談なんざ必要ねえよ」

「そうか……でも、何かあったら言ってくれよ! 俺はお前の友だからな!」

「……ああ」

―――

 昼休み。
 今日は弁当が作れなかったので、学食行くか……。

「あり? 男、どこ行くんだ?」

 席を立つと、友が話しかけてきた。

「学食だよ。今日は弁当作る時間が無かったからな」

「おっ、じゃあ俺もー」

「ん、じゃあ行くか―――と?」

 お腹の辺りにドスッという衝撃。
 後ろを向いて話しながら歩いていたから誰かとぶつかってしまったようだ。

「あ、悪い……あれ、つかさ?」

 俺とぶつかった相手は、柊つかさ。俺の彼女だった。

「どうした? つかさ」

「男くん、一緒にお昼ご飯食べよ?」

「え、ああ……でも、今日弁当作れなくってさ。学食行こうかと」

「それなら大丈夫だよっ、私、男くんの分も作ってきたの!」

「え、あ、そうなのか。じゃあ、」

「うんっ、こっち来てっ」

「うわっ、引っ張るなつかさ!
 友、すまん、そう言うことだ!」

「へーへーごゆっくりー」

 俺はつかさに袖を捕まれ引っ張られていた。
 行き先は、解らない。

―――

「図書室?」

 つかさに引き摺られて来た場所は、図書室だった。
 この時期は外が寒いので、結構ここにも生徒がいた。

「うんっ」

「教室じゃねえの?」

「うん、今日から二人で食べよ?」

「あ、ああ、別に、いいけど」

「じゃあ、ほらっ」

 更に袖を引かれ、手頃な席に誘導される。
 ……比較的人が寄らない端の席。死角にもなっている、静かな席だ。

「ふう……あ、つかさ」

「なあに?」

「今朝は悪かった。珍しく寝坊しちゃってさ」

「うん、お姉ちゃんから聞いたよ」

「そ、そうか」

「それでね、男くん。明日から朝に男くんの家に迎えに行ってもいいかな?」

「え? べ、別にいいけど……」

「じゃあ朝の六時位でいいかな?」

「もっと遅くてもいいよ」

 何時もより登校が遅くても、暇な時間が増えるだけだ。つかさも早起きは辛いだろうし。

「ううん、六時でいいよ。私、男くんに合わせたいから」

「そう、か」

 何か、今日のつかさは。

「それじゃ、これ、お弁当!」

 そう言って差し出されたのは、大小二つの包み。

「おお、開けても良いか?」

「うんっ」

 包みを解いて、蓋を開ける……おおう。

「凄いな……」

 彩られた多種多様なおかずの数々はどれも美味しそうだ。
 そしてご飯にはでんぷでハート模様。

「そして恥ずかしいな……」

「えへへ」

 つかさはニコニコしながらこちらを見ている。
 食べてと言う意思表示なのだろう。
 箸を取り外し、定番中の定番、卵焼きを掴み、口へ運び、咀嚼し、飲み込んだ。
 ……うまい。

「……男くん、どう、かな?」

「うまいよ! つかさ!」

「そう? よかったぁ」

 笑顔。
 いつも通りの笑顔。なのに。



 何か、違う。



☆―――

「ねえかがみん。今日はつかさどしたの?」

「男と二人でお昼だって」

「えー、つかさ、いきなりどうしたのさ」

「さあ、ね……」

 もう、私にはつかさがよく解らなくなっていた。

「あ、そだそだかがみん」

「なによ?」

「男ってネットやってる?」

「多分ね」

 家に、パソコンはあったし。

「そっかー。ふふふ~ん」

 何なんだ。いったい。

☆―――

「ふー、うまかったー。
 つかさ、ご馳走様」

「えへへ、うん。お松野様ー」

 もしかしてお粗末様と言いたいのだろうか。

「さて……時間が大分余ってるな……つかさ、どうする?」

「え? 話してようよー」

「え、つかさはそれで良いのか? かがみやこなたのところに―――」
「いいよ」

 ブツリ、と。
 言い切った。

「…………」

「私さ、最近面白い番組見つけたんだー」

 俺の沈黙をものともせず、つかさは話始めた。

―――

 昼休みはそのまま二人で過ごした。
 チャイムが鳴り、つかさは名残惜しそうに、

『また、あとでね』

 そう言っていた。
 そして今は放課後。
 友に別れを告げ、教室を出た。すると、

「男ー」

 誰かに呼ばれた。
 ……こなただ。

「こなたじゃないか。どうした」

 俺の名前を呼びながら駆けてきたこなた。
 ……一人、か。

「ふう、男よ」

「な、なんだよ」

「ネトゲをや ら な い か」

「は?」

「……非オタか。
 まあいいや。ネトゲ、解る?」

 いいえ、微オタです。

「ネットゲームのことか?」

「そそ、興味ない~?」

「興味は……あるが。そんなに金無いし」

「今無料でいいのがあるんだよー。
 どう? やらない?」

 どうしよう……。

 ……まあ、やってみてもいいか。

「や―――「男くんっっ!」

 声が響いた。
 よく知った声が。

「……つかさ」

 走ってきたつかさは、昼休みと同じように、俺の袖を掴み、何処かへ引いていく。

 最後に、唖然としたこなたが見えた。

―――

 走ってる。
 袖を引かれ、走ってる。
 前にはつかさ。顔は見えない。

「はあっ、はあっ……つかさ!」

 ピタリ、と立ち止まった。
 急だったので、バランスを取りながら、つかさを見る。

「つかさ……?」

 つかさの顔は、俺の知らない顔だった。
 恐怖と不安に彩られた顔。
 目は虚ろで、考えてることがわからない。
 いつも通りのつかさじゃ、ない。

「つかさ! どうしたんだよ!」

 肩を掴み、揺さぶる。

「男……くん」

「つかさっ!」

「あ……私……何を……?」

「何を……って、つかさ?」

「私……こなちゃんが……男くんと話してるのを、見て」

「つかさ……?」


「……こなちゃんから、男くんを―――」

 そう言ったきり、つかさは黙ってしまった。

 ―――一体つかさはどうしたんだろう。
 つかさはその後、一人で帰ると言って、走り去って行ってしまった。
 ……何故か、後を追っちゃいけない気がした。

☆―――

 まず、男くんが見えた。
 次に、彼と話しているこなちゃんが見えた。

 ―――私の中の何かが、弾けた。

 気付いたら走っていた。
 男くんを掴んで。

―――

「はあっ、はあっ……つかさっ!」

 男くんの私を呼ぶ声。私は半ば反射的に止まった。
 思い切り走ったせいか、頭は真っ白で。自分が今どんな顔をしているのかさえ解らなかった。

「つかさ……?」

 男くんの声。
 心配ソウナ、男くんの声。

「つかさ! どうしたんだよ!」

 カラダが前後に揺すられる。顔を上ゲルト、オトコクンが、いた。

「男……くん」

「つかさっ」

 ああ……男くんだ。私の大好きな、男くんだ。

「あ……私……何を……?」

 何をしていたんだろう。どうして、こんな所に二人でいるんだろう……?

「何を……って、つかさ?」

 ええと、確か、教室に男くんを迎えに行こうとして……、

「私……こなちゃんが、男くんと話してるのを、見て」

「つかさ……?」


「こなちゃんから、男くんを―――」




 ―――トリカエソウト、シタ。
 ワタシノ、オトコクンヲ―――





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最終更新:2008年09月17日 17:36