「ただいま」
静まり返った玄関。
返事がないことはわかってるのに……
家にいるのは俺一人だとわかっているのに……
俺も律儀なもんだ。
母親は俺が幼い時に死に、親父は仕事や出張で家に帰ってくることは稀だ。
それは埼玉に引っ越してきてからも同じだった。
家がどこに変わろうと、それは変わらなかった。
俺は自分の部屋の電気もつけず、ベッドに寝転んだ。
そしてぼんやりと高良さんのことを考える。
美人で、おしとやかで、巨乳でメガネ。
俺の女神。
しかし、白石曰く「お堅い感じで、笑顔でカベをつくるタイプ」
そうやって考えると、今日の帰りもおしゃべりにはあまり参加していなかったようだし。
女子に対してもそんな感じなのだろうか……?
仲がよさそうに見えるこなたや柊姉妹に対しても……?
「カベをつくるタイプ、か」
カベ……
ミゾ……
カゲ……
………考えすぎだろう。
男子からの評価はともかく、他の女子の評価もともかく、こなた達4人は1年生の時からの友達って話だし。
新参者の俺が口出しするべきことじゃないだろう。
しかし……
「……友達か」
それがいかに脆い存在かということも俺は知っていた。
サッカーが出来なくなった途端、腫れ物に触るみたいに俺に接した元クラスメート。
サッカーが出来なくなった途端、俺を無能者呼ばわりした元チームメイト。
………そして、俺が暴力沙汰を起こしたのも。
――ヴィィィィ!ヴィィィィ!
そのとき、ふいに携帯に着信が入った。
わがオタク師匠、こなただった。
「もしもし?」
「もしもし、男?あのさ、この前貸したゲームのことなんだけど……」
「おう、一気に5、6本貸してくれたあれね。どした?」
「実はまだ私がクリアしてないゲームも混じっちゃったみたいでさ~悪いけど返してくれない?」
「ああ、もちろん。で、どれ?」
「一本だけギャルゲが混じってるはずなんだよね。それだから、明日持って来て」
「ギャルゲ!?おまっ!そんなものを?」
「うん。男にはもうちょっとしてから貸そうと思ってたんだ。今の男には、きっと刺激が強すぎるよ。ぷぷぷ」
「……俺たちまだ18歳未満じゃなかったっけ?」
「まあまあ、気にしない気にしない。とにかく明日持ってきてね~!じゃ……」
「あ、こなた、ちょっと待って」
「ん?どしたの?」
「こなた達4人って、学校じゃいつも一緒にいて仲良さ気じゃん?もともと同じ中学校とか?」
「ん~ん、違うよ、高校からの仲だよ。もともと私とつかさが仲良くなって、かがみんがみゆきさんと仲良くなってて、かがみんとつかさつながりで4人仲良くなったってわけ」
「ふ~ん」
「どうかしたの?」
「そう言えばこなたは高良さんのこと『みゆきさん』って呼んでるな~と思って。なんつーか、その……他人行儀っていうか……よそよそしいっていうか」
カベがあるっていうか……
「ん~……別に深い意味はないんだけどね。何か、ほら、みゆきさんって誰に対しても敬語じゃん?なんつーか、こっちも自然とそういう呼び方になっちゃうっていうか……ちょっと、カベを感じるっていうか……」
やっぱり……
「ATフィールドは心の壁だ!ってやつ?」
「おお~、男も言うようになってきたね!」
「師匠のおかげです」
「うむ!」
「いや、でもATフィールドは言いすぎかな?みゆきさんはデフォルトがあんな感じだし、気にしてないよ。大切な友達だもん。なによりあんなに萌え要素満載の人なかなかいないよ?まさに歩く萌え要素!わたしゃ手放さないよ!」
「そ、そうか」
論点がズレてる気がしないでもないけど……
「と、まあ、そういうわけで男もみゆきさんに存分に萌えるといいよ。じゃ、また明日ね。ゲーム忘れないでよ」
「ああ、わかってるよ。じゃ、また明日」
ピッ。
――大切な友達、か。いい奴だな、こなたは。
それにしても……
「こなたは気にしないって言ってたけど……」
気になる。
今思えば、俺も前の学校でケガをしてサッカーを辞めた後はATフィールド使いになっていたんだろう。
同情されるのも、
嘲笑されるのも、嫌だった。
嫌な思い出だ。
よし、ATフィールドにはATフィールドだ。
俺が高良さんのATフィールドを……
ん?……でも、
高良さんは何故にカベをつくっているんだ?
容姿端麗
頭脳明晰
品行方正
……俺みたいに何かを失くしたわけでもない。
「俺の気にしすぎなのかな?こなたの言うとおり、あれがデフォルトなのかも……」
そこで俺は思わず苦笑してしまった。
こんなの高良さんからすれば、余計なお世話ってやつだろう。
「こりゃ、本格的に惚れてるな……」
ははは、自分でも気持ち悪いくらいに……
でも俺は気づいた。
俺がここまで惚れてるのは、高良さんが美人で、おしとやかで、巨乳でメガネで、まあ、つまり俺のタイプで、ということ以上に……
……この学校に来る前までの俺に似た「何か」を感じ取ったからだ。
その「何か」が、高良さんにとって意図的だろうがそうでなかろうが、関係ない。
俺の気持ちに変更はない。
俺はこなたに返すゲームをカバンに入れながらそんなことを考えていた。
冷静になるとかなり恥ずかしいこと考えてるな、俺……
18禁のゲームを学校に持っていくくらい恥ずかしいぞ。
そこでふと気づく。
「これって、明日抜き打ちで荷物検査なんかされたら俺の人生終わるな……色んな意味で」
……せめて、
……せめてパッケージは別のソフトにして持って行こうかな?
最終更新:2008年07月05日 18:24